Muv-Luv belive   作:燈夜4649

6 / 16
オルタ 序章

――それは、語られなかった他なる結末。

 

とてもおおきな、とてもちいさな、とてもたいせつな、

 

あいとゆうきのおとぎばなし――

 

 

 

マブラヴ Belive Alternative ~君が望む未来~

 

 

 

2002年 1月28日 月曜日

 

 

……。

 

…………。

 

ん? ああ、夢か。

 

久しぶりに良く寝たような気がする。

 

それに、誰も起しに来ないからすっかり寝過ごしてしまったみたいだ。

 

エレーナや咲夜はどうした?

 

まあ、いいや。今は何時だろう?

 

オレは壁の時計を目で追った。

 

時計は8時10分を回っている。さすがに長々とゆっくりとし過ぎたか。

 

さっさと着替えて学校に行くことにしよう。

 

 

 

 

オレは制服に着替えて階下に降りる。

 

――? あれ? 誰もいない。

 

母さん、出かけたのかな?

 

なにか、スッキリしない。そう、なんだか変だ。

 

なにか食うもの……確かパンの買い置きが……あれ?

 

誰か食べたらしい。無いな。

 

まあ、いいか。

 

オレは、いまだ寝起きを引きずる頭をひねる。

 

とりあえず学校に行こう。

 

遅刻したらまた委員長がうるさいし?

 

「じゃあ、いってきま――?!」

 

だれも居ないとわかっていても、家の中に声をかけてしまうオレ。

 

……。

 

え?!

 

外の風景を見て固まった。

 

急いでオレはドアを閉め、中に戻る。

 

?!

 

しん、深呼吸だ。

 

何だ? 今のは。

 

オレはまだ、夢を見てるのか?

 

恐る恐る、もう一度ドアを開ける。

 

?!

 

もう、見間違いではない。

 

一面の荒野。

 

それは積み重なる瓦礫が、無造作に散らばる荒野だった。

 

隣近所どころか、見渡す限り、まともなモノはなにも無い。

 

――ど、どういうことだ――。

 

何があったら街がこんな、粉々に?!

 

考えろ、考えるんだ、オレ。

 

……。

 

……。

 

い、いや。

 

考えるまでもない。

 

夢。

 

これは夢に違いない。

 

夢に違いないんだ。

 

オレは力の限り、頬を張った。

 

軽快な音がする。

 

痛い……。

 

夢? 

 

この痛みすら夢なのか? 

 

だけど、周りを見渡せば。

 

変わらぬ荒野が続いていた。

 

「なんだってんだ?」

 

オレのつぶやきに答えてくれるものはいなかった。

 

 

 

 

 

ちょうど、学校があるはずの方角に小高い丘が見える。

 

丘の上には建物が見えた。

 

オレはすこしホッとした。

 

ああ、学校はあるんだ。

 

きっと。あの場所へ行けって事に違いない。

 

さすがオレの夢。単純明快でわかりやすいよな。

 

 

 

 

 

桜並木の坂まで来たが、ここまで来る途中、本当になに一つ、まともなモノはなかった。

 

まず、そこに存在するはずの建物がない。

 

そして、この時間、当然すれ違うであろう人々の姿がない。

 

まあ、夢だから仕方がないとは言え、さすがに想像力なさ過ぎだろう? オレ。

 

 

 

 

 

オレは苦笑しながら坂を登る。

 

お。誰か発見。

 

って、あれは確か……夕呼先生のところの涼宮? 涼宮茜といったか?

 

しっかし、なんなんだアイツ。派手に包帯なんか巻いて。事故にでもあったのか?

 

それに、あの黒い制服はなんだろう? 

 

あ、コイツ、夕呼先生の趣味につき合わされてるのか?

 

D組じゃなくて、オレ、ホントに良かったよ。

 

涼宮の声が聞こえてくる。

 

「……ごめん、私って弱いよね。つい、姉さんに会いに来てしまうんだ……みんな……」

 

なに言ってんだ? 周りには誰もいないじゃないか。

 

まあいいか。あいつならなにか知ってるかも。

 

「ちょっと聞きたいんだが……」

 

涼宮が驚いた様子で、跳ねるようにオレに向き直る。

 

しかも、オレの顔を見て目を見開きやがった。

 

そんなに驚かなくてもいいだろ?

 

「く、黒須……」

 

? 

