――そして、半月後――。
-----ここまで?-----
2002年 2月4日 月曜日
「なんなんだ? これは――冗談抜きで本当にこんなもので戦争をやるって言うのかよ」
座学では聞いていた。
シミュレーターにも乗ってみた。
しかし、実物を見てみると、不安ではちきれんばかりだ。
巨大ロボット。
鋭角的なで威圧的なデザイン。
そんな人型兵器。
ありえなさ過ぎる。
バルジャーノンじゃあるまいに。
そのロボットは山吹色のカラーリングの派手な外装をしていた。
迷彩ぐらいかけろよ、と思う。
まさかこれに乗り込めって言うんじゃないんだろうな……。
「貴様、そこで何を―ー?! き、貴様は……?!」
?!
オレは声の方角を向く。
見れば、その目の前のロボット――戦術機のハッチが開いていた。
一人の仕官が出てこようとして、オレの姿を見て固まっている。
強化装備姿の女性仕官――なんだあの恥ずかしい格好は。
まったく、目のやり場に困る。
おれは、その女性仕官の顔を、……見……、た……。
どうしてお前がそこにいる!?
「咲夜?」
「お前は……」
「?」
「イサミ……イサミなのか……いや、国連軍、しかも横浜の女狐の直轄ならば……ありえない話では……夢なら覚めないでくれ……」
「咲夜!!」
空を切る音とともに、腹に激痛が入った。
!?
オレは咲夜の居場所に一歩踏み出そうとして、重い一撃をもろに食らったらしい。
「イサミ!?」
咲夜の悲鳴を聞きながら、オレはゆっくりと倒れ伏す。
床に倒れたオレがその暴漢を見上げれば、屈強な壮年の男が見下ろしていた。
「貴様、われらを斯衛と知っての狼藉か」
「……なにを」
「咲夜様の御名を貴様ごときが気安く呼ぶなど、断じて認められぬ」
「鋼! 貴様なにを言っておるのだ! 我らは国連軍に出向してきたのだぞ! わかっておるのか!」
「……お言葉ですが咲夜様、それとこれとは話が別でございます」
「違わぬ! 私を特別扱いするするな!」
「しかし……」
「……大丈夫?」
懐かしい、とても懐かしい声がした。
あれ?
銀の髪。
「痛くない?」
「……」
「あれ? わたし、日本語話しているよね? わかる? 日本語。わかるかな?」
オレは、銀の髪の流れてくる方向に目をやった。
……。
ああ、間違いない。
「……エレーナ……」
「!!」
「お前、……エレーナだろ?」
「!! ……うん、うんうん! そうだよ? イサミちゃん」
エレーナ・ミハエロヴィィナ・ストレリツオーヴァ。オレの幼馴染。
「よかった、お前も居たんだな」
「あー、やっぱりイサミちゃんだったんだね。こんなトコで寝ちゃだめだよ?」
「……お前こそ、こんなところでなにをしてるんだよ」
おうわ?!
