エヴァの世界にモブとして転生したので楽しみたいと思う   作:黒猫のハロ

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伍 小学二年生です!

「さっきもここ通りましたよ」

 

 碇シンジはそう言って手に持った分厚い本に視線を落とした。そこには『極秘』の赤い文字と共に『ようこそNERV江』と記されている。

 

「だ、大丈夫よ……こっちの筈だから」

 

 そう苦し紛れに言い放った葛城ミサトは、内心焦りながらも、シンジを伴いひた進む。その後も何度か進行ルートを間違えながらも、二人はネルフ内にあるエレベーターへと乗り込んだ。

 

 静寂。機械の昇降音だけが響く中──

 

(あの子……無事かしら)

 

 ミサトは一人の少年の事を考えていた。碇シンジと合流を果たした後、使徒から離れるべく車で走行している途中に、バックミラーに映ったその少年は国連軍の苛烈極まる攻撃と、使徒と称される怪獣の姿を前になぜか涙を流しながら歌を歌っていた。そう──吉田ハジメの事である。

 

(無理もないわね……あれだけ現実離れした光景を前にしては。…………いや、やっぱ無いわね。なんで歌ってたのかしら)

 

 不思議な少年だった──そう葛城ミサトは思いながら、並ぶようにして左にいる碇シンジの横顔を見る。

 

(シンジ君も大概だけど、あの子……ハジメ君も中々の美少年だったわねぇ……)

 

 なんて、意味の無い事を考えていた時、エレベーターの表示器が『8-31』に切り替わり電子レンジにも似た間の抜けたチャイム音が響く。それと同時に開いた扉の先には白衣を着た女性──赤木リツコが、碇シンジ、葛城ミサトの両名を待ち受ける様にして立っていた。

 

「うっ……あ、あらリツコ」

 

 ミサトは目蓋をパチパチとさせながら、気まずそうにリツコを見つめる。

 そのミサトの様子に小さくため息をついたリツコは、同じエレベーター内へと乗り込み、軽く咎めるように口を開いた。

 

「到着予定時刻を23分もオーバー。あんまり遅いので迎えにきたわ。葛城一尉。人手も無ければ時間もないのよ」

 

「ごめんっ! ちょっち色々あったのよぉ。でも! 遅れた代わりにって訳じゃないけど、人助けはできたのよん」

 

 拝むように手を胸の前で重ねながらそう言ったミサトのどや顔に、リツコは再びため息をつきながら言及する。

 

「あら。殊勝な事ね。それで? その人助けっていうのは」

 

「集合地点の近くに学生がいたの。男の子。確かレイと同じクラスだったはず」

 

 ミサトがそう言い放った瞬間、リツコは初めてその話題に興味を持った。

 

「そう。名前は?」

 

「もちろん聞いたわよ! えっと…………あれ?」

 

 突然のド忘れにミサトがあたふたしている時だった。

 

「吉田ハジメ君……ですよね」

 

 助け舟を出すようにシンジが口を開く。それと同時に、リツコの目が少しだけ驚いたように見開かれた。

 

「…………そう。そしてあなたが例の男の子ね」

 

「マルドゥックの報告書によるサードチルドレン。碇シンジ君よ」

 

「技術局一課所属、赤木リツコ。よろしくね」

 

「あ、はい」

 

 そう言って、軽く頭を下げるシンジに微笑んだリツコは、ミサトの横に並ぶように立ち、おもむろに一つのファイルをミサトへと差し出した。

 

「……? なぁにこれ」

 

「見れば分かるわ」

 

 そのリツコの物言いを不思議に思いながらも、閉じられたファイルを開いたミサトは、そこに記されていたものを理解できずに、すぐにリツコに視線を戻す。

 

「なにこれ?」

 

「その子でしょ? あなたが助けた男の子は」

 

「いや、聞きたいのはそういう事じゃなくて……」

 

 ミサトは再度ソレに視線を戻し、文字の上に目を走らせる。そこにはカラーの顔写真と共に、詳細なプロフィールが記されていた。

 

 ■識別code 0258425

 ■名前:吉田ハジメ

 ■生年月日・年齢:2001年6月6日・14歳

 ■身長・体重:160センチ・50キロ 

 ■血液型:A++

 ■学籍:第3新東京市立第壱中学校2年A組27番

 ■住所:神奈川県第3新東京市卸殿場4-1919-8

 ■性別:男

 ■学業・運動評価値:A・A+

 ■MAGI code:601

 ■担当監察官総評:※最終評価更新6月20日

 学業、運動共に優秀な成績を収めており、模範的な生徒であると言える。しかし、6月の18日以降の行動パターンに変化が見られ、担任、根付川教諭からの報告にもあるように──────────

