ムゲンソードアンドシールド   作:トサカヤキキ

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ブラックナイト

ホップからの電話は久々で非常に心躍るようだった。たとえその内容が非常に独りよがりであったとしても。しかし、その遠慮のなさが自分をいまだに頼れると考えていてくれるようで心地よかった。

 

「というわけでさ、ちょっと研究でムゲンダイナをちょっと見せて欲しくてさ」

「いいよ。ちょっと忙しいから今日の…」

 

忙しいのは嘘ではないが、あえてすぐに会えるようにしたのはユウリのわがままだ。そうでもしなければ、ホップをいち早く見たいという自分の欲を抑えきれなかったからだ。

ホップに恋をしているユウリは、ソニアから奪おうとも考えていない。それは、乙女らしい純情と、ホップに不倫する悪に染まって欲しくないからだ。いまだにユウリの中のホップは諦めのない純粋少年でいて欲しかった。

その夜、ローズタウンの屋上でユウリはホップを待っていた。

 

「遅いよ。ホップ」

 

予定の時間よりも30分ほどオーバーしてホップはユウリの元へ、自分のアーマーガアに乗って現れた。口元に蓄えた髭や、少し伸びた髪、そして研究者らしい白衣を着ている姿にユウリはダンデとソニアの面影を見る。

 

「すまない!ホープが今日ヤローさんを倒したって連絡が来てさ!お祝いにビデオチャットしてたんだ」

「…いいよ。他人の私よりも家族を優先して」

 

ユウリはおめでとうの言葉が出なかったことに自分がまだ幼い心のままであると感じ、恥じる。

 

「おいで、ムゲンダイナ」

 

ユウリがモンスターボールからムゲンダイナを繰り出す。長い尻尾をユウリに巻き付かせるように置き、ホップに対面する。どこか威嚇するような所作を見せるが、顔というものが曖昧なため、その行為が本当に威嚇なのか分からなかった。

 

「久々に会った人だから警戒してるみたい」

 

ホップとユーリが、再会するのは約2年ぶりである。ホップの口元に蓄えた髭を見るたびにダンデの代用品ではないかとソニアを思ったものだが、見るたびに口ヒゲが似合っているホップを見て、自分自身の勝手な解釈と感じるのが辛かった。

ムゲンダイナはしばらくするとユウリの動きを見てホップが警戒に値しないものと判断する。

しばらくムゲンダイナを観察するホップはいくつかの写真を撮り、それを収める。

 

「ありがとな、ユウリ!」

「いいよ、ホップのためだもの」

「欲を言うとムゲンダイマックスの姿も見たいけどもう見れないしな」

「うん。今は見せれない」

 

ブラックナイトで見せたムゲンダイナのムゲンダイマックスは、大量のねがいぼしと封印状態のムゲンダイナを覚醒させた、いわば目覚めた瞬間のトップギアを見せたに過ぎず、これを続けるのは不可能であった。

しばらく感慨にふけたあと、二人揃って屋上でガラルを見渡す。考え込むホップの横顔にユウリは勝利に燃えていた本気のホップの顔を思い出し、頬を赤らめる。

 

「なあ、ユウリ」

「…!」

「ブラックナイトって結局何だったんだ?」

 

ブラックナイトについて、引き起こした原因とその首謀者であり、目的についてはひどく曖昧で、ガラル地方の安定とあったが、当時のローズは思考と現実の乖離が激しく、計画の失敗と社会的信用の喪失によるストレスで十分な証言が取れず、ローズの側近であるオリーブも炭鉱で奉仕していたため情報が得られなかった。

 

「…ブラックナイトは、周期的に来るムゲンダイナ復活のことを指してたみたい。封印状態のムゲンダイナも、ポケモンとしたらなんてことない習性。ボールに入ることが前提の現代では忘れてるけど」

「ポケモンは瀕死に近くなると身を小さくして隠れる。そして暗雲はキョダイマックス時に立ち込める雲の巨大なバージョン」

 

