今回は、皆大好きな○○様が登場します。お楽しみに。
焼き尽くした草原地帯を後にした一行は、数えて百層……つまり、真のオルクスの最終層、その手前の階段で休んでいた。
「さて、次の階層がいよいよ最後か。早いのやら遅いのやら……わからんな」
「圧倒的に早いと思いますよ? 体感的にはまだ数ヶ月程度ですからね。約百層を降りてきたと考えれば、相当なものかと」
「ふむ、そうだな。コレもお前達の頑張りの賜物だろうよ」
「ん」
「お褒めに預かり光栄です」
この階層に来るまで、戦闘は基本メルとアレーティアに任せ、カムラは特異点の利用や幻想抽出による後方支援に徹していた。その理由は、ある時の会話からである。
『カムラ様、この階層より戦闘を我々に一任させて頂けませんか?』
『……ほう、私が魔物に至らぬとでも?』
『いいえ、逆です。寧ろ……』
『……私達の出番が無くなる』
『カムラ様一人で迷宮を攻略したと判断されてしまっては、我々が神代魔法を手に入れられない可能性がありますので』
『……ふむ』
『……お父様の為にも、神代魔法が欲しい』
『それに、あのクソ神と戦える戦闘能力を養うという意味でも我々に任せてほしいのです』
『……そうさな。本来私が出しゃばる物では無かったな……良かろう、存分に戦え』
『はい』『ん!』
というわけだ。身も蓋もないが、ぶっちゃけカムラ一人で無双できるのだ。それではメルやアレーティアの修行にはならない、だから大人しくしろ、という話だ。
まあ、草原地帯ではあまりに暇になったが為に焼け野原にしてしまった訳だが。
お陰様で、少なくともメルのステータスは爆上がりである。現在のステータスはこう。
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メル・パーシマリイ 15歳 女 レベル:63
天職:便利屋
筋力:2450
体力:2780
耐性:2120
俊敏:4190
魔力:3780
魔耐:3690
技能:技能習得[+洗練][+期間短縮][+見聞の極]・全属性適正・錬成[+精密錬成][+高速錬成][+鉱物系探査][+鉱物系鑑定]・格闘術[+身体強化][+浸透破壊][+遠当て]・縮地[+重縮地]・先読・剣術・魔力操作・胃酸強化・天歩[+空力][+豪脚]・纏雷・風爪・夜目・金剛・威圧・遠見[+定点観察]・気配感知・熱源感知・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性
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魔物の肉を食べても技能が増えなくなったが、ステータスが順調に伸びているのがわかるだろう。
しかし、流石に次の階層ではカムラも参戦する。後方支援を主にするのは変わらないが、必要に応じて柱や斬撃で攻撃するという。
「……さて、充分に休めたか?」
「ん」
「魔力、身体能力、精神力、共に問題ありません。武器の方もこれといった事はありません」
「魔力や身体の回復は神水に頼りっきりだがな……よし、行くか」
一行は休息を終え、いよいよ最後の階層へと足を踏み入れた。
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出たのは、無数の巨大な柱に支えられた、大きく広い部屋。柱に刻まれた彫刻も手伝ってか、その空間は何とも荘厳さを感じさせてくれる。
「……ここでも」
「……どうしたの?」
「…………私の故郷にあった遺跡、その最深部もこの様な空間だった……白い天使や、赤い肉塊、楽団の指揮者や形容できぬ何かも、そこで対峙した覚えがある」
「……カムラ様」
「二人共、気を抜くな。幼い私が死を覚悟したような怪物と戦う事になるやもしれん。件の肖像の加護も、私の抽出では少し劣化したものとなっている故な。パニ、私に何かあれば全力で彼女達を守れ」
「チュン!」
