Side:銭形幸一
「局長!なぜ奴を!ゴルゴ13を追ってはならないのですか!?」
ICPOに出向して奴を追い続けること数年、これまで奴の捜査が中止になる事は何度もあったが、遂に奴の捜査そのものの禁止を言い渡された。
「奴を追って犠牲になった局員は既に数十人にも及ぶ。如何に正義の為とはいえ、これ以上の犠牲を受け入れるわけにはいかない。」
「ですが!」
「……お願い、わかって幸一さん。私は貴方まで犠牲になってほしくないの。」
局長としての顔から妻としての顔になったジャスミンに俺は二の句を告げない。
……ここいらが潮時なんだろうな。
「はぁ……わかった。降参だ。」
「よかったわ。わかってくれて。」
そう言って局長の席を立ったジャスミンは俺に抱き付いてくる。
こんな昼間からと思いつつも受け入れちまう俺は、もうすっかり嫁さんの尻に敷かれちまってるんだろうなぁ。
ジャスミンとこういう関係になったのは一年前だ。
ICPOに出向してから組んでいた相棒が奴に殺された事で弔い酒を飲んでいたんだが、俺は強かに酔っぱらって同席していたジャスミンに手を出しちまった。
幾ら酒の勢いとはいえ、手を出しちまったなら責任は取らにゃならん。
俺は直ぐにジャスミンの両親に頭を下げて入籍し、半年前には結婚式を挙げて同僚達に盛大に祝われた。
思えばあの時からだろうな。
俺が刑事としての正義を貫けなくなったのは。
一人の男としてジャスミンを幸せにする責任を背負うと、俺の背中にはもう他の何かを背負う余裕は無くなっちまっていた。
我ながら情けないと思う。
だが嫁さん一人幸せに出来ない男が、刑事として他人の幸せを守れる筈もねぇ。
さっきも思ったが、ここいらが潮時なんだろうよ。
ジャスミンを抱き締め返すと俺はゴルゴ13を追い始めた切っ掛けを思い出す。
切っ掛けはまだ新人だった頃の俺の世話をしてくれた先輩の死だった。
先輩は直ぐに東都の本部に栄転しちまったからそう長い付き合いでもなかったが、それでも俺に刑事としてのイロハを教えてくれた人だった。
だからこそ先輩が死んだ事件を捜査して仇をとろうとしたんだが、管轄違いもあって直ぐに上から捜査中止を言い渡されちまった。
それでも諦めきれなかった俺は暇を見付けては捜査を続けると、時の首相でさえ頭が上がらないと謳われる政財界の大物に行き着いた。
その人物は俺を招き入れると愉快そうに笑いながらゴルゴ13の事を語った。
警察はおろか自衛隊ですら止める事は叶わない、世界最高のテロリストであると。
そう語って嘲笑する様に笑った件の人物は、数日後に眉間を撃ち抜かれて死亡した。
そしてその事件は最低限の捜査の後に、驚くほど早々と捜査を打ち切られた。
それでヤツを追うには日本の警察では不可能だと見切りを付け、俺はICPOに出向した。
だが結局のところあの死亡した政財界の大物が語った通りに、奴を逮捕する事は叶わなかった。
小さくため息を吐いた俺はジャスミンに話し掛ける。
「奴を追わん事には納得したが、それではどうするんだ?対外的に何かしら理由がいるだろう?」
「ふふ、もう当てはあるわよ。」
そう言って離れたジャスミンが一枚の書類を差し出してくる。
「……ルパン三世?」
書類には猿顔の人物の名前と写真があった。
「怪盗アルセーヌ・ルパンの孫を自称する男よ。予告状を送ったりして派手にやってるから有名になってきているの。真偽は定かじゃないけどアルセーヌ・ルパンの孫というネームバリューは、対外的な理由として十分に使えるわ。」
書類にはルパン三世が盗んだ物が列記されている。
なるほど、随分と派手にやっているみたいだな。
「ジャスミン、こいつの居所は?」
「ニューヨークで見たって情報があるわね。彼の目的は不明。これ以上は現地に行って情報を集めないとわからないわ。」
「そうか、後は任せておけ。」
書類を返して踵を返す。
「幸一さん。」
ジャスミンに呼び止められて足を止める。
「帰りを待っているわ。二人で。」
そう言ってジャスミンは腹に手を添える。
俺はジャスミンに歩み寄ると彼女を抱き締める。
「直ぐに帰ってくる。」
「無事に帰って来てくれればそれでいいわ。」
「あぁ、それじゃ行ってくる。」
愛する嫁さんに見送られニューヨークに向かう。
俺も遂に父親か……。
待ってろよ、ジャスミン、俺の子。
父ちゃんは手柄を挙げて帰ってくるからな。
相棒の形見である機械式腕時計にゴルゴ13逮捕を諦める事を謝罪し、俺はニューヨークへと向かうのだった。
◆
Side:ルパン三世
「へ~っくしょん!」
「どうしたルパン、風邪か?」
「な~に言ってんだよブラッド。何処かでカワイコちゃんが俺の噂をしてんのさ。」
「はっ、言ってろ。」
ニューヨークのとある高級ホテルの近くにある喫茶店でコーヒーを飲んでいると、不意に鼻がムズムズしてくしゃみをしちまった。
体調は万全だから誰かが噂をしてんだろ。
それがカワイコちゃんとは限らないのがこの商売の辛いとこだ。
「ルパン。」
ブラッドの小声でそれとなく高級ホテルの入り口を見る。
するとそこにはデューク・東郷の姿があった。
「こりゃまた随分とスッキリした顔をしちゃってまぁ。ムッツリした顔をしてやる事はしっかりやっちゃってんだから東郷ちゃんは。」
「それもその相手があんないい女なんだからな。流石は裏の世界ナンバーワンってところか。」
昨日東郷の部屋に入っていった女は、俺とブラッドが揃って身震いする程のいい女だった。
あの女が東郷の女じゃなけりゃ確実に口説いてたぜ。
「それで、どうすんだルパン?」
「どうもこうもないってぇ。今回も空振りだぁ。」
こうして俺がそれとなく東郷を張っているのは昔に受けた恩……借りを返す為だ。
それも借りは一度じゃなく二度もある。
一度目は数年前、俺がまだ駆け出しのルーキーだった頃だ。
当時の俺は名を売ろうと躍起になっていて、無謀にもカリオストロの城に忍び込んだ。
カリオストロ公国は小国だ。
それでありながらヨーロッパでかなり幅を利かせている。
その秘密を探ろうとしたんだが、しくじって死にかけた。
そして死にかけていたところを東郷に助けられた。
二度目はカリオストロ公国での傷が癒えてからの復帰戦だ。
俺はとあるダイヤを狙ってたんだが怪盗キッドと現場でバッタリ出会っちまうと、二人揃ってそのダイヤを狙ってた【黒の組織】に殺されかけた。
そこをまた東郷に助けられちまった。
礼の一言でも言おうとしたんだが、奴は『……仕事だ。』って言ってさっさと退散しちまった。
あの一件の後でキッドは引退。
俺はこうして借りを返す機会を伺っている。
まさかこのルパン三世ともあろう者が男の尻を追い掛けるはめになるとはなぁ……。
「さ~て、そんじゃ仕事すっかぁ。」
「ルパン、賭けは覚えてるよな?」
ブラッドの問い掛けに俺は笑って答える。
「もちろんさぁ。【ガルベス一家】が所有する【クラム・オブ・ヘルメス】を頂いた方が一味のリーダー……だろ?」
俺とブラッドは今まで誰とも組まずに仕事をしてきたが、名が売れるに連れて一人でやるには限界を感じる様になった。
ブラッドとは商売仇だが気心が知れた親友でもある。
そこで俺達は組む事にしたんだが、どっちも一味のリーダーになる事を譲らず、こうして賭けで決着をつける事になったわけだこれが。
「覚えてるならいいさ。」
立ち上がった俺達は拳を合わせる。
「しくじんなよ。」
「そいつはお互い様だぜぇ。」
互いに反対方向に別れて馴染みの情報屋の所に向かう。
「……それとなく気に掛けとくか。」
ブラッドは俺と違ってコツコツと小さな山をこなして名を売ってきた男だ。
堅実な仕事で失敗も少ない奴だが、それだけに修羅場の経験が少ない。
だからこそマフィアのお宝を盗む今回の一件ではより一層慎重になる必要があるんだが、どうも今回のブラッドは舞い上がってる様に見える。
「気ィつけろよブラッド。盗人稼業はそう甘いもんじゃねぇぜ?」
立ち止まって振り返るとそう呟く。
そしてポケットに手を突っ込むと、情報屋の所に向かって歩いていくのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また補足という名の蛇足をば…。
・ジャスミン
とっつあんの嫁さん。ICPOの局長。
原作でとっつあんとのエピソードがあったので抜擢。
・とっつあんの相棒(故人)
元は時計職人志望だったスイス人の警部。
オリ主ゴルゴに依頼妨害でギルティ判定された為に射殺された。
彼のキャラ名がわかった人とは美味い酒が飲めそうです。
・ブラッド
ルパン三世の商売敵にして親友。
ファーストコンタクトに登場したキャラ。
原作では不二子の恋人だったが作中で死亡している。
拙作では不二子の代わりに一味入りの可能性が…?
コナンの原作開始前にキャラ紹介を書く予定なので詳細はそちらで。
それとちょっとした裏話をば。
実は第2話のオリ主ゴルゴに殺された小五郎の先輩はとっつあんにする予定でした。
ですが第2話の投稿前に第6話の流れをティンと思い付いた事で生存。
流石はとっつあんの生命力ですね。
それと第6話時点での時系列はコナンは原作4年ぐらい前で、ルパンの方はファーストコンタクト直前なのでルパン一味はまだ出来ていません。
それでは9月にまたお会いしましょう。