エレーナがオレを力任せに起したかと思えば、今度はいきなり抱きしめてきた。
「イサミちゃんだ。イサミちゃんがいる。生きててくれたんだ。嬉しいよ。――しかも、わたしのこと、覚えてくれてたんだね――最高だよ!」
ブリーフィングルームには、オレを除くほぼ全員が集合していた。
オレを見つけるなり、涼宮が話しかけてきた。
「この前はごめんなさい。あなた、副指令直々の特別任務の帰りだったのでしょう?」
そう、説明されたらしい。あるいは、そう思い込んでいるのか。
この前はこいつのせいで酷い目に会ったが、どちらにしても好都合かも。
「いや、涼宮、こっちこそ誤解を招くような素振りをしてすまなかった。謝るよ」
神妙な涼宮に、オレは軽く頭を下げた。
「いえ、君は戦死したと聞かされていたから、もう驚いちゃって」
「あはは。そ、それはさぞかし驚いただろうな――それでもう、怪我はいいのか?」
「あれから半月は経つからね。もうすっかりいいよ」
「そうか。これからよろしくな」
「こちらこそ。って、黒須、君は印象変わったよね。だいぶ角が取れたと言うか、丸くなったって言うか」
涼宮が笑みを向けてきた。
――コイツ、涼宮にはそう見えるらしい。
「ほう。黒須。いい顔をしているな。これは――脈ありと言うことか? どう思う? ――祷子」
「いい傾向――そう思いますわ」
宗像に続いて入出してきた女性仕官――風間祷子少尉が、オレと涼宮を見比べて口にする。
「な、やめてください! そんなんじゃ」
涼宮が噛み付くが、宗像中尉は一向に気にしていないようだった。
「さて、キミたち。私がこのA-01連隊、第9中隊イスミ・ヴァルキリーズを預かる宗像美冴中尉だ」
宗像中尉の敬礼――。
皆が応えた。
「――時間だ。連隊、整列して待て。じきに指令と副指令が視える。――が、まだ間があるようだ。お互い面識のない者も多いため、各自紹介していこう」
「祷子」
「はい!」
「まず、コイツは風間祷子少尉だ。私の副官を勤めてもらう。隊や基地についての不明点は、まずは祷子に尋ねてくれ。ああ、私に断らずに口説くのは禁止だ」
「あら、まぁ」
「まあ、その点に留意しつつ、よろしくしてやってくれ」
「風間祷子少尉です。みなさん、よろしくお願いします」
宗像中尉とは違った意味で、まるで人形のような――和の感じのする清楚な雰囲気の人だった。
しかし、とんでもない紹介の仕方だな。
「黒須!」
「はい」
「黒須勇海少尉だ。つい最近まで特殊任務に従事してもらっていたため、物言いや行動に引っかかることがあると思う。申し訳ないが、各自配慮を頼む。隊への忠誠、衛士としての覚悟、そして戦術機の機動。このどれをとっても規格外の男だ。マイナス点を引いて余りあるものを持っている」
「褒めすぎです、中尉」
「ほら、な。まあ、各自配慮してやってくれ」
「黒須勇海少尉です。よろしくお願いします」
「次だ。茜!」
「は!」
「麻倉!」
「はい!」
「涼宮茜少尉と麻倉舞少尉だ。キミたちはもう、3ヶ月前の任官だが、最早新任とは扱わない。期待している」
「「は!」」
「涼宮茜少尉です! よろしくお願いします」
「同じく麻倉舞少尉です。よろしくお願いします」
どちらも気が強そうな、利発な印象を受けた。
「ここまでが元A-01連隊の死に損ないの紹介だ。次は日本帝国軍出身の二名を紹介する」
?! ななみ先輩に六分儀!?
「帝国本土防衛軍帝都防衛第一師団より松浦七海中尉」
「は!」
「―そして六分儀最上少尉」
「は!」
「……帝都守備連隊……反乱軍?!」
「麻倉!! 何か問題があるのか?!」」
「……は! ありません!」
うう、なんだこの空気は。急に場が凍ったぞ。
それに、反乱軍ってなんのことだ?
「松浦七海中尉だ。帝国ではなく、人類のためにこの命、皆に預けたい。人同士で争うなど、愚かもいいところだ」
「六分儀最上少尉です。私も松浦中尉と同じ考えよ。――あの事件で帝国や隊の連中に愛想が尽きたわ。だから、国連軍の誘いを受けたの。渡りに船だったわ」
「そうだ。我等は小官などに声をかけ、誘っていただいた大恩に感謝している。力の限りを尽くしたい」
「――と、言うことだ。こちらからもよろしくお願いします。中尉、少尉。 ――いいな!? 麻倉!!」
「は!」
「隊長は宗像中尉です。松浦とお呼び捨てください、中尉」
「了解した。松浦中尉」
「以上二名が帝国軍から。次は帝国斯衛軍から来られた二名を紹介する」
斯衛ってなんだ?
ああ、ハンガーでこのおっさんがそんなことを言っていたような。
帝国軍とは違うのか?
