作者は零を殆ど読んでいませんので、色々雑ですがよろしくお願いします。
「……して、オルクス大迷宮とやらが、解放者の遺した試練の一つなのだな?」
「間違いありません。深くに真の大迷宮があるそうです」
現在、カムラ含む勇者一行は宿場町“ホルアド”、その王国直営の宿屋に来ている。
カムラとメルは同じ部屋。幸利が血涙を流していたのが印象深い。香織の後ろにも何かが見えたが、それも気にする程ではない。例えそれの存在感が増してきていてもだ。
さて、何故彼らはこんな所に来ているのか。それ以上に何故勇者一行では無いメルもいるのか。話は前日に遡る。
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『明日から、実戦訓練の一環として“オルクス大迷宮”へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!』
檜山達との一件の後、メルドからこう通達された。
オルクス大迷宮は、全100層あると言われている迷宮で、七大迷宮の一つとして数えられている。階層が深くなるにつれ、住まう魔物の強さも上がっていくらしい。
そんな迷宮なのだが、冒険者などにかなりの人気を誇る。魔法を円滑に使うための物質、魔石が採れるからだ。それも、かなり上質なものが。
魔物は体内に魔石があり、その魔石を介して固有魔法を使う。その質や大きさによって、魔物の強さが上がるのだとか。
上質な魔石である程高値で取引されており、冒険者達はそれを狙って迷宮に潜るのだ。
そして、奥に行けば行くほど魔物が強くなるというわかりやすさから、傭兵や新兵の訓練にももってこいな場所なので、宿場町が出来上がったという。王国直属の兵士もここで訓練する事が多いため、王国直営の宿があるのだ。
最初、カムラ自身行く気はさらさら無かったのだが、行かざるを得なくなった。メルとの約束があったからだ。
メルの話によれば、オルクス大迷宮は解放者の一人が作ったダンジョンなのだという。
パーシマリイ一族の伝承はかなり情報が削られており、解放者達の名前、神の真実、そしてオルクス大迷宮が試練の場である事や、解放者達が遺した魔法の事以外、殆どが今に残っていない。
確認のためにも、何より神を討ち果たすためにも、メルは前から一人で迷宮に行っているのだが、どうしても限界を感じてしまっていた。
と言っても彼女、素のステータスが化け物クラスで高いので、調子が良い時には単身50階層まで行った事があるのだそう。
かつて最強と謳われた冒険者は65階層が限界、それも約百年前の事だとか。今となっては一流の冒険者で20階層、超一流で40階層。カムラも思わず、
『貴様が戦えばよかろうに』
とツッコミを入れてしまった。しかし、この情報は秘密にしてある。そんな人間がいるというだけで後々面倒だからだ。神に目をつけられても困る。
しかし、オルクス大迷宮に潜れる程強いというのは周知の事実なので、同行の許可はかなりあっさりと下りた。
とにかく、トータスでも確実に上位の戦闘能力を持つ彼女でさえ、オルクス大迷宮の半分が限界なのだ。更に伝承によれば、オルクス大迷宮は100階層を越えてから更に100階層あるらしい。
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ついでに、メルの事も話してしまおう。
メルは、“便利屋”を営みながら世界の真実を語り継ぐパーシマリイ家に産まれた。彼女も例外なく便利屋が天職となる。
ちなみに、便利屋というのは、様々な方面に才能を発揮出来る者の事。元来持っている技能しか扱えない筈のトータスにおいて、努力次第で様々な技能を手に入れられる特例中の特例である。
しかし、それには長い時間を必要とし、手に入れた技能は本職の物よりは劣化している。それこそ才能によるのだが、完全に近づけることは出来ない。
だがメルは一族の中でも、というか便利屋の中でも最高峰の才能を持っている。11歳という若さで独立した程だ。
この頃からオルクス大迷宮へと足を運ぶ事が多くなった。地道に研鑽を積み重ね、数えて14歳の時に50階層を突破した。
しかし、それからは先に進む事が出来ない。厳密には、そんな時間が無い。腕の良い何でも屋に依頼が来ないわけが無いのだから、当然な話である。
