雰囲気を思い出すためのリハビリ代わりに、彼の活躍をお見せしましょう!
尚、今回の話は次回と同時期です。
それでは、どうぞ。
ハイリヒ王国、王宮。
フラフラと、目的も無く彷徨う、黒ずくめの少年。
清水幸利。いつの間にやら爪になっていた少年は今、ただ何も考えずに王宮内を散策していた。
というのも、今日は別の国からの使者の応対で非常に忙しく、何時もは誰かがいる王宮の廊下に誰もいない。その物珍しさに任せて散策を始めた、というのが一つ。
もう一つは、
(……貴重なケモ耳を奴隷扱いするヤツらとかツラ見たら殺しかねないんだよなぁ……)
という事。
実は彼も、使者達と顔合わせする様に予定が組まれていたのだ。メルドが是非とも紹介したいと相談した結果である。
が、相手の国はヘルシャー帝国。ハイリヒ王国の同盟国に当たる軍事国家。そしてかつてカムラも話していた、亜人族を奴隷として扱う国なのだ。
ケモ耳娘を愛する清水にとって、それは何よりも大罪。殴りかかっても罪悪感は無い程度には、うっかりと称して殺っても良いと思っている程度には怒っている。
しかし今の清水は、腕力を初めとして正真正銘の人外である虚時カムラに次ぐ力を持っており、順調に人外への道を歩んでいるのだ。
そんな彼が、帝国の使者に握手を求められたとしよう。ちょっと力を入れてしまうかもしれない。清水にとっては嫌がらせ程度の力を。だが、普通の人間である向こうにとっては、それは致命傷になりかねないのだ。
そういう事もあり、メルドや、メルドと共に出席を勧めてきたリリアーナの誘いを断ったから。
…………そしてもう一つ、単純にいても仕方ないからである。
清水はカムラが居なくなってから、迷宮に行くことが無くなった。
カムラの言いつけ通りに、面倒を見ているのである。
カムラという良くも悪くも目立つ人間が奈落に落ちたという事実は、生徒達に大きな傷を残していた。端的に言えば、戦う事が怖くなったのだ。
何時か訪れる結末、それを早める戦場という場所への恐怖。それによって、精神的に参ってしまった。
それを見越していたカムラ(元凶)は、弱っている所を
故に彼は王宮に残り、光輝やメルド、愛子の説得で引きこもる事を許されたクラスメイト達を見守っているのだ。
効果は絶大。
しかし、依然として迷宮に行くメンバーもいる。
光輝率いる人間側の希望、勇者パーティー。どうしようも無いクズこと檜山を中心とした小悪党パーティー。そして実はカムラや清水との接点もある永山重吾という少年率いるパーティー。
勇者パーティーや永山パーティーは割とどうとでもなるし、問題の小悪党パーティーは実質的に恵理の手の上。清水が気にする要素は無い。
そして今回、というか今になって帝国側がコンタクトを取ろうとしたのは、かの伝説の魔物、ベヒモスを単独撃破した勇者に興味を持ったからだ。
ここからは連絡を取り合っている恵理からの情報なのだが、六十五階層まで行った彼らは、あの時の再現とでも言うようにベヒモスに遭遇した。
同時に、気味が悪い程に楽しげな音楽と共にカーニバルテントが現れ、中から縫い付けて形を作ったような、これまた気持ち悪い肉塊が登場したらしい。
近接格闘を得意とする永山がまず肉塊と組み合ったのだが、物理は通りにくいが痛くもないという情報をもたらしてくれた。
その間に、光輝一人がベヒモスを鬼の様な凄まじい気迫と共に切り刻み、残った肉塊も、何と香織がカムラの様な白い斬撃で倒したとか。
その肉塊からピエロの様な物が出てきたが、そちらは難なく倒せたという。
『あの娘カムラが好きすぎて調律者に近づいてない? 光輝も光輝で明らかにおかしい動きしてたし』
