口数が少ないのは元からです   作:ネコガミ

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本日は1話のみの投稿です。


第13話『探偵を志す少年は難しい年頃』

side:工藤新一

 

 

長期休みに母さんの付き人として連れ回されてアメリカに滞在すること十日、これといった事件に関われることもなく暇な日々を過ごしている。

 

そんな暇を潰す為に日本で何か事件が起きてないか調べると、とある暴力団構成員の一人が射殺されたらしい。

 

死因は眉間への一発の銃弾で、それ以外に発砲された形跡は無い。

 

情報が非常に少なく警察の捜査は難航しているとか。

 

随分と推理しがいがありそうな事件じゃねぇか。

 

はぁ…早く日本に帰りたいぜ。

 

今日は母さんの知己である映画監督の誕生日パーティーに行く予定なんだが、正直に言って気が進まない。

 

俺がパーティーに出席しても、親父や母さんの付属物程度にしか見られないからな。

 

「しっかし、金持ちってパーティーが好きだよなぁ。」

「それは違うよ。必要だからパーティーをするんだ。」

 

振り向くと親父がいた。

 

いつ部屋に入ってきたんだ?

 

「新一、金持ちの武器がなんだかわかるかい?」

「金だろ?」

「そうお金と、後は人脈だ。」

「人脈?」

 

首を傾げると親父が講釈を始める。

 

「人間一人に出来る事には限界がある。ホームズにも助手のワトソンがいるだろう?」

「あぁ。」

「ホームズでさえ助手を必要とする。ならばそれ以外の人はどうかな?答えは当然、誰かの助けが必要だ。けれど誰かに助けを求めるには、その誰かと知り合う必要がある。その為の機会を得る手段としてパーティーを開くんだ。もっとも知り合ったからといって、無償で助けて貰えるとは限らないけどね。」

 

限らないって…。

 

「普通、頼めば協力してくれるもんだろ?」

「日常のちょっとしたことだったらそうだろうね。けれど多くの人は面倒な事に関わりたくないんだ。誰だって損はしたくないからね。そういう時に誰かに協力してもらうには、何らかのメリットを提示しなければならない。」

 

メリット?まさか金か?

 

なんというか…。

 

「金で解決とか、スマートじゃねぇなぁ。」

「馬鹿を言っちゃいけない。これほど楽で早い解決方法は他にはないさ。自分が損をするのを承知で動く人間の方が珍しいんだ。こういうのは一般論で考えないといけないよ、新一。」

「…俺の考えは一般的じゃねぇって言いたいのかよ。」

 

ジト目で見ると親父は肩を竦める。

 

「やれやれ、推理力はともかく人としてはまだまだ未熟な子供だね。」

「俺は中学生だぞ!もうランドセルを背負ってるガキじゃねぇんだ!」

「年齢は関係ないよ。幾つになっても心が子供のままな大人だって沢山いる。僕自身がそうだったからね。」

「はっ?」

 

親父の心が子供だった?

 

「いや、いきなり何言ってんだよ。」

「親として君への忠告だよ。」

「はぁ?忠告?」

「僕と同じ失敗をして欲しくないのさ。」

 

…失敗?

 

「失敗って、何があったんだよ?」

「それは…秘密だ。」

 

思わぬ肩透かしに転けてしまう。

 

「親父…ここまで話しておいてそれはないだろう?」

「僕だって恥を感じる心はあるからね。そう簡単には教えられないよ。」

 

にゃろう。

 

「じゃあ、何かヒントを。」

「事件解決に犯人がヒントをくれるとでも?」

「いや、それはそうだけどよぉ…。」

 

頬を掻いていると親父が笑う。

 

「ふふ…まぁ、世の中にはそういう犯人がいないこともないけどね。」

「じゃあ。」

「生憎と僕はそれほどの自信家でもなければ、もうスリルを楽しめる人間でもないよ。だからヒントは無しだ。」

 

そう言って親父は部屋を出ていった。

 

ったく、何がしたかったんだよ?

 

それにしても…。

 

「もうってどういう事だ?」

 

親父の言い方だと昔はスリルを楽しんでいた筈だ。

 

なのに今は楽しんでない?

 

…わかんねぇ。

 

スリルを楽しむ以上に面白い事なんてねぇだろうに。

 

解けない謎に悶々としながら、俺は母さんの準備が終わるのを待ち続けるのだった。

 

 

 

 

side:工藤新一

 

 

母さんの知己の映画監督が誕生日パーティーの会場として借りたホテルの大部屋に着くと、そこで思わぬ人物…デューク・東郷と再会した。

 

「…ちわ。」

「…あぁ。」

 

互いに言葉少なく挨拶を交わすと、東郷はアタッシュケースを片手に映画監督の元に歩いていく。

 

東郷に気付いた映画監督は笑顔で話し掛けたが…何かが変だ?

 

…そうか、握手をしてないんだ。

 

何故握手をしない?

 

日本でならともかく、アメリカでなら握手をする方が自然だ。

 

それに何故アタッシュケースを持っている?