一年ほど、どうしたものかと頭を悩ませていた所に舞い込んだ、王国直々の依頼。それが、異世界から召喚する勇者達の接待だった。
全く関係のない世界を巻き込む神に対して怒りを覚えるのと同時に、機会が巡ってきたと人知れず喜んだ。王国からの依頼を盾に仕事を断り、自分よりも強いであろう勇者達に協力してもらおうと考えたのだ。
自分も同じ事をやっているという嫌悪感と良心の呵責は奥底に沈めて、その依頼を受け、勇者達に接触しようとした。
……だが。召喚された勇者達は、確かに強大な力を持っている。しかしメルの目には、戦いに全く慣れていない雑魚としか映らなかった。
光輝の存在がそれに拍車をかけた。戦争という物を、殺し合うという事をわかっていなさすぎる。賛同した周りも含め、神々に弄ばれた挙句に死ぬのがオチだ。
期待外れもいい所だと落胆した。
しかし、そこで動いた人物がいる。
最初に見たときに目を奪われた少年。誰よりも薄い気配の少年。誰よりも周りを警戒していた少年。……いつでも狩れる、故に興味が無いという目をしていた少年。
飲み物を入れた際に話しかけられた。何もかもを見透かされたと思わされた。それにより、興味を持つ事になった。そんな少年。
虚時カムラ。
カリスマを退け、場に流されず発言した意志の強さ。その言葉には、誰にも染まらぬ自我を感じた。
そして、赤い斬撃。魔力を一切感じさせず、教会を深く傷つけたあの斬撃。召喚された勇者達の中で一際異彩を放つ、自分にも測れない力があった。
よってメルは、カムラに接触する事を選び、今に至る。
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「ならば明日、行方を晦ませるか。覚悟はしておけ」
「元よりできております」
「頼もしいものだ……しかし、貴様がそこまで思い切りが良いとは思わなかったな」
「カムラ様に、全てを差し出すと誓った事ですか?」
「……それもあるな。私が元の世界に帰ると言ったらどうするつもりだった?」
「お供致します」
「……はぁ」
即答に、大きな溜息。厄介なのが一人増えたらしい。
「まあ、それはいい。貴様の好きにすれば良い。私は何も言わん」
「ありがとうございます」
「……しかし、便利屋……魔獣とやらも含め、この世界に来てから、懐かしい気分にさせてくれる物が増えたな」
ありありと思い出す情景。赤い霧とか言う伝説の便利屋を真っ先に思い出したが、とりあえず押し込める。
「何にせよだ、メル。貴様の話を聞いていて、私自身もかなり興味が湧いてきた。……いや、駒を使って私を消そうとするあたり、神……エヒトと言ったか? そやつは我儘放題の子供であるのは間違いないか」
「……? 駒、ですか?」
「ああ。教会の連中を通して、私に刺客を何度か送り込んでいるのだよ。妙な力を裏に感じ取れる。自分の気配を消す事も儘ならぬのかね?」
「いつの間にそんな事が!?」
「気付かないのも無理はない。悟られる前に心を殺しているのでね」
唖然とするメル。自分が仕える人間の規格外さを再認識した。主の危機(?)に対応できなかった不甲斐なさより、主の底知れない力に対する畏敬が勝った。
メルの想像を常に、遥かに越えてくるこの主。人間なのかもそろそろ怪しくなってきたが、本人は人間と言い張っているので何も言えない。
「とにかく、私は貴様と共に戦う。それだけは確実だ」
「……本当に、何と言えばいいか」
「礼も何も要らんよ。私はそれが楽しいと思っているのだから、対価は支払われているとも」
楽しさを微塵も感じさせない無表情で答える。主のその様子に、何か引っ掛かりを感じるメル。その疑問を解消するため、質問を投げかける。
「……あの、一つよろしいでしょうか」
「ああ」
「カムラ様は、何者なのですか?」
「人間だが」
「いえ、そうではなく……その、あまりにも物事を俯瞰しすぎていると思いまして」
「……」
「戦争の意義をあの場で冷静に捉えていたのは、カムラ様、愛子様だけでした。それに、あの勇者が幼稚なことは疑いようがありませんが、大きな力を手に入れたと聞いたのなら、はしゃぐのも無理は無いでしょう」
「……」
「カムラ様の力は元から持っていた物、とすればあの冷静さは頷けます。それでも、いえ、それならばこそ、カムラ様は何故、どうしてその様な力を手に入れたのですか?」