恵理の報告は、『これからよろしくね、
話は逸れたがとにかく、勇者に興味を持ったから使者が来たのだから、探索メンバーでない自分が居ても仕方ないのだ。
以上の点から、清水は暇を持て余して王宮をブラついている、という事だ。
「……カムラに何て言おう…………つか、カムラが知ったらどんな顔すんだろうな……」
ついでに言うなら、怒涛の展開に心が疲れ果てたから、というのもある。
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ブラブラ歩いて、王宮の外に出た清水。外にも誰もいないという状況が中々愉快で、そのまま気分に任せて歩いていた。
「……ん?」
瞬きをしたその瞬間、その視線の先にシスター服を着た美少女が現れた。もう一度言うが、瞬きの瞬間に、である。
そしてもう一度瞬きをした時。
「うぉぉおおおお!?」
シスター少女の手に握られた大鎌が横一線に振るわれた。清水は間一髪の所で○トリッ○ス避けによって躱し、更に持ち方を変えて下から振り上げられた大鎌を受け止めた。
「おいアンタ! 挨拶もなしに殺しにかかっちゃダメって親に教わらなかったのかよいやつまらないこと言いましたすみませんホントに勘弁してください……」
勢いよく睨み合う清水だったが、シスター少女の酷く冷たい目に威勢をそがれてしまう。
と言うのも彼女、非常に人形くさいのだ。美しく、そして長い銀髪に大きく切れ長の金眼、顔立ちは幼さと大人の色気を両立させ、何処ぞの調律者を彷彿とさせる絶妙なバランスで顔のパーツが揃っている。肌は雪のように白く、手足はスラリと長く伸びているように見える。
尚思春期男子たる清水の視線は胸に行ったのだが、こちらは大きすぎず小さすぎず程よく肉づいている。身長等から察するに、人間ならば成長期。将来有望な美少女なのだ。
しかし、それを考えても大きくマイナスになる無表情さなのだ。人形くさいと言うのは大体このせいであり、無感情と言うよりは無機質、無表情と言うよりは能面と言った具合である。ぶっちゃけいわく付きのフランス人形なんかより怖い。
「清水幸利、主の命により、私、イヴが貴方を排除します」
「ッウェイ!」
機械的な冷たさのある、冷酷な声の宣言から間を置かず振るわれた大鎌を、間抜けな声を出しながら、
跳躍で距離を全力でとり、植木の前に着地した清水が見たのは、長めの持ち手に身長程ある刃が付いている、バランスを無視した大鎌を両手に一つづつ持つ少女であった。
怪力にも程があるとか色々ツッコミたかったが、何より気になったのは“主の命”という部分。
「はあ〜なるほど? 大方クソ神エヒトちゃまがカムラにビビってて、でも手も足も出ないからまだ殺れそうな俺を始末しに来たと言うわけだな?」
ピク、とシスター少女、“イヴ”の眉間が少し痙攣したのを、清水は見逃さなかった。内心で隙を見せたことに対してほくそ笑み、ある魔法をこっそり、無詠唱で発動させる。
「裏でコソコソみみっちく暗躍してちゃ俺達を潰せねぇって思ったのか? おお怖い怖い、俺タダの人間だってのにな? 自分が手を下したくないなら教会のウジ虫共操るなり何なりすりゃ良いだけじゃねぇか? ん?」
イヴは不快そうに顔を顰めた……いや、厳密には数ミリ口が動いただけだが、すぐに無表情に戻る。
「主は神としての責務を果たす為、貴方達という余りにも逸脱したイレギュラーを排除する事を決めました。その役目には下界の駒では不十分だと考えたのでしょう」
これを聞いた清水は噴き出した。
