Muv-Luv belive   作:燈夜4649

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オルタ 九章

◇それから遠くない日

 

 

「火星圏から巨大な何かが近づいてくる?!」

 

「それってまさか……」

 

「……BETA……BETAの着陸ユニット……」

 

「詳細は不明だが、そうである可能性が高い」

 

「!?」

 

「月から飛来するBETA着陸ユニットを迎撃するシステムは存在するが、火星圏から飛来するものを迎撃できるシステムは存在しない」

 

「システムを応用して迎撃システムを管轄する米国宇宙総軍が宇宙空間での迎撃を行うことになっているが、正直期待できない」

 

「……そんな……」

 

「地球をこれ以上、核で汚染するわけにはいかない。まして、G弾などもってのほかだ」

 

「ならば、どうやって……」

 

「我々が食い止めねば、だれが食い止めると言うのだ。二機の凄乃皇の主砲による砲撃を行い、これを撃滅する」

 

「二機……?」

 

「A-01部隊は落着予定の地表より、安全圏内にて待機。凄乃皇による迎撃が失敗したときの保険とする。凄乃皇二号機、A-02と呼称するが、これに鑑純夏少尉。凄乃皇三号機、これにA-03と呼称するが、これにエレーナ・ストレリツォーヴァ少尉に搭乗してもらう」

 

「落着地点はほぼ正確に予想可能だ。砲撃は地表落着寸前を狙うことになる。これは荷電粒子砲の射程距離の問題だ。大変に困難な任務であるが、失敗は許されない。本作戦には人類の未来が掛かっている。――頼んだぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まりも。あなたの子供達は本当に強いわね――。あの子達に無理を強いる私を許せとは言わないわ。ただ、せめて、あなたもあの子達を見守ってあげてくれる? お願いよ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「迎撃が中途半端に終わり、落着地点が大幅にずれる? ――福岡だと?! 帝国領内なのか?!!」

 

『作戦の変更を伝える、A‐03部隊およびA-01部隊、黒須勇海少尉はA-02部隊に合流し、搭乗員は全員凄乃皇二号機に搭乗せよ。その他のA-01部隊は帝国軍広島基地での燃料の補給後、凄乃皇二号機の直営を命じる。凄乃皇三号機、および黒須少尉の不知火は自律起動状態にて国連軍横浜基地に帰投させよ』

 

「――特攻作戦――!?」

 

『ヴァルキリー01よりCP、作戦の変更を了解した』

 

『こちらヴァルキリー01! 黒須少尉、鑑少尉、それにストレリツォーヴァ少尉! 聞いての通りだ、急ぎ実行に移せ!』

 

 

 

「みんな帰っちゃった。どういうこと?」

 

「わたしたちの出番、ってことだよ」

 

「そういうことだ。早く乗れ――心配するな、みんなは一足先に補給に行っただけだ」

 

……。

 

横浜基地より秘匿回線? ――どういうことだ?

 

「こちらA-02、ヴァルキリー10、黒須勇海少尉だ。凄乃皇二号機への二体の00ユニットの装備を完了。三号機とオレの不知火はすでにそちらに帰投させている。CP、作戦の詳細を教えろ」

 

『こちらCP、ヴァルキリー・マム。A-02は直営機らとともに最短距離で落着地点へ侵入、甲27号目標のコアである重頭脳級BETA、『う号標的』を破壊せよ。破壊の手段は問わない。破壊を確認後、凄乃皇二号機の機体回収が困難であるならば凄乃皇二号機に搭載されている装甲連絡艇にて乗員とともに脱出せよ。横浜基地へ帰還するための装甲連絡艇の軌道入力方法はストレリツォーヴァ少尉が知っている。今のうちに軌道入力を完了させて置け。今から甲27号目標の座標を送る』

 

「了解。――だってよ。エレーナ! 入力頼む!」

 

「はーい」

 

『最早、一刻の猶予もない。これより速やかに現地へ向かい、直ちに目標を破壊せよ。鑑少尉、可能ならば、『う号標的』にリーディングを行え』

 

「ヴァルキリー12、了解」

 

『最後に、何か質問は?』

 

「ない」

 

『幸運を祈る――必ず帰ってきてね――』

 

……。

 

「イサミちゃん、装甲連絡艇の入力終わったよ」

 

「わかった。じゃあ、行きますか。ま、お前たちが付き合ってくれて嬉しいよ」

 

「うん! わたしも嬉しいかも!」

 