 

「……あなたが会ったのはこの子で間違いないわね?」

 

 リツコの声にハッとするようにミサトは顔を上げる。

 

「ええ。この子よ。それにしても……」

「すごい成績でしょう? 空手が得意という報告もされているわ。文武両道とはこの子の為にあるようなものね」

 

 そう言って小さく息を吐いたリツコを横目に、ミサトは再び書類に目を落とす。

 

「それで? なんでこの子の書類を? たまたま持っていたにしてはできすぎじゃない」

「……彼、レイと最近仲が良いみたいだから、確認をしていたのよ」

 

 リツコのその言葉でようやくミサトは安堵したように息を吐いた。

 

「なるほどぉ。そういう事ね」

 

 ニヤニヤと笑うミサト。それとは対照的に、リツコの顔には能面のような無表情が浮かんでいた。

 

 

 ◆

 

 

 

 

「ふえぇ……ぐす……」

 

 シェルターに響き渡る小さな少女の泣き声。

 

「……おにいちゃん……ぐすぅ」

 

 そう言って大粒の涙を瞳に貯めた少女が上目遣いで俺を見つめる。一応説明しておくと、もちろんこの少女は俺の妹なんかでは無いし、それどころか顔見知りって訳でもないと思う。

 

 そして、今の俺といえば、腰に小さな腕を回されたまま──棒立ちしていた。事案では無い。

 

 ナニコレ……どういう状況?

 

 ひとまず地下通路に入り、なるべく遠くのシェルターを目指しひた歩いた俺が辿り着いたこのシェルター。使徒の襲撃で電気系統がやられたのか、あたりは仄暗い闇に包まれており、非常灯だけが緑色の点滅を繰り返している。不気味だ。けど、そのせいか俺以外に人影はなく『貸し切りじゃんラッキー』なんて思った矢先の事。

 

『ふえぇぇぇ』なんて声と共に、小さな衝撃が俺を襲った。俺はビビった。まじでビビった。妖怪とか幽霊とかその類が頭にチラついて、たぶん俺も『ふぇぇ』とか『ひえぇ』とか言った気がする。で、今に至ると言う訳だ。

 

 まぁ、なんとなく予想は出来ている。親とはぐれた子供なのだろう。いわゆる迷子というやつだ。少しずつ俺も状況を理解してきたので、ひとまず安心させてあげたいと思う。

 

「お母さんとはぐれたの?」

 

 俺のその問いに、少女は首を小さく横に振った。

 

「おかあさん……いない」

 

「…………そっか。俺と一緒だな」

 

 そう言って頭を軽くなでてみる。すると少しだけくすぐったそうに少女は目を細めると、俺の腰に回した腕を少しだけぎゅっと強くした。

 

 なにこの子。可愛い。

 

 夏の熱さを忘れさせてくれるような薄い生地の白いワンピースと肩下まで伸びた黒い髪がなんとも高原の美少女感を醸し出している。いや、見た目的には美幼女の方が的確か。

 

 ひとまず突っ立ったままというのもあれなので、少女の手を引いて壁際まで移動すると、その場に腰を下ろした。床がヒンヤリとしていて気持ちがいい。どうやら空調は止まっていないようだ。で、少女はと言うと俺の胸に背中を預けるようにして座ると、顔を上げる様にして俺を見つめている。

 

 別にその手の知識があると言う訳では無いが、その瞳には不安と安堵が入り混じったような光を宿しているように見える。ここらへんで、柄にもなく俺は役割というやつを自覚した。そう。この子を守れるのは、今は俺だけだ。

 

「俺、吉田ハジメ。君は?」

 

 だから、なんとなく始めた自己紹介だった。百発百中で少女を勇気づけられる話術は俺にはないし、なにより時たま起こる地響きに俺自身が少しだけびびってたってのもある。とにかく静寂だけはなんとかしたい。そんな思いで、俺は少女に問うていた。君の名は──と。

 

「……サクラ」

 

