そして、オレは目にした。
エレーナと寸分の狂いもなくそっくりな、エレーナの偽物を。
それでも、オレはこう、声をかけたんだ。
「エレーナ。寂しい思いをさせてすまなかった。オレは、お前の傍にいる。オレは大丈夫だ。どこにも行かない」
二号機は、その視覚端末を大きく見開いた。
「イ……サ……ミ……ちゃん……」
「オレは、もうお前を二度と離さない」
「イサミちゃん……」
「来い、エレーナ。今まで、気づいてやれなくてすまない。悪かった」
「イサミちゃん!!」
二号機は、オレの胸で泣き崩れた。
その仕草、その体温。その全てが、作り物の偽物であるはずなのに――。
それが、何だと言うのか。
多少の違いがなんだ。
生きている、死んでいる。
そんなことに意味があるのか?
こいつは、エレーナは、こうしてここにいる。
00ユニットとしてではない。
エレーナとして、ここにいる。
――オレを好きでいてくれるエレーナとして、確かな存在として、ここにいるんだ。
なんだか、泣けてきた。
オレはエレーナを抱きしめる。
そしてオレは、エレーナの自慢の銀髪を撫でた。
何度も撫でてやる。
何度も何度も。
そして安心したらしい。
エレーナである物は、幸せそうに微笑すら浮かべ。
オレの腕の中で静かに寝息を立てていた。
「――完璧よ、黒須」
「ありがとうございます」
「素晴らしいの一言よ。あなたを選んで、正解だったわ」
!!
「いまさら隠すことでもないし? あなたもうすうす感じてたんでしょう?」
そうか。何もかもが出来過ぎだと思ったよ。
すべてはこの人が仕組んだことなんだな。
やっぱり、夕呼先生はどの世界でも夕呼先生だって事だ。
まいったよ。
「……違うと言えば、嘘になります」
完敗だ。
「正直ね」
「ははは」
乾いた笑いだと、自分で思う。
「彼女、エレーナを隣の部屋で休ませてあげて。それから、今までと同じように、女性として大切に扱ってあげるの。わかった?」
……どういうことだ?
他意は……ないの……か?
まあ、いい。今は良しとしよう。
「わかりました」
「疲れていると思うから、あなたも今日一日休みなさい。宗像には伝えておくから」
「イサミ! 貴様、無事だったのか。意識を失っていたと聞いたが」
「なんとかな。大きな怪我はなかったよ。心配してくれてありがとう、咲夜」
「イサミ……エレーナのこと……立派な、衛視だった。最期まで、貴様のことを……」
そうか、こいつ、エレーナが死んだと思ってるんだ。
「大丈夫だ咲夜。エレーナは助かったよ。一命を取り留めた」
「!?」
「ま、まさか――そ、そうか! 香月博士の治療が間に合ったのか! 良かった――。良かった。本当に――」
咲夜の目が潤んでいた。
……治療、か。
「復帰まで暫くかかると思う」
「当たり前だ! いつ命を落としてもおかしくない状態だったからな! 香月博士が貴様や鑑とともに別のハンガーに収容させたとき、もしや、とは思ったが……良かった……あのあと、貴様も鑑も連絡が取れなくて……私は……」
咲夜が目に涙を湛えている。
そして、雫が零れ落ちると、止め処もなく流れ始めた。
オレは、指でそっと拭いてやる。
「……あ……」
「もう、大丈夫だ。咲夜」
「ああ!」
「オレは今日、一日休めと厳命されているんだ。咲夜は訓練だろ? 頑張ってくれ」
「ああ! そうだとも! では、行って来る! イサミ、またな!」
咲夜は涙もそのままに、通路の向こうに走り去っていった。
地下19層。
オレは二号機、いや。これは――。
いや。彼女はエレーナだ。
オレはエレーナの寝台の横に来ていた。
「イサミ……ちゃん……夢を……見ていたんだよ?」
「どんな?」
「怖い夢」
「イサミちゃんがいなくなるの。死んじゃうの……」
「オレはここにいる」
「……うん」
「なんだかね、まだ眠いの」
「寝ると良いよ。手を握っておいてやる」
「……いいの?」
「もちろんだ」
「……うん」
……。
……。
「本当に安定してるわね。前回、鑑のときは――もう、凄かったんだから」
「先生……」
「ま、黒須。あんたはよくやってくれたわ」
……。
「凄乃皇が組みあがったら、起動試験を行うわ。一応、一週間後を予定しているから。それまでにエレーナを使えるようにしてちょうだい。頼んだわよ、黒須」
「わかりました」
「あ、そうだ。凄乃皇の起動はBETAを引き寄せるから、そのつもりでいなさい」
「社、鑑は?」
「お休み中です……」
「そうか」
「はい……」