「ファ──ーwwwめーっちゃくちゃ面白い事言ってくれんじゃんwww世の中をさんざ引っ掻き回した挙句に強すぎる奴らは怖いからセーギの名のもとに排除ってwwwやってる事がまんまワガママ放題のクソガキじゃねぇか腹イテーwww三文芝居にもなりゃしねぇクセして喜劇としちゃ上等な部類とか笑い殺しに来てるだろwww」
正しく抱腹絶倒、大爆笑も大爆笑。途中から斬りかかってきたイヴの攻撃を躱しながら笑い続ける。
遂にはイヴの身体が銀色の魔力に包まれる。これはおそらく勇者等が使う、ステータスを底上げする魔法“限界突破”のようなものなのだろう。事実、イヴは音を置き去りにする速度で清水の首を、心臓を、腹を切断せんと大鎌を振るう。
余波で遠くの雲を斬り、植木を斬り、大地を斬る。人体に振るう力では無いそれが、的確に隙だらけな清水を襲う。絶殺の意志は、イヴの魔力が大鎌に乗っているところからもわかる。
エヒトの使徒というのは、他者の魔法を含むあらゆる物を分解する魔力を与えられている。更にそれは、人間の心臓にあたる部位の魔石の様な器官を通じ、エヒトから供給され続けるので、少なくとも魔法を使って息切れを起こすことは無い。
更にこのイヴという使徒は、魔力を使っての身体能力の上昇において他の使徒の追随を許さないレベルに調整されているのだ。ステータスを最大10倍に引き上げることができ、その時間は無制限。エヒトの人形として考えるならば、最高峰の戦闘能力を持っているのだろう。
しかし、それでも尚当たらない。大鎌を振るう速度をいくら上げようとも、いくら巧みに振るおうとも、清水にかすりもしないのだ。
「くっ……! はぁぁぁぁぁ!!」
「ふひひ……遅せぇなぁ……吠えても変わんねえって……はぁ、カムラの柱や斬撃の方がよっぽど速いわ」
叫びあげてまだ大鎌を振るうイヴに対して、笑い疲れて息切れする清水だが、その間も余裕で避け続ける。
苦肉の策として、ステータスを10倍に引き上げようとした時。
イヴはガクッと、片膝を着いてしまった。
急激に、力が入らなくなったのだ。
それを見た清水はニヤリと笑ってイヴに歩み寄る。
「おー、漸く効いてきたか? まあ持った方だな?」
「イ、レギュラー……私に、何を……」
「単純な話だ。闇魔法の正しい使い方、デバフをかけたんだよ。ただし時間差でな」
その魔法の名は“虚身”。闇系魔法に適性を持つと知った時から清水が考案し作り出した、オリジナルの魔法である。
効果は至極単純かつ非常にいやらしく、相手の身体能力に制限をかけるという物である。相手の魔力量や耐性によっては時間がかかるのが難点だが、それでも相手の動きを封じるという一点に特化した凄まじい魔法である。
「実践でも急に致命的な隙を晒させる事が出来る様になれば、チーム組んだ時とかも楽に討伐できるんでね。実験させてもらったよ。時間差で仕込んで攻勢に出てる時に効果が出たら……油断してたところを全力で叩けるわけだ」
「………………」
「おー? 黙りこくっちまってどうしたんだ? お祈りか?」
ザシュッ
「…………は?」
「この程度の小細工、気づかないとでも思いましたか、イレギュラー」
血を吐く清水。その視線は、大鎌によって貫かれた自分の腹部に向いていた。
「最初から貴方が私に魔法を使っていたであろうと言うのはお見通しでした。かかってもすぐに振り払える様にするのもまた、容易いことでした」
淡々と、言外に全て無駄だと宣告される。“爪”であろうとも、それは所詮、神の手足にすらも及ばない。清水にはそう取れるであろう宣告である。
「……は、ははは、は…………ゲホッ、なるほど、踊らされてたのは……俺だった訳か……」
「……」
用はないと、無言でもう片方の大鎌で首を刎ねようとするイヴ。清水はそれに待ったをかけた。
「待てよ……ハァ……カムラの弱点……知りたくねぇのか」