「行こう! 私、頑張るよ!!」

 

「あー、ずるい! エレーナも頑張る!!」

 

「まったく、涙が出てくるほど嬉しいよ……ああ、泣きたいったら泣きたいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

BETAだ。早速沸いてきたらしい。

 

「奴さんのお出ましだ」

 

「敵先鋒、突撃級! 距離5000、数1500!!」

 

「2700mm電磁投射砲用意!」

 

「2700mm電磁投射砲用意完了!」

 

「目標補足、敵突撃級先頭集団!!」

 

「電磁投射砲の発射5秒後にラザフォード場展開!」

 

「了解!」

 

「2700mm電磁投射砲、発射! ってぇ!」

 

突撃級がもんどりうって倒れ、たちまちのうちに肉塊となって砕け飛ぶ。

 

気づけば、視界内にBETAの姿は存在しなかった。

 

「黒須君!」

 

「わかってる! 射撃中止、ラザフォード場展開!!」

 

「了解、ラザフォード場展開!!」

 

「機関安定、問題なく推移中」

 

切り開いた無人の野を行く。

 

……

 

「レーザー警報!」

 

「なんだって? どうして光線級が?!」

 

「大丈夫。任せてよ」

 

「どおってこと――っつ!」

 

「来るぞ! レーザー照射だ!!」

 

「っあっ」

 

「っつ」

 

――地球の情報が宇宙に伝わっているのか?

 

いや。

 

光線級が地球に現れて数十年経っていると聞く。

 

そう考えるのが自然だな。

 

少なくとも火星には伝わっているのだろう。

 

さもなくば、今ここに光線級が存在するはずがない――。

 

 

オレは深くため息をついた。

 

――オレたちが、どうあがこうと、そんなことお構いなしかよ。

 

やはり、この世界は破滅に向かっているのだろうか――。

 

でも、そんなことを今考えても仕方ないよな。

 

ふと、エレーナたちが気になった。

 

「大丈夫か?」

 

「うんうん!」

 

「平気だよ。タケルちゃんと来たときは、こんなものじゃなかったし」

 

「依然、機関安定中! 航行に問題なし」

 

モニター越しの二人の顔が引きつっていた。

 

こいつらも気づいている。

 

――ここで光線級が現れた意味を。

 

なのに、一言もそれに触れて来ない。

 

オレを気遣ってくれているのだろうか。

 

いや、全員が全員を気遣っているに違いない。

 

オレも黙っておくか。

 

難しい事は夕呼先生が考えればいいのさ。

 

「もう直ぐだな。エレーナ。鑑。二人とも、頼んだぞ?」

 

「大丈夫だよイサミちゃん」

 

「そうそう。ドーンと構えててよ。タケルちゃんなんて、緊張しまくりだったんだから」

 

「あはは、そうなんだ」

 

不安なのかな? オレ。

 

情けないな。

 

 

 

 

――見えた。あれだ。あの赤い一角――。

 

間違いない。あれだ。

 

「反応炉……こいつが目標か! 主砲、射撃準備!」

 

『待て、まだ早い! 光線級がいる以上、凄乃皇に照射させるわけには行かない。確実に「う号標的」を仕留めるにはそうする他ない』

 

『我々が先行し、光線級に突貫をかける! A-02は目標との距離を詰めつつ、私の合図を待て! CP、光線級の座標を教えろ!』

 

『……了解』

 

『聞いての通りだ。こちらヴァルキリー01、イスミ・ヴァルキリーズの諸君、ここが決戦の場と思え! 私たちはこれより敵光線級に対し突撃を敢行する! A-01全機、楔壱型陣形にて突貫せよ! 私に続け!』

 

次々と友軍機が凄乃皇を追い抜いてゆく。

 

『ま、私たち直営に任せてよ!』

 

「涼宮のやつ……」

 

『吉報を待て、イサミ』

 

「咲夜まで……」

 

 

 

『高度を上げすぎるな! 焼かれるぞ!!』

 

『『『『『了解!』』』』』

 

 

 

『要塞級……こいつら、光線級を守って……』

 

『ここは私が切り開く! 皆は光線級を頼む!』

 

『松浦中尉!』

 

『茜、麻倉! 松浦中尉を援護しろ! 月環中尉は私とともに光線級を蹂躙しに行くぞ!!』

 

『『『『了解!』』』』

 

 

 

『最上の仇だ、くたばれ!』

 

『尻尾が!』

 

『茜ちゃん、余所見はいけないんだぞ~』

 