「こちらが斯衛第一師団より月環咲夜中尉。そして北條鋼少尉だ」
「月環咲夜中尉だ。私も先ほどの松浦中尉と六分儀少尉の志に大いに賛同する。ともに力を合わせられること、この上ない喜に思う。――まだまだ未熟なこの身ではあるが、死力を尽くし任に当たる所存だ。よろしく頼む」
……咲夜、難しい言葉使いすぎだろ。
何を言っているのかわかんないぞ。
「北條鋼と言う。よろしくお願いする」
おっさん……無愛想すぎるだろ。
「以上、二名が斯衛軍から。――では、最後に主賓の紹介だ――」
「――それは私からしてあげるわ。その方がみんな納得するでしょ」
「夕呼先生」
「――香月副指令に敬礼!」
全員が敬礼する。
「宗像ー。早速何してるの、ああ、お得意の嫌がらせ? ――みんな。敬礼はいいわ。私、格式ばった事は嫌いなの」
「は! 失礼しました、副指令」
顔は笑ってないが、目が笑っている。
「ま、いいわ」
「は!」
「でね、話を戻すとこの子が――」
「エレーナ・ストレリツォーヴァ少尉です! ソビエト社会主義共和国連邦、ロシア共和国から来ました! 出身はハバロフスクだけど、三歳の時に日本にやってきて、ここ、柊町に住んでました! で、しばらく日本で暮らしてたんだけど、数年前に突然、ソビエト科学アカデミーに呼ばれちゃって。ソビエト最高会議幹部会議直属の……」
「――そこまでよ、エレーナ。軍事機密って言葉や、国家機密って言葉、聴いた事はない?」
「あー、そうそう、そうだった、ありがとう香月博士。言っちゃいけないんだった……ごめんなさい」
……。
みんなの目が点になっていた。
鋼のおっさんなんか顔が引きつっている。
あの宗像中尉でさえ、信じられないものを見るような――そんな顔だった。
「まあ、こんな感じで、『かなりオバカ』な子だけど、みんな仲良くしてやってちょうだい。――戦術機を扱う腕前は私が保証する。ああ見えても、世界でも屈指の腕前だと思うわ」
「皆さんよろしくお願いします!」
「以上で各員の紹介は終わりだ」
……。
と、説明されたが「何がなんだかわからない」
日本……帝国って何ですか?
斯衛軍って、何のこと?
今どきソビエト連邦って……ロシアはどうしたロシアは。
改めて別世界なのだと思い知らされた。
まぁ、いいか。
そのうちオレも慣れるだろ。
きっと慣れるはず。
今はそんなことよりエレーナが気になるな。
エレーナは整列する衛視の面々から、あからさまに避けられていた。
コイツが明らかに浮いているのは仕方がない。
仕方がないが、自ら墓穴を掘りまくっている。
だから、さらに性質が悪い。
軽いノリの自己紹介を自分から始めて見事に滑っていた。
お約束を忘れない奴、というのは見ていて安心する。
「続いて香月副指令より訓示がある。各員、傾注!」
「見ての通り、Aー01連隊に補充が来たわ。とはいっても、中隊規模止まりだけどね。
もうわかってると思うから、ぶっちゃけて言うけど、各方面から引き抜いたの。
どこの組織も、「ありがたく」人員と装備を提供してくれたわ。
まぁ当たり前よねー。なんたって、人類の脅威に対抗するためだもの。
お互い不安はあるでしょうけど、各々の技量に問題はないはずよ?
