Side:毛利蘭
約束のプールの日がやって来た。
今日は園子と遊びに行くんだけど、引率として東郷さんも来てくれる。
あっ、園子の家の車が来た。
ポアロの前で待ち合わせをしていたんだけど、東郷さんが運転してきた車の助手席には園子が座っていた。
「えっ?ちょっと園子、どういうこと?」
車の窓を軽く叩きながら助手席にいる園子に問い掛ける。
「おじさまが気前よく貸してくれたのよ。」
窓を開けながら園子はそう言ってくるけど、聞きたいことはそれじゃない。
東郷さんが運転手をしてくれるのは最初から知っていたんだから。
「そうじゃなくて、いつもは助手席じゃなくて後ろに乗ってるじゃない。なんで今日は助手席なのよ?」
「それはあれよ?おじさまの車は色々といじってあるから、慣れてない東郷さんをサポートしようと思って。」
なんか怪しい…。
ポアロで約束したあの日以降、園子との話題では東郷さんの事が増えた。
そしてその話題の時に限って園子は東郷さんの事を積極的に聞いてくる。
お話しする時の園子はどちらかというと受け身で、相手の話を上手に聞くから、学校の皆もついつい色々な事を話してしまう。
そんな園子が自分から積極的に話を聞いてくるのは誰かの恋愛話ぐらいなんだけど…恋愛話でもないのに東郷さんの事を積極的に聞いてくる。
そして普段は後ろに乗ってるのに東郷さんが運転する今日に限って助手席…やっぱり怪しい。
「ほら、早く乗りなさい。出発するわよ、蘭。」
なんか誤魔化された気がするけど…今は楽しもうっと。
その後は都外のスパリゾートに向かう為に高速道路に乗ったんだけど、私と園子が中心になって話が盛り上がった。
東郷さんは口数が少ないけど、適切に応えてくれるその様子がなんか大人の男性だなぁって思って、話をするのがとても楽しかった。
楽しかったからなのかあっという間にスパリゾートに着くと、私と園子は二人で女子更衣室に。
そして荷物から最後まで迷った末に決めた水着を手にすると、服を脱いで着替え始めたのだった。
◆
Side:鈴木園子
服を脱ぎながら蘭に目を向ける。
「あら?結局それにしたのね?随分と攻めるじゃない。」
「もうっ!そんなんじゃないってば!」
そう言いつつ蘭が着替えている水着は上下共にビキニ。
なんとも思ってない男性に見せるような水着じゃないわよねぇ?
最近成長著しい蘭の胸が存在を主張し、更に空手で鍛えた健康的な身体で着こなしたビキニ姿は、そこいらの女の人じゃ早々に白旗を上げる程に光っているわ。
もっとも、私も負けてないけどね。
この日の為に専属トレーナーを雇って余計な部分を絞り、日々のエステで磨きあげた身体は蘭とは種類が違うけど十分に魅力的な筈よ。
そんな私が着る水着もビキニ。
けどちょっと趣向を変えて下にはパレオを纏う。
蘭が直球勝負なら私は緩急を活かして勝負ってところね。
まぁ、お互いにまだ勝負って程に東郷さんに異性としての好意を持っていたり、自覚しているわけじゃないけどね。
更衣室を出るともう着替え終えていた東郷さんが待っていた。
競泳用のピッチリとしたボクサーパンツタイプの水着ね。
…ちょっと目のやり場に困る。
だって彼の身体に刻まれている幾つもの傷が、鍛え上げられているその身体が見せ掛けのものじゃないって主張していて…なんというかこう…反則よね。
大人の男性の色気がこれでもかって程にあるんだもの。
周りにいる女の人達の視線は東郷さんに釘付けだわ。
蘭も顔を真っ赤にして固まっちゃってまぁ…。
あ~あ~周囲の生白い男達なんか、そそくさとTシャツを着て身体を隠し始めちゃってるし。
正に男として格が違うわね。
そんな東郷さんも今日は私達のエスコート役。
ふふ、優越感を感じるわぁ。
「さぁ、それじゃ早速泳ぎましょ。」
「…その前に準備運動だ。」
あら真面目。
東郷さんに習って準備運動を始めたんだけど、なんかうちで雇った専属トレーナーよりも詳しくない?
こういうところも一流なわけ?
本当に何者なのよ?
