ワイルドエリア編
ジムチャレンジ期間におけるワイルドエリアは、バッジの数によって登録されたエリアのみが立ち入りできるようになっている。一方で立ち入りできないと認識された箇所からは、スマホロトムによる警告と近隣に配置されたジムトレーナーたちがすぐさま駆けつけるものである。
オニオンとの戦いでジムバッジを4つ手に入れたホープは、ワイルドエリアの新たな箇所に立ち入った。
それまでは人の手が若干入っていたため、珍しいポケモンは少ないがある程度ジムトレーナーと戦うには充分強いポケモンがいた。しかし解放された箇所からは既に生々しい破壊光線の跡や、縄張り争いの後であろう乾ききっていない血が地面についていた。
ホープは警戒のためにイオルブをボールから出し、警戒に当てていた。そのイオルブがかつてない危機を察知したのかホープを引っ張ってその場から逃げようとする。
「どうしたイオルブ…うわあああああ!」
後ろからバンギラスが走ってきたのだった。ジムバッジの数で管理されているとは言え自然界は簡単に人が立ち入るものではなく、往々に強いポケモンが跋扈している。
特にバンギラスを始めとするポケモンは縄張りを広げることが目的と言うこともあり、実力が伴わないトレーナーが被害に遭うと言うことも少なくない。
特にバンギラスは縄張り意識が強く、敢えて自身の戦いの痕を残し、マーキングとする。地面タイプであるがゆえに発汗機能が乏しく、表皮もサナギラスを経ているため、エナメル質でコーティングされているからだ。
そのため、砂漠などの水分補給の手段が乏しい環境で生き残れる反面、糞尿の頻度も少なくマーキングが自身の破壊痕となる。ホープが見た戦いの痕は、丁度縄張りを広げて活気立っている場面であった。
「うわああああああ!イオルブ!サイコキネシスで俺たちを軽くして摩擦を少なくするんだ!」
ホープはイオルブを背中に張り付かせ、強力なねんりきによって重力と摩擦を軽減させる。人間とは思えない速度での疾走を可能にして逃走を試みるが、子供の身体能力であるホープは徐々に迫られる。
幸いにも、はかいこうせんは、自身の生命エネルギーを単純な熱と光に変換して発射するため、リチャージに時間がかかり、バンギラスはホープにはかいこうせんは発射してこない。しかし、獰猛に光る目で辺りを破壊しながら追いかけていることから、あばれるによって身体能力をさらに引き上げているのがわかった。
(ルンパッパは雨が降ってないとこの速さについて来れないし、ラビフットは耐えきれない!タチフサグマは進化したばっかりで体に慣れてないからブロッキングが未完成だしどうすれば)
岩タイプであるバンギラスにとって有能なのはラビフットのにどげり、ルンパッパのバブルこうせんだが、圧倒的なレベル差では威嚇程度にしかならないと判断し、逃げに徹する。
「ブリムオン、マジカルシャインです」
何処からか透き通った声が発せられ、バンギラスに向かって眩い閃光が発射される。その光線によってバンギラスはその暴走を止められ、地面に倒れる。
「…毎年のことながらジムチャレンジャーにワイルドエリアを散策させるのは危険ですね。エリートの僕みたいなのでなければ」
傲慢なセリフとともに、濃い紫のコートを羽織り、フェアリージムのユニフォームを着た細身の青年が、息を切らすホープの前に歩み寄る。
「どうぞ、おいしいみずです。ポケモンを担いで逃げる姿は中々ピンクでしたよ」
ピンクとは、と言葉が出かけるが、助けられた恩人にそんなことは言えず、ホープは渡されるペットボトルを開けて片手に水を溜め、イオルブの皿代わりにして自分も水を飲む。
「プハァ。助かりました」
「いえ、これも仕事ですから」
ぶっきらぼうに見えるが、よくよく見ると、若干誇らしげであり、彼なりの「気にするな」という言葉であるとわかるとともに、嬉しがっているのが見て取れた。
「というと、ジムリーダーですか?」
「ええ、アラベスクタウンの、ジムリーダーの中で最もピンクで有名なビートです」