国連太平洋方面第11軍、横浜基地へようこそ。特殊任務部隊A-01連隊はあなた達を歓迎するわ。
私の直属として、一日でも長く生き残ってちょうだい」
「細かい事は宗像、あなたにお願いするわ。一日も早く使い物になるようにして。今いえるのはそうね? それだけよ。じゃ、後は任せたわ」
先生は副官のピアティフとともにドアの向こうに消えた。
宗像中尉が進み出る。
「では、改めて名乗る。A-01部隊、イスミ・ヴァルキリーズを預かる宗像美冴中尉だ。我々の掲げる目標はただ一つ、人類の敵BETAの殲滅だ。そのためにはキミらに肝に銘じてほしいことがある。――全員、私の後に続き、復唱せよ!」
「死力を尽くして任務にあたれ」
「「「「死力を尽くして任務にあたれ」」」」
「生ある限り最善を尽くせ」
「「「「生ある限り最善を尽くせ」」」」
「決して犬死にするな」
「「「「決して犬死にするな」」」」
「以上だ! 午後はシミュレーターにて訓練を行う! 昼食後、各自強化装備に着替えてシミュレータールームへ集合せよ! では、解散!」
「黒須、ちょっと顔を貸せ」
「え?! ――宗像中尉?」
「この私が誘っているのだ。――それともキミは嬉しくないのか?」
「え? え?!」
「何を真に受けている。――冗談に決まっているだろう。おめでたいやつだ」
「――あはは」
なんだってんだ?
「悪かった。キミは純粋なのだな。――私はそんなお前が羨ましい」
――え?
「黒須」
いきなり耳元に息を吹きかけられ、ゾッとする。
「副指令より伝言だ。――ロシア人から目を離すな。『これはあなたの管轄よ』――だ、そうだ。――よかったな? 黒須」
「……」
「いい返事だ。黒須」
は?
エレーナから目を離すな?
アイツは幼稚園児か?
いや、きっとそんなことじゃないんだろう。
これは、オレが先生と約束した「協力」の一つに違いないんだ。
しかし、なんでまたエレーナなんだ?
まあ、いいか。
アイツの扱いなら心得ている、というか体に染み付いている。
特に問題があるとは思えなかった。
「では、たしかにキミに伝えたぞ」
「はい」
「エレーナ! PXに行こうか。場所、覚えたか?」
「うんうん! いこういこう!」
エレーナの返事に表裏などまったく感じられない。
皆が持っている悲壮感の欠片もなかった。
それが、逆に不安にさせなくもなかったが。
ま、いいか。
エレーナはやっぱりどこでもこうじゃないとな。
ん?
エレーナの背後で咲夜がこちらを見て――あの鋼とかいうおっさんもいるのか。
「咲夜、おまえもどうだ?」
「あ、ああ。行こうか――鋼、行くぞ」
「は」
メニューは純和風。
色は茶色。醤油味! と、いったところだろう。
鯖味噌定食、と書いてあったっけ。
「わたし、久しぶりの日本食だよう。何年ぶりかなぁ」
「ん? そうなのか?」
「うんうん! あっちの食べ物も美味しいけれど、日本の味がいっつも懐かしかったんだー」
エレーナはガツガツ食っていた。
箸を日本人以上に器用に使っている。
「うらやましいなぁ。イサミちゃんは、こんな美味しいもの毎日食べてたんだもの」
いや、超マズイんだが……合成食料とかいったか? コレ。
これならコンビニ弁当のほうが数倍美味いぞ。
まぁ、それはそうと。口の周りに米粒がついているぞ。エレーナ。
「エレーナ、ところで貴様が乗ってきた、あのソ連製の戦術機なのだが――」
咲夜はそっちに興味があるらしい。
戦術機とは、あのロボットのことだ。
この世界では飛行機である戦闘機が役に立たないそうだ。