 桜……セカンドインパクトによって地軸が変化し、常夏になったこの世界では見るこのとできないその花が記憶の奥底から沸き上がる様にして桜色をちらつかせる。そうか、君は桜ちゃんって──

 

「──鈴原サクラだよおにいちゃん」

 

「────え?」

 

 ドクン、ドクンと心臓が早鐘を打つ。少女が口にしたその言葉の意味を俺は必死に理解しようと頭の中を回転させた。

 

「……おにいちゃん?」

 

 固まったままの俺の様子を不思議がる様に体の向きを変え、正面に見据えて小首を傾げたその少女に、俺は最後の確認をする。

 

「……鈴原トウジ」

 

「え?」

 

 少女──サクラちゃんが驚いたように目を見開く。それはもう答えだった。

 

「君のお兄さんは、鈴原トウジ……っていうんじゃ?」

 

 俺のその問いに、少女は涙をぬぐうと、満面の笑みで答えた。

 

「うん!」

 

 ……なんつー確率だよ……これ。

 

「…………そっか。俺さ、トウジ……君のお兄さんのクラスメイトなんだ」

 

「ええ!? ほんと! って事は中学生だ! わたしはね、小学二年生です!」

 

 サクラちゃんの声に活気がついた。身内、実の兄との関わりを持つ俺の存在は、不安を拭うという面において一定の効果をもたらしたようだ。いや、今は、そんな事よりも。そう俺が思考を深めようとした瞬間だった。

 

「ッ……!」

 

 大きな揺れが俺達を襲う。恐らくは既に使徒とエヴァとの戦が始まっているのだろう。……怖いな。恐怖で体中から汗が噴き出ているのが分かる。結果をしっている俺でさえこうなのだ。

 

「……こわいよぉ……」

 

 当然、サクラちゃんの顔は先の嬉しそうな声からは想像できない程に恐怖に染まっていた。小さな手が、支えを探してもがく様に俺の胸元をぎゅっと掴む。そんな少女の姿を至近距離で眺めながらも、俺は考えずにはいられなかった。とういか、しばらく悩んだ。

 

 鈴原トウジの妹、鈴原サクラ。新劇場版Qでは成長した姿で登場していた事が記憶に新しい。だが、俺が言いたいのは、この子は成長すれば美人になるだとか、そんな事なんかじゃなくて──。

 

「どうすりゃいいんだ……」

 

 たまらず小さく呟く。俺は知っている。エヴァの時間軸にして、使徒サキエルの襲来は、鈴原サクラに大きなイベントを巻き起こす。簡単に要約してしまえば、原作では鈴原サクラはエヴァとサキエルの戦闘の巻き沿いをくらってケガをする。それによってトウジは碇シンジを殴り飛ばしたり、テレビアニメ版では妹の治療を条件にフォースチルドレンとなってエヴァ3号機のパイロットになったりもする訳だ。

 

 で、俺が何に悩んでいるかと言うのは、言葉にすればあまりにも残酷な選択肢。

 

 鈴原サクラを……助けるか、否か。

 

 普通は助ける。当たり前だ。当然助けるべきだろう。世界中でただ一人、俺だけがこの子を救える訳だ。けど、もしも、助けたら……? 何が起こるんだ? 当然、鈴原トウジは碇シンジを殴る事はしないだろう。そして碇シンジも、不幸な事故とはいえクラスメイトの妹に怪我を負わせるなんて事実を背負う必要はなくなる。

 

 ああ。幸せだな。最高の結果だと思う。けどさ……けど、それって、『新世紀エヴァンゲリオン』なのか? 俺の愛したエヴァは、画面を殴りつけたくなるような不条理も、残酷さも、全部が詰まってる。全部含めて、俺はエヴァを愛してる。モブである俺がどうこうしようなんておこがましいにも程があるだろう。

 

 それに、俺が最も危惧しているのはそれじゃない。

 

 ……きっと。きっと未来が変わっちゃうんじゃないか……? 

 

 俺の知っているこの記憶もあてにはできなくなる。それどころか、目先の幸福の為に、タイムパラドックスとか、因果律だとかそんな何かで、結果的にもっと不幸な事態を招く可能性だってあるんじゃないか? 負けない筈の使徒に負ける。チルドレンたちが不幸に見舞われる。そんな結果を招くんじゃないか? ……塞翁が馬、禍福は糾える縄の如し。そんな言葉が脳裏にチラつく。

 

「……っ……!」

 

 揺れが更に大きくなる。きっと、時間はもう幾ばくも無い。けれど、選択しなければいけないのだけは確かだった。選択するのは、碇シンジでもグラサンでも綾波レイでもない。モブである……俺なんだ……っ!

