『東都』と呼ばれる日本の首都には『米花町』という町がある。
その米花町の隣町のとあるビルの階段を一人の男が上がっていた。
男は上下白のスーツに黒のシャツ、そして黄色のネクタイという装いにアタッシュケースを片手に持っている。
極自然な足取りで階段を上がっている姿は、どこかのビジネスマンの様にも見える。
だが彼の容姿を見る者が見ればただ者ではないと感じるだろう。
角刈りの髪型に太い眉、そして鷹の様に鋭い眼光は戦闘経験のある軍人ですら怯みかねない。
更にスーツの上からでも分かる程に鍛え上げられたその肉体は、見惚れる程の機能美に満ちていた。
そんな男は階段を上がり終えると屋上に続くドアを開ける。
飛び下りを防ぐ為に鍵が掛かっていたのだが、男の手により数秒と掛からずにピッキングで開けられていた。
屋上に出た男は自然な動作で周囲を確認する。
そして確認を終えた男はアタッシュケースを開け、中にあった何かのパーツを組み立て始めた。
数分と掛からずに組み上げられたそれは…米国製アサルトライフルの『M16』だった。
M16に取り付けたスコープを男が覗き込む。
覗き込んだ先にあるのは隣町である米花町のとあるビル。
そしてそのビルの中の一室で札束を手に下品な笑みを浮かべる外国人の姿だ。
男と外国人の距離は400m以上は離れている。
だが男は躊躇することなくトリガーに指を掛けると息を吐く。
そして…。
ヴスッ!
サイレンサー特有のくぐもった発砲音と共に一発の銃弾が発射された。
下品な笑みを浮かべた外国人がいるビルは周囲を高層建築物に囲まれており、それらの建築物の間には強い風が対流している。
故に銃弾を命中させるには神懸かり的な技術が必要だ。
しかしスコープの先で下品な笑みを浮かべていた外国人は、たった一発の銃弾で眉間のど真ん中に穴を空けて床に倒れる。
それを確認した男は特に高揚する事もなく、M16を解体してアタッシュケースに収納していく。
そして極自然な足取りでビルを出た男は、まるで通勤中のビジネスマンの様に人混みに紛れていくのだった。
◆
Side:デューク・東郷
アメリカ軍の高官からの依頼を終えた俺は米花町のとある喫茶店に向けて歩いていた。
そこで傭兵時代の仲間と待ち合わせをしており、そこで合流した人物に米軍基地まで送ってもらう為だ。
米軍基地では依頼者の手回しで今回使用したM16を処分する用意がしてある。
まぁ狙撃したターゲットがいる米花町に向かうのは多少のリスクがあるが、タクシーに乗ってドライブレコーダーに姿を残すリスクと比べればマシだろう。
待ち合わせ場所に向かう道すがら、俺は過去の事を思い返す。
よくもまぁ、ここまで生き残ってきたものだ。
俺がゴルゴ13シリーズの主人公であるデューク・東郷と同等の才能を神から貰って転生してから二十年程の時が経った。
傭兵をしていた日本人の父と、同じく傭兵をしていたロシア人の母の間に生まれた俺は、幼少期から戦場に身を置き続けてきた。
原作のデューク・東郷の生い立ちは謎なのでわからないが、とにかく今生の俺は戦場を庭に育った。
ちなみにゴルゴ13と同等の才能を貰った理由は…神から転生先には『死がありふれている』と聞いたからだ。
だから高い生存能力を持つゴルゴ13の才能を欲した。
そんな才能を貰って転生した俺はゲリラ戦の達人の父と、超一流のスナイパーの母の2人から訓練を受けて一流の兵士へと育っていった。
その過程で父が率いていた少数精鋭の傭兵団『ゴルゴ』に所属していた傭兵達からも色々と教わり、両親からもらったデューク・東郷の名に不足ない数々の知識や技術は身に付けられたと自負している。
ちなみに父が率いていた傭兵団にはあの『次元大介』もいた。
