side:工藤新一
博士から感じる凄みに飲まれたのか声が出ねぇ…。
くそっ!幾つも事件を解決してきたじゃねぇか俺は!
固まる俺を一瞥した灰原が小さくため息を吐く。
…くそっ!
「さて新一、お前さんを元に戻す事について話そうかのう?」
「っ!あ、あぁ。」
動揺を隠せなかった俺は内心で歯噛みをする。
「さっき愛君が言った様にお前さんを戻すことは出来る。まぁ、金は掛かるがのう。」
「…幾らだ?」
問い掛けると博士が指を一本立てた。
「100万か?なら俺の貯金から…。」
「1億じゃよ。」
「1億ぅ!?博士!いくらなんでも高過ぎるだろう!」
「そうかのう?まぁ知人価格でも5000万じゃな。もちろん先払いでのう。これ以上は儂の裁量では無理じゃ。」
そう言ってまたコーヒーに口をつける博士だったが、どうやら空だったらしい。
それを見た灰原が博士のカップにお代わりを注ぐ。
「すまんのう愛君。」
「別にいいわ。ちょうど私もお代わりが欲しかったところだから。」
灰原は自分のカップにもお代わりを注ぐと少し離れたところに座る。
喉の渇きを感じた俺もコーヒーに口をつける。
冷めていたがそれでもいい豆が使われている事がわかる上等な味だった。
…博士の凄みに圧されていたけど、味を感じられる程度には落ち着いたみてぇだ。
「少しは落ち着いたかの?」
「あぁ。けどよ博士、さっきも言ったけど高すぎだろ。」
「新一、お前さん自身で体験した通り実際に若返る薬…まぁお前さんが欲しがっているのは元に戻す薬じゃが、どう考えても希少な物だと思わんか?」
「そりゃそうだけどよ。」
頭を掻くと灰原が口を挟んでくる。
「別に貴方が払う必要はないでしょ。ご両親に泣きついてみたら?」
「んなこと出来るか。」
「その姿じゃ貴方の口座からお金を引き出すのは難しいと思うけど?どうやって対価を払うつもりかしら?」
確かに灰原の言う通りだ。
くそっ、こんなことしたくなかったが…。
「いいのかよ、もしかしたらその希少な薬の存在が明るみに出るかもしれないぜ?」
「好きにすれば?危機感の足りないお馬鹿さん。」
んなろう…本当に広めてやろうか?
「新一…。」
「冗談だよ博士。でもよ、せめて後払いにしてくんねぇか?この姿じゃどうにも身動きが取れねぇし。」
博士はため息を吐く。
「新一、さっきも言ったが儂の裁量ではこれ以上の譲歩は無理じゃよ。」
「そこをなんとか頼むぜ博士。」
俺の頼みを無視するように博士はコーヒーに口をつける。
もう少し脅してみるかと思ったその時、欠伸が出てしまった。
「どうやら疲れておるみたいだのう。とりあえず今日のところはここまでにしておかんか?話し合いはまた明日ってことでの。」
「いや博士、俺はまだ疲れては…。」
「気絶する程に強く頭を殴られ、更に身体が小さくなるなんてトラブルが立て続きだったんじゃ。疲れて当然じゃよ。気が張っていたから疲れを感じておらんかったんじゃろうが、これ以上は思考を鈍らせるだけじゃないかのう?」
博士の言うことも一理あるか…。
「わかったよ博士。けど、明日の話し合いじゃ手加減しねぇからな。」
「了解じゃ。あぁ新一、しばらくは泊まっていくといい。一人で寝るには今のお前さんの状況は危険過ぎるからのう。」
「わりぃな博士、お言葉に甘えさせてもらうぜ。」
立ち上がった俺は欠伸をしながら身体を伸ばす。
「今日のところは儂の寝室を使ってくれ。場所はわかるかのう?」
「前と変わってなけりゃな。」
「変わっておらんよ。それじゃ、ゆっくり眠って疲れを取るんじゃぞ。」
「子供扱いするんじゃねぇよ。まぁいいか、おやすみ博士。」
その後、博士の寝室にあったベッドに潜り込むと、余程疲れていたのかあっという間に眠りに落ちたのだった。
◆
side:阿笠博士