 

「……ぐすっ……」

 

 胸の中で震える少女の肩を抱く。そして同時にその瞬間は訪れた。

 

 今までの比ではない程の衝撃。そしてバラバラに崩れ落ちてくる天井。俺の視界に映る全ての動きが──止まった。

 

 ……逃げられる。

 

 俺だけなら、難なく逃げられる。予想でも、見栄でも何でもない。確信がある。今動き出せば、俺は助かる。

 

 ──サクラはどうなる?

 

 当然、無傷では済まない。けれど、希望だってある。この世界は新劇場版の世界なら、サクラちゃんは軽傷で済む。Qにだって成長して出てきたじゃないか。モブである俺が原作改変なんかするべきじゃない。

 

 ──本当に?

 

 ……だが、テレビアニメ版じゃ、軽傷じゃ済まない。重傷を負い、トウジがエヴァに乗る事を決意する程の。そして俺の記憶が確かならこの世界の海は、まだ青い。したがってこの世界はテレビアニメ版である可能性が高い。つまりサクラちゃんは蜉ゥ縺九i縺ェ縺�。

 

 ──じゃあ、どうするよ俺。

 

 …………バカ。決まってるだろ。……長い言い訳、ご苦労さん。

 

 体中が熱くなるのが分かる。モブである俺が、動くべきじゃない。そんな事は分かってる。

 

 けれど俺の選択はただ一つ。

 

「おにいちゃん!」

 

 その声が合図だった。

 

 モブの底力…………見せてやるっ……!

 

 サクラちゃんを横から救い上げる様に抱き上げ地を蹴って走り出す。背後では硬い衝撃音。と同時に、サクラちゃんの「ふぇぇ」が木霊する。

 

 上から塊になって落ちてくる大小さまざま大きさの瓦礫を走りながら、避ける、避ける、避ける。

 

 その繰り返しの中で、体が焼ける様に熱い事に気が付いた。

 

「おにいちゃん……血がっ!」

 

 言われなくたって分かってた。背中から肩にかけて体中をほとばしる激痛。けれど、止まっている時間は俺には無い。

 

 足が震えた。一歩地面を蹴り出すたびに、力が抜けていくのが分かった。

 

 眼前には元来た通路。あそこに辿り着ければ……!

 

 もう、無我夢中だった。きっと今ならアクション映画の主演だってできる自信がある。ふらつく足と、揺れる視界の中で、俺は上から落ちてくる瓦礫を必死に避けて、避けて、避けて、そして──。

 

 届け。

 

 その一心で俺は向かう。

 

 届け、届け。

 

 モブの輝きどころはここだろう。

 

 届け、届け、届け。

 

 ほら、簡単だろ? 落下する瓦礫より早く動けばいい。

 

 届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け。

 

 とどけ。とどけ、トドケ──。

 

「届けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえッ!」

 

 最後の一歩。地面を蹴って通路へと飛ぶ。同時に体の向きを変え、背中から着地の体勢。震えるサクラちゃんの体を強く抱きしめた──。

 

 

 

「ぐッ!」

 

 

 

 着地と同時に、足先に落ちる巨大な瓦礫と耳を劈く爆音。それを俺は最後まで見届けた。

 

 ……間一髪、俺はなんとか、やりきったらしい。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 息が苦しい。視界が霞む。

 

「おにいちゃん! はじめおにいちゃん!」

 

 そんな視界の先で見たのは、サクラちゃんの泣き顔と。

 

「……吉田ハジメだな?」 

 

 俺を見下ろす、素敵な黒服を着たグラサンだった。

 




原作に介入し鈴原サクラを救った吉田ハジメ!現れたネルフの黒服に連れられてハジメはネルフ本部へと赴く事になる。そんなハジメの前に現れた白衣の天使から告げられる衝撃の真実とは!次回『震えるモブ』来週もサービスサービスゥ!



こんにちは。黒猫のハロです。どうやら一時期日間ランキングに入っていたようです。嬉しい。感想をくださった読者様、評価、お気に入りをしてくださった読者の皆様。ありがとうございます!

不定期更新です。気長にお待ちいただけますと幸いです。

映画を見た方へ。あの結末は

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