 

涼宮って、オレの名前知っていたんだ。

 

ちょっと嬉しいかな。驚きだ。

 

いや、これはオレの夢の中なんだから、オレの秘めたる願望の形なのだろう。

 

妙なことに感心していても仕方がない。

 

「なあ、涼宮……だったか?」

 

声をかけてみる。

 

涼宮の反応は、オレの予想をはるかに上回っていた。

 

これぞ斜め上、というやつかもしれない。

 

そう。

 

涼宮は、オレのことを、まるで恐ろしいものでも見る目つきで、二歩三歩と後ずさってくれたのだ。

 

「や、止めて! どうして君が、どうして君がここにいるの!」

 

しかもこんな台詞のおまけつきだ。

 

「どうしてって言われても、オレにもよくわからない」

 

「君は誰! どうして黒須の、黒須の姿をしているの?!」

 

酷い言われようだ。さすがのオレでも傷つくぞ。

 

「誰って、オレは3-Bの黒須勇海だよ。ほら、白銀とか御剣とか……ああ、たしかお前、うちの委員長と仲良かったよな?」

 

「ち、近づかないで!」

 

涼宮は黒光りする何か取り出したかと思うと、その切っ先をオレに突きつけた。その震える手が持っているモノ――。

 

どこからどう見ても拳銃だった。

 

モデルガン? 

 

涼宮って、そんな変な趣味があったのか。

 

意外だな。

 

いや。

 

これはオレの夢だから、オレの趣味がそうなのか? 

 

よくわからない。

 

「動かないで! こ、これ以上近づいたら撃ちます!」

 

相変わらず、涼宮の言葉は辛辣だった。

 

しかし、ここまでの演技となると、もう同情するしかない。

 

「は? お前、なに言ってるんだ? あ、そうか。また夕呼先生にでも妙なことさせられてるんだろ。お前らも大変だよな――」

 

パン……。

 

バシッ!

 

オレの足元が爆ぜた。

 

おれは、恐る恐る足元に眼をやった。

 

な、なんだよコレ。

 

アスファルトが……アスファルトが捲れている。

 

……。

 

なんの。

 

なんの冗談だ?

 

涼宮。訂正だ。お前がモデルガンを改造するほどのマニアだったとは思わなかったよ。

 

「動くなと言っているのに!!」

 

涼宮の持つ拳銃の銃口からは、かすかに煙が……。

 

え?

 

煙?

 

……。

 

「す、涼宮……それ、ホンモノ……」

 

「なにをわけのわからないことを言って!」

 

 

 

パタパタと、足音が聞こえる。

 

 

数名がこちらに向かってくる足音。

 

涼宮の顔から緊張が抜けてくのがわかる。

 

やがてやってくる、数名の――兵士達。

 

兵士――そう呼ぶほかない装束の人々。

 

そしてオレの鼻先に銃口が並んだ。

 

こ、コレ……マシンガン、だよな?

 

オレ、蜂の巣?

 

これもモデルガン――なわけ、ない――認めたくはないが、おそらくこれは本物。

 

そして、今の一連の出来事は夢ではない――。

 

なんだ? 

 

なんなんだ?!

 

こいつら。

 

どうしてこんな連中が。

 

いや、こいつらのこの服装っていったい?

 

「この者は?」

 

兵士たちが固い口調で涼宮に問う。

 

「不審者です。先ほどから訳のわからないことを繰り返しています。連れて行って下さい! 上には私から報告します!」

 

「は!」

 

涼宮は最後までオレから視線を外そうとはしなかった。

 

手も足も出ないオレ。

 

オレはなにがなんだかわからないまま、兵士達に連れて行かれる。

 

坂の上にあった、学校ではない建物に。

 

 

 

 

 

殺風景な個室。

 

いや。どう見ても、ここは独房だ。

 

コンクリートの冷たさを感じながら、オレは考える。

 

オレは、どうしてこんなところにいるんだろう?

 

夢なら早く覚めてくれ。

 

というか、お願いします。

 

夢のなかで一眠り、と言う表現が正しいかどうかはわからないが、一眠りしてみた。

 

 

 

まぁ、予想どうりというかなんと言いますか。

 

無駄だった。

 

当然のごとく、エレーナも咲夜も起しになんか来やしない。

 

まして、ここは家でもなかった。

 

教室の机の上でもない。

 

校舎の屋上でもない。

 

あいも変わらず、見たこともない冷たい独房の中なのだ。

 

夢なら早く覚めてくれ――。

 

 

 

祈るように思うのだが、いい加減オレもわかってきた。

 

信じたくはないが、冷静なオレがそう言っている。

 

これは夢じゃない。

 

夢であるはずがない。

 

だって、昨日? の取調べで散々に殴られた体が痛むから。

 

 

 

 

カツン、カツン、トコトコトコ……。

 

誰か、来る。

 

一人……いや、二人か?

