side:灰原愛
月日が経つのは早いもので、私達姉妹が両親と再会出来たあの時から4年近くが経った。
それだけの月日が経てば色々と変わるわ。
その変わったものの一つ目、かつて私とお姉ちゃんが所属した黒の組織…以前は世界的な規模の裏の組織だったのだけど、今では規模が縮小して日本に幾つかの拠点を残す程度になっている。
この黒の組織弱体化には各国のエージェントだけでなく、デュークも大きく関わっているわ。
それでもまだ日本では最大級の裏の組織だから、黒の組織の底力は侮れないわね。
そして変わったものの二つ目…私はデュークと男女の関係になった。
もっとも彼とそういう関係を持っている女は私一人ではない。
そんな女の一人が、今目の前にいる峰不二子よ。
彼女と私は同じ男を愛する女だけれど関係は良好。
そんな関係であることが出来るのは、先ず彼女が彼を独占しようとしないからね。
そして彼女は私がデュークと男女の関係になれるように協力してくれた恩人でもある。
そういった経緯があり、私と不二子は親友と言える間柄になっている。
「それで不二子、今回はどういった用件かしら?」
詳しい話を聞いていくと、デュークにイギリス王室から依頼があったみたいね。
依頼内容は筋弛緩剤の一種を投与された競走馬に狙撃で中和剤を注入すること。
それもレース中の競走馬に。
また随分と無茶な依頼が舞い込んだものだこと。
まぁ、デュークにとってはいつものことね。
「なるほど、それで私は中和剤を造ればいいのね?」
「そういうことよ。話が早くて助かるわぁ。レースは30日後だから、その3日前にはお願いね。」
そう言いながら不二子は使用されるであろう筋弛緩剤のサンプルを渡してくる。
それを受け取ったところでなにやら玄関の方から騒がしい声が聞こえてきた。
「何かしら?」
「また阿笠博士が誰かに問い詰められているんじゃない?」
「それにしては聞こえてくる声が若いわ。多分相手は声変わりもしていない子供よ。」
鞍馬忍者の末裔である不二子は五感が鋭い。
それこそ扉を隔てた先にある玄関の話し声が聞こえる程に。
「なにを話しているかわかる?」
「…なんか子供が自分を工藤新一って言っているわね。」
「工藤新一?あの自称高校生探偵の?」
最近東都のニュースで彼の事がよく取り上げられるけど、裏の世界を知る身の私の目には、彼がしている事はちょっと火遊びをして得意気になっているだけのお子様。
そんな自称高校生探偵の名前を声変わりしていない子供が名乗る?
私の脳裏にAPTX4869の事が過る。
不二子に目を向けると彼女も同じ事を思い浮かべたみたいね。
「愛、例の物は流出してないわよね?」
「してないわ。それにもし流出しても…。」
「そうよね…となると、黒の組織?そういえば今日、黒の組織がどこかの会社の社長と取り引きをするって情報があったわね。」
不二子の言葉から推察していく。
「つまり彼はなんらかの経緯で取り引き現場を目撃。」
「そして黒の組織のメンバーに見つかって、例の物を飲まされた…ってところかしら?」
APTX4869は改良しなければ非常に強い毒性がある。
改良していない…いえ、改良途中のAPTX4869の効果を確かめる為に、敢えて彼を直接殺さずに飲ませたとしたら?
「危ないわね。」
「そうね。」
そう言いながら不二子は携帯電話を取り出す。
「もしもし、逆木?ちょっと護衛を頼みたいんだけど。次元?彼は一味の仲間と一緒にカリオストロ公国に行ってるわ。だから急ぎで頼めるのが貴方しかいないのよ。」
不二子は逆木に事の経緯をかいつまんで話していく。
「そういうことだから、急いでね。」
電話を終えた不二子は大腿部に備えていた銃を手に取って状態を確認する。
「ここはデュークに関わりがある所だから、黒の組織もそう簡単には手を出してこないでしょうけど…。」
「落ち目な黒の組織だからこそ、敢えてデュークに宣戦布告して一発逆転を狙う…。可能性は低いけど、万が一には備えなくちゃね。」
胸元から銃を取り出して確認しながら話すと、不二子がウインクをしながら応えてくる。
「それじゃ、傍迷惑な自称探偵君を見にいきましょう。」
「随分と辛辣な言い方ね。デュークが他の女とデートしてるから虫の居所が悪いのかしら?」
「別に…ただ自称探偵君が迷惑だから、文句の一つも言いたいだけよ。」
「ふふふ、そういうことにしておきましょ。」
察しが良すぎる親友から顔を逸らすと、銃を胸元に仕舞いながら工藤新一の元に向かう。
するとそこには幼い少年が、必死になって阿笠博士と話している姿があった。
…彼は何をしてるのかしら?誰に聞かれているのかわからないのに。
危機感が無い彼にため息が出そうだわ。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。