口数が少ないのは元からです   作:ネコガミ

10 / 31
本日投稿2話目です。


第10話『とあるガンスミスの日常』

Side:デイブ・マッカートニー

 

 

「…くそっ!駄目だ!」

 

研磨をしたM16のトリガーパーツを廃棄ボックスに投げ捨て、未研磨のトリガーパーツを手に取る。

 

そして今一度研磨を施すが、納得のいく仕上がりには程遠いものになる。

 

「はぁ…少し休憩するか。」

 

コークとスナックを手に、工房に備え付けてあるディスプレイでフットボールの試合を見る。

 

だが俺の頭を占めているのは研磨の技の事だ。

 

羽根の様な軽さのタッチでありながら、不意に取り落とした際に暴発しない抵抗を残した研磨。

 

それがデュークの旦那がトリガーに求めた仕様だった。

 

スナックの破片をハンドタオルで拭い取ると、俺はデュークの旦那が見本として持ち込んだトリガーパーツを手に取る。

 

このトリガーパーツには日本で人間国宝に指定されている研磨職人の仕事が施されている。

 

研磨専門の職人の技だけあって、一朝一夕じゃ真似出来ない代物だ。

 

しばらくトリガーパーツを眺めていると、不意に工房のドアが開く音がする。

 

そちらに目を向けると…デュークの旦那が立っていた。

 

旦那は俺の所に歩いてくると手にしていたアタッシュケースを机に乗せて開ける。

 

中にはH&H社の水平二連バレルショットガンが入っていた。

 

「トリガーはフェザータッチに、バレルはスラグ弾用に交換し…。」

 

俺は旦那の注文をメモしていく。

 

旦那は注文を終えると一万ドルの帯封を数個置いて去っていった。

 

やれやれ、相変わらず払いがいいこって。

 

それにしてもガンマニア相手なら高値で売れるこいつを、こうも簡単にカスタマイズしろって渡されるとはなぁ…。

 

しかも破格の依頼料も出してくるときたもんだ。

 

職人冥利に尽きるが、だからこそ失敗出来ないというプレッシャーにもなる。

 

俺もまだまだ青いぜ…。

 

手早く、だが精密にカスタマイズを進めていく。

 

トリガーをフェザータッチに仕上げ、バレルをスラグ弾用に交換すると共に切り詰める。

 

更に右側のバレルに全体のバランスを合わせるためにストックも調整する。

 

ここで一段落。

 

後は旦那が持ち込んできた水を凍らせて弾頭を成型し、火薬量を減らした弾丸を作るだけだ。

 

水が凍るまでまだ時間があるな。

 

上に行って飯でも食うか。

 

地下の工房から一階のフロアに上がると、ファルケンとレディが話していた。

 

「なぁファルケン、今回の旦那の獲物はなんだ?」

「アイスホッケーのパックだそうだ。それもスラップショットされた状態のな。」

「相変わらずとんでもねぇもんを狙撃すんなぁ。まぁ、デュークの旦那らしいっちゃらしいか。」

 

話を耳にしてふと思い出す。

 

たしか【ホワイトウォール】の異名を持つ名選手の去就の噂を。

 

…まぁ、一介の職人の俺には関係ねぇや。

 

「ヘイ、レディ。なんか食い物を頼む。」

「あいよぉ。」

 

飯を頼むとレディがテキパキと作り始める。

 

あの跳ねっ返りが随分と慣れたもんだ。

 

ファルケンも意地を張ってないでレディと所帯を持ちゃいいもんを。

 

そう思いながらカウンター席に腰を下ろすと隣にファルケンが座る。

 

「デイブ、研磨の方はどうだ?」

「ようやく取っ掛かりを掴んだってとこだな。まぁ、まだまだあの領域にゃ届かねぇけど。」

「あまり根を詰めるなよ。人間国宝に指定される程の職人の技なんだ。一年や二年でなんとかなるような代物じゃねぇ。」

「わかってるさ。」

 

それでも、俺にだって職人としての意地がある。

 