 

 

 

 

オレのいる独房の手前で、足音が止まった。

 

オレは顔を上げてみる。

 

――そこには、見知った顔があった。

 

白衣の二十台半ばと思われる女性。

 

夕呼先生。

 

夕呼先生だ!

 

間違いない!!

 

「夕呼先生――!」

 

オレが呼びかけると、白衣の夕呼先生は一瞬眉を顰めたような気がした。

 

なんだ。そういうことか。やっぱりこの人の仕業だったんだ。

 

「あなた、名前は?」

 

「夕呼先生、なんの冗談です? いくらなんでも今回は、先生頑張りすぎですよ! オレ、てっきり騙されちゃいました――」

 

夕呼先生の表情が厳しくなる。

 

「あなたの名前を言いなさい」

 

有無を言わせぬ声だった。

 

よくわからないが、ここはおとなしく従ったほうが良い――そう、直感が告げている。

 

「黒須、勇海……です」

 

「所属は?」

 

へんな言い方だな。でも、口答えはまずい……よな。

 

「白稜大付属柊学園三年B組……」

 

夕呼先生はオレの答えを噛み締めるように反復した。

 

「そう。じゃあ、あなたが知っている限りの、その三年B組だっけ? そのメンバーを教えてちょうだい」

 

「やだな、夕呼先生。おれ、記憶はしっかりしてますよ」

 

「いいから、言いなさい!」

 

怒らせたのかな? さっきから機嫌が悪そうだ。

 

「う、は、はい。担任の先生は神宮寺まりも。生徒は……エレーナ・ストレリツォーヴァ……月環咲夜……彩峰慧……鑑純夏……榊千鶴……珠瀬壬姫……鎧衣美琴……御剣悠陽と冥夜……柏木晴子……白銀武……社霞……」

 

オレは乾いた喉で、思い出す傍から片っ端にクラスメイトの名前を吐き出し続けた。

 

男子の名前がなかなか出てこないところは、ご愛嬌といえるだろう。

 

「それだけ?」

 

「どうしても名前のでてこない、可哀相なやつらが二、三名いますけど、今はちょっと思い出せそうにありません」

 

夕呼先生はもう一人の連れを見――あの、ウサギ耳は――や、社? 社じゃないか。

 

ちびのロシア人。

 

エレーナと同じ銀髪の白系ロシア人だ。

 

社は涼宮と同じ、黒い色の制服を着ていた。

 

「社?」

 

「……(コクリ)」

 

オレの呼びかけに、社は飛び上がって夕呼先生の後ろに隠れてしまった。

 

でも、うなずきを返してくれたところから見ると、問いかけには反応してくれていると思いたい。

 

「そう、社にも面識があるわけね。あなたは」

 

「社、どう思う?」

 

夕呼先生のその問いに、社は悲しげな、それも今にも泣き出しそうな表情で頷いていた。

 

「……そう。やっぱり、それしか考えられないわね」

 

夕呼先生が難しい顔で考えている。だが、それも一瞬だった。

 

「黒須。ここから出してあげるわ。ただし――」

 

「なんですか? 先生」

 

「私の命令には絶対服従を誓いなさい。イエスかノーかで答えて」

 

「またまた、そんな都合の良い事言って。イエス以外の答えは用意されてないじゃないですか」

 

「いいから答えなさい」

 

今度はなんの遊びだよ、先生。

 

でも、ま、いいか。

 

「―――イエス」

 

「よろしい。じゃ、行きましょうか。付いて来なさい。――あ、私が「良い」って言うまで、あなたは何があっても口を開かないこと。良いわね?」

 

またしても変な事を言う。

 

でも、今日の夕呼先生、どこか変だよな。

 

そう。

 

オレが、夕呼先生に見たもの。

 

それは今まで見たこともないような、夕呼先生のオレに対する厳しい視線だった。

 

 

 

 

 

 

すれ違う人は皆、軍服めいた奇妙な服を着ていた。

 

そして更に奇妙なことに、すれ違う人の全てが敬礼をしてくるのだ。

 

そして、その中の何割かは、オレの顔を見ると目を丸くしていた。

 

こんな人数が全て夕呼先生の悪戯にかかわっているとは到底思えない。

 

なにか、なにかが明らかにおかしい。

 

夢ならとっくに覚めているはずだし、こんな緊張感もありえない。

 

夕呼先生も社も、さっきから黙ったままで一言も言葉を発しない。

 

オレは何度も口を開きそうになったが、先ほどの約束もあって口をつぐんでいた。

 

いったい、なにがどうなっているんだ?

