ムゲンソードアンドシールド   作:トサカヤキキ

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ブラッシータウン

グローリアとホープがブラッシータウンに着いたのは夕方になってからだった。途中でグローリアにジムチャレンジ中というのを伝えるとバトルのために駐在していたいろんなトレーナーに片っ端からホープとバトルしてほしいと頼んだのだ。

そこからはヒバニーとサッチムシを交互にバトルさせ、グローリアが回復していった。時折寂しそうな顔をするグローリアだったが、バトルの時はド拙いバトルであっても目をギラつかせて見ている。

それを確認するたびに恥ずかしそうにして隠す様子が可愛らしかったため、ホープも満更でもなかったし、元々好戦的なヒバニーや、褒められることが好きなサッチムシはバトルしていった。

道草を食ってはいたが、10歳にしては小金持ち程度になり、鍛えられた二匹は昨日よりもたくましい。

ブラッシータウンもまた、ジムチャレンジャーが最初に辿る街とあって、駅前は拡張されており、出店も並んでいる。

 

「私は電車に乗るからここで」

「ああ!それじゃあこれ渡しとくぞ!」

 

グローリアに、ホープがポケットからリーグカードを手渡す。はにかんだ正面の構図という、いかにもジムチャレンジャーという写真には39の背番号が書かれていた。

 

「ありがとう」

「グローリアのリーグカードはないのか?」

「ごめんね、今日は持ってないの」

「そうか、じゃあまたな!」

「うん」

 

そう言い残してグローリアは駅の方向に歩いていった。ホープはその足のまま自宅に向かう。

 

「というわけでムゲン団っていうやつがいたんだ」

「なるほど、これはリーグにも情報として挙げておく必要があるな」

 

ホープがブラッシータウンに帰ってきたとあって、ホップとソニアは1日ぶりの我が子を出迎え、夕食をとっていた。ホープがキャンプをする時に備えてと、家族全員で作ったカレーだ。

ザマゼンダは基本的に気ままに過ごしているため、夕食にはおらず、2番道路の研究所にいるようで、家族3人の団欒となった。

 

「けどムゲン団ってそんなことする団体かしら」

「おそらくムゲン団を語ったチンピラってこともありえるな。ムゲン団は基本的に福祉活動とエネルギー研究ってくらいだからな」

「ヘェ〜。じゃあ何でわざわざムゲン団って名乗るんだ?」

「うーん。ムゲン団の支援Tシャツがホープが言ってた2人の服装と同じだから、マクロコスモスとかジムトレーナーと名乗るよりは楽なのかもな」

 

ホップは頭を傾け、腕を組みカレーのスプーンをペンのように揺らしながら考え込む。ソニアはカレーが付くと一喝し、再び食卓に戻る。

ヒバニー達も初めて食べるカレーの味に舌鼓を打っていた。

 

一方、エンジンシティのジムでは、ヤロー、ルリナ、カブ、そしてユウリが会議室で話し合っていた。

 

「1番道路でムゲン団が…」

「マクロコスモスの子会社に調べさせたところ、2人組はムゲン団とは関係なく、単なる支援者Tシャツを買って成り済ましていただけのようです」

「迷惑な連中ね」

「しかし、同意の上での報酬設定では僕たちもあまり口が出せないね」

「まあ無難なのはバトルでは基本のファイトマネーにしましょうという喚起ぐらいじゃろな」

 

支援者Tシャツを正規に購入している以上、ムゲン団の支援者であり、ムゲン団の団員としても成立するのがムゲン団のスタンスであるため、ファイトマネーも財源の一つであるジムリーダーたちもファイトマネーはかくあるべきと言えない立場である。

とくに、ヤローやルリナは商談としてバトルで、どれだけ食いつければ割引するということも往々としてあるため、制限を設けることはできなかった。

落とし所を早々に見つけた面々に対して、ユウリは問いかける。

 

「ほかに何か問題は起きてはいませんか?」

「エンジンシティにはまだチャレンジャーすら来てないから問題はないね」

「同じく、ただムゲン団で言えば福祉施設でワイルドエリアでチャレンジャーが入手したものを換金するサービスをしてるわ」

「ターフタウンじゃ2,3人血気あるのと常連がきとるの。今のところ申請した通過率を維持ですな」

「わかりました。引き続きよろしくお願いします」

 

そう言ってユウリは立ち上がり、会議室を後にしようとする。

 

「ねぇチャンピオン、今から私たちで食事に行くのだけれど、一緒にいかがかしら」

「…ではご一緒させて頂きます。待ってる家族もいませんので」

 

ユウリはカバンの中にあったゼリー飲料を飲む機会を失った。

 

 

「ふうー。満腹だぞ!」

 

ホープは何杯ものカレーを食べ、腹を膨らませている。その様子をホップはテレビを見ながら苦笑している。ソニアは入浴しており、男2人並んでいる状態だ。

 

「どうだ、チャレンジャーで可愛い子はいたのか?」

「え、そそそそんなことはないぞ!」

「分かりやすいな。どんな子だ?言っておいて損はないぞー。初恋大変だからな?」

「初恋って…。うん、まあそうだよな。別に父さんに知られてももうブラッシータウンにはいないし、言うよ」

 

子供の成長は、ジムチャレンジにありと言った様子でホップはホープに尋ねる。ヒバニーやサッチムシの様子からバトルによる経験はあったが、内面での成長はわからないためだ。

かつてのビートのように実力はあっても精神が捻くれたまま暴走したように、力は中途半端にある子供大人になって欲しくない親心があった。

 