 

ハンドバッグの様な小物を入れる小さいバッグなら持っているのもわかるが、誕生日パーティーにアタッシュケースは不自然だ。

 

俺は東郷に近付くと話し掛けた。

 

「失礼、東郷さん…そのアタッシュケースの中身はなんですか?よければ見せてもらいたいんですが?」

 

東郷は無言でアタッシュケースを床に置くと中を見せてくる。

 

「…町の模型?」

「あぁ、それは私がミスター東郷に頼んだものだよ。次の映画の撮影に使う場所のロケーションをシミュレートしたくてね。」

 

映画監督が俺達のやり取りに入ってくる。

 

「町の模型の横にある袋は?」

「それも私がミスター東郷に頼んだものでね。懐炉だよ。」

「懐炉?」

 

俺が首を傾げると映画監督は快活に笑い声を上げる。

 

「この年になると寒い時期の外での撮影が辛くてね。まだ夏ではあるが今の内に常備しておきたい。でもアメリカでは手に入りにくいから、彼にわざわざ日本から持ってきてもらったんだ。」

 

監督さんの話には筋が通ってる…だけど、わざわざ模型にする理由はなんだ?

 

今の時代ならコンピュータグラフィックで済むのに…。

 

更に問い掛け様としたその時…。

 

「いてっ!?」

 

不意に誰かに耳を引っ張られた。

 

「ほほほ、ごめんなさい。私の息子が失礼しました。」

「ボーイの好奇心の強さはミスター優作譲りのようだね、ミセス有希子?ハッハッハッ!」

 

母さんにグイグイ引っ張られてあの場から離される。

 

「ちょ、母さん、なにすんだよ!」

「それはこっちの台詞よ。新ちゃんこそ何をしてたのかしら?」

 

声色から察するにかなり怒ってやがる。

 

俺はただ変に思ったから話を聞いただけじゃねぇか。

 

それを伝えると母さんは大きくため息を吐く。

 

「新ちゃん、ここは日本じゃなくてアメリカよ?」

「わかってるよそんなこと。」

「いいえ、わかってないわ。極端な話、さっきみたいな行為は訴えられる可能性もあるのよ。新ちゃんはそれをわかっていてやったの?」

 

…えっ?

 

「待ってくれよ、なんで俺が訴えられないといけないんだよ?」

「プライバシーの侵害とかハラスメント行為ね。」

「いや、ちょっと何を持ってるか確かめたぐらいでプライバシーの侵害とかハラスメント行為で訴えるとか…おかしいだろ。」

 

また母さんがため息を吐く。

 

「はぁ…いい新ちゃん?さっきも言ったけど、ここは日本じゃなくてアメリカなの。日本の常識は通用しないわ。私や優作さんはそれなりに有名だから、さぞや訴えがいがあるでしょうね。落ち着いて考えれば、新ちゃんもそのぐらいわかるでしょう?」

「けどよぉ…。」

「新ちゃん。」

 

母さんがジッと目を見てくる。

 

「誰だって間違う事はあるわ。それこそどんな名探偵だって間違う時はあるの。大事なのは間違った時にどうするか。新ちゃんは推理を間違えてもゴリ押して、罪の無い人を犯人にするつもり?」

 

そう言って俺の頭をポンッと軽く叩いて母さんが去ると、俺はイライラとして頭を掻き回してしまう。

 

するとそんな俺の肩に、親父が優しく手を置いてきたのだった。

 

 

 

 

side:工藤優作

 

 

やれやれ、有希子も手厳しいな。

 

彼女は正しいけど、僕には新一の気持ちもわかる。

 

この年頃の男というのは非常に気難しい。

 

幼少時特有の万能感がまだ抜けずに思春期に入ってしまう子がいるからだ。

 

新一もその一人だね。

 

親馬鹿かもしれないが新一は優秀な子だ。

 

それこそあの子が持つ強い承認欲求を満たせてしまっていた程に。

 

僕自身の経験上…こういう人物は危険だ。

 

心が子供のまま大人になってしまう。

 

そしてそういう人物が社会に出たら…些細な失敗や挫折で心身のバランスを崩し、立ち直るのが難しいほどに自信を喪失してしまうだろう。

 

僕みたいにね。

 

だが幸いにも僕には支えてくれる妻がいた。

 

だから立ち直ることが出来たんだ。

 

もし彼女がいなかったら…僕は自信を取り戻すためと称して半ば自暴自棄にゴルゴ13を追い、命を落としていただろう。

 

新一には僕と同じ失敗をしてほしくはない。

 

だが自分の失敗体験を話すのは想像以上に恥ずかしく、つい誤魔化してしまった。

 

やれやれ、僕もまだ大人に成りきれていないみたいだね。

 

だがゴルゴ13について語るわけにもいかないので、僕の失敗体験をどう話したものか迷うところだ。

 

パーティーが終わった後にでも有希子に相談することにしよう。

 

有希子…随分と遅くなってしまったけど、僕は本当の意味で新一の父親に成れる様に頑張るよ。

 

だからどうか…これからも側にいてくれ。

 

僕は笑みを浮かべると一つ一つ言葉を選びながら、息子に真摯に語り掛けるのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

年頃の少年を書いていると黒歴史がフラッシュバックしそうになる今日この頃。

また来週お会いしましょう。
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