そんな凡人の作品です。
カムラが自分のステータスに頭を抱えてから、2週間が経った。その間も、そして今も、カムラは王立図書館で情報収集していた。
魔法について知り、試しに使おうとしてみたが、どうやら適性が無いらしく、使おうにも使えなかった。使いたければ長い詠唱と大きな魔法陣が必要らしい。それでも、極小の火種や水浴びできる程度の水ぐらいしか出ない。
魔力量自体は暴力的と言える程にあるのだが、使えないので元も子もないという話だ。余談だが、魔力には個人で色があるのだが、彼は漆黒である。つくづく漆黒に縁がある男である。
カムラはこれを、特異点の存在によるリソース不足と結論付けた。特異点や暴走の行使には魔力は関係ないのだが。尚、魂魄魔法と生成魔法は、メルの言う「解放者達の遺した力」らしい。あまり使いたくない幻想抽出共々、まだ使ってはいない。
ただ、魔力を操る練習をしたら、“魔力の暴走”なる技能が増えたが。使ってみたら大混乱に陥ったので封印した。特異点を扱ってきた実績が、トータスに合う形で発現したらしい。
まあ、カムラにとって重要なのはそっちではない。トータスの現状である。
この世界には亜人族が存在するのだが、彼らは神からの授かり物とされる魔力を持たない。そのため、人間族や魔人族から、神に見放された悪しき種族とされ、差別されているとか。
これも、神々がこの世界を魔法によって創り、今ある魔法はその劣化版という価値観から来ている。このことをポロッと幸利に話したら、それはそれは激怒していた。
『貴重なケモミミを迫害してんじゃねぇ!!』
との事。カムラは声の大きさに驚いたが、
『言い続けると貴様が迫害を受けかねんぞ』
と言って窘めた。ちなみにカムラ自身は、信仰によって価値観が変わるというのが全く理解できていない。
ちなみに、海人族という種族も存在しているが、彼らは海産物という利益をもたらすため、教会のお膝元たるハイリヒ王国が公に保護している。カムラは更に困惑した。
魔人族に関してだが、彼らは魔法の適性が人間族より高い。魔人族が人間族より強いと言われているのはその為で、魔人の王国ガーランドでは、子供ですら強力な魔法を放てるそうだ。
ちなみに、人間族と魔人族の戦争理由だが、崇める神が違うかららしい。カムラはもう、深く考えるのをやめてしまった。真実を知るメルにとっても、この事は滑稽らしい。
(地球でも宗教観の違いで争いが起きるらしいが、ここはそれ以上だな。神の教えによってここまで排他的になれるとは、心底脱帽だ)
というのが、カムラのトータスに対する感想である。神並の化け物を相手した事もある彼だからこそ言えることだろう。
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図書館を立ち去り、しばらく歩いていると、
「あ、カムラさん」
「……」
金髪美少女が話しかけてきた。カムラは首を傾げる。
「……? どうかなさいましたか?」
「………………………………誰だ貴様」
「へあ?」
「貴様のような者、私の周りにいたか?」
その一言がよほどショックだったらしい金髪美少女。ピシッと音がするほど、わかりやすく固まってしまった。が、すぐに復活し、平静を装って名乗る。
「リリアーナです。リリアーナ・S・B・ハイリヒ。先週もお話しましたよね?」
「……………………ああ、なるほど」
「お、覚えてくださって無かったのですか?」
「寧ろ何故覚えられていると? ……ああ、さては貴様、忘れられるという経験が無いな? 生憎私は、身分や容姿で覚える事は無い」
「うっ……」
カムラの一言に胸を抑える金髪美少女ことリリアーナ。よほど耳が痛い話だったらしい。
事実、彼女は王族であること、人当たりのいい性格であることから、一度交流を持った人間から忘れられる事が皆無だった。