言っていて、メルは自分の疑問点をようやく把握してくる。
カムラは、あまりに異質で、達観しすぎている。
勿論その力は強大で、なおかつ異常だ。しかし、それは彼の本質の前では本当に些細な事だ。
全てを自分とは関係の無い事だと言うかのように、もしくは、観客であるかのように捉えている。少なくとも、メルにはそう見えた。
そうかと思えば、彼自身、好奇心を隠すことが一切無い。特に異世界の知識に対しては、非常に貪欲だ。
10年やそこら生きてきた程度の少年が、そこまでの視点に至るとは到底思えない。それがわかるほど、カムラという少年は異質なのだ。つまり、
「……カムラ様は、何を見てきたのですか?」
カムラの過去に、何があったのかを知りたいのだ。虚時カムラという人間が形成されるまでの過程を。
カムラは、漆黒の瞳をじっとメルの目に向けている。全てを汲み取ろうとする様に、あるいは、全てを飲み込もうとするかの様に。
そして、不意にベッドから立ち上がる。
「……それを話すなら、まずは客人を通そうか。メル、開けてやれ」
「かしこまりました」
カムラに言われ、メルは部屋の扉を開ける。
「え、あ、うわぁ!?」
ドタッとバランスを崩して誰かが入って来た。
「いったた……あ」
「こんばんは、香織様」
「こんばんは、だな。草木も眠ろうとしている夜更けに盗聴か。それには随分と相応しくない、大胆な装いだが」
倒れてきたのは、香織だった。
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「ありがとう」
「お茶なら私がお入れ致しますのに」
「たまにはな。後で貴様にも入れる」
備え付けられていた紅茶もどきを入れ、対面に座る香織に差し出すカムラ。そして自分も座り直す。傍らにはメルが立っている。
香織は純白のネグリジェ、それにカーディガンを羽織っただけの格好をしている。窓から射し込む月明かりが黒髪にエンジェルリングを作り出している様は、露出高めの装いも相まって神秘的だ。
ちなみに、傍らのメルも同じく純白のネグリジェを着ている。月明かりに照らされ、白髪が煌めいている様は、香織も見惚れる程に美しい。
大抵の男は、そんな天使の如き2人の美少女に魅了され、真っ赤になって挙動不審となるだろう。しかし、ここにいるのはカムラ。全く気にならないかのように、紅茶もどきに口をつけて香織に問いかける。
「……さて、何か用があったのか?」
「ううん、そういうのじゃなくて、えっと……夢を見て、ちょっと目が覚めちゃって」
「夢?」
はて、夢で目が覚める。どんなに悪い夢だったのだろうか。それは、いつも笑顔な香織の暗い顔を見ればわかる。
「うん……真っ暗な中で、虚時君が一人で歩いてて……声をかけても全然止まってくれなくて……最後に、いなくなっちゃう夢」
「……なるほど、不吉な夢だな」
「うん。だからすごく心配で、こっちに来たんだけど……」
持っていたティーカップを置く香織。その顔は、無理に笑っているようでとても痛ましい。
「……行っちゃうんだよね? 虚時君。大迷宮の奥に」
「……ああ、それがメルとの約束だからな」
無機質に答えるカムラ。香織は「そっか……そうだよね……」と目を伏せてしまう。メルはつられて泣きそうになっている。
「虚時君。私ね、中学二年の頃から虚時君の事を知ってたんだ」
「……」
瞑目するカムラ。香織は続ける。
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中学二年だった頃、香織はある事件を目撃していた。
男の子が不良連中にぶつかった際、持っていたタコ焼きをべっとりと付けてしまったらしい。
男の子はワンワン泣いているし、それにキレた不良がおばあさんにイチャもんつけているし、男の子の祖母らしきおばあさんは怯えて縮こまっているし、中々大変な状況だった。
おばあさんが、クリーニング代としてかお札を数枚取り出すも、それを受け取った後、不良達は更に恫喝しながら最終的には財布まで取り上げた。
香織は最初から見ていたが、何も出来なかった。矛先が自分に向くのを恐れ、自分は弱いからと言い訳をしながら、見ている事しか出来なかった。
不良達が満足して帰ろうとした時。
『弱者を虐げるのは楽しいか? 分からんでもないがね』
その進路に、香織と同い歳程の少年が立っていた。
