また……長くなってしまった……
申し訳ありません。
「……と、言ったところだが……ふむ」
話を終え、2人の表情を見るカムラ。紅茶もどきを一口飲み、溜息と共に言う。
「……幸利然り、恵里然り、この話をすると呆然とするな。つまらない話だっただろうから、無理も無いがね」
こう言うと、二人は目を見合わせ、台詞を合わせたかのように言う。
「……えっと、その、なんて言うか……ね?」
「……そうですね、情報が多すぎて……整理致します。カムラ様は、幼い頃に、人が住む事が到底出来ない場所に捨てられ、魔物より凶悪な怪物と戦いながらサバイバル生活をしていた」
「概ねその通りだな」
「……何度も死の淵に立ちながらも生きてきた、という事ですね?」
「何度か精神がやられそうになったが、掃除屋を始末した時、何とか生きる意味を見出した様な物だ。壊す事で、生を感じるようになった。一応、今もその価値観は、私の心に深く根付いているよ……」
「……うん。生きる為には、仕方なかった事だよね? そう考えなきゃ、カムラ君が壊れてたんだもんね?」
「まあ、な……あの川の水がいけなかったな。渇きを潤す為に、深淵を覗いたのだからな。おかげで、特異点に近い力を手に入れたが……失った物の方が多かった」
「……重力も、時間も操り、次元をも飛び越える。閉じられた物を開ける事も、思い通りの生物を創る事も自在。そんな26ある超技術を特異点と言い、それぞれ翼なる組織が保有していた」
「それらの先頭に立ち、規律を敷いてコントロールする頭や、監視する目も存在していたな」
「……都市に住んでいる人は、自由が無かったんだね……こういうのをディストピアって言うのかな?」
「都市以外も大概だがね。私の産まれた裏路地はいわゆるスラムそのものだった。正義や道徳なぞまかり通る事が無い程荒れていた。危険に対抗する為に、特異点の様な素晴らしい発明もまた、生まれていたが」
「……えっと、頭はカムラ君をスカウトしたんだよね? 便利屋って人に頼んで」
「あの世界の便利屋は、対価さえ払えば、倫理に背く事すら確実に遂行する。時々、私も驚く程の怪物がいたな。赤い霧と呼ばれる便利屋がそうだった」
「そしてカムラ様は便利屋に連れられ、頭の指令を受けて、頭に背く者を爪と滅ぼす調律者となった」
「ああ。言うなれば現場指揮官の様な物だった。特異点を使い、二度と歯向かう事の無いようにするのが、我々の役割だった」
「……しかし、カムラ様は」
……淡々と問答を繰り返していた3人だったが、メルの一言で静まり返る。香織もメルも、沈鬱な表情となり俯いている。
カムラはいつもの無表情で沈黙を破る。しかし、その目の奥には、尊敬と、僅かな羨望が宿っている。
「……見誤っていた。人が人の為に、どれだけでも強くなれるなど、あの世界では戯言でしかなかった……しかしシャーリーは、私に見せてくれた。あの時初めて、人間の素晴らしさを見たのだよ」
「……だからカムラ君はあの男の子に言ったんだね。次は君が守れって」
「……そういうことになる……私が地球に産まれ、ここに生きているのは。それを知るためだろうな……実際、何かが変わってきているのだよ。私の中の何かが……貴様らのおかげでね」
ゆっくりと、やれやれといった風に首を振る。考え込んでいる様な2人はしかし、カムラの次の一言で顔をバッと上げた。
「……コレを貴様らに話したのは、私なりの信頼の証だ」
「「!!」」
「理解せずとも良い。無理に共感する必要も無い……貴様らになら、話して良いと思ったのだから話したのだ。例え、私から離れる事になろうともな」
「……そんな」
「これを聞いてどうするかは、貴様らの判断に任せるよ」
カムラは、己の所業がどういったものであったのか、地球の常識を知って理解している。
自分の楽しみの為に、他の人間を殺戮してきたと告白した今、何を言われてもおかしくないと理解しているのだ。
特にメルには、騙したような形になっているのだから。良心と言う物が、微かとはいえしっかりと芽生えているのだ。
故に。
「……ねえ、カムラ君」
「……ああ」
「カムラ君は、変わりたいんだよね?」
「……」
傍に来て、カムラの右手に両手を添える香織の温もりが、とても心地よく感じられた。
「……ああ、その通りだ。私は、人間の強さというものが……有り体に言えば、欲しいのだよ」
「……じゃあ、さ」
「うん?」
「私にも手伝わせてくれないかな? カムラ君が変わろうとする手伝い」
「……私自身にも終点が見えない、真っ暗な道だぞ?」
「一緒に連れて行って。カムラ君は、前は一人で頑張って来たんだから。誰かを頼るのも、人の強さだよ?」