正直、相手が悪いとしか言いようがない。カムラが人を覚えるのには、一定の基準がある。前回話した時に、リリアーナはそれをクリア出来ていなかっただけなのだ。
「それも……はい、そうですね。失礼しました……」
「そんなに忘れられる事が悲しいかね。いやそれより、何か用か?」
「あ、いえ。カムラさんは訓練に参加しないのかなと。皆さん既に訓練を始めていますし」
「訓練を受ける程弱くは無いのでな。そもそも、私に稽古をつける人間が可哀想だ。教え方がわからなすぎてな」
「そ、そうなんですか?」
「……力の証明を望むなら、今すぐ勇者を殺すが」
「い、いえ、結構です! やめてください!」
「む、冗談だったんだが……」
「タチが悪すぎます……本当にやめてくださいね?」
冗談で勇者殺害宣言するカムラ。真顔で言う上、実際遂行できるので自信たっぷり。そんなのが冗談に見えるわけが無い。
「まあ、何にせよ。訓練するぐらいなら自分で鍛える。その方が早い」
「……流石、と言えばいいのでしょうか?」
「さてな。では、私はそろそろ行くぞ」
「あ、はい。次は名前を覚えていてくださいね?」
「保証はしかねる」
去っていくカムラ。その後ろ姿を見て、次も忘れられていることを覚悟するリリアーナであった。
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更にぼんやりと歩いていると、訓練所に出た。時々幸利等の訓練の様子を見るぐらいでしか用はないが、ふらふらと着いてしまった。
特に用事も無いため、そのまま去ろうとする……
同時に、ノールックで後ろからの蹴りを最小限の身体捌きで躱した。下手人はバランスを崩して転倒する。
「イッてぇ!」
「おいおい何やってんだよ大介!」
「加減しすぎだろ、やっさし〜」
「うっせぇ!」
ゲラゲラと笑う三人、それに怒る一人。この四人組の存在は、カムラも覚えている。が、興味が無いのでそのまま歩いていく。
「…………」
「おいおい待てよ虚時、俺達はお前に話があるんだよ」
「……ほう?」
立ち止まるカムラを囲む四人。身長はカムラの方が頭1つ分高いので、木に集まる虫のような光景にも見える。
「てめえ、訓練も録にしねぇくせによく顔出せたな?」
「お前がサボってる間に、俺達すげぇ強くなったんだわ」
「そうか、それは良かったな」
「そんでよ、優しい俺達はお前に稽古をつけてやることにしたんだよ」
「ずっとサボってたんだからな。何があってもお前が悪いんだぜ?」
ニヤニヤと笑う四人。そのままカムラを訓練施設から死角になっている場所へと連行していく。
それを見た者は、誰一人として目を逸らした。
四人組の紹介をしておこう。この四人組は
地球にいた時から、彼らは香織によくかまわれるカムラが気に入らなかった。
特に檜山は香織が好きである。ただし、青春特有の甘酸っぱさなぞ一切感じない、劣情に塗れた好意だが。
そんな訳で、彼らは一度カムラと“お話”しようとしたのだが、結果はお察しだろう。結論だけ言うと、全員右腕に全治2週間の怪我を負うこととなった。それはそれは綺麗に折ったらしい。
かつて自分達をボロボロにした相手な上、教会での出来事を見ていたため、カムラに対する恐怖は天井を突き抜けていた筈だった。
だが、自分達も力を得、訓練でそれが伸ばされたのだ。カムラのステータスが分からない上、訓練に全く出てこない事も拍車をかけているらしい。ご都合解釈も添えられている。
要するに、今の自分達なら勝てると、復讐する気満々で、意気揚々とカムラに喧嘩をふっかけに行ったのだ。
しかし。
「はぁ、はぁ……何で当たんねえんだよ……」