ピタリと、振り上げた腕、そして大鎌を止めるイヴ。向こうで見ている主に確認を取ると、喋らせてから殺せとのお達しが。目線で続きを促す。
「……ハァ……ゲホッ、ゲホッ……俺達の世界には、漫画ってモンがある」
清水が顔を上げる。その目は、顔は、生気に満ちている。さしものイヴもこれには驚くが、清水の話は続く。
「その中にさ、とんでもなく強い奴がいるんだよな……』
目の前の人間の声が朧気になる。得体の知れない不気味さを感じ、首を刎ねようと大鎌を振るうが、蜃気楼の様にそれはすり抜けた。
『例えば……』
「五感を掌握する、とかな」
ふっと、目の前の清水が消えたと思いきや、頭を掴まれている感覚が出てくる。声も後ろから。
「“狂華水月”。カムラと考えた、理論上最凶クラスの魔法だと思うぜ? あ、名前は元の漫画から拝借してる」
“狂華水月”。清水が煽りだす前に発動した、清水のオタク魂が作り出した魔法だ。相手の感覚、それこそ魔力絡みの感覚も掌握する魔法。それを操作して錯覚を起こさせることが出来る、規格外の魔法。
詠唱ありでも詠唱無しでも発動にかなり時間がかかるのが難点であり、長々と煽っていたのは、煽りが効くと判断した上で時間稼ぎするためである。
魔法を易々と看破できたと錯覚させたのも、幻影を殺させ、攻撃の手を止めるため。
全て、彼の仕組んだ通りに動いたのである。
「んで今、金縛りにあってると思うけど、それが“虚身”の応用な。んじゃ、大人しくしてて貰おうかね」
イヴが何を思っているのか、清水には分からない。が、少なくとも清水自身は何も思っていない事は確かだ。
計算に計算を重ね、何重もの罠によって絡めとる。闇魔導師として覚醒した清水は、だからこそ慢心を忘れなかった。何故、と問われれば、答えるまでもない、と彼は言う。それ程までに、清水にとって彼の存在は大きいのだ。
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「ご主人様~? 具合が悪いんですか~?」
「…………あ、いや、大丈夫です……」
結論から言うと。
清水は失敗した。
神の使徒を倒した、それまではよかった。しかしその後、神との繋がりを断ち切ったのがダメだった。
清水は“爪の権限”と闇系魔法によって、イヴとエヒトとの繋がりをぶった切り、戦闘不能状態にしようとしたのだ。
その試み自体は上手くいった。上手くいきはした……のだが。
簡単に言うと、バグったのだ。
エヒトへの忠誠が、どうやら清水への忠誠へと置き換わってしまったらしいのだ。下手に“爪の権限”を使った影響なのだろうか。
戦闘能力はそのままに、新しく従者ができた。これは嬉しい誤算なのだが、問題は。
「どうやって誤魔化そうかな……」
下手な認識阻害は皆に悪影響を及ぼす可能性があり、危険性が高い。
清水は悩む。元々いなかった少女が何故、自分に仕える事になったのか。それをどうやって説明したものか。
「む〜〜〜……ご主人様! 構ってよ〜〜〜!」
そして何故こんなにもベッタリなのかも説明せねばなるまい。
こうして“爪”の少年は、自らの行動で自らの首を絞める羽目になった。
そして同時に、彼の物語もまた、動き始めたのだ。
というわけでずっと考えていた展開。清水君、ジャンプのヨン様化。そして神の使徒の仲間入りです。
久しぶりとはいえ、上手く纏められなかったこと、何よりイヴちゃんの内面描写が思いつかなかった事が心残りではありますが、とにかく。
ここ(と活動報告)を持ちまして、復活を宣言させていただきます。
これからもどうぞ、凡人EX、そして“ありふれた調律者は異世界”にてをよろしくお願い致します。