真っ直ぐカムラの目を見据える香織。普段は何もかもを吸い込むような漆黒の瞳が、今は吸い込まれている。
「カムラ様」
声のする方に目を向ける。メルが、穢れの無い雪を思わせる銀の瞳で見ている。
「私は、カムラ様に救われたのです。一人で世界と戦う勇気が無かった私に、道を示してくれました……全てを捧げると言った事を、訂正するつもりは毛頭ありません」
「……私は手助けをすると言っただけだ。貴様の道は依然暗い。放り出しただけの無責任な男に、貴様の全てを捧げ程の価値はあるのかね?」
「灯りは与えてくれるのでしょう? ……それに、想いを半分持ってくださると言われた事、覚えていますよ」
……二人の言葉を聞いて、カムラは呟く。
「……本当に、君達に会えて良かった。ありがとう」
呟きは明瞭で、傍の香織にも、少し離れたメルにも確かに届いた。二人は微笑む。
カムラはティーカップを置き、右手を香織の両手から抜き取る。そして、右手を下に、左手を上にして手を合わせる。
「受け取ってくれ。私のささやかな感謝の気持ちだ……『幻想抽出』」
途端、カムラの手の中で白い光が輝くように見えた。正体の掴めない何かが手の中に形作られていく。香織にも、メルにも、第六感でそう感じられた。
徐々に白い光が視覚において明瞭になっていき、すぐに消えていく。カムラが手を開くと、そこには桜を模した簪が二つあった。
「川の水を飲んでから使える様になったものだ。武器なんかも作る事が出来るが……とりあえず、二人にコレを渡しておこう。何かしらの効果はあるはずだ」
その後、香織を部屋に送っていった。ついでに、香織をストーカーしていたから柱を幾つか刺しておいた檜山を治した。
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さて、時は移り、オルクス大迷宮に挑む時がやってきた。
入場受付の様な物もあり、ここで死傷者の管理のため、ステータスプレートを見せることになっているらしい。
「もうちょい陰鬱な感じを想像してたんだがなぁー」
と、幸利は不満気だった。
ちなみに、今回の訓練で、幸利はカムラ、メルと同じパーティーである。
理由として、彼の交流の無さ、そしてステータスがある。
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清水幸利 男 17歳 レベル:───
天職:闇魔導師、爪
筋力:───
体力:───
耐性:───
俊敏:───
魔力:───
魔耐:───
技能:闇属性適正[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇][+洗脳操作][+完全幻覚]・言語理解・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収]・爪の権限
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幸利は、自分が異世界で無双するという妄想を何度もしてきた。自分が主人公として活躍する妄想をだ。彼は、その程度にはオタクなのだ。
しかし、色々目を瞑ればThe・主人公な光輝や、寧ろ元主人公兼現裏ボスとも思える親友の存在が、それを妄想に留めていたのだが。
『……これは……無いだろ……』
流石に、呆然としてしまった。無双出来るような力を、こんな形で手に入れるとは思わなかったのだから無理もない。カムラの話から“爪”の存在は知っていたため、即座にカムラに相談したのだが、
『……待て、これは流石におかしいだろう』
当のカムラも混乱していた。
最初は他の勇者一行と同程度のステータスで、爪は勿論闇魔導師なんて天職もなかったのだが、急にこんな事になってしまった。原因は不明だが、カムラ曰く、
『この世界に来て、私が特異点を制約なしに使い始めたからか……?』
との事。
そんなわけで、同じく異常なカムラとパーティーを組むことになったのだ。
「ま、ステータスの高さに助けられてる感はあるけどな」
「私と組手をするのも良いやもしれんな」
「歴戦の化け物と組手して無事で済む気がしないんだが?」
「時の特異点がある」
「大怪我前提じゃねぇか!」
「あ、その組手私も参加してよろしいでしょうか?」
「私は構わん」
「……メルさんもしかしてバーサーカー?」
「何を仰いますか。戦うのが好きなだけですよ」
「いや、それをバーサーカーって言うのな?」
オルクス大迷宮に入り、最後尾で進むカムラパーティー。前のパーティーの撃ち漏らしを、幸利とメルが狩り尽くしている。