ごくりと唾を飲み込む二人。力強く鳴く罰鳥。カムラにそこまで言わせる化物がどれほどのものかも気になったが、後でゆっくり聞かせてもらう事にした。
淡く輝く柱に導かれ、しばらく歩いていると、これまた見事な彫刻の巨大な扉が見える。
「カムラ様、あの扉の先が解放者の住処です。何かが現れるとするなら、恐らく……」
「ここであろうな……そら、早速お出ましだ」
最後の柱の間を越えた時、三十メートルはあろうかという巨大な魔法陣が、赤黒い光を放ち、脈打つ。
その明らかに強大な威圧感に、メルとアレーティアは緊張し強ばり、カムラでさえも目を見開いた。
………………否。カムラは天井を睨みつけていた。その顔はまるで、因縁の相手と対峙したかのようで。
「……世界を越えてまで、何故……!!」
「カムラ様?」
「メル! アレーティア! アレは貴様らには手に負えん! 決して手を出すな!」
珍しく、いや、今までに見たことの無い、カムラの余裕の無い表情と激しい声に気圧される二人。カムラの目線を追うと……
「見るな!!」
「「ひっ」」「ぴ」
視界に移る前に、カムラの声が響く。怒っているともとれる声に、二人と一羽は縮み上がってしまう。しかし、気にする余裕も無いのかカムラは続ける。
「貴様らの精神力がどれほどのものかは分からん。しかし、アレを見れば無事では済まん! 幸い奴は戦闘能力はさほど高くない。貴様らはあの蛇の相手を! 私もすぐに終わらせる!」
矢継ぎ早に指示を飛ばし、カムラは煙の様に消えていった。
同時に、光が彼女達を包んだ。魔法陣が、召喚を完了した様だ。
そこにいたのは、六つの頭に長い首、鋭い牙に赤黒い眼の、魔法陣と同等サイズの巨体を持つ怪物。メルやアレーティアは知る由もないが、地球ではヒュドラと表されるモノに違い無かった。
「……メル、パニ」
「……カムラ様なら大丈夫でしょう。私達は私達の敵を。アレーティア様、パニちゃん、行きます!」
「ん!」
「ピィ!」
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「……」
カムラは咄嗟の判断により、二人と一羽のいる部屋と空間を切り離し、絶対的な安全空間に(規制済み)をぶち込み、対峙する。
その(規制済み)の姿は、とても(規制済み)で、かつ(規制済み)な(規制済み)。叫ぶ声もまた(規制済み)なものであった。
(規制済み)は(規制済み)の様な(規制済み)を(規制済み)し、カムラに襲いかからんとしているようだ。
しかし、カムラは動かない。(規制済み)に対し、心を奪われているようだ。いや、語弊がある。ここで言う“心を奪われる”とは、不快感を押し込めているという事だ。
「よもや、トータスに来てまで怪物と戦う事になろうとはな……」
カムラは感慨深い様に、憎々しげに呟く。(規制済み)の動きは遅い。襲おうとしていても、中々前に進まない。
「相も変わらず、(規制済み)な(規制済み)だな。とはいえ、彼女達に任せなくてよかった。こんな(規制済み)を見ては、如何に彼女達と言えど、無事では済まんな……さて、何故ここにやって来たのかは知らんが……」
(規制済み)の体から、新たに眷属らしき小さな(規制済み)が現れる。一体となっていたらしい。それを見ても、カムラは落ち着きを見せている。柱を何本も具現化させる。標的は勿論(規制済み)。
「貴様も、私も、本来はこの世に在らざるものだ。あの世界からやって来たのか、それともたまたま似ているだけかも知れぬが……そんなことはどうでもいい。要らぬ物は消えるのみ。大人しく消えようではないか」
──貴様だけな
その言葉を皮切りに、優に二十を超える数の柱を、凄まじい速度で射出していった。
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「はぁ……はぁ……」
(黒いのが何もしてこないのが気がかりですが……とにかく白と黄色を何とかしないと……!)