準備運動も終わってさぁ楽しもうと思ったその時…。
「おう嬢ちゃん、ちょいとツラ貸してくれや?」
随分とガラの悪い男達数人が私に絡んできた。
ガラの悪い男の一人が着ているアロハシャツから入れ墨がチラッと…。
「はぁ…おじさまが言ってたのはこのことかぁ…。」
面倒だけど蘭達に迷惑を掛けられないからと覚悟を決めようとした時…。
「なんだぁてめぇ!」
東郷さんがガラの悪い男達と私の間に入った。
「…彼女は俺の連れだ。」
「あぁん?サンピンはすっこんでろ!」
サンピンはそっちでしょうに。
睨み、罵倒しても退かない東郷さんを見てガラの悪い男達の一人が東郷さんに殴り掛かった。
でも…。
「ぶっ!?」
鼻っ面にあっさりとカウンターパンチを受けて、殴り掛かった男は倒れた。
「てめぇ!」
仲間を倒された男達は複数同時に東郷さんに襲い掛かる。
それでも…。
「うっ!?」
「ごっ!?」
「ぶへっ!?」
東郷さん相手には力不足で、これまたあっさりと倒されちゃったわ。
少しすると警備員の人達が来て、ガラの悪い男達を取り押さえて連れていこうとしたんだけど。
「顔は覚えたぞコラァ!せいぜいてめぇの身内の身辺に気をつけるんだな!あぁ!」
連れていかれる途中でガラの悪い男の一人がそう言った。
はぁ…東郷さんに迷惑を掛けちゃったわ。
「…ギルティ。」
「えっ?」
東郷さんが何か呟いたから思わず反応しちゃったけど、彼は首を振って何でもないって言った。
…まぁ、いっか。
帰ったらあのガラの悪い男達への対処をおじさまに頼もうっと。
その後は気分を取り直して三人で思いっきり楽しんだわ。
そして蘭と一緒に飲み物を買いに行って東郷さんの所に戻った時…。
「ねぇお兄さん、私達と遊ばない?」
盛りのついたメス猫共が東郷さんにまとわりついていた。
「ねぇ、その人は私達の連れなんだけど?」
「あら?お子様達じゃ彼の相手はつとまらないんじゃないかしら?」
「ふ~ん?おばさん達よりは私達みたいに若い娘の方がいいと思わない?」
私とメス猫の間で火花が散った。
「それじゃ、あそこで出来るビーチバレーでどっちが彼に相応しいか…勝負する?」
「上等よ!コテンパンにしてやるんだから!」
私は蘭に発破を掛ける為に振り向く。
蘭はいつもこういうのにあまり乗り気じゃないのよねぇ。
そう思ったんだけど、振り向いてみれば蘭もやる気満々だったわ。
「園子!絶対に勝つよ!」
あら?なんか蘭の中で東郷さんの株が急上昇してない?
まぁ、それは私もなんだけどね。
「よっしゃあ!あのおばさん達をぶっ飛ばすわよ!」
「うん!」
◆
Side:鈴木園子
「う~ん!楽しかったわぁ!」
ポアロまで戻ってくると私は車の外に出て伸びをする。
「うん!私も楽しかった!」
「楽しかったのは東郷さんと一緒だったからじゃないのぉ?」
「もう!園子ったら!」
あら?否定しなくなったわ。
これはいよいよかしらね?
…なら。
「もたもたしてると、私が貰っちゃうからね?」
「えっ?」
耳打ちをした私はパッと蘭から離れて車に乗り込む。
「ちょっと園子!?」
「あははは!東郷さん、出して!」
抗議しようとする蘭を置き去りに車が走り出す。
すると直ぐに携帯が鳴ったけど、私は優雅に電源を落とす。
「…出なくていいのか?」
「大丈夫ですよ。ちょっとからかい過ぎただけですから。」
さて、蘭は私なりの宣戦布告をどう受け取るかしら?
チラリと東郷さんの横顔を見る。
あらゆる事に精通している超一流で荒事も出来る。
工藤君とは種類が違うけど、容姿だって男らしくて十分に合格点。
考えてみれば鈴木財閥としても私個人としても、これ以上ない程に優良物件なのよねぇ。
でも私が見るに東郷さんは一人の女に縛られる様な男じゃないわ。
海外での仕事も多いって聞くし、彼程の男なら既に現地妻がいても不思議じゃない。
う~ん…どうしようかしら?
蘭と友達をやめるつもりはないけど東郷さんを諦めるつもりもないし…。
いっそ重婚が出来たら話が早いんだけど…あっ、なるほど。
後でおじさまとパパに相談ね。
まぁ、それはそれとして…東郷さんを夕食に招待しましょ。
ガラの悪い連中に絡まれて怖い思いをしたんだから、これぐらいのご褒美は貰ってもいいわよね?
それに迷惑を掛けちゃった東郷さんへのお詫びにもなるだろうし、正に一石二鳥だわ。
蘭には悪いと思うけど…後でフォローの電話でもしとけば大丈夫でしょ。
その後、東郷さんを夕食に招待してパパとママに紹介したんだけど、何故かパパは胃薬を飲んだわ。
仕事で疲れてるのかしらね?
これで本日の投稿は終わりです。
そろそろ新一君目線の話も書こうかな?
また来週お会いしましょう。