エヴァの世界にモブとして転生したので楽しみたいと思う   作:黒猫のハロ

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四 見知らぬ、モブ

 

 

 どうしてこうなった。

 

「「「…………」」」

 

 車内──沈黙。最初にお礼を言ったきり会話が無い。いや、誰のせいかと問われれば確実に俺のせいだろう。ハンドルを握りながらバックミラーでちらちらと俺を見るミサトさん。その横では主人公である碇シンジ君が何を考えているのか分からない表情で窓の外をぼうっと眺めていらっしゃる。

 

 使徒を前に泣きながら歌っていた俺だ。ミサトさんの視線の意味もなんとなくは予想できている。何者? こいつみたいな。恐らくはそんなところだろう。モブです。

 

 だが、この時俺が気にしていたのは、俺がミサトさんからどう思われているのか……なんて事ではなくて『会話が生まれない』という点だった。俺はモブ。そしてこの二人は特務機関ネルフの関係者。部外者がいる間はおいそれと会話はできないだろう。

 

「……まずいな」

 

 思わず小さく呟く。

 

 エヴァ大好き人間の俺からしたら由々しき事態である。例えるならテレビアニメ版第参話で使徒シャムシエルとの戦闘中、初号機の中にトウジとケンスケを入れた事によって神経パルスにノイズが……と同じ状況だ。『新世紀エヴァンゲリオン』という物語の正しい進行を俺というモブが邪魔をしている。そんな感じ。

 

 それにしてもそんなに俺の方を見てたら事故りますよミサトさん。

 

「……ごほん」

 

 ひとまず咳払い。その瞬間ミサトさんは少しだけビクリと肩を震わせると、焦った様に俺から視線を外した。

 

「……」

 

 俺の中にふつふつと沸き上がる二つの感情──『感動』と『焦燥』。

 

 感動と言うのは、アニメや漫画で何度も見たこの現場に俺がいると言う事。VR体験を遥かに超える臨場感。微かに香るラベンダー。ミサトさんは想像していた通り綺麗なお姉さんだったし、碇シンジ君も設定どおり、美肌で容姿が整っている。まるで女の子みたいだ。だが、同時にこの現状を客観視した時、俺というモブがくっそ邪魔すぎる。早々に手を打つ必要があるだろう。

 

 さて、どうするべきか……なんてのは既に考えてある。もう少しすれば国連軍の『N2地雷』が爆発。この車もその爆風を受けて横転する。

 それさえ乗り切ってしまえばあとは簡単。この車から降りて徒歩でどこへなり行けばいい。そうすれば元通りとはいかないにしろ、軌道修正は図れるはずだ。名付けるなら『エヴァ保管計画』といった所か。

 

「吉田ハジメ君……といったわね。学生かしら?」

 

 突然投げかけられたそんな問い。張りつめていた空気が少しだけ弛緩した事に、俺は少しだけ胸をなでおろす。

 

「はい。第3新東京市立第壱中学校に通っています。2年生です」

 

 俺がそう答えると、前に座っているシンジ君の体が小さく揺れる。恐らくは同じ歳だと言う点に反応したのだろう。

 

「クラスは?」

 

「A組です」

 

「そう……なぜあんな場所に?」

 

 質問攻め。まぁ当然か。

 

「たまに理由も無くふらっと出かけるのが趣味でして」

 

「……災難だったわね」

 

「ええ。()()に」

 

 今の問答で、俺が綾波レイのクラスメイトであるという事には気づいているのだろう。だが、それだけだ。特に怪しまれる要素はどこにもありはしない。……いや、そもそも何を怪しむと? 

 

 なんて事を考えながら窓の外を見た時だった。

 

「……?」

 

 遠くに見える複数のVTOL機が蜘蛛の子を散らすように旋回していく。どうやらとうとう国連軍はN2地雷を使うようだ。しかし、その事に気づいたのはどうやら俺だけのようで、ミサトさんは何かを考え込んでいるのか黙って前を向いて運転している。

 

 …………ミサトさん? 

 

 じわりと額に滲む汗。それを腕で拭いながら俺はじっと我慢する。大丈夫。問題ない。すぐにミサトさんが気づいて『まさかN2地雷を使うわけぇ!?』なんて言い出す筈だ。

 

「…………………………」

 

 だめかもしれない。早速、俺という異物の効果が表れている。それを察した俺は高鳴る鼓動を自覚しながらも咄嗟に言い放つ。

 

「ミ、ミ、ミ」

 

 死にかけの蝉かよ。

 

「ミサトさん……なんか、飛行機が」

 

「え? ……ッ! まさかN2地雷を使うわけぇ!? 伏せて!」

 

 でました! なんて思った時だった。

 

 目を開けていられない程の閃光が俺達を襲う。瞬間、耳を(つんざ)く爆音と同時に、猛烈な風が車体を吹き飛ばす。

 

「うおぉ……」

 

 ぐるぐると回る視界。まるで洗濯機みたいだ。何度かあちこちに体をぶつけつつ、ようやっと回転が止まる。口の中がジャリジャリする。恐らく砂地なのだろう。いや、そんな事よりも、この右手に当たっているやわらかな感触……! これが俗にいうラッキースケベというヤツか! 

 

 俺は期待に胸を膨らませながら目をクワッと見開いた。

 

「ハジメ君……大丈夫?」

 

 ──シンジ君のお尻でした。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「本当にいいのね?」

 

 三度目の問い。俺はそれに即答する。

 

「はい。大丈夫です。ここからならシェルターにもすぐ行けると思うので」

 

「そう……分かったわ。寄り道せずに行くのよ」

 

 そんな会話を少しして、ミサトさんの車が壊れそうな音をたてながら走り出す。その最中、窓からシンジ君が少し心配そうな顔で俺を見つめているのが分かった。

 

 だから俺はにこりと微笑む。

 

「頑張れよ碇シンジ。応援してるぜ」

 

 届く事の無い俺の独り言。だが、これでいい。正解だ。このまま一緒にネルフまで──なんて事には絶対にならない。ならば早々に上がってしまった舞台から降りる事が、モブである俺の精一杯だ。

 

 それになんだかんだいって、俺は満足していた。いや、幸せだった。ほんの少しでも大好きな物語の中にいる事ができたんだ。俺。

 

「一緒の車に乗って、回転して、車を起こして……」

 

 モブにしては随分と貴重な体験ができたと思う。これ以上欲するのは、傲慢だろう。

 

「さてと」

 

 俺は、未だに煙をあげる背後の光景を目に焼きつけて、シェルターに向けて歩き始めた。

 

 ──だが、この時の俺は知る由もない。俺のモブ人生は、シェルターに着くなり大きな選択に迫られる事になる。

 

 

 

 




無事にシェルターに入った吉田ハジメの前に現れた一人の少女! その名前を知った時、ハジメの中で大きな葛藤が生まれ始める! 迫る選択! ハジメはその手に何を掴むのか! 加えてネルフの黒服がハジメを迎えにきて!? 次回『小学二年生です!』来週もサービスサービスゥ 

映画を見た方へ。あの結末は

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