side:宮野志保
黒の組織が用意した研究室で両親が残したデータを元に研究を進めていると、姉さんが鼻歌を歌いながら研究室に入ってきた。
「志保、ただいま。」
「お帰り、姉さん。随分と御機嫌ね?またバーボンとキャンパスデートでもしてきたの?」
「もう、バーボンじゃなくて安室透さんよ。公私は使いわけなくちゃ。志保もまだまだね。」
「…はぁ。」
私は思わずため息を吐いてしまう。
姉さんには黒の組織の一員という意識が少し…いえ、かなり欠けている。
危なっかしくて仕方がないわ。
なんかどこかの国の諜報員に騙されそうな気がするし、私がしっかりしないと。
「それで、安室さんはなんて?」
そう問い掛けると姉さんは無言でUSBメモリを差し出してくる。
私はそれを受け取るとPCにある処理をしてからデータを閲覧した。
「…これはいつ?」
「『彼』の手が空いたらだそうよ。」
「そう。」
USBメモリの中には私達姉妹が黒の組織を抜けるための作戦が記されていた。
私は作戦内容を暗記すると直ぐにデータを消去し、PCを元の状態に戻す。
「あらあら?随分と機嫌が良くなったわね。そんなに『彼』に会えるのが嬉しい?」
「…そういうのじゃないわ。『彼』はただの恩人であって。」
「またまたぁ、恥ずかしがらなくてもいいじゃない。」
姉さんにからかわれて少し顔が熱くなるのを感じる。
彼…デューク・東郷と初めて会ったのは、私達姉妹が黒の組織に入ってから一ヵ月程経った頃だったわ。
黒の組織に始末されそうになっていた両親を助けて保護した彼は、両親のスポンサーとなって研究を支援している。
彼から渡された両親からのメッセージでそれを知った時、私達姉妹は愕然としたわ。
両親の行方を求めて黒の組織に入った事が全くの無駄になってしまったのだから。
それでも両親が無事であると知った私達は喜び、今では形だけ黒の組織に協力して両親と再会する日を待っている。
「それより姉さんこそどうなのよ?安室さんとは上手くいってるの?」
「ふふ、透さんったらね?」
惚気全開で話す姉さんの姿に私はため息を堪える。
これでまだ正式にお付き合いしてないというのだから、男女の仲が複雑なのがよくわかるわ。
30分程語って満足したのか姉さんの話しも途切れる。
「そういえば姉さん、『彼女』はどうなるのかしら?『これ』に随分と御執心みたいだけど。」
そう言いながら私はディスプレイに表示したAPTX4869の研究データを指し示す。
「彼女については『彼』が対応してくれるそうよ。」
「そう、じゃあ安全ね。」
そう言うと姉さんが悪い顔をする。
「あら、随分と信頼してるわねぇ?」
「…だからそういうのじゃないって言ってるでしょ。」
「いいのかしら?彼、競争率が高いみたいよ?」
「…どういうことかしら?」
問い掛けると姉さんは勝ち誇った様な顔をする。
「ふふ、やっぱり気になってるんじゃない。」
「…恩を返すのに情報が必要なだけよ。」
そう説明するものの、姉さんは終始わかってると言わんばかりにニヤニヤとした顔をしていた。
それにしても競争率が高い…ねぇ。
まぁ彼程の男なら女の影の一つや二つあって当然でしょうね。
はぁ…姉さんもそうだけど、私も難儀な相手に惚れてしまったものだわ。
いったい父さんと母さんのどっちに似たのかしら?
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。