その代わりと言っては何だけど、あのロボット――戦術歩行戦闘機、戦術機――が幅を利かせているらしい。
咲夜の知りたい事は、みんなも知りたいことであったらしい。
横に座る北條少尉どころか、PX中の人間が聞き耳を立てているようだった。
「あ、あれ? Su―37UBチェルミナートル、って言って、複座の戦術機なんだよー。香月はか……あ。ごめん、これ以上は言っちゃいけないんだった。あはは、ごめんねー」
「すまぬ、軍機であったか。妙なことを聞いてすまなかった」
「いいよいいよ咲夜ちゃん!」
「あ、ああ……」
「咲夜様、この妙なロシア人――ストレリツォーヴァ少尉とお知り合いなのですか?」
今、妙な、と言うところに変なアクセントを感じたぞ。
「ああ、言わなかったか? 幼少のころからしばらくの間、ずっと共に遊んでおったのだ。それは、イサミとも一緒だ」
北條少尉の刺すような視線が怖かった。
「へー。黒須、この二人、あんたの知り合いだったんだ」
「あ、涼宮」
「いや、君から人に話しかけてるのを見てさ。意外に思ったんだ」
「そうか? そんなだったか? オレ」
「そうだよ。だって、あんた多恵や高原とはめったに口もきかなかったじゃない」
涼宮。築地。高原。麻倉。3-D……夕呼先生のクラスの面々だったと思う。
「そうだったっけ?」
「そうだよ。あはは! じゃ、私、先に行ってるから。お先にー」
「黒須、また後で軽く揉んであげるよ。模擬戦、期待しといて!」
麻倉までもがオレの背中を叩いて涼宮の後を追っていった。
宗像中尉がコンソールを叩く。
「貴様らが今から行うデータは、全人類が総力を挙げて行った桜花作戦のデータだ。貴様らも知っての通り、この作戦において人類はオリジナルハイヴを攻略した。その担い手たる名も無き英雄の名は、一般には知られていない! だが、イスミ・ヴァルキリーズの一員となった貴様達にはこれを知る権利と義務がある! 良いか、今から我々人類にこのデータをもたらし、人類の敵に正義の鉄槌を下した偉大なる英雄の名を告げる。心に刻め!」
「人類に希望をもたらした、我等がイスミ・ヴァルキリーズの英雄、白銀武、社霞の名を称えよ!」
「彼らを支えて散った榊千鶴、御剣冥夜、彩峰慧、珠瀬壬姫、鎧衣美琴、そして鑑純夏の名を刻め!」
「彼らの遺志を無駄にするな! 我ら新生イスミ・ヴァルキリーズは彼らの遺志を継がねばならんのだ!」
白銀? 委員長? 御剣……? どういうことだ? こちらにもあいつらがいて、あいつらはここでは既に死んでいる?
全て、白銀の取り巻きじゃないか。あまりにも話が出来すぎてやしないか……?
「黒須、どうした?」
「白銀……ですか?」
「そうだ。今も特別任務中のはずだ。もう、かなりの長期になるが、詳しくは知らん」
「白銀は生きて?」
「当然だ。――そういうことになっている」
――そういうことに、なって、いる?
「じゃあ、他の連中は……」
「立派に勤めを果たした。かの者達は、偉大なる魁であり、稀代の英雄だ」
「じゃぁ、じゃぁ、あいつら死んだって、死んだって、そんな、そんあ馬鹿なことが……」
あれ? オレは泣いているのか……?
「そんなことがあって……だってあいつら……」
教室でバカ騒ぎしてて……。
「あんなに白銀のことが好きで好きで……誰が白銀の一番かって……それなのに、あいつら……本当に……」
そんなのありかよ。毎日毎日、それこそ四六時中、白銀白銀ってうるさかった鑑まで……死んでいるんだろ?