ピンクという単語に哲学を感じ始めたホープに対し、ビートは一つ咳払いと注意喚起をして、ホープに向き直る。
「ジムで待っていますよ」
そう言ってアーマーガアタクシーを呼び、それに乗り、アラベスクタウンの方向へ過ぎ去ってゆく。
アーマーガアタクシーに乗ったビートは、ホープの表情を思い出し、かつてのホップの面影を見るが、まったく別物の感情を有していることがわかった。
「漠然と妄信的に兄を追っていた父親よりは中々いい目をしていましたね。ちょっと意地悪なクイズを出したくなってしまいました」
オニオンにポケモンとの距離を正す意向があるように、アラベスクタウンはポケモントレーナーとして、人としてのあり方を示す意向がある。ポプラはそれを、知識、自分と戦ったものへの敬意、想像力、相手への下調べ、マナーと気遣いの5つの質問で計っていたが、ビートは元来の処理能力の高さからチャレンジャー、一人一人に合わせて質問を作っている。
「そういえば今日はユウリもワイルドエリアに来ていましたね」
チャンピオンと直であったチャレンジャーがどのような反応をするか意地悪そうな笑みを浮かべてビートは帰路に着く。
一方、ワイルドエリアの中でも比較的凶暴なポケモンが少ない場所にユウリはいた。手持ちは既に固定されているため、ポケモンを捕まえるためでも、チャレンジャーへのファンサービスをするためでもなく、ただ、呆然とテントを張って、普通の人間ならば飲みきれないような濃さのコーヒーを啜っていた。
その瞳は完全に濁っており、覇気すらも感じられない。格好は、マスコミやファンから逃れるために変装したグローリアの姿である。
「今年も失敗か」
ホープがオニオンとバトルしている間、チャンピオンとキバナのエキシビジョンバトルが行われていた。
「キバナさんもなんかゆるくなった」
キバナの手持ちはファイナルトーナメントに近い、コータス、グリムガン、フライゴン、ヌメルゴン、ジュラルドンであったが、その全てをガラルヤドランで対応してしまったため、今の手持ち情報が公開されないままとなってしまった。
ダンデがチャンピオンの時は、善戦し、ファイナルトーナメントで対策し、ギリギリの戦いをするというものであったが、ガラルヤドランしか公開できなかった。
「本当に、劣化しかない」
チャンピオンとして、リーグの劣化に怒りがふつふつと湧いてくる。5年目はまだ「勝ってしまったら、ローズ委員長の爪痕を直させて、自分の見せ場のためのお膳立てさせただけになるな」くらいの気概があったが、10年でチャンピオンを目指さなくなるメジャーリーグが増え、15年ではチャンピオンという枠が目指すものから外され、今ではチャンピオンという選択肢が稀になっていた。
それが顕著なのがキバナである。キバナは20年来のファンを多くを持っており、資産だけでいえば、少し派手に生活しても遺産が残せる程度にはある。覇気が少なく、それをキャラクターによって悟らせないようにしている。
かつてのキバナを知る面々からは、なんとなく、原因を察しているため、チャンピオンの手前叱咤出来なかった。
「やっぱり私がいなかった方が」
キバナの生涯のライバルはダンデであり、チャンピオンではなくなった瞬間、キバナの目標が喪失した。ダンデの強さは折り紙付きであり、ユウリがダンデをファイナルトーナメントに招待するたび、接戦を繰り広げていたが、そのたびにダンデはユウリに蹴落とされ、目標の最高峰としていたダンデが2番目になったことから、キバナは燃え尽きてしまった。
「…」
燃え尽きたトップジムリーダーよりも弱いジムリーダーしかいないリーグを興行として成功させるため、ユウリは固定メンバーで常に戦いに勝利することはせず、常にエキシビョンマッチでメンバーを見せ、対策を取らせ、変化で観客を沸かせ、有利タイプのジムリーダーに期待の目を見せていたが、この頃は最初の1匹を見せるだけにとどまっている。
「っ…ヤドラン、いやしのはどう」