俺がサブウェポンにリボルバーを選ぶのは彼の影響が大きいだろう。
10歳になった頃にはアサルトライフルのAK-47を片手に傭兵団ゴルゴの…13番目のメンバーとして戦場を駆け回った。
4年程経つと父と母が突如傭兵団を解散してしまったが、フリーのスナイパーとなった今でも当時の影響で裏の世界では『ゴルゴ13』の異名で呼ばれている。
まぁそれはそれとして…神に才能を貰った影響なのか、俺は名前どころか容姿まで彼にそっくりになってしまった。
見る人によってはイケメンらしいが、子供には大抵怖がられてしまうのが玉に瑕だな。
「あれっ?東郷さん?」
過去を思い返しながら待ち合わせ場所に向けて歩いていると、不意に『毛利蘭』の声を耳にする。
彼女が住んでいる米花町まで来た以上、こうして遭遇する可能性がある事は理解していたが、いざ遭遇してみると偶然では済ませられない必然性を感じる。
その原因は…彼女の隣にいる幼馴染みの少年のせいだろうな。
「蘭、誰だこの人?」
「もう新一ってば、話したでしょう?ちょっと前に道場に凄く強い人が来たって。」
「あぁ、お前が手も足も出なかったって言ってた人か。」
「そうよ。その手も足も出なかった人がこのデューク・東郷さん。私が通ってる道場で師範代をしてる人が昔、東郷さんのお父さんにお世話になっていたらしいの。その縁でうちの道場に顔を出したんだって。」
彼女に紹介をされて少年と挨拶を交わす。
すると彼女の幼馴染みである少年…『工藤新一』が俺を観察してきた。
まだ中学生で探偵を目指している途上であるのは理解するが、こうまで露骨に観察をされると不快に感じるな。
まぁ、彼が警戒するのは正しいんだが。
「えっと、東郷さん…休日の昼間に仕事ですか?」
「…あぁ。」
「どんなお仕事ですか?」
「ちょっと新一、いきなり失礼でしょ!」
ちょっとプロのスナイパーをと言える筈もない。
自分から事件に首を突っ込む彼は別として、彼女を裏の世界に巻き込むつもりはないからな。
俺は工藤新一への返答として鼻で笑う。
そんな俺を見て工藤新一は不満そうな表情をする。
「…なんだよ?」
「いや。大切な彼女に男が近付いて警戒するのは理解できるが…俺は子供に手を出すほど飢えてはいない。」
俺の言葉を聞いて2人は顔を真っ赤にして反論してくる。
「はぁっ!?ら、蘭は彼女なんかじゃねぇよ!」
「そ、そうです!私は新一の彼女じゃありません!それに子供ってどういうことですか!?私はもう中学生ですよ!」
初々しい2人の反応が微笑ましくつい笑みを浮かべてしまう。
そんな俺に2人はギャーギャーと喚くが、俺は腕時計で時間を確認する振りをする。
「…すまないが人と待ち合わせをしているんでな。これで失礼をする。」
「えっ?あっ、そうなんですか?呼び止めてすみませんでした。」
「…気にするな。」
歩き出すとまた毛利蘭の声が聞こえる。
「東郷さーん!また道場に来てくださいね!師範代も待ってますから!」
彼女の声に軽く手を振って応えながら歩みを進める。
さて、待ち合わせ場所である両親が経営する喫茶店『ポアロ』に向かうか。
少し前に公安の者を従業員として雇ったと言っていたが…まぁ、問題ないだろう。
俺の名はデューク・東郷。
この『名探偵コナン』と『ルパン三世』がクロスした世界に転生した転生者だ。
ルパンは見てたからそれなりに知っているが…コナンはよく知らない。
だから多少の不安はあるが、それでも生き残れるだけの技術や経験を積んできたという自負がある。
そんな自負を胸に俺はポアロの入り口を開け、両親と数ヵ月振りの再会を果たすのだった。
短編予定ですが、気が向いたら連載するかも?
連載する場合は活動報告にて報告します。