それを踏まえるとブラックナイトというものが単なるマックスレイドバトルのように見え、そのポケモンとは認識できない見た目がポケモンに近くなって見えた。

 

「そう、ブラックナイトの正体は、ムゲンダイナのムゲンダイマックスの状態での復活のこと。そしてザシアンとザマゼンタのきょじゅうざん、きょじゅうだんでそれを撃退すること。ローズ委員長はその後にムゲンダイナを制御してムゲンダイナを超巨大なねがいぼしとしてエネルギー革命を行うつもりだったみたい」

「ん?じゃあいつでもいいんじゃないか?やろうとしてたことは別に悪いことはないし」

「それが違うの。まず、ねがいぼしを与えたムゲンダイナを起こす撃鉄が必要だった。その撃鉄が二つあって、一つはダイマックスバンドにあたるものの、2つ目がガラル地方全体の活性化」

「ダイマックスバンドはあの施設として、ガラル地方全体の活性化?」

「ガラル地方に存在するパワースポット、ジムがある場所では常にダイマックスのパワーが溢れてるけど動きがあるのは少ない。けど一年で一番ダイマックスパワーの動きが活発になる時がある」

「…ジムチャレンジか」

「そう」

 

ジムチャレンジ期間はファイナルトーナメントへの出場人数ではなく、期間であるため、理論上全員がチャンピオンカップに出場できる。それがなされないのは、キバナのジムで殆どのものが脱落しているからだ。

ガラル地方の至る所でダイマックスが行われるのはジムチャレンジのみである。連日ジムリーダーがマイナージムリーダーと対戦が行われているにも関わらず、活性化とはいかないのは、テレビで言えば視聴者の兼ね合いと、ヒト、モノ、時間の流れを収まる範疇に抑える必要もあるからだ。

 

「だからチャンピオンカップのファイナルトーナメントなのか」

「そして私たちのジムチャレンジあたりでチャレンジャーが少なくなっていた」

 

ファイナルトーナメントの前には、予選があり、すべてのジムでバトルが行われる。ローズがユウリの時代で強行した理由の一つに参加人数が減少傾向にあったため、これ以降チャンピオンカップのような規模で興せるものはなく、千年後に緩やかに滅んでゆく未来が見えたのだろう。

それほどまでに無敗のチャンピオンであるダンデは眩しく、一人だけ食らいついていたキバナさえも、徐々に疲れが見えていたのだろう。

ダンデを意識しているのか、ドラゴンタイプでも強者であるドラパルトを使わないことや、サザンドラを使わず、コータスを採用していることからドラゴンタイプという縛りすら守っていないという層もあったため、チャンピオンカップに熱狂している数は目に見えて減っていた。

その最たる証拠がビートである。主催者側から挑戦者を出すなど、八百長の危険もある。加えて、従順なマクロコスモスの若手社員ではなく、孤児院出身のビートを出していることから、マクロコスモスもローズの手腕から役員による先導がなされていて、皮肉なことにワンマン経営が脱出しつつあったことを示唆していた。

 

「無敗のチャンピオンの弊害か…」

「私も感じてる。私がいなければガラルのポケモンリーグはもっと盛り上がってたのかなって」

「…」

 

毎年ユウリから送られる推薦状に研究や子育てといった理由で参加しなかった。ユウリに肉薄できるのはホップ・ダンデ・ミツバ・マスタードぐらいだが、ヨロイジマで道場を営むマスタード夫妻は無論、前チャンピオンであるダンデは参加が憚られる。

結果としてホップを求めるが参加しない、伝説の片割れを持つホップがいないとなれば、結果は「どうせ勝てない。準優勝でジムリーダー候補になる」というハードルの低い考えに至り、バトルのランクも低くなる。

そんなことは露知らず、ダンデやユウリには到底勝てないと思い込んでいるホップは参加はしなかった。

 