これからのメジャーリーグやその他の大量の問題を考えると、陰鬱な気分になり、吐き気に襲われる。常となったヤドランによるいやしのはどうで治療するが、気分の回復は芳しくない。
肉体が成長しないことと、チャンピオンという激務から専属の医療チームが存在するが、肉体が成長しないことよりも深刻と診断されたのが、精神の消耗である。現状、抗鬱成分が高い薬品は肉体年齢が10代前半ということと、チャンピオン本人の副作用による体型の崩壊を懸念し、いやしのはどうを使うことが決められた。
しかし、ルカリオやサーナイトと言った、相手の心やオーラまで読む上に人間に近い知能を持つポケモンはいやしのはどうを使う前に、ユウリを気遣い、仕事そのものを妨害する。そのため、ヤドランのようなあくまでトレーナーの心配はするが、きのみをあげる程度しかしないポケモンが抜擢された。
それでも根本的な解決にはならないため、こうして自然の中にいることにより気晴らしを行なっていた。
「そこにいるのはグローリアじゃないか?」
ふとその言葉の方向に向くと、ホープがいた。靴は泥まみれであり、はねた泥がズボンに付いている。おおよそワイルドエリアでバトルを繰り返したとわかる軽い怪我をつけていた。
「久しぶりね。ホープ」
ホープと合流してから、ユウリはグローリアとしてホープの近況を聞く。オニオンとの接戦の途中で、イオルブを時間稼ぎのように使ってしまったことを悔いているようだった。
「どうしても勝てない時、取り返しがつかない時は、そうするしかないと思う」
「そうなのか…でもやっぱり相棒には活躍してほしいぞ」
そう言ってイオルブの頭を撫で、ホープはしばらく話し込んだ後、グローリアのコップに目がゆく。
「おれも一口貰ってもいいかな?」
「いいよ。でもだいぶ濃いけど…」
「大丈夫!父さんも濃いコーヒー作るけどうまかったぞ!」
研究者特有の忙しさを、カフェインによる覚醒のために生み出されるエスプレッソよりも少し濃いコーヒーを渡す。
魔法瓶から注がれる炭を溶かして練ったような濃さと、コーヒーメーカーの中にいるような濃密な匂いがホープの鼻腔をくすぐる。
「…これ、うまいのか?」
「?これぐらいじゃないと味がわからないでしょ?」
ガラル地方の料理は基本的にカレーか出された料理に自分で酢や塩で味をつける方法がメインである。そのため、濃い味に慣れすぎた人間もいるが、病的なまでの味覚音痴はいない。加えて、ホップからの情報で、かつて共にホップが食べたフルーツの多い甘いカレーのレシピを得たが、ごくごく一般人の味覚に合わせたものだった。
つまり、ユウリは確実に味覚障害を患っており、その理由が、チャンピオンになって以降であると分かる。
ホープは、そのコールタールのようなコーヒーを舌先で少し舐める。激しい苦味と舌を刺すような刺激が伝わり、眉間にシワを寄せる。それを何でもないように、アメリカンコーヒーを飲むようなスピードで飲み込むユウリを見る。
「チャンピオンって大変なんだな」
「!…」
ふとグローリアではなく、ユウリを心配する言葉を出してしまい、慌てて口を塞ごうとするが、グローリアの、ユウリの見開いた目を見て硬直してしまう。
明らかに動揺した表情の後に、すべてを諦めたような優しさを含んだような切なそうな顔を見せる。
「…ごめんなさい。騙していて」
「い、いや!そんなことないぞ!チャンピオンだとしがらみも多いだろうし仕方ないと思うぞ!」
「…」
その言葉がどこか琴線に触れたのか、表情を変えることなく、涙が先行したように、ユウリの瞳から大粒の涙が溢れ出る。
「ご、ごめん!なんか変なこと言ったか?!」
「…ううん。嬉しい、の、かもしれない」
チャンピオンの重圧の中、かけられる言葉は称賛、畏怖、嫉妬のどれかであるが、心配をする人間はいない。ジムリーダーでさえも、会食の時、タバスコを一瓶使い切るようなペースで食物にかけるユウリに、何も言わなかった。それは、何かの拍子に、爆発しそうで危うかったことが大きい。ビートであれば違ったが、第二の育て親であるポプラの介護のために接点は少ない。