他の誰に認められなくたって構わないが、デュークの旦那にだけは認められてぇんだ。

 

しばらくして出来上がった飯を食っていると、Mrs.鷹子がドッグタグにやって来た。

 

レディとの会話を耳にするに、どうやら彼女はストリップのピンチヒッターに入るらしい。

 

チラリとMrs.鷹子に目を向ける。

 

不二子の母親とは思えない若々しさだ。

 

初めて会った時と比べて10は若くなってやがる。

 

「ファルケン、たしか彼女は…?」

「あぁ、例の薬の被験者の一人だ。」

 

デュークの旦那がフリーのスナイパーとしてまだ駆け出しだった頃、一度黒の組織とかち合う事になったんだが、その時にとある科学者夫婦を保護した。

 

たしか【宮野】…いや、今は【灰原】と名乗っているんだったか?

 

その灰原夫婦が研究していた物が若返れる薬っちゅうやばい代物だった。

 

だがまぁ世の中そう上手くいかない物で、出来上がった薬は毒性が強く若返りが必要な老人には使えないどころか、若者ですら服用は危ない代物なんだそうだ。

 

それで黒の組織のボスの不興を買ったとかで消されそうになったんだが、依頼で黒の組織の幹部の一人を暗殺する為に潜入していたデュークの旦那に寸での所で助けられたわけだ。

 

駆け出しで黒の組織相手に仕事をする旦那も旦那だが、旦那の危険性を即座に察して蜥蜴の尻尾切りをした黒の組織も流石だ。

 

伊達に裏では世界的に有名な組織じゃねぇってな。

 

話は例の若返りの薬に戻るんだが、今では旦那が出資して研究を続けているらしい。

 

たしか【阿笠】とかいう発明家にも出資して、その発明家と共同研究させてるんだったか?

 

それで例の薬の被験者として旦那の母親やMrs.鷹子が名乗りを上げたと…。

 

改良を続けて毒性は下がったもののまだまだ危険性は高いって話なのに…女の若さへの執念は凄いもんだ。

 

飯を口に運びながらチラリとファルケンに目を向ける。

 

すると出会った当初は隻眼だったファルケンの顔が目に入るが、今では両目が揃っていた。

 

「新しい目の調子はどうだい?」

「見え過ぎて逆に調子が狂うな。まぁ、その内慣れるだろう。」

 

灰原夫婦と共同研究している阿笠だが、旦那が彼に依頼した研究のメインはクローニング技術だった。

 

こいつはハワード・ロックウッドが持っていた物を元にしているらしいんだが、先月になって漸く形になったそうだ。

 

それでファルケンの遺伝子情報を元に目を培養し移植。

 

そして現在は旦那や次元といった裏で現役の連中に万が一があった時に備え、諸々の準備をしているとか。

 

最後の一口を口に運び終えた俺は腰を上げる。

 

「さっきも言ったがあまり根を詰めるなよ。」

 

ファルケンの言葉に片手を上げて応えながら工房に戻る。

 

「さて、弾丸を作っちまうか。そしたらまた研磨の技のトレーニングだ。」

 

これが俺、デイブ・マッカートニーの日常だ。

 

日々成長に励む毎日はすこぶる楽しい。

 

飯も美味いし金の払いも良く、時折だが女を世話してもらえる時もある。

 

正に至れり尽くせりってやつさ。

 

だが、だからこそ手を抜けねぇ。

 

この環境に胡座をかき腑抜けてデュークの旦那に見限られたその時は、俺のガンスミスとしての信頼が失われる時だ。

 

それだけは死んでもごめんだね。

 

俺はガンスミスとして生きてガンスミスとして死ぬ。

 

それでこそデイブ・マッカートニーなんだ。

 

一通り仕事を終えた頃にはデュークの旦那が来て物を受け取り去っていく。

 

旦那を見送った俺は新たなトリガーパーツを手に取ると、研磨の技のトレーニングするのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

紛らわしいですが時系列としては第1話の前になります。

また来週お会いしましょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。