メルは、踊るような鮮やかな動きで、魔物の首を短剣で切り落としていく。遠くの魔物の脳天に、投げナイフの要領で短剣を刺したりもしている。
彼女の使う短剣は、諸事情で手に入れた錬成を使って作成している。いざとなったら足元の岩石からも作れるとか。
カムラに及ばないものの、無表情がデフォルトなメルだが、今はかなりイキイキしている。楽しそうだ。
ちなみに、メルは普段から着ているメイド服での参戦だ。ニコニコ笑いながら首を切り落としていくメイドさん。控えめに言って怖い。
一方の幸利は、身体能力で魔物を倒していく。殴る蹴るで肉塊になっていく魔物達が哀れである。時々闇魔法で洗脳し、同士討ちさせたりもしている。
最初は肉が潰れる感覚を気持ち悪がっていた幸利だが、徐々に慣れてきて、今では余裕の表情だ。カムラやメルに対するツッコミも忘れない。毒されてきているとも言う。
周りの目が中々面白い事になっている。放課後、食べ歩きながら談笑するかの様な気安さで魔物を倒していくのだから、恐ろしいだろう。メルド含む騎士達の表情も引き攣っている。
なお、カムラはかなり暇している。幸利とメルの現在の強さを見るためだ。今の評価は、
「貴様ら二人で、戦争は終わるのではないかね?」
といったところ。荒削りだがポテンシャルが高い幸利と、経験値が高く慣れているメル。本当に二人で終わらせそうだ。
そんな三人の様子を、先頭の光輝率いるパーティーから見ている香織。カムラに貰った桜の簪を忘れずに刺している。こっそりと、同じパーティーの親友から話しかけられる。
「……香織、昨日告白でもしたの? カムラに」
「わっ!! え、恵里ちゃん……うん」
“中村恵里”。ナチュラルボブが良く似合う、少々粘着質な声の少女だ。
周りをよく見る少女で、香織がカムラに恋心を抱いているのに一番早く気づいたのは彼女だった。
そこから香織は、幸利と同等にカムラと仲の良い恵里に、様々なアドバイスを求めた。その縁から、今では親友と呼べる間柄となっているのだ。
「その感じだと、上手くいったみたいだねぇ? もう付き合ってるの?」
「……ううん。やる事があるから少し待って欲しいって」
「へ〜。でもカムラにそこまで言われるって相当だよ? いい返事貰えると思う」
「そ、そうかな……」
「うんうん、だからそんな心配そうな顔しなくても大丈夫だよ。返事するまで簡単には死なないだろうし」
「……えへへ、ありがとね、恵里ちゃん」
「どういたしまして」
等、危険な迷宮の中とは思えない騒がしさで、一行は徐々に下へと進んでいく。
───────────────────────
そして、今回の目的地である20階層。次へと繋がる階段を見つけた時、今回の訓練は終了となる。
異世界召喚された勇者達のハイスペックさで、着々と魔物を蹴散らし、魔石を回収していく。大迷宮の名に違わぬ広さだが、マッピングは47階層まで済んでいるので迷うことも無い。トラップの心配も無いはずだった。
そして、階段手前の部屋は、まるで鍾乳洞のようにツララ状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていた。
そこを抜ければ今日の訓練は終わり。弛緩した空気の中、狭い通路を縦列を組んで進んでいく。と、先頭に立つ光輝達やメルドが立ち止まり、武器を構えた。
「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」
メルドの忠告が飛ぶ。
その直後、前方でせり出していた壁が、突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始めた。どうやら、カメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。
「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」
メルドの声が響く。光輝達が相手をするらしい。飛びかかってきたロックマウントの豪腕を龍太郎が拳で弾き返す。光輝と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞的な地形のせいで足場が悪く思うように囲むことができない。
龍太郎の人壁を抜けられないと感じたのか、ロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸う。
そして、
「グゥガガガァァァァアアアア────!!」
部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。