現実は甘くなかった。拳も、蹴りも、剣も、槍も、何一つとしてカムラに届かない。魔法も使ったが、火球も風球も全て避けられ、何なら腕のひと振りで掻き消された。
「……どうした? 稽古はもう終わりか?」
「はぁ、はぁ、舐めんなクソが!」
近藤が剣を振りかぶるが、疲れきったそれが当たることも無く、カムラは避ける。ふらふらと倒れかけるが、何とか踏ん張る近藤。
「……ふむ。稽古をつけてくれたこと、心より感謝しよう」
「は? 何言って……」
突然の感謝に困惑する四人組。しかし、そう言うカムラの顔を見て、動き続けて火照った体から血の気が引いた四人。寒気が襲った。なぜなら、カムラの顔は、
「そんな貴様らに感謝を込めて、私からも稽古をつけてやろう」
それはそれは、愉悦に歪んだ笑顔だったからだ。
「収束」
左手を前に掲げ、一言呟く。すると、中野の方向を向いて赤い柱が出てくる。と思ったら、弾かれたように中野がぶっ飛び、壁に激突した。
柱が高速で飛び、中野の顔にめり込んだらしい。柱はすぐに消える。後に残ったのは、鼻が潰れた中野だった。
「ヒィッ!」
「この程度を避けられないのか、話にならんな。これでも加減はしているぞ?」
そう言うカムラの周りに、二本の赤い柱。斎藤と近藤を向いている。が、反応させずにすぐに射出され、斎藤は腹に当たり嘔吐、近藤は這いずって逃げようとしていたため、背骨に当たり、肺の空気を出し切り気絶した。
檜山を見るカムラ。ガタガタ震え、股間からアンモニア臭がする。目は、完全に恐怖に染まっている。それを見て、カムラは笑みを深める。
「随分震えているな? 貴様が想像していた光景と違ったからか? それとも、自分が喰らおうとしていた物が、自分を喰らう物だと悟ったからか?」
「あ……あ……お、お前ぇ……」
「何だ?」
「な、何で……何でそんなに強いんだよぉ……おかしいだろ……」
恐怖に震えながらも、理不尽に対してかろうじて疑問を投げかける檜山。
「さてな? 少なくとも、殺さねば死ぬ世界に生きていたのは確かだ」
赤い柱の標準を檜山に合わせる。逃げようとする檜山だが、手足が震えて藻掻くしかできない。そして、抵抗虚しく、喉元に衝撃を感じた瞬間、檜山の意識は途絶えた。
「……流石にやりすぎたか。面倒な奴に見つかる前に治しておくか」
先程までの笑みが無くなったカムラ。おもむろに左腕を掲げ、呟く。
「流れを受け止めるには、手は小さい。逆らいたくば、岸を歩け」
左手から金色の波動が迸る。檜山達の傷が消え、何事も無かったかのように眠っている。
「……やはり、中々疲れるな」
溜息をつくカムラ。そこに、
「……虚時君? 何してるの?」
「……香織か」
ひょっこりと香織が壁から覗いていた。相も変わらず心配そうな表情をしている。
「此奴らが稽古をつけてくれたのでな。私も稽古をつけたのだ」
「……そっか。怪我は無い?」
「この程度で怪我なぞせん。してももう治っているだろうな。いや、それより……」
いつの間にか香織の横に立っていたカムラ。こっそりと耳打ちする。
「……檜山と言ったか。奴には気をつけろ。彼奴の狙いは貴様だ」
「え?」
「何をしでかすかわからん奴だと、それだけは覚えておけ。……貴様がいつも共にいるあの少女に頼るのも良いだろう。ただし、光輝だけは頼るな。まともに取り合う事が無いだろう」
言うだけ言って、カムラは忽然と姿を消した。香織が辺りを見回しても誰もいない。
(……檜山君が、私を?)
カムラの言葉を反芻する香織。怯えたような目をしている。
(……頼るなら、あの少女……雫ちゃんの事かな)
親友の顔を思い浮かべる。まずは相談だと、雫を探しに行った。
……カムラに名前を覚えられた事に気がついて、かなりだらしない顔になったのは、また別の話である。
愉悦系最強主人公。人の恐怖する顔を見るのが、生きてるって感じがして大好き。