口数が少ないのは元からです   作:ネコガミ

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本日は1話のみの投稿となります。


第15話『元公安の日常』

side:安室透

 

 

ある日、公安の任務で黒の組織に潜入した僕は、表向きの身分を得るために喫茶店ポアロに身を置いた。

 

それが僕の人生で最大の失敗だと気付かずに…。

 

公安の事前調査ではポアロに怪しいところはなかったのだが、いざポアロで働きだすと、僕は公安として死んだも同然となってしまった。

 

理由は…ポアロの店長夫妻だ。

 

ポアロの店長である東郷一斗は、あの傭兵団ゴルゴの団長だった男だ。

 

そして彼の奥方である東郷ソーフィアは傭兵団ゴルゴの副団長だった女性だ。

 

なぜ公安が事前調査していながら、僕が彼等の事を事前に知らなかったかと言うと…公安が僕を人身御供として彼等に差し出すために、意図的に彼等の情報を伏せられたからだ。

 

事の経緯はこうだ。

 

公安の調査員がポアロの事前調査をしていた事が、東郷夫妻にバレてしまった。

 

ただバレただけなら手を引けばそれで問題なかったんだろうが、公安の調査員は彼等がゴルゴ13の両親だということも知ってしまった。

 

そこでゴルゴ13による口止めの為の暗殺を恐れた公安上層部は、彼等の情報を口外しない証として僕を差し出したんだ。

 

もっとも、その行為は無駄に終わってしまったけどね。

 

僕がポアロで働き出してから数日後には、公安に所属していた数名が何者かに暗殺されてしまったのだから。

 

後で聞いた話では公安上層部の一人がいらぬ欲を出し、東郷夫妻を楯にゴルゴ13を制御下に置こうとしたらしい。

 

はっきり言って愚かとしか言いようがない。

 

赤井が知ったら鼻で笑うだろう。

 

日本の公安上層部は危機管理能力が欠如しているってね。

 

だが僕は欲を出した上層部の一人を笑うことは出来ない。

 

実際に東郷夫妻やデューク…ゴルゴ13に出会うまでは、傭兵団ゴルゴの伝説は眉唾物だと思っていたのだから。

 

以前に赤井が日本の公安は情報戦で後れを取っていると言っていたが、それは嘘ではなく真実だったんだ。

 

僕は赤井のそういった態度が鼻持ちならなくて奴に噛みついていたが、赤井からしてみたら僕達日本の公安は裏の世界ではモグリに等しかったのだろう。

 

それもそうだ。

 

デュークに対する認識が甘過ぎたのだから。

 

あの一件以来、公安ではポアロに関してアンタッチャブルとなったと元同僚から聞いている。

 

過ぎ去った時へと思いを馳せていると、不意にカランとドアベルが鳴った。

 

「いらっしゃいませ。」

 

来店した人物に目を向けると、そこには常連の毛利蘭と鈴木園子の姿がある。

 

二人が定位置の席についたので氷水とお手拭きを出す。

 

「いらっしゃい、二人共。残念だけど、デュークはまだ海外から帰ってきてないよ。」

 

そう告げると二人は残念そうにする。

 

以前は否定していたが今ではハッキリと反応を見せる二人に、僕はついクスクスと笑ってしまう。

 

ふふ、青春してるね。

 

「安室さん、デュークさんの夏祭りの日の予定って知ってる?」

 

園子くんの問い掛けに僕は記憶を探る。

 

「米花町の商工会の付き合いでポアロでも出店を出すんだけど、その手伝いをする予定だよ。まぁ、二人をエスコートする時間ぐらいは出来るさ。」

 

そう告げると二人は嬉しそうに笑う。

 

「園子、抜け駆けは無しだからね。」

「わかってるわよ。蘭も疑り深いわねぇ。」

「プールに行った日に抜け駆けしたこと、忘れてないからね。」

 

以前の仕事先で元同僚が情報を引き出すために複数の女性と深い仲になった事があるが、その時は随分と殺伐とした雰囲気になったものだ。

 

だが二人の間柄に大きな変化は見られず、今も親友として仲良くしている。

 

これが今の若者の感性なのかな?それとも…。

 

そこまで考えたところで二人から注文が入ったので、僕は用意をするべくカウンターに戻る。

 

「店長、コーヒーをお願いします。」

「あいよ。」

 

店長の一斗氏がコーヒーを入れている間に僕はポアロ自家製のケーキを準備する。

 

やれやれ、随分と手慣れてしまったものだ。

 

僕は今も黒の組織に潜入をして情報収集を続けているが、それは愛する日本のためだ。

 

だが集めた情報を公安にリークするつもりはない。

 

元同僚達には悪いけど、僕を切った連中に手柄を立てさせてやるほど、僕はお人好しじゃないからね。

 

時が来たらデュークに依頼する。

 

それを出来る程度には彼からの信用を勝ち取っている。

 

事が終わったら…このままここで働いて、時折デュークのサポートをしていくつもりだ。

 

公安の降谷零は死んだ。

 

今の僕は喫茶店ポアロ従業員の安室透だ。

 

思わぬところで人生が変わってしまったけど、こんな生き方も悪くない。

 

コーヒーとケーキを彼女達に持っていくと、他にお客さんがいない事もあって彼女達と談笑する。

 

不意に二人から恋人はいないのかと問われると、僕は笑って誤魔化した。

 

恋人か…そんな事を考えられる余裕がある今の生活は、やはり悪くはないな。

 

そう思える程度には、僕もポアロの一員になったのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

11月1日と11月8日の投稿をお休みさせていただきます。

ここ最近忙しくて少し疲れておりまして…。

11月15日にまたお会いしましょう。
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