「…茶髪が肩まであって、茶色の目で、あとバトルが好き」

「…」

 

ホープの繰り出す言葉にホップは一瞬唖然とするが、すぐに戻り、笑い出す。

 

「なんだよ父さん」

「いや、まるで俺の幼馴染みみたいでな」

「…幼馴染み?」

「ああ、すごく強くて、甘いカレーが好きで、茶髪で茶色の目をしたバトルが好きな子さ」

「えー、父さんと同じ趣味してたのか俺って」

「いや、俺はその子のことをただのライバルだと思ってたからな!」

「ふーん、その人は今どうしてんの?」

「聞いて驚くなよ!なんと20年もガラルのチャンピオンをしている!」

「マジで!ってことはチャンピオンのユウリ!信じられねぇ!あんなすげぇ気迫の人と?!」

「ははは、ユウリはポケモンが絡むと凄い気迫だからな!」

 

たわいない雑談をしていると、テレビが生放送に切り替わる。レポーターがジムチャレンジ初日のガラルの様子を映しているようだった。夜のジムをバックにアナウンサーが近況を説明している。

 

『本日のジムチャレンジですが、ターフタウンのヤローのジムが5人挑んだだけで他は誰も来ていないということです。午前中が開会式にあり、ハロンタウンからの出発が14時とあってことか例年通りの滑り出しとなっています』

 

画面が切り替わり、バウタウン、エンジンシティと切り替わる。

 

『エンジンシティですが、ジムチャレンジキャンペーンということで様々な飲食店が特別メニューを出して…あ!チャンピオンとジムリーダー達です!会議でしょうか?皆さん私服です!取材を試みたいと思います!』

 

「カブさんも老けたなあ」

 

苦笑しながらテレビを見るホップに対して、ホープの心情は揺らいでいた。

私服のチャンピオンは眼鏡こそかけていないもののあの時に感じた覇気がなくなると、今日駅で別れた人物に非常に似ていた。

 

(グローリア…?)

 

『皆さんでお食事ですか?』

『ええ、初日の成功を祝って。たまたま会議でしたので4人で行こうかと』

『例年カブジムリーダーの場所で5割が脱落するといわれてますがどう思われますか?』

『ぼくのところは、くさタイプ、みずタイプ、そしてほのおタイプという三竦みの最後となるので対策が難しい部分もありますので、じっくり腰を据えて勝機を狙えば突破は難しいものではないですね』

 

画面では、農家らしい耐久力のありそうな服を着たヤロー、モデルらしく最先端のデザインのルリナ、スポーツウェアを着て、歴戦の監督にも見えるカブ、そして新作の服に身を包んだユウリがいた。

 

『一方で突破率の高いターフタウンですが、今年は如何ですか?』

『いやー、ははは。カブさんの言う通り私も腰を据えて勝機を狙わんとですね』

 

受けを狙って飄々とするヤローに対して愛想笑いを浮かべるユウリの顔が、グローリアと似通っているどころか、ほぼ同じであり、メイクの差はあれど、気迫のないチャンピオンは、20年間防衛し続けた勝利の女王ではなく、無垢な少女にも見えた。

 

『チャンピオン、今年のチャレンジャーで期待される方はおられますか?』

 

その単語にピクリとする。ホップはそれを見て、期待しているのかと、ニヤリと笑みを浮かべる。一方でホープはその声に集中していた。

お忍びでチャレンジャーを見ていたのなら、それでいい。20年もチャンピオンをしていたら、英雄ならば、有名過ぎて息苦しいだろうと常々思っていたからだ。

誰にも期待していないと、それで誰の名前をあげられなくても良かったが、他人の名前を出されたくないという感情がホープにはあった。

 

『まだ始まったばかりですし、これから強くなられる方もいるので、秘密、ということで』

 

ホープは大きくため息をつき、安堵する。ホープにとって、グローリアがユウリであることも、父親の幼馴染みであることも。

 

 

・なぞのばしょ

 

広い研究室では、ねがいぼしやねがいのかたまりが研究員の手によっていじられ、巨大なパソコンの前では複数の研究者によって計算がなされている。その場所を一望できる男女が話し合っている。

 

「ムゲン団の各分団も例のものたちを集め始めましたか」

「ええ。目標数は膨大ですが、副次的なヨロイジマ分団でのダイミツ、ダイキノコ採取は継続中です。

また、メインとなるダイマックスアメは総帥により目標数を達成、ねがいぼしについては本部と各所と連携しています。また、試料として可能性のあるけいけんアメについては総帥により目標数5割を獲得済、キョダイマックス研究用の個体提供については、天然ではラプラス、セキタンザン、カメックス、ストリンダー、ジェラルドン、ダイスープにより引き出した個体はインテレオン、ゴリランダー、リザードン、ウーラオスが提供されています。ただしいずれもトレーナーのものなのでキズ物にせずとのこと」

「注文が多いですねぇ。しかしながら今も大事にしなければ、未来は明るくありませんからね」

「…おっしゃる通りかと」

「あなたも物好きですねぇ。私が捕まった過去を変えたいなどと、獄中の生活など炭鉱の蛸部屋と比べたら小説が何本でも書けるほど快適でしたよ。それにダイエットもできました」

 

引き締まった体を叩き、初老の男は笑みを浮かべる。

 

「それで宜しいならば私は…」

 

女性は何も言わない。

 

「どうです?全てが終わったら一緒にアローラでバカンスでも」

「それはパワハラです。公私の区別はつけてください」

「おやおやこれは…まだ攻略できそうにありませんね」

 

 

 

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