エヴァの世界にモブとして転生したので楽しみたいと思う 作:黒猫のハロ
使徒が来ました。
口に含んでいた食パンがポトリと落ちる。
瞬間──爆発音と閃光。同時に突風が吹き荒れる。その強すぎる風は前髪はおろか、俺の唇をぶるんぶるんと震わせた。あれだよあれ。ジェットコースター。
「…………ふぅ」
俺は恐る恐る視線を一度足元へと運び、さっきまで口にしていた食べかけのパンを眺める。その横で小刻みに震える俺の足。それに気づかないふりをして再びゆっくりと前方に目を向けてみた。
周囲に点在する建物の高さを優に超える黒い怪物。いや、その特徴的な人型のフォルムで例えるならば巨人と言ってもいいだろう。
そう──あれこそが。
「……間違いない……使徒だ」
と、モブが呟いてみます。
「誰得だよ……」
今頃、碇ゲンドウと冬月コウゾウが意味深に言葉を交わし合っているのだろう。そのシーンが頭の中に鮮明に浮かび上がってくる。
「まぁ……ひとまずは……」
俺は尻ポケットに入れていた携帯を左手に取ると、カメラを起動して第3或いは第4使徒サキエルの巨影をパシャリ、パシャリと写真におさめていく。一枚、二枚……三枚。爆音が轟く中、聞こえない筈のシャッター音が、やけに頭の中に響く。
大地を揺らす衝撃音。太陽に熱されたアスファルトから揺れ昇る蜃気楼。それと微かに聞こえる蝉の声。その全てが俺の脳内に焼き付いていった。
「……」
俺は無言ですぐそばにあった電話ボックスまで行くと、非常用ボタンを押してオレンジ色の受話器を耳元に押し当てた。
『ピッ……現在、緊急事態宣言が発令中の為、すべての回線は不通となっております』
「……これは原作通り、と」
俺は受話器を置いて、青空をバックに黒い巨人を仰ぎ見る。
西暦2015年6月
「やっとる場合かぁぁぁぁぁぁぁ!」
使徒に背を向け全力で腕を振り逃走。既に頭の中ではBGM『Angel Attack』が盛大に鳴り響いている。それに混じる様にして連続的に俺を襲う爆音と突風が追い風となり、体がふわふわとした浮遊感に包まれた。
「くっそ! 油断した……!」
危機意識が云々とほざいていたのにこの様だ。いや、来たる日の22日、つまりは最も使徒襲来の可能性が高かった昨日は、すぐにでもシェルターに逃げ込める準備を俺は整えていた。非常食、飲料水共に準備万端。イレギュラーさえなければ一週間はシェルター内で持ちこたえられた事だろう。10キロを超えるショルダーバッグ。好奇の目線と『山越えですか?』という奥様方からの言葉が記憶に新しい。
だが、結果として俺の準備は途方に終わり、少しだけ胸をなでおろして家に帰ろうと歩いていたその時、ある欲望が心に芽吹いた。
──『聖地巡礼』
N2地雷で辺り一面が吹っ飛ぶ前に一度閑散としたあの地を歩いてみたい。たしか原作では非常事態宣言の発令は12時30分だから午前中を使って──なんて思ったのが運の尽き。この有様だ。
「うおおおおお!?」
頭上を青い光となって何発ものミサイルが使徒目掛けて飛んでいく。瞬間、背後で鳴り響く爆発音。恐らくは命中しているのだろう。
だが──。
「通常兵器では傷一つつけられんよ……っ!」
なんてったって使徒にはATフィールドがある。その為にわざわざ莫大な資金を投じてエヴァを製作している訳で。
「まずいな……あとどれくらい猶予が……」
俺が危惧しているのは先にも言ったこの周辺を焦土と化す国連軍の虎の子『N2地雷』とその爆発時間。エヴァの存在によって影は薄くなったが、その破壊力たるや使徒の進行を止められる程だ。モブである俺など一瞬で吹き飛んでしまうだろう。
車で逃げたミサトさんとシンジ君ですら少し間違えば危なかったのに、この逃走に果たして意味はあるのだろうか。と、そんな事を考えてしまい俺は足を止める。
「…………時は来た?」
俺は悟った。ここが……モブである俺の死に場所であると。
「ふふ……さすがはモブ。死にざまもひっそりと……と言う訳か」
頭の中に流れるBGMが『甘き死よ、来たれ』に切り替わる。俺には失望したぜ……これから先、もっと楽しい事があったかもしれないのに。計画も全ておじゃんだ。
「…………アイノウォ……ラァラララララ~」
頬を伝う涙。ほらみろ。歌詞も吹き飛んだ。もう駄目、なんて諦めかけた時だった。キキキィと鳴り響くブレーキ音……の幻聴。俺は構わず歌い続ける。
「ラァ……ヒック……ラァララララ……グスッ……ラアアアァァァ!」
と、歌が気持ちの良い所さしかかった瞬間だった。
「あなた、何やってるの! 早く乗りなさい!」
その声には聞き覚えがあった。
「え?」
俺はすぐに背後を振り返る。目に飛び込んできたのはアルピーヌの青い車体と、『東2 ネ33-10』のナンバープレート。そして窓から顔を出した黒髪の美女が驚いたように目を見開いて俺を見つめている。
俺は自分が転生者である事などすっかり忘れたまま、溢れ出した言葉を言い放っていた。
「……ミサトさん」
危機一髪、ミサトの車に拾われるモブ。だが、それは惨劇(笑)の始まりを告げる合図でもあった! 静まり返る車内に頭を悩ませる吉田ハジメ。窓の外を眺めたまま憂い気な主人公、碇シンジ! 氷点下の空気の中、ハジメは何を思うのか!
次回、『見知らぬ、モブ』
この次も、サービス、サービスゥ!
映画を見た方へ。あの結末は
-
認める
-
認めない
-
受け入れる