冗談きついって……。
「おい、黒須! 仕方ない、キミは訓練からはずす――」
「いや、オレはやるよ。そのBETAってのにやられたんだろ? 委員長や冥夜たちは。やってやるよ、あいつらの仇はオレが取る、いや、取らせてくれ――」
オレの世界のあいつらじゃないとわかっていても、できることなら仇ぐらいはとってやろうじゃないか。
「黒須?」
「お願いです、オレにやらせてください」
「いいだろう。ただし、容赦はせんぞ!?」
「望むところです」
「良い返事だ」
……。
「なんなんだよ、この敵の数は。ボムぐらい寄越せってんだ! ま、まだ弾を吐いてこないだけマシなのか? すげえ数だけどよ! だがな、動きが単純なんだよ! んって――あ、ミスった」
周囲が赤い警告とともに暗くなった。
『こちらCP、バルキリー・マム。バルキリー10、胸部被弾、戦闘続行不可。撃墜と認定。――お疲れ様、黒須少尉』
「あーあ、しくったぜ」
『まだ任務中です! 気を抜かないで! 黒須少尉!』
「はいはい」
「黒須少尉、キミは腕を上げたか? 凄まじい上達振りだ」
「そうですか? 宗像中尉」
「うん、キミが今立っている場所がわかった。もっと精進したまえ。
それがお前のため――皆のためになる」
「はい」
「ところで、訓練中意味不明な言葉を口走っていたな。あれはどこの国の言葉なんだ?」
「へ?」
「ボムだとか弾だとか、他にもいろいろと。何かの符牒なのか?」
「いえ、そんなんじゃないんですけど」
「そうか。なら良い。気にするな。――黒須、調子が悪かったら、早めに申告しろよ? 処置は早いに越した事はないからな」
――オレはどう思われてるんだろう。
「イサミちゃん、凄かったね、さっき」
「ああ、私も驚いた。私は自惚れていたようだ。この程度の腕で斯衛を名乗っていたなどと。もはや恥ずかしいを通り過ぎて、穴があったら隠れてしまいたいほどにだ。だが、そんな事は許されぬ。精進せねば。――そして、イサミの腕に一日も早く追いつき、追い越してみせる!」
「うんうん、一緒にがんばろう! 咲夜ちゃん!」
「なになに、私たちも混ぜてよー。さっきの黒須のことだよね?」
「う、うん。ええと――」
「よろしく。涼宮茜よ。こっちは麻倉舞」
「よろしくね、月環中尉にストレリツォーヴァ少尉」
にこりと笑う二人。
「オレをダシにしてるのかよ。まいったな」
「いいじゃない。別に減るものでもなし。それに、君を目指してがんばろう、って言ってるんだからさ」
「涼宮、それはそうだけどよ」
「あはは、それだけイサミちゃんが凄い、ってことだよ」
「そうそう。お世辞抜きにあれには本当に驚いた。――戦術機があのような動きをするなんて、見たことも聞いたことも無かったからな」
「あはは。私はあるかな」
「涼宮少尉?」
「うん、黒須の動きは、白銀の動きに似てる。あの滅茶苦茶な動きはそっくりだよ。佐渡島で白銀が要塞級20体以上を翻弄したときは本当に凄かった」
――白銀だと?
オレは、思わず口に出していた。
「オレは白銀や鎧衣に勝ったことがないな。あいつらが乱入してくると――」
そう、恥ずかしい話、オレはバルジャーノンで白銀や鎧衣に一度も勝った事はない。
毎回いいところまでいくんだけどな。
「?!」
涼宮が驚いたようにオレを見た。
「黒須、君は白銀に会ったことがあるの?」
あ――。そうだ、こいつらはあくまで別人で、バルジャーノンなんか知らないんだった――迂闊!
「あ、それ……データを見たんだ、データを」
「そういうことね。大方、香月副指令にでも見せてもらったんでしょう?」
「……」
「ま、いいわ。それはそうと、黒須はともかく、さすが斯衛とソ連のエースね。あなた達も相当な腕だったけど?」
「そんなことはない。連携に戸惑って今日は迷惑をかけた。すまなかった」
「あはは、そ、そうかな。私もちょっと勝手がわからなくて」
「それはお互い様。早くなれて、いつ出撃命令が出ても対応できるようにしておかないとね」
麻倉が締めてくれた。
「うん」
「ああ」
「そうね」
「そうだな」
急に人数が増えてどうしたものかと思ったが、うまくやっていけそうだ。
「でね、堅い話はここまでにして、寝るまでの自由時間、なにか遊ばない? 親交を深めるためにも!」
麻倉には助かる。こうして気遣ってくれているのが良くわかるよ。
だけど、オレは先生のところへ行かないとな……。
「黒須?」
「あ、オレ、香月先生に呼ばれてるんだ。行かないと。付き合えなくてごめん。みんな」
「副指令に?! すまない、気がつかなかった。待たせると悪い、早く行くといい」
「ああ、じゃ、またな」
オレはPXを後にする。
背後で、涼宮の呟きが聞こえた。
「黒須も先生って呼んでるんだ、副指令のこと――」
オレが中に入ると、先生はなにやら書類に目を通していた。
「黒須、来たわね」
機嫌がいいのか――?
