Muv-Luv belive   作:燈夜4649

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オルタ 二章

――そして、半月後――。

 

 

-----ここまで?-----

 

 

2002年 2月4日 月曜日

 

 

「なんなんだ? これは――冗談抜きで本当にこんなもので戦争をやるって言うのかよ」

 

座学では聞いていた。

 

シミュレーターにも乗ってみた。

 

しかし、実物を見てみると、不安ではちきれんばかりだ。

 

巨大ロボット。

 

鋭角的なで威圧的なデザイン。

 

そんな人型兵器。

 

ありえなさ過ぎる。

 

バルジャーノンじゃあるまいに。

 

そのロボットは山吹色のカラーリングの派手な外装をしていた。

 

迷彩ぐらいかけろよ、と思う。

 

まさかこれに乗り込めって言うんじゃないんだろうな……。

 

「貴様、そこで何を―ー?! き、貴様は……?!」

 

?!

 

オレは声の方角を向く。

 

見れば、その目の前のロボット――戦術機のハッチが開いていた。

 

一人の仕官が出てこようとして、オレの姿を見て固まっている。

 

強化装備姿の女性仕官――なんだあの恥ずかしい格好は。

 

まったく、目のやり場に困る。

 

おれは、その女性仕官の顔を、……見……、た……。

 

どうしてお前がそこにいる!?

 

「咲夜?」

 

「お前は……」

 

「?」

 

「イサミ……イサミなのか……いや、国連軍、しかも横浜の女狐の直轄ならば……ありえない話では……夢なら覚めないでくれ……」

 

「咲夜!!」

 

空を切る音とともに、腹に激痛が入った。

 

!?

 

オレは咲夜の居場所に一歩踏み出そうとして、重い一撃をもろに食らったらしい。

 

「イサミ!?」

 

咲夜の悲鳴を聞きながら、オレはゆっくりと倒れ伏す。

 

床に倒れたオレがその暴漢を見上げれば、屈強な壮年の男が見下ろしていた。

 

「貴様、われらを斯衛と知っての狼藉か」

 

「……なにを」

 

「咲夜様の御名を貴様ごときが気安く呼ぶなど、断じて認められぬ」

 

「鋼! 貴様なにを言っておるのだ! 我らは国連軍に出向してきたのだぞ! わかっておるのか!」

 

「……お言葉ですが咲夜様、それとこれとは話が別でございます」

 

「違わぬ! 私を特別扱いするするな!」

 

「しかし……」

 

 

 

 

 

「……大丈夫?」

 

懐かしい、とても懐かしい声がした。

 

あれ?

 

銀の髪。

 

「痛くない?」

 

「……」

 

「あれ? わたし、日本語話しているよね? わかる? 日本語。わかるかな?」

 

オレは、銀の髪の流れてくる方向に目をやった。

 

……。

 

ああ、間違いない。

 

「……エレーナ……」

 

「!!」

 

「お前、……エレーナだろ?」

 

「!! ……うん、うんうん! そうだよ? イサミちゃん」

 

 エレーナ・ミハエロヴィィナ・ストレリツオーヴァ。オレの幼馴染。

 

「よかった、お前も居たんだな」

 

「あー、やっぱりイサミちゃんだったんだね。こんなトコで寝ちゃだめだよ?」

 

「……お前こそ、こんなところでなにをしてるんだよ」

 

おうわ?!

 

エレーナがオレを力任せに起したかと思えば、今度はいきなり抱きしめてきた。

 

「イサミちゃんだ。イサミちゃんがいる。生きててくれたんだ。嬉しいよ。――しかも、わたしのこと、覚えてくれてたんだね――最高だよ!」

 

 

 

 

 

 

ブリーフィングルームには、オレを除くほぼ全員が集合していた。

 

オレを見つけるなり、涼宮が話しかけてきた。

 

「この前はごめんなさい。あなた、副指令直々の特別任務の帰りだったのでしょう?」

 

そう、説明されたらしい。あるいは、そう思い込んでいるのか。

 

この前はこいつのせいで酷い目に会ったが、どちらにしても好都合かも。

 

「いや、涼宮、こっちこそ誤解を招くような素振りをしてすまなかった。謝るよ」

 

神妙な涼宮に、オレは軽く頭を下げた。

 

「いえ、君は戦死したと聞かされていたから、もう驚いちゃって」

 

「あはは。そ、それはさぞかし驚いただろうな――それでもう、怪我はいいのか?」

 

「あれから半月は経つからね。もうすっかりいいよ」

 

「そうか。これからよろしくな」

 

「こちらこそ。って、黒須、君は印象変わったよね。だいぶ角が取れたと言うか、丸くなったって言うか」

 

涼宮が笑みを向けてきた。

 

――コイツ、涼宮にはそう見えるらしい。

 

「ほう。黒須。いい顔をしているな。これは――脈ありと言うことか? どう思う? ――祷子」

 

「いい傾向――そう思いますわ」

 

宗像に続いて入出してきた女性仕官――風間祷子少尉が、オレと涼宮を見比べて口にする。

 

「な、やめてