ムゲンソードアンドシールド   作:トサカヤキキ

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さいしょからはじめる

「一緒にチャンピオンを目指そうな!」

 

その言葉がいつも私を苦しめる。最初から疑問に思っていたが、その溌剌とした表情と陽気な態度に毒を抜かれて何も言えなかった。

チャンピオンは一人しかなれないんだと。だから先にチャンピオンになった時は次のチャンピオンが貴方で、私はその手伝いか、または他のことで、例えばそだてやさんにでもなれれば良いかなって思ってた。けれど、もう貴方は来なくなった。他の幸せを見つけたのか、既に20年が経っている。

 

「あの時の貴方に会うよ。ホップ」

 

 

・さいしょからはじめる

 

「ホープ!誕生日おめでとう!」

 

橙色の髪に翡翠色の吊り目をした褐色の少年は、キュワワーの姿が模された砂糖人形のついたケーキや、豪華な肉料理に囲まれて、その誕生を祝われる。

 

「もう10歳か!早いな!」

 

あたりには、顎髭を蓄えたホープと同じ褐色で目と髪色以外を生写したような中年、父親であるホップと、目と髪色が全くと言っていいほど似通ったホップよりも一回り大人の女性、ソニアがいた。

 

「ダンデはちょっと遅れるみたいだし、食べちゃおっか」

 

ホップの兄であり、現在、ポケモントレーナーの猛者たちが集い、熾烈に争うローズタワーの支配人である前チャンピオンのダンデは仕事の関係で居ない。

曽祖母であるマグノリア博士は既におらず、核家族と叔父がホープの家族であった。

 

「ありがとう、いただきます!」

 

大きく口を開けて肉料理を頬張るホープにソニアはかつてのホップを見出し、御馳走に目を輝かせる様子にホップはフィールドワークで新たな痕跡を見つけたソニアを想起する。

どこにでもある暖かい家族の愛すべき日、そして、ポケットモンスターのせかいでは、ポケモンを持ち、ジムチャレンジという困難に立ち向かうという始まりの日でもあった。

 

「ヤドラン、いやしのはどう」

 

一方、ローズタワーの最上階で、ジムチャレンジの中でも最たる演目であるチャンピオンカップの打ち合わせが行われていた。一息がついたようで疲労の溜まる面々に、片手に変異したシェルダーを銃のように持った頭頂部が紫色のヤドラン、通称ガラルヤドランがその場にいたものにリラックスと会議で凝り固まった体をほぐすオーラを放つ。

 

「チャンピオン、ありがとう」

 

藍色の長髪と光るような琥珀色の目をした中年、ダンデが礼を言う。

ジムチャレンジ中は、ガラル地方がそのジムチャレンジャーのサポートや試練に回る。普段はローズタワーに来るジムトレーナーや各協賛企業のトレーナー兼従業員が、ジムチャレンジャーに世間の職業を教える名目で指定の場所に立ち、バトルを仕掛けるため、ローズタワーの来訪者もスタッフも少なくなるため、その調整に出向いていた。

ジムリーダーもまた、メジャーリーグとマイナーリーグと分かれており、メジャーリーグはその都度戦績や昨年の申請された突破率予定との齟齬などといったものから8人が選出され、ジムリーダー全員が集まり、マイナーリーグ降格の是非を聞いていた。

 

「もう19時ですか。そろそろ一段落しましたし、明日も早い方もいらっしゃるのでお開きにしましょう」

 

一目で高級とわかるスーツに、柔和ながらも壮絶な人生を物語る落ち窪んだ老け方をした初老の男、前々ガラルポケモンリーグ委員長であり、2度目の就任となったローズが解散の意を示す。

それに対して殆どのジムリーダーが同意する。かくとうタイプは朝の鍛錬、草タイプは家業の関係で、ほのおタイプは抗えぬ年齢により、フェアリータイプ前任者の介護のため。それぞれのルーティンがあり、ポケモンや他人が関わると、それを犠牲にするわけにはいかなかった。

 

「では失礼するよ」

「チャンピオン、睡眠不足はお肌の敵よ」

「ぼくもターフタウンは少し遠いんで」

「ポプラさんが待ってますので」

「では、失礼します」

 

かつてチャンピオンが齢10歳の時に打ち負かしたジムリーダーたちや、同じジムチャレンジャーであった現ジムリーダーが退出し、そこにはチャンピオンである茶色の髪に白いマクロコスモスのロゴのついたマントを羽織った少女のような女性、ユウリとローズ、ダンデ、ローズとユウリの秘書である化粧により疲れを隠しながらも涼しげな顔で佇む女性、オリーブが残った。

 

「チャンピオン、お疲れ様です」

「いえ、仕事ですので」

 

チャンピオンになり、20年近くが経とうとしている。にも関わらず、10歳の頃からそのまま2、3年老化しただけのように見える外見のユウリは、ヨロイジマで加わったヤドランをボールに戻し、人心地つく。

 

「今年もなんとかシャツチャレンジを始められそうですね」

「俺の頃より様になってるな」

「ローズ様とチャンピオンの手腕が有れば当然かと」

「皆さんのサポートのおかげですよ」

 

ローズがかつて引き起こしたブラックナイトと呼ばれる人為的な天災の後処理、ローズタワーを改装し、敏腕トレーナーが集まるバトルタワーの設立、ダンデと同じく最年少のチャンピオンの就任と目白押しであったポケモンリーグは、表向きはわずかの期間で収束した。

チャンピオンであるユウリは、チャンピオンとしてふさわしい体力を身につけるためという理由から、ポケモン道場のあるヨロイジマと、その後はチャンピオンレベルが相応しいという調査難易度とされた冠の雪原へ行き、力を蓄えたとした。

実際は度重なるアクシデントとマスコミからくる重圧から、若いチャンピオンを逃す目的と、チャンピオンが赴いたポケモン道場という新たなジャンルと伝説と称されるポケモンが多数存在する雪原に関心を向けさせるためのパフォーマンスでもあり、かつての規模でジムチャレンジが行われたのは、3年後のことであった。

その停滞した影響と世間からの風当たりで未だにジムリーダーが変わっていない。50年以上ジムリーダーを務めたポプラは例外としても、20年間複数のジムリーダーが変わらないというのは、それだけ世間がジムリーダーを目指さなくなったという裏返しでもあった。

 

「今年のジムチャレンジャーにはホープもいるから見逃せないな!」

 

ダンデが甥のことを高らかに話題にあげる。ユウリの表情は変わらないが、オリーブの眉は、化粧によって殆どが書かれているにもかからずピクリと動き、ローズは指をぴくりと動かす。

ユウリはおもむろに、モンスターボールを取り出し、正面に座っているダンデに手渡す。

 

「では私からの激励ということで。推薦状はダンデさんからでしょう。私が頂いたように彼にも。私は残務がありますのでこれで」

「私もチャンピオンの補佐で」

「お疲れ様です」

「またバトルしようぜ!」

 

足早に席を立つ2人が居なくなると、残された2人もゆっくりと席を立ち、エレベーターへ向かう。

 

「さて、チャンピオンの心労にしたくない話をしましょうか」

「ジムチャレンジャーからねがいぼしを奪おうとする連中か」

「ええ。確かムゲン団、とは言ってもその過激派とのことですが。注意してください。それでは」

「ああ、来週の開会式で」

 

ダンデは屋上に向かい、ローズは下層に行く。ダンデはリザードンによる移動を行ってアーマーガアのタクシーよりも早くホープ一家の元へ行く予定だ。

 

「いくぞ、リザードン。バースデータイムだ」

 

往年の傷痕が多くなったリザードンを繰り出す。キョダイマックスが出来る特殊な個体ということで、その影響か老いを感じさせず、むしろ傷さえも少年の擦り傷のような生命を感じさせる。

ダンデは、その上質な燕尾服じみた服装の上から上着を着込み、そらをとぶ。

20時に差し掛かろうとした時に、ホープの住まいのチャイムが鳴る。ホープは勢いよくドアに走り、来客を出迎える。

 

「ダンデ伯父さん!」

「ホープ、遅れてすまない!誕生日おめでとう!」

 

似通った調子をもつ2人は高いテンションで笑い、ダンデはホープを胴上げする。

 

「兄貴、お疲れ様」

「今日は道に迷わなかったの?」

「ホップ、ソニア。今日はリザードンでまっすぐ来たから迷ってないぞ!」

 

誕生日パーティーの第二幕がはじまる。

 

 

「そうだ、ホープこれが推薦状だ」

 

ダンデからジムチャレンジの推薦状が渡される。ホープはそれを大事そうにジムチャレンジ用の鞄に詰める。

その様子にポップは、何ヶ月も前からこれなんだと苦笑し、ダンデはかつてのホップみたいだと笑う。

ひと段落し、ダンデはホープの手持ちがいるかをホップに尋ねる。

 

「いや、いないぞ。俺のザマゼンダとはよく遊んでるけどポケモンをバトルしたことも捕まえたこともない」

「そうか、それは良かった。実はユウリからホープへのポケモンを預かっててな」

「ユウリが!なんか嬉しいな!」

 

まるで年齢を感じさない兄弟の会話を、隣でほんの少し微妙な顔つきながらも安心したようなソニアがコーヒーを啜る。夜であるが、論文の執筆をしたいがためだ。

ダンデは、ホープのところに向かい、モンスターボールを見せる。

 

「ホープ!チャンピオンからのプレゼントだぜ!」

「まじで!チャンピオンから!やったー!」

 

ホープはチャンピオンについて知っていることは、「無敗の女王」「無限の若さと力を持つもの」「全ての強さをもつもの」とユニフォーム姿を知っている程度で、ホップの幼馴染みということは伏せられていた。それはホップたちのホープがそれを自慢してやっかみを受けるのを防ぐためでもある。ダンデも非常に大きな功績はあったが、それ以上に圧倒的な強さと姿の変わらない神話性がガラル地方と伝統と実力を重んじる風潮で神格化されており、ダンデが国民的アイドルで有ったならば、ユウリはガラルの象徴であった。

 

「よし、ホープ、ボールを開けてみるんだ」

「うん!出てこい!ポケモン!」

 

「ヒバーー!」

 

 

ホープがモンスターボールをなげ、眩い光線とともにポケモンが姿を表す。それは、真っ白な体に赤いコントラストの入ったポケモン、ヒバニーであった。

ホープはヒバニーをてにいれた。

 

「ヒバニーか!速さと攻撃力が高くなるほのおタイプのポケモンだな」

「ホープ、今日はヒバニーと一緒に寝たらどう?ポケモンはまず仲良くなるのが大切よ」

「うん!分かった!」

 

楽しい時間は過ぎ、ホープが普段眠る時間に至る。

 

「それじゃあ俺は帰るぜ」

「ああ、ありがとう兄貴」

「ジムチャレンジャーの活躍、楽しみにしてるぜ。ホープ」

「うん!俺がチャンピオンになるんだ!」

 

その声にかつての自分たちを思い出し、ホップ兄弟は快活な笑みを浮かべる。ソニアも柔らかな笑みを浮かべ、ダンデを見送る。

 

・なぞのばしょ

 

「良いのですか?恋敵だった人の子にあのポケモンを与えて」

 

仕事を終えたローズは老いによって軋む体を動かし、とある場所に至る。数多の願い星が巨大な試験管に浮かび、柱のようになっている。その神殿を思わせる室内には手で何かを掴むような刺々しいデザインが描かれている。

 

「初恋だった人の子にポケモンをあげてるんです」

 

後ろ姿は少女であるが、その声は哀愁が浮かんでいる。その手には天高く手を伸ばし、ポーズを決めるホープによく似た少年のリーグカードがあった。

 

「ホップ、貴方の夢叶えるから」

 

その女性の瞳は、何よりも薄暗かった。

 

 




幻覚商品紹介

さいしょからはじめる、を選択して言語設定や漢字設定を行うのですが、その後、見た目の設定があり、女の子っぽい見た目を選択すると、冒頭のチャンピオンの夢が変わります。
プレイヤーの性別でシナリオが少し変わりますが、本筋は変わりません。RTAではデフォルトのホープ君が一番早いと言われていますが、あえて女の子みたいな見た目を選んで最速記録を出す走者アニキもいるみたいですね。
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