「早速ロシア人とうまくやってるみたいじゃない。言いつけを守ってくれて、私嬉しいわー」
「まあ、エレーナですからね。驚きましたけど」
「アンタ、あっちの世界では幼馴染だったんでしょ?」
「ええ。なにをするにも、どこに行くにも一緒です」
「そう。でも、どうしてロシア人なの?」
「エレーナの両親が日本の大学に呼ばれたらしいです。アイツの親、何かの研究をしてると聞いています」
「そ」
「それがどうかしましたか?」
「全然。純粋な興味よ。――前置きが長くなったわね。あなたに見せたいものがあるの。来なさい、黒須」
「社。ついて来て」
「――はい、香月博士」
青いシリンダーの部屋で、社を拾う。
「社、元気してたか?」
「――はい、黒須さん」
いくつもの隔壁を抜けて、先生は奥へ奥へと進んでゆく――。
青いシリンダーが幾つも並んでいた。
――中に何か浮かんでいるんだが……見てはいけないと、頭の中で最大級の警告が――。
先生が立ち止まった先に、それがあった。
「黒須。00ユニットの説明はしたわよね?」
――まさか。
――じゃあ、目の前のシリンダーに浮かぶ物体――は――。
――それは、紛れも無い人体の姿で――。
先生が向き直る。
「今日、鑑の話、宗像から聞いたんでしょ?」
――!?
「……鑑……純夏……?」
――ドクン――。
オレの心臓が――跳ねる。
おそるおそるシリンダーの中を覗き見る。
!!
馬鹿な。
鑑が、鑑が。
シリンダーの中で眠っていた。
「そう。鑑純夏少尉。――彼女こそ、人類の救世主、00ユニットよ」
「なに、黒須。鑑に惚れたの?」
「バカいわないでください!」
「じゃ、構わないわね」
「!?」」
なんだってんだ?
「社、やってちょうだい」
「はい――。でも、博士、純夏さんはもう――」
「ええ。活動限界だった――わね。いいからいいから。かまわないからやっちゃって。私の計算だと――」
社がシリンダーの前に立つ。
「純夏さん」
……。
「純夏さん――」
……。
「純夏さん――――?」
……。
どのくらい待っただろう。
10分はたったかもしれない。
いい加減、飽きてきたときだった。
「――!? 純夏さん――?」
気泡。
鑑の口から零れる泡。
!?
シリンダーの中の鑑が、息を、吐いた――のか?
「純夏さん――まさか――帰って――」
先生の口元が笑みを形作る。
「――あはは、あははははは!――面白いじゃない。面白いわ!! ――じゃ、社。次、お願いね」
社が頷き、振り向いてオレを見た。
社は泣いていた。
涙を流れるままに任せて、泣き腫らしていた。
そして、再び社は鑑に目をやる。
「うぐっ――純っ夏っ――さん、お願いっ――しっます――うぇっ」
すると――。
?! 鑑は瞼を薄っすらと開いた――かに――見えた――。
オレの頭の中がかき回される。
――タ――ケ――ル――ちゃん――。
タケルちゃんが――笑ってくれている――本当に――本当に――嬉しいよ――。
――私も――こんな平和な世界に――生まれたかったな――。
――この声は――鑑の――。
鑑の姿が黄金色に輝き――少なくともオレにはそう見え――始めた。
か、と思えば、
オレのなかにたくさんのイメージが、膨大な音声とともに流れ込んでくる。
コイツは、白銀?! どこもかしこも白銀ばかり――。
?!
御剣冥夜――? 委員長――? そうか、これは――こいつらは――。
――こいつらは、この世界でのあいつら――?!
――そうか、そんな事が――。
白銀、お前ってやつは――。
お前、凄ぇよ――何者だよ――。
眩いばかりの黄金色の輝きは、オレを、社を、夕呼先生を包んで――。
あまりのことにオレは悲鳴を上げていたらしい。
それからの事は良く覚えていない。