新一が寝室で寝たのを確認すると、安堵の息を吐きながらリビングに戻る。
「よかったわね博士、彼が睡眠導入剤入りのコーヒーを飲んでくれて。」
リビングに戻ると開口一番で愛君がそう言ってきた。
愛君の言う通りに、儂は新一に出したコーヒーに睡眠導入剤を混入していた。
理由は新一の性格から考えて、デューク・東郷君のルールに抵触する可能性があったからじゃ。
だからそうなる前に寝てもらおうと思ったんじゃ。
しかし新一が中々コーヒーを口にしなかったので内心ではかなり焦っておったんじゃが、こうして無事に事が済んで一安心というわけじゃな。
儂がソファーに腰を下ろしたちょうどその時、不二子君がドアをノックして入室してきた。
「あら?あの坊やはどうしたのかしら?」
「彼なら寝たわよ。」
「そう、後5分遅かったらデュークから一発プレゼントされていたのに。悪運が強いのね。」
彼女の言葉に冷や汗が背中を流れる。
詳しく聞くと彼女が戻ってきた時に新一がまだごねていたら、彼女がリビングのカーテンを開け、そこからデューク君が警告の一弾を新一に見舞う手筈になっていたそうじゃ。
…本当に危なかったわい。
しかし不二子君の言う通りに新一は悪運が強いのう。
黒の組織に直接命を奪われず、毒性の強いAPTX4869を飲まされても適合して生き延びた。
そして本来ならさらわれて実験台にされるところを儂等の所に逃げ込んだことで防ぎ、最後には儂がお膳立てしたとはいえ、デューク君の警告の一弾すら受けずに済んでしまった。
こうして列挙してみると呆れる程の悪運の強さじゃ。
じゃが、だからこそ新一は失敗らしい失敗をせずに成長してきてしまった。
これを幸と呼ぶべきか不幸と呼ぶべきかわかれるところじゃが…いや、だからこそ悪運なんじゃろうな。
失敗をしなかったのは紛れもなく幸運じゃが、成長の為の失敗を経験出来なかったのは間違いなく不運じゃ。
正しく悪運というべき運の強さじゃのう。
「ところで不二子君、優作君とは連絡が取れたかのう?」
「えぇ、現地の情報屋に依頼して坊やの状況をリークしてもらう手筈になってるわ。そろそろ連絡が来るんじゃない?」
不二子君の言う通りに儂の携帯電話が震えた。
噂をすればってやつじゃのう。
「もしもし。」
『博士!新一は!?』
「無事…とは言えんが命に別状はないわい。」
『そうですか…。』
優作君もやっぱり親じゃな。
放任気味ではあるものの、やはり新一が心配なようじゃ。
『今、有希子がプライベートジェットをチャーターしているので明日の昼には…。』
「了解じゃ。待ってるわい。」
『貴方、ちょっと代わって。あっ、阿笠さん、新ちゃんを縛り付けてでも確保しておいてくださいね。たっぷりお説教をしないといけないので。それじゃ、また明日。』
電話が切れると有希子君の目が笑ってない笑顔を幻視した。
ぶるる…くわばらくわばら…。
「それじゃ博士、私達は失礼するわね。」
「うむ、気をつけるんじゃぞ。」
愛君にそう返事をすると不二子君が妖艶に微笑む。
「大丈夫よ、今夜はデュークと一緒だから。」
「…ちょっと不二子、今回は私の番よ。」
「いいじゃない、3人で楽しめば。それじゃ博士、あの坊やに入れ込むのも程々にね。」
手を振って彼女達を見送ると、入れ替わる様に儂を護衛してくれる逆木君がやって来る。
逆木君は久し振りに暴れられたからなのか、とても爽やかな笑顔をしておった。
儂はコーヒーカップを手に取る。
そして…。
「やれやれ、みんな若いのう。」
そう呟くと残っていたコーヒーを一気に飲み干したのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
警告の一弾で新一君の目を覚まさせるか最後まで悩みましたがこうなりました。
また来週お会いしましょう。