メディアの露出も、完璧なチャンピオン、女帝のイメージとそつなくこなす姿から、労働時間に疑問を持っても、『チャンピオンなら大丈夫』という悪意に近い固定観念があった。
その中でかけられる言葉は、ユウリにとって砂漠の中のオアシスのようなものである。
「そ、そうだ!もうすぐ夜だしカレー作らないか!」
「…ありがとう。手伝いは何を」
「俺が全部するから待っててくれ!サッチムシとヒバニーと出会わせてくれたお礼がしたいんだ!」
「…うん」
意外にもあっさりと自身の正体がバレ、その上で認めてくれたホープに張り詰めた感情をとかれ、そのまま溶けた化粧を直しながらユウリはカレーの作られるのを待つ。
ちびちびと飲むコーヒーはいつもよりも濃く感じられ、本来の苦味が感じれた。
「できたぞ!トッピングは好みが分かれるからつけなかったぞ!」
しばらく待って出てきたカレーはスタンダードなサフランライスに粘性の高い小麦粉によるトロミの付いたカレーである。絵に描いたようなカレーライスに破顔しながら、自信満々の表情を浮かべるホープの前で、サジを取る。
「いただきます」
お互いに挨拶して、カレーを頬張る。髪が垂れるのを手で押さえる姿に色気を感じたホープは米粒を少し落としながら口に入れ、それに気づかないユウリは先ほどよりは敏感になった舌で真心の味を探る。
「!」
「どうだ?うちの秘伝のレシピ」
その味は思い出とともに薄まってはいたが、それでも今の鈍感な味蕾でもその味と全く同じと判断できた。
それがソニアの作ったカレーと全く同じならばこそのものであった。
「…うん、美味しいよ」
「濃い目に作っておいてよかったぞ!」
そう言って自身はライスを多めにしたカレーを食べながら、相槌を打つ。声が震えていないか不安になっているユウリに対して、万遍の笑みを浮かべるホープの害意のなさに一層心の中にある思い出が刺激され、喉からこみ上げるものがあった。
濃い味が故に、ホップとともに食べた自分の好みである甘いカレーではなく、ソニアのレシピを美味そうに摂食するホープに対して、かつてのホップを想起し、動悸が起こる。
徐々に味を感じなくなるのをごまかすために急ぎ目に食べ終わり、洗い流すようにコーヒーを啜る。
「ありがとう、ちょっと仕事があるから行くね」
「ん?そうなのか!お疲れ様だぞ!」
ユウリは、ボールからアップリューを繰り出しそのままアップリューの下半身に手をかける。
小さい体からは想像できない豪風を羽ばたきによって生み出すアップリューは、そのまま一直線にユウリとともにエンジンシティの方角に飛び立つ。そのジェット機のような姿に、チャンピオンのポケモン然とした強さと風で揺らめく髪と服に憧憬をホープは感じた。
その後ろ姿を見せるユウリの瞳にある、何か決意を固めたような表情と頬を伝う涙をアップリューは悲しそうな目で見た。
幻覚システム紹介
RTAでは有名なユウリさん曇らせオラ!カレーですが、作成前にどんなカレーを作るかの選択肢があり、いつものカレー、甘いカレーとタウリンカレーがあります。いつものカレーが一番イベント時間が短く、ほんへ進行のフラグが立ちやすいことから選択不可避ですね。
普通のVの人とか一般実況アニキはチャンピオンは甘いカレーが好きというホップの発言から、甘いカレーを選ぶ場合が多いですね。しかし甘いカレーにするとユウリは味を感じにくいのでイベントは長く、フラグ管理が一定のままになり、長期間の配信を余儀なくされます。まさかここまで計算して…
タウリンカレーは、今作から栄養剤をカレーにぶちこむとパーティ全員に対応する努力値が5、最大100まで振れるという謎仕様になっているのでその紹介ムービーが流れます。最初のポケモンがメッソンだとリゾチウムカレーになります。頭おかしいんじゃないかな?これもフラグが進まないのでネタ枠として存在します。