エヴァの世界にモブとして転生したので楽しみたいと思う   作:黒猫のハロ

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壱 転生したらモブだった件

 ──第3新東京市立第壱中学校2年A組。

 

 それが俺こと吉田ハジメの通う学校とクラスである。で、あるからこそ俺は一つの結論を導き出していた。

 

「……もしかしてここ、『新世紀エヴァンゲリオン』の世界なんじゃ?」

 

 突然俺がそんな事を言うもんだから、クラスメイトの何人かが俺に怪訝そうな視線を向けてくる。それに手をヒラヒラと振って応えた俺は、席にゆっくりと突っ伏して思考を深めた。

 

 おーけーおーけー。整理しよう。まず俺は先月14歳になったばかりのピチピチの男子中学生だ。勉強、スポーツ共にそれなりにできて、毎年3個ほどのバレンタインチョコを貰う程にはナイスガイである自負がある。

 

 え? 聞いてないって? 確かに話がそれた。

 

 つまり何が言いたいかって言うと、別にどこにでもいる男子中学生だって事が言いたかったんだ。ここまではいいか?

 

 だが、俺は気づいてしまった。いいや、思い出したって言った方が近いか。朝のホームルームが終わって、ふと外を眺めていると一人の少女の姿が見えたんだ。

 

 校庭では常夏の熱さを現すかの如く蜃気楼がゆらゆらと揺れていて、そんでもってそのゆらめきの中で立っていた少女──クラスメイトの綾波さんの赤い瞳と目が合った瞬間に、俺は前世の記憶ってやつを思い出した。

 

 いや、中二設定でもなんでもなく、自分が一度軽トラに轢かれ死んだって事を含めた前世の記憶が一気に俺の脳内に流れ込んできやがった。

 

 前世での名前も吉田ハジメだったって事も、ついぞ最後まで彼女ができなかったって事も思い出した。けれど、重要なのはそこじゃない。

 

「おいおいおい……まじか」

 

 今、自問自答しながらも俺はその事実を飲み込めずにいる。

 

 そりゃそうだ。前世で俺が狂う程愛していた作品『新世紀エヴァンゲリオン』の世界に、今、俺がいるって事に気づいてしまったんだから。

 

 勘違い……では無いと思う。もちろんエヴァの設定を全部網羅している訳じゃないし、なにより前世の記憶だ。所々がぼやけていて曖昧な記憶ではある。けれど、俺は知っている。

 

 俺の通う学び舎──第3新東京市立第壱中学校2年A組はエヴァのパイロット候補が集うクラスである事を。

 

 そして何よりも、記憶を思い出すに至った時、俺は一体誰と視線を重ねていた? そう。俺が彼女を間違える筈が無いのだ。

 

「……綾波……レイ……っ!」

 

 小さく口にだした言葉が震える。

 

 綾波レイ。エヴァの二大ヒロインにして、儚げな美少女。そんな彼女を俺が見間違える筈が無い。加えて言えば、歴史の教科書に記載されている表では隕石の衝突とされている事象の真実も、これから先、一体何が起こるのかも俺は知っている……!

 

「……だから、こそ」

 

 そう。その事にも気づいてしまった。

 

『吉田ハジメ』──俺の名だ。そして俺の知る限り、エヴァの登場キャラクターの中に、そんな名前のやつは存在しない。

 

 つまりは──モブ。

 

 そう、なぜか俺は新世紀エヴァンゲリオンの世界に、モブとして転生を果たしてしまったんだ。

 

「……ふぅ」

 

 たまらず俺は深く息を吐く。

 

 モブて……せめてこう、なんか、ねぇ?