 

 

 

 

そして、いくつモノゲートを越えた先の、とある一室へ通される――。

 

青い旗がデカデカと飾ってある部屋。

 

United Nation? 

 

なんだ?

 

オレが黙ってその旗に見入っていると、夕呼先生の声が沈黙を破った。

 

「ま、こうしていても、仕方がないわ。さっさと状況をはじめましょう」

 

は? 

 

オレが呆けていると、夕呼先生はそんなオレに構いもせず。

 

とんでもないことを口走ってくれたのだ。

 

「黒須勇海。国連太平洋方面第11軍、横浜基地へようこそ」

 

……え?

 

「私はこの基地の副指令の香月夕呼よ。これからあなたとは、きっと短くない付き合いになる。よろしくね」

 

……。オレは、あまりのことに声を失っていた。

 

先生は、それを了解と取ったのか、言を続ける。

 

「――社! そのソファー使っていいから、黒須に自分の置かれている状況を説明してあげた上で、おそらく星の数ほど出てくるであろう質問に答えてあげて」

 

オレを置いて扉へ向かう夕呼先生。

 

「そうね、情報開示レベルは前もって言っておいたレベルでいいわ。私はちょっと野暮用を済ませてくるから。あと、お願いね。すぐ戻るから」

 

言うだけ言うと、オレに構わず社を残してどこかに消えてしまった。

 

しかし――。

 

国連軍? 横浜基地? 副指令? なんのことだ? 

 

――まったく訳がわからない。

 

確かに『星の数ほど出てくる疑問』に違いなかった。

 

 

 

 

 

夕呼先生が、呼び止めるオレの声を無視して部屋の外に出て行く。

 

取り残されたのは、オレと、黒い制服を着た社。

 

社の制服と、さっきの涼宮の制服は同じだよな――。そんなことを考える。

 

ふと、肩の校章に目が行った。

 

違う。よく見れば、それは断じて校章ではないと言える。

 

『ALTERNATIVE IV』。そう記されている見慣れない紋章。

 

何のことだろう。

 

「……説明を始めます。いいですか?」

 

突然の社の言葉。

 

「あ、ああ」

 

びっくりさせるなよ、社。

 

だけど、次からの社の言葉は、その程度の驚きでは到底言い表せないものだった。

 

「黒須さん、ここはあなたの夢の中の世界ではありません。現実の世界です」

 

なんだって? いきなり何を。

 

「喜びも、怒りも、悲しみも、楽しみも、全て現実です。あなたのこの世界での死は、あなたという存在の消滅を意味します」

 

なにを、言っている?

 

「そして、あなたが覚えている元の世界に戻る方法は、現在のところありません」

 

――!!

 

 

こんな夢が、あるのか?

 

いや、しかし……。

 

「黒須さん、あなたの驚きはわかります。あなたが認めたくないことも。ですが、前例のあることですので、私は確信を持ってあなたに伝えることができます。もう一度言います。ここは、あなたにとって、現実の世界です」

 

「……」

 

「そうです。あなたは、この世界で暮らさないといけないんです。この世界の人間として」

 

「……」

 

「疑いはもっともです。ですが、私を信じてください」

 

「……社。でも、でも、……お前は社なんだよな?」

 

「私の名前は社霞です。ですが、あなたが知っていて、あなたが思っている社霞とは違います」

 

「……」

 

「そうです。私は、あなたが来た元の世界の社霞ではなく、この世界の社霞なんです」

 

「……」

 

「先生……夕呼先生も?」

 

「……その通りです」

 

「……」

 

「……私、この世界の社霞は、あなたが元の世界でなにをしていたのか、時々、視ていました」

 

「――なんだって?」

 

「だから、あなたの力になれると思います。あなたの全てを知っているわけではありません。ですが、まったく知らないわけでもありません」

 

「……」

 

「あなたが別世界から来た、と言うこと。このことを知るのは、香月博士と私、社霞の二人だけです。そして、この事は絶対に他の人間には話さないでください」

 

「……話すと、どうなるんだ?」

 