一方、メルとアレーティアが戦う魔物は、オルクス大迷宮のトリを飾るに相応しい、厄介かつ強力な魔物であった。
六つの頭にそれぞれ紋様があるのだが、赤、青、緑の頭がそれぞれ炎、氷、風の魔法を放ち、潰しても白の頭がたちまち再生させていまい、白を狙っても黄色の頭が肥大化して防ぎ、ノーダメージ。
先程から銃を打ち、アレーティアが魔法を使って頭を潰しているのだが、即座に回復されていくためにジリ貧となっていた。
黒い頭が何も仕掛けてこないので、警戒しながらアレーティアに指示を出そうとした矢先に、
「いやぁああああ!!!」
「!? アレーティア様!!」
絶叫。見れば、黒いのと目を合わせて動かないアレーティア。更に言うなら、目が完全に虚ろである。
黒い頭が大口を開けてアレーティアに襲いかかる。何とか助けに行こうとするメルだったが、他の頭の魔法に阻まれて動かない。
「アレーティア!!」
普段の敬語がとれ、普通の少女の様な悲鳴を上げて呼びかけるメルだったが、アレーティアは金縛りにあったように動かない。もうダメかと思われた瞬間、
「チュチュン!」
真っ白な身体を赤くした、アレーティアの肩に乗っていた罰鳥が、腹から引き裂かれたようにしてくちばしを出し、黒い頭を丸呑みにする。アレーティアはくたりと倒れる。魔物も驚いたのか、一瞬動きが止まる。
その隙をついて数発発砲しつつ、メルはアレーティアの元へ向かう。
「アレーティア、しっかりして! アレーティア!!」
アレーティアを抱き抱え、懸命に呼びかけるメル。その甲斐あってか、徐々に焦点の合わない目が光を取り戻していく。
「……メル?」
「アレーティア!」
「良かった……私、また置いていかれて……」
「え?」
アレーティアが言うには、黒い頭に睨まれた途端、カムラやメル、罰鳥に見捨てられ、再び暗闇に封印される光景が頭を支配し、動けなくなったらしい。
「バッドステータス系の魔法……! つくづく厄介な相手ですね……!」
魔物の面倒さに歯噛みするメル。発砲によって幾つか頭が潰れた為か、当の魔物は回復に手間取っているらしい。
本格的に狩る者の眼となったメルの腕の中で、アレーティアがか細い声で話す。
「……メル……私……」
その目には涙が浮かんでおり、不安が伺える。暗闇から救い出してくれた二人と一羽に見捨てられるというのは、精神的に非常に堪えたのだろう。
「……アレーティア、大丈夫」
「……」
メルは、アレーティアに目線を合わせて語る。全ては、大切な友を勇気づけるために。
「カムラ様が、貴女を置いていくなんて有り得ない。そんな事があったら、私もカムラ様から離れるわ」
「……」
アレーティアは目を見開いたが、無理は無い。
メルのこの宣言は、実際驚くべきものである。普段から、メルはカムラに全てを捧げたと公言する程に、忠誠を誓っているのだ。
更に、アレーティアは知っている事だが、メルはカムラを一人の異性として愛している。共に戦うことを約束してくれた少年。誠実さも合わせ、好きにならない要素が無いとも語っていた。
つまるところ、そんな事があるならば、メルはカムラを従者としても、女としても見限ると言ったのだ。カムラがアレーティアを見捨てるなど、有り得ない事であるが故に。
それに、とメルは続ける。
「私も、貴女を見捨てない。付き合いは短いけど、アレーティアは私の一番の親友だもの」
「チュチュン! チュン!」
「……うん、うん! ありがとう!」
メルの親友宣言と罰鳥の鳴き声に、華のような笑顔を見せるアレーティア。誰もが見蕩れそうなその笑顔に、メルもまた笑顔で返す。
「ギャァァァァァァ!!!!!!」
咆哮。魔物が回復を完了したらしい。
「近くから攻撃しに行きます。アレーティア、手伝ってくれる?」
「ん!」
メルは魔物の方に駆け出す。それを捉えた魔物は魔法を放つが、
「“緋槍”! “砲皇”! “凍雨”!」
アレーティアの魔法が矢継ぎ早に放たれる。凄まじい速度で、大量の炎の槍や、これまた凄まじい密度の風の刃を伴う竜巻、非常に鋭い氷の雨が魔物を襲う。
「発射!」
ダメ押しと言わんばかりに、アレーティアは魔法の杖から砲撃を発射する。アレーティアの金色の魔力が光となり、大気を震わせながら炸裂する。
余裕が無いのか、黄色の頭は白い頭だけを守り、他の頭は撃ち抜かれ、爆散する。回復しようと白い紋様の頭が動き始めた時。