そこからは一瞬だった。少年は不良達を罵り続け、激昂した不良達の攻撃を避けながら財布を奪い返し、おばあさんに返した。
なおも殴りかかる不良の一人の手を受け止め、一言。
『実に憐れだな。彼我の差も見抜けんか』
冷たい目でそう言う少年に、不良達は恐れをなして逃げた。
武術の経験が無い香織でさえ、強いと思わせる程に鮮やかな身のこなしだった。しかしその少年は、一度も手を出さずにその場を収めたのだ。
例えば光輝なら、実力も高い彼ならば、不良達と戦っただろう。それでも、少年は暴力に訴えなかった。
『助けてくださり、ありがとうございました』
『礼を言われたくてやったわけでも、助けたわけでも無い』
少年は、男の子に目線を合わせ、ゆっくりと言った。
『次は、君が守れ。強ければ良いというわけではない。弱いまま戦うのもダメだ。自分が成しうる事を使って、全力で足掻け。何かを守る時、人は限界を簡単に超えるからな』
香織は、少年のその言葉に心を打たれた。少年の人となり──人間の成長を楽しむ性分──を垣間見たような気がした。
そこから少年の事について調べ、学校と名前を特定したが、話しかける勇気はなく、関わりを持ったのは高校生になってからの事だった。
「あの時の虚時君、凄く優しい顔をしてたんだよ? 本当に楽しみにしているんだって。そうやって言える虚時君はきっと、凄く、人間が好きなんだなって」
「……聞き捨てならない事もあったが。ああ、よく覚えているとも、あの少年の目は。彼奴らを恐れながらも、立ち向かおうと迷っていた。そんな人間ならば、いつか剣を取れるだろうなと思ってな」
「こうも言ってたよね。『わからなくてもいい。いつかわかることだ』」
「『だから、わかった時でいい。誰かを助けたなら、次は君だと言ってくれ』」
カムラが合わせてくれた事が嬉しく、香織は微笑む。ただ、その微笑みは、覚悟を決めたようなものであった。潤んだ瞳でカムラを見つめている。
「…………私ね、その時からきっと虚時君……ううん、カムラ君の事が……好き、だったんだ。……えへへ、何言ってるんだろ、私。ごめんね」
告白を誤魔化すように紅茶もどきを飲み干す。カムラは、その様子を見て、優しい微笑を浮かべながら一言。
「謝る必要は無い。……だが、返事は待っていてくれないか。どの道、明日私はいなくなるのでね」
「……………………うん」
「……私にとって意味は無いが、カムラという名を呼んでくれたこと、心より嬉しく思う。君には、私の名を呼んでいて欲しい」
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カムラは一口にお茶を飲む。
「それは、まあ、それとしてだ……ああ、そうだな。貴様らが過去を語ってくれたのなら。私も、過去をもって返さねばなるまいな」
珍しく苦虫を噛み潰したような顔になるカムラ。酷く面倒くさそうだ。
「短めにまとめるが、それでも長くなるだろう。構わないか?」
「うん、私は大丈夫」
「聞きたいと申し上げたのは私ですから。一字一句、聞き逃すことは致しません」
「ならばメルも座れ。今一度茶を入れるとしよう」
促され、椅子に腰掛けるメル。沈黙が流れ、湯を沸かし、お茶を入れる音のみが聞こえる。
座っている少女達は、お互いを見る。
(……惜しい程に優しい少女。カムラ様の目に狂いはありませんね。……カムラ様が好き……気持ちはよく分かります)
(……綺麗な人だなぁ。虚時君、こういう子が好きなのかな……? うぅ、メルさんも好きなんですか? とか聞くに聞けないし……)
お互いを探り、お互いを理解しようとする。しかしそれは叶わず、カムラは紅茶もどきを淹れ終わり、自分の椅子に再び座って、脚を組む。
お茶を置かれた2人は何事も無かったかのように、同時に紅茶もどきに口をつける。
「……さて、今から話すのは嘘でも何でもない。正真正銘、私が経験してきた事だ。突拍子のないことも、全て事実として受け止めてほしい」
頷く2人を見て、カムラは再び話し始める。
「……ではまず、私が“虚時カムラ”で無かった頃の話をしようか。
調律者も、“エルヴァ”という名も、“虚時カムラ”という人間も。全ては、あの地獄から始まったのだよ」
虚時カムラは、他者の理解を目標の一つとしているのです。
書きたいことを書いていたら非常に長くなりました。申し訳ありません。