「……いま、あなたが考えた通りの結果になると思います」

 

ろくでもない結果しか思いつかなかったのだが。

 

オレは天を仰いだ。

 

「……なぁ、社。百歩譲って、これが、この現象が夢でないとしよう。で、本当に、本当の本当にオレは元の世界に戻れないのか?」

 

「黒須さん、何度も言いますが、コレは夢ではありません。そして残念ながら、あなたの元の世界に戻ることは――できません。ごめんなさい」

 

「さっき、前例と言ったよな? 社。それを教えてくれないか?」

 

「はい。あなたのいた元の世界の人間が、私たちのこの世界に来た事実があります」

 

「――それは誰だ?」

 

「ごめんなさい。今は、お答えできません」

 

「じゃあ、質問を変える。そいつはこの世界にまだいるのか?」

 

「ごめんなさい。それもお答えできません。でも、その人はこの世界でやるべきことを果たして、――現在――幸せに暮らしています」

 

この世界での目的――だと?

 

「どうしてそれがわかる」

 

「ごめんなさい。私を信じてください。今は、それだけしかお答えできません」

 

……。

 

肝心なことになるとコレだ。

 

「社。では、オレにもこの世界でオレがやるべきこと、というのはあったりするのか?」

 

「ごめんなさい。それは、黒須さんが自分自身で見つけてもらわないといけません。……ですが、間違いなく存在します」

 

「どうして言い切れる?」

 

「黒須さんをこの世界に引き込んだ事象。それが、この世界に必ず存在するからです」

 

「よくわからないな」

 

「黒須さんが単なる偶然で、この世界にやってきたのではない、ということです」

 

「偶然ではない。この世界に連れてこられた明確な理由がある。そう言っているのか?」

 

「はい」

 

「オレがこの世界に連れてこられた、その理由というのは、前の奴と同じ理由なのか?」

 

「私にはわかりません。判断材料が少ないんです」

 

まいったな……もう、オレは夢なんて言わない。

 

だけど、オレはいったいどうしたらいいんだ?

 

この奇妙な世界、右も左もわからない。

 

でも、どことなく共通点があるこの世界でどうしろと?

 

「黒須さん、提案があります。この提案は、私からの心からのお願いであると同時に、香月博士の強い要望でもあります」

 

なんだ?

 

「……どうせ右も左もわからない。それに、オレは夕呼先生に絶対服従なんだろ? 言ってみろ、社。おれはどうしたらいい?」

 

「香月博士を助けてください。力になってあげてください」

 

「は?」

 

あの天上天下唯我独尊の夕呼先生でも思い通りにならないことがあるのか? 想像できないな。

 

「お願いです。香月博士の望みを叶えてあげてください」

 

そのとき、扉が開いた。

 

先生はオレを見るなり、鋭い視線を向ける。

 

「あら。いい目をしているじゃない。アイツのときとは全然違うわね」

 

「アイツって誰です?」

 

「ノーコメントよ。――社もそう言ったんじゃないの? 違う?」

 

「聞いていたんですか?」

 

「想像にお任せするわ」

 

「オレは、夕呼先生には絶対服従なんでしょう?」

 

「あ、そういえばそうだったわね。忘れてたわ? まあ、そんな事はどうでも良いのよ」

 

「なんです?」

 

「黒須。あなた決めたようね。――ここは社にお礼を言うべきかしら。で、本題」

 

「?!」

 

「黒須。取引よ。協力しなさい。協力と引き換えに、ここでの、この世界でのあなたの生活の全てを保障するわ」

 

「わかりましたよ。オレはなにをやったら良いんです? 先生」

 

「やけにあっさり言うわねー。でもね、そういうの、好きよ?」

 

夕呼先生がにんまりと笑う。

 

先生がこういう顔をする時。

 

それがろくでもないことの始まりを意味することをオレはよく知っている。

 

そして、ついに夕呼先生はその呪わしい言葉を吐き出した。

 

「黒須。――あなたには、宇宙人と戦争をやってもらうわ」

 

「……は?」

 

夕呼先生は笑いながらオレに告げる。

 

宇宙人? なにを言い出すんだ?

 

現実感から程遠い一言だった。だけど、今思えばこれほど現実を表した言葉はなかったのだ。

 

そう、オレはこの日の夕呼先生の意地悪な笑い顔を忘れる事はないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

BETA。

 

人類に敵対的な地球外起源生命。

 

そう呼称される存在の駆逐こそが、この日、オレの使命となった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。