「そこまでです」
心做しか冷酷な声。メルが、ピンク色の狙撃銃を構え、空中に立っている。この狙撃銃は、切り札の一つとしてカムラから与えられた物だ。
心を護る兵隊の狙撃銃は、カムラに貰った後に錬成によって細工を施し、カムラ監修メル作の新しい武器へと進化した。
後付けとして、魔力との親和性が高いシュタル鉱石を元に作られた電磁加速装置。それをを取り付けられたその狙撃銃は、メルの“纏雷”によって銃弾を加速させる。
メルの構えた狙撃銃は、二つの頭をその射線上に捉えた。“纏雷”を発動し、引き金が引かれた。
ズガン!! と大砲の如き音を響かせて放たれた銃弾は、残った二つの頭を跡形もなく消し飛ばし、天井を抉って何処かへと消えていった。全ての首が倒れたのだ。
「~~~~~~っ、し、衝撃が凄まじいですねコレ……私も消し飛ぶかと思いました……」
実はこの狙撃銃、電磁加速装置込みの運用は初だったりする。使う相手がいなかったからだ。それだけこのヒュドラ擬きが強敵だったと言えるだろう。
その予期していなかった衝撃によって身体が悲鳴を上げたが、無視できる程度ではある。
メルがアレーティアの方に視線を向けると、魔力枯渇で疲れてはいるものの、笑顔でサムズアップしている。メルもまた笑顔でサムズアップを返し、屍となった魔物の正面に降り立ち、アレーティアの方へと歩み出す。
「メル!」
「ピイ!!」
しかし、切羽詰まったアレーティアと罰鳥の声を不審に思い、その視線を辿っていくと。
「……嘘……」
七つ目の頭が胴体から音もなく起き上がり、メルを睥睨していた。その銀の頭は、メルから視線を外してアレーティアを捉え、予備動作も無く極光を放つ。
呆気にとられ、反応が遅れたメルは助けようと駆け出すも間に合わず、先程の砲撃に迫る勢いの極光が、アレーティアとその肩の罰鳥を襲い、彼女達を消し飛ばす。
「無駄だ」
そんな未来が来ることは無かった。
無数の赤い斬撃の雨が極光を打ち消し、勢いそのままに銀の頭に無数の傷を付けた。
銀の頭が睨むのは、その斬撃の発射源。そこには……
「すまない、少し手こずった」
アレーティアと罰鳥を庇うようにして立つ、制服姿の少年。すなわち、虚時カムラであった。
「カムラ……カムラ!」
「すまなかった、思っていたより数が多くてな」
アレーティアはカムラに抱きつき、顔を胸板に擦り付ける。そこへメルが駆けてくる。
「お帰りなさいませ、カムラ様……」
「ああ、ただいま……お前達、よく戦ったな。クク、満身創痍と言ったところではないか。あとは私に任せろ」
魔物は動かない。魔物に思考があるならば、きっと疑問でいっぱいだろう。
『何なのだ、コイツは!』
と。突然現れたその少年は、有無を言わさない迫力を持ち、圧倒的な強者の風格を纏うのだから無理も無い。
「早く休ませてやりたいのでな。すぐにケリをつけさせて貰おう」
そう言ってカムラは右手を掲げる。青い光がそこに宿るのがよく分かる。
カムラの攻撃は、宿る光の色によってその効果が変わる。
赤い光なら物理的な破壊を、白い光なら精神的な破壊をもたらし、黒い光なら物理的な物と精神的な物の両方を削り取る。
青い光ならばそれは、あらゆる物の寿命を削り取る。
カムラ、いや、調律者の場合、その能力は確実な死をもたらす力として振るわれる事となる。
つまり、カムラが青い斬撃を繰り出す時は、“仕事”を早く終わらせたい時に他ならないのだ。
「我らの踏台となれ……!」
振るわれた右手からは、青い無数の斬撃が放たれた。それに当たった魔物は、傷こそは無かったが、最後の頭は倒れ伏してしまった。
「…………疲れたな」
「ええ、本当に……カムラ様が間に合わなければ、どうなっていたことか……」
「……死ぬところだった」
「ピ……」
三人はその場に座りこんでしまう。戦いに戦い抜いた先に、漸くラスボスを倒した安心感からだ。
が、魔物の向こうにあった彫刻の扉がひとりでに開いた。一瞬新手を警戒したが、“魔力暴走”には何も引っかからない。次への道が開けただけらしい。
「漸くこの迷宮も終わりらしいな……よし、行くぞ」
「はい(ん)(ピイ)」
そうして一行は扉へ向かう。漏れる光は、言いようもなく安心できるものだった。
という訳で、■■■■は(規制済み)、すなわち盲愛様でした。
……え?出番が少ない?情報を規制しないと流石にヤバイので……