 

 別に碇シンジとして転生したかった、なんて傲慢な願いを叶えてほしかった訳では無いが、もっとこう、物語を引っ掻き回せるような……てな考えに至った時、エヴァの登場キャラクターの中に俺がとって変われるような安いキャラクターなどいない事に気づく。

 

「……やっぱすげぇな……エヴァ。全キャラ存在に意味があるもんな……」

 

 そうポッキーのCMに重ねながら俺がポツリと呟いた瞬間、教室の前扉が音を立てて開いた。

 

「「「…………」」」

 

 沈黙するクラスメイト達。意味はきっと違うのだろうが、俺もまた頭を真っ白にして固まっていた。

 

 氷のような表情で教室に入ると、何も言わずにコツコツと小さな足音を響かせて歩く綾波さん。

 

 か、かわいい……。小さな歩幅。歩く度に揺れる白銀の髪。その全てに俺の意識は吸い込まれていた。

 

 そんな彼女が俺の横を通り過ぎた──瞬間。

 

「ひゅううううううう」

 

 俺は全力で息を吸い込んだ。

 

 変態である。笑いたいなら笑ってくれ。いっそ蔑んでくれても構わない。けれど、この好機……! 逃してなるものかっ!

 

「……っ!」

 

 結論から言おう。ほぼ、無臭だ。けれど俺の鼻がほのかに香る甘い匂いを逃しはしなかった。

 

 くぅぅぅぅ! このさりげなく香る感じが実に綾波レイらしい。俺がそう心の中で感涙にむせび泣いていると、綾波さんが静かに着席をする。具体的に言うと、俺の後ろに。

 

「…………」

 

 後ろの席かよぉぉぉぉぉぉーっ。

 

 あまりの事に、椅子から転げ落ちかけるが、なんとか足を踏ん張り回避する。

 

 ばっか俺。落ち着きやがれ。記憶を思い出したばかりで混乱するのも分かるが、前世の記憶があると同時に、この世界で14年間生きてきた記憶が確かにあるだろ! そしてその記憶には確かに俺の後ろの席が綾波さんであるという事実がある。

 

「ふぅ……」

 

 一つ深呼吸。もう俺は冷静だ。と、同時に少しだけ気になった事がある。

 

 クラスメイトの誰一人、綾波さんに話しかけようとしないのだ。いや、それだけならまだいい。問題は、それが限りなく無視に近い在り方に見えてしまった事だ。

 

「……うぅむ」

 

 俺は腕を組みながら考える。

 

 確かに。俺の知っている綾波レイは無口だし、クラスメイトとの交流もほとんど無かったと記憶している。その孤高さがきっと綾波レイというヒロインの魅力の一つだし、そもそも無口な綾波さんに話しかけづらいというクラスメイト達の気持も理解できる。

 

「……あるいは設定に沿う形で構成されているのか」

 

 あまりにも空気すぎる綾波さんの在り方が歪に見えてしまう。だってそうじゃん。こんな美少女、男子生徒が放っておくわけがない。いや、思春期なのは分かるけどさ。

 

 と、そんな事を考え出した時、ある閃きがパトスとなって体中にほとばしる。

 

 一つの可能性。

 

 ……俺って……もしかして、動き次第では綾波さんとお友達になる事ができるのでは? いや、綾波さんだけじゃない。ミサトさんやリツコさん、それにア、アスカとだって……!

 

 その希望が俺の第二の人生に意味を与えてくれた。

 

 モブとして転生した俺。できることなんて避難警報が鳴ったらすぐに避難する事ぐらいしかないのかもしれない。けれど──

 

 俺は覚悟を決めると、猛烈な勢いそのままに後ろを向くと、自分でも驚くほどの大声で言い放っていた。

 

「おはよう! 綾波さん!」

 

 何事かと、俺の方を向くクラスメイト達。教室に鳴り響く相田ケンスケの口笛。そして綾波さんもまた、少しだけ驚いたように真紅の瞳を揺らして俺を見つめる。

 

「「…………」」

 

 見つめ合う形になる俺と綾波さん。これなんてヘブン?

 

 改めて思う。めちゃくちゃ可愛い。まつ毛なっが! 肌しっろ! 俺のチキンハートが、思わず視線を逸らそうと脳に働きかけるが、なんとか堪える。

 

 静寂が教室に広がっていく。鳴り響く鼓動。額から流れる汗を拭おうか躊躇していたその時に。

 

「……おはよう」

 

 鈴の音を鳴らしたかのような綾波さんの声が、静かな教室に響き渡った。

 

「……ぐふ」

 

 俺は、決めた。

 

 この世界、楽しみたいと思います。

 

映画を見た方へ。あの結末は

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