「…。ホープがユウリを打ち負かしたらどうする?」

 

硬くなった空気を柔らかくするためにホップはあえて冗談めかしてユウリに話題を振る。以前のユウリならば、「また勝てるように修行する」「マスタードさんみたいに道場でも開こうかな」のような明るい返事が返ってくると考えたからだ。

その言葉に対して、ユウリはピクリと反応する。息子への期待。冗談。未来の想像。そのような単語が駆け巡るが、その先にあったのは無であった。

 

「… … それが たとえ できたとして わたし は もう この 20ねんを とりもどせない」

 

底冷えするように放たれた言葉はホップに異様な寒気を感じさせる。何も映していない瞳がホップを見定め、歴戦のパートナーであるポケモンたちは、ホップを守るかのようにボールを震わせて威嚇する。

 

「…久々に楽しかったよ。じゃあまた」

 

ホップが何かを言う前に、ユウリはアップリューを取り出し、飛び立つ。

呆気にとられたホップは自分の言葉が意図せず傷つけていたのかと、その場に立ち尽くす。華々しい映像しか知らなかったことと、変わらぬ姿にかつてのユウリがそのままいると感じていた。

しかし、実際は言葉の節々に、明確に自分を他人と呼び、自分がいなくなればというマイナス思考が確かにあった。

 

「…」

 

既にユウリは見えなくなっている。今からアーマーガアを出しても、ユウリのアップリューには届かないだろう。

ホップは何も言えず、何か言ってしまえば今までの、薄れてしまっていても良きライバルとしての関係がなくなってしまうと感じ、その場を後にした。

 

・バウタウン

 

海辺の漁村であったバウタウンは、20年間で景観が整備されている。かつてあった屋台のおこう売りも彩のあるテナントの内部にある。オーシャンビューのレストランでは二人の女性がランチを食していた。

 

「やっぱり最近のトレーナーは甲斐性がないね!ドンとチャンピオン狙うって言わないと!」

「それは同感です。仮に無謀だとしても目標より上に行けることはありません。結局ジムリーダーを目指してもジムトレーナーが関の山ですし」

「ほんと誰なんだろうね!ジムトレーナーは安定で休みも多いだなんて!聞いたかい?今のガラルじゃ恋人候補はジムリーダーよりジムトレーナーやマクロコスモス子会社の人間だとさ!」

「ジムリーダーに雇われているジムトレーナーとマクロコスモスの子飼いの子飼い、何が良いのか」

 

それぞれマイナーリーグのジムリーダーであり、ポンチョのように大きめのシャツを着たサイトウと、気品あるワンピースを着たメロンが話し合っている。どちらも20年が経ち、サイトウは引き締まった体のままだが、かつてのゴーリキーと同じ運動量ができた体と違い、人の範疇での高い身体能力に留まり、メロンは半分引退したようなものだ。

 

「…今ならオフだからバトルならまたにしておくれ」

 

二人の前に喪服を模したようなシックなデザインに無限の記号を掴むような手のデザインがあしらわれた5名ほどのグループが集う。

メロンたちは顔を向けずにあしらう。姿は見ずとも、人として感じる異様な雰囲気に包まれているのがわかる。

 

「ジムリーダーのメロン様、サイトウ様、取り戻したい栄光はありませんか?」

 

その単語に両者がピクリと反応する。サイトウもメロンもかつてのメジャーリーグのジムリーダーであり、その神経を逆撫でする発言は癇に触った。

 

「そういう言葉は人を怒らせるって母親に…」

 

ストイックに鍛錬を続けていたサイトウと自身もポケモンバトルに対して真摯に向き合ってきたものとして、一言言いたくなったメロンはその人物の顔を見る。そしてその人物を見た時、それが煽りではないと確信する。

 

「どういう風の吹き回しだい?」

 

あまりの雰囲気の違いに分からなかったが、その顔は、ローズとユウリの秘書であり、マクロコスモスの一員でもあるオリーヴであった。

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