『もう、こんな時になに言ってるのよ!』

 

『って、あ! きゃぁああ!』

 

『麻倉少尉!!』

 

 

 

『こちらヴァルキリー01、光線級は駆逐した、黒須! 主砲発射準備だ!』

 

「了解!」

 

「胸部荷電粒子砲、エネルギー充填まで、300、299、298……」

 

『こちらヴァルキリー01、全機後退、凄乃皇を守りきれ! 松浦中尉、それに茜! 麻倉の機体を主砲軸線より退避させろ!』

 

『『了解』』

 

『11時方向から敵、突撃級20! 距離2000!』

 

『距離500で先頭集団の足を狙え!! 合わせるぞ、月環中尉!』

 

『了解!』

 

『1時方向からも敵、同じく突撃級30! 距離1500!!』

 

『松浦中尉、茜! 任せた、同じく距離500で足だ!!』

 

『『了解』』

 

『11時方向、来ます! 距離800!!』

 

『ってぇ!!』

 

 

 

『やった!』

 

崩れた先頭に後続が次々と衝突する。

 

『各個撃破だ!』

 

『了解!』

 

 

 

『松浦中尉!!』

 

『!?』

 

『え、松浦中尉!! どうして?!』

 

勢い余った突撃級の衝突で松浦中尉の不知火が弾け飛び、涼宮の機体の上に覆いかぶさっていた。

 

その突撃級を咲夜の120mmが黙らせる。

 

『大丈夫か?』

 

「胸部荷電粒子砲、発射準備完了! エネルギー充填率120%!!」

 

『荷電粒子砲を発射する! 凄乃皇の周囲から退いてくれ!!』

 

『全機、凄乃皇から離れろ!!』

 

『『『了解!』』』

 

「な、レーザー警報!!」

 

 

なんだって?! 新手!?

 

『松浦中尉?!』

 

『機体が、機体が動かない!!』

 

「涼宮?!」

 

『黒須! 私たちに構わず撃て』

 

『そうよ! 黒須、早く!』

 

「そんな、中尉!! 涼宮!!」

 

『構わず撃たないか!! 黒須少尉!!』

 

「黒須君、撃って!」

 

「鑑?」

 

『早くしろ! だからお前は甘ちゃんなんだ!』

 

「レーザー照射!!」

 

警告を見たのだろう。エレーナが悲痛に叫ぶ。

 

『お願いだから早く撃って! 黒須!!』

 

涼宮、お前まで……!

 

「無駄にしないで! みんなの思いを!!」

 

鑑の必死の叫びがそれをかき消す。

 

くそ、くそったれーーーーーー!!!

 

「黒須君!!」

 

「イサミちゃん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、閃光が辺りを満たした。

 

全てが砕け、溶けてゆく。

 

白に飲み込まれて溶けていった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレは、泣いていたんだと思う。

 

指は、トリガーを引いていた。

 

「御剣さん、私、あなたとの約束、守ったよ……」

 

鑑の呟きと嗚咽を、聞いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「イサミちゃん、あれ、……見て!!」

 

オレは、その赤い光点を呆然と眺めていた……。

 

「何だよ、あれ……」

 

『「う号標的」……そんな馬鹿な』

 

宗像中尉の声が震えていた。

 

オレだって、信じられない。

 

まだ、健在なのか……距離が足りなかったとでも言うのか?

 

 

 

考える必要などあるのか?

 

迷う必要なんてないだろ?

 

やるしかない。

 

やるしかないんだ。

 

散っていったあいつらに報いるのは、あの敵を滅ぼす以外にはない。

 

そうだろ? みんな。

 

「エレーナ、前進だ。アイツを……あの人類の敵を叩き潰す。絶対に叩き潰す!!」

 

「イサミちゃん……うん、そうだよね。――ヴァルキリー11、了解」

 

「鑑。主砲発射準備」

 

「黒須君、私は迷わないよ? だから、当然行くよ。――ヴァルキリー12、了解!!」

 

「機関正常、凄乃皇二号機、全速前進……!!」

 

「胸部荷電粒子砲、エネルギー再充填まで……240、239、238……」

 

 

『イサミ、私もついてゆこう。最早、嫌とは言うまいな?』

 

「好きにしろよ、咲夜」

 

『こら黒須。私を抜きに話を進めるな。月環中尉、キミは左翼につけ。私は右翼につく』

 

『了解、宗像中尉』

 