「ぐっ!?」
「うわっ!?」
「きゃあ!?」
体をビリビリと衝撃が走り、ダメージはないものの硬直してしまう。ロックマウントの“威圧の咆哮”。魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させる固有魔法だ。
直に食らった光輝達前衛組が一瞬硬直してしまった。
ロックマウントはその隙に突撃するかと思えば、サイドステップして傍らにあった岩を持ち上げ、香織達後衛組に向かって投げつけた。
見事な砲丸投げのポーズであったため、カムラは感心した。
動けない前衛組の頭上を越えて、岩が香織達へと迫る。
香織達が、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けた。避けるスペースが心もとないためである。
しかし、発動しようとした瞬間、香織達は衝撃的な光景に思わず硬直してしまう。
投げられた岩もロックマウントだったのだ。空中でこれまた見事な一回転を決め擬態を解いた彼らは、香織達に向かって飛び込んでいく。
幸利が「すげぇ、ル○ンダイ○だ!」と感嘆している。血走った目で、「か・お・り・ちゃ~ん!」とでも言わんばかりに飛び込んで来るロックマウントに、思わず「ヒィッ!」と悲鳴をあげ、魔法を中断する後衛組。
次の瞬間、無数の黒い閃光が走り、ロックマウントは見るも無惨な肉片と化した。別の意味で悲鳴があがった。香織達の背後には、
「油断している者から死んでいく。世の常だぞ?」
呆れたように言うカムラが立っていた。血飛沫に気分が悪くなったのか、青白い顔で香織がお礼を言う。
「あ、ありがとう、カムラ君」
「礼は要らん。友や家族を守っただけだ」
心なしか、カムラの纏う雰囲気が優しげである。
ふと、二人の親友である“谷口鈴”が、驚いたように言う。
「……え? カオリン今、名前……」
「え? ……あ」
言われて、香織は一瞬で顔が真っ赤になる。ニヤニヤしながら、カムラに近づく恵里。
「告白したって言うのはマジだったみたいだね? カムラ」
「ああ、確かにされたな。返事は待ってもらっているが」
「え、え、嘘、本当に!? 遂に!?」
「す、鈴ちゃん、静かにして!」
カムラを中心に姦しい四人。さっきまでの恐怖やら何やらは、恋バナでどこかに消えたらしい。
と、遠くで破壊音。見れば、勇者が雑魚相手に崩落の危険性を考えず、大技を使ったらしい。香織達の方へ「もう大丈夫!」とでも言いたげな顔を向けるが、即座にメルドに拳骨を貰い、叱られている。
「……カムラ、真性のバカって治せる?」
「その様な機械はあったかもしれんが……真性は無理だろうな」
恵里の問に、苦虫を噛み潰したような顔で答えるカムラ。珍しく悔しげである。
「……ん? メルさん、アレなんだ?」
幸利が、先程の衝撃で崩れた壁を指さし、隣のメルに聞く。それに気づいた全員がそれを辿ると、何やら美しい青白い石が。女性陣がうっとりしていると、メルの解説が入る。
「あら珍しい。グランツ鉱石ですね。特殊な効力はありませんが、その美しさから貴族が愛用しています。プロポーズにも使われますね」
「へ〜、確かに綺麗なもんだな」
「特殊な効力はありませんので、贈られた相手が清水さんを好きになる、と言った様な事はありませんよ?」
「いや言われなくてもわかってるから! メルさんの中で俺ってどうなってるんだ!?」
メルと幸利の漫才の中、香織は顔を赤く染め、カムラをチラチラと見る。親友の雫や鈴、恵里は微笑ましそうにそれを見ている。
「だったら俺らで回収しようぜ!」
と動き出したのは檜山だった。メルドの制止も聞かずに、ひょいひょい登ってグランツ鉱石を目指す。が、トラップを発見するためのアーティファクト、フェアスコープを使っていた騎士団員の一人が叫ぶ。
「団長! トラップです!」
「ッ!?」
しかし、止めようとしたメルドも、騎士団員の警告も、柱を用意しようとしたカムラも、一歩遅かった。
檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。グランツ鉱石の輝きに魅せられ、不用意に触れた者へのトラップだ。
召喚された日の様に、部屋全体に魔法陣が広がった後、強い光を放ち、カムラ達は消えた。
消える前の、
「……彼奴は殺した方がいいかもしれんな」
というカムラの呟きが、やけに明瞭に残った。
幸利君、爪に就職。やったね幸利君!調律者の部下ポジゲットだよ!
なお、カムラ君と恵里ちゃんの関係についてはもう少しお待ちください。
少なくとも、この小説は恵里ちゃん救済ルートも走ります。