『こちらヴァルキリー01、全ヴァルキリーズ、行くぞ! 今度こそ最後の決戦だ! キミたちの魂の輝きを見せてみろ! 全機、突撃!!』

 

『「「「了解!」」」』

 

 

 

 

 

 

やつが。やつが目前に迫っていた。

 

『触手攻撃に気をつけろ。月環中尉、我々は凄乃皇に敵の注意が行かぬよう、撹乱するだけでいい。回避に専念しつつ、注意をひきつけろ。黒須少尉、キミは「う号標的」を必ず仕留めるんだ。いいな?!」

 

『「了解!」』

 

「「う号標的」まで距離、約5000」

 

「停止だ、エレーナ!」

 

「凄乃皇、停止します」

 

「胸部荷電粒子砲、エネルギー再充填まで30、29、28……」

 

「鑑、リーディングだ」

 

「ちょっと遠いかな、黒須君」

 

「……エレーナ。鑑の代わりに行けるか?」

 

「やってみる」

 

「……頼む」

 

瞬間、モニタに写るエレーナの目が翳った。

 

その表情も消える。

 

「『ALTERNATIVE III : HUMAN INTERFACE : MOOD LANGUAGE : JAPANESE

 

言語を日本語に設定しました。

 

再起動します。

 

私はオルタネイティヴIII、開発コード――。――です。

 

指定された目標に対し、リーディングを実行します。

 

しばらくお待ちください……』」

 

……は? みれば、鑑も目を丸くしているようだった。

 

「『走査を完了したしました。データを記憶領域に保存します――保存完了しました』」

 

……。

 

「エレーナ……?」

 

「イサミちゃん、すぐに攻撃を!!」

 

虚ろであったエレーナの目に光が宿る。

 

「エレーナ?」

 

なんだってんだ?

 

「時間がないの! イサミちゃん、早く!!」

 

「が、ぐぁああああ!!」

 

突然、鑑が叫びだす。

 

なんだってんだ?! 今度は鑑!?

 

「鑑!」

 

『鑑少尉!』

 

「『――存在、認識、持っている、正しい、照合、情報、転送――』」

 

 

――鑑、お前いったい何を言って――。

 

 

「いいから早く、主砲を撃って!!」

 

エレーナの声。

 

 

『――存在、形式、主砲、否定――』

 

鑑はなおも謎の言葉を羅列する。

 

 

「鑑が……!!」

 

 

『――存在、形式、鑑、否定――』

 

『――存在、認識、持っている、正しい、照合、情報、転送――』

 

その間にも、事態は――。

 

 

『伸びる触手!? ――させるかぁ!!』

 

『でやぁあああああああああああ!!!』

 

「咲夜?! 宗像少尉!!」

 

 

『――存在、形式、咲夜、否定――宗像、否定――』

 

 

 

彼女らは長刀で襲い来る触手を切り飛ばしていた。

 

『次が来るぞ! 急げ!!』

 

『イサミ! どうなっている?!』

 

「なにしてるのよぉ! イサミちゃん!!」

 

 

『――存在、形式、イサミ、否定――』

 

 

こ、これが――BETA――人類の、敵――。

 

あまりに異質すぎる……。

 

「おまえが、おまえが、そうなのか!!」

 

 

『――存在、形式、おまえ、否定――』

 

『――存在、認識、持っている、正しい、照合、情報、転送――』

 

 

怒り。

 

怒りしか、湧き上がる感情はない。

 

「お前なんかのために、みんな命張ってたのかよ!!」

 

「イサミちゃん!!!」

 

 

『――存在、形式、イサミ、認識、炭素系固体――』

 

 

『早く撃つのだ! エレーナ!! イサミが撃てないのなら、お前が撃てぇ!!』

 

「イサミちゃんってば!!」

 

「許せねぇ……!!」

 

 

『――存在、認識、持っている、正しい、照合、情報、転送――』

 

 

『撃てーーーーーー!!! エレーーーナァァァーーーーーーーーーーーーーーー!!!!』

 

「お前なんかに、お前らなんかに、オレたち人間が!! 負けてたまるかーーーーー!!!!」

 

 

『――オレ、否定――人間、否定――負ける、否定――』

 

 

 

――イサミちゃん――!!

 

エレーナが真摯にオレを呼ぶ声。

 

――それがオレの記憶に残る最後の音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界は白で染められた。

 

純白の輝きで染められた世界は、全ての穢れを洗い流す。

 

その輝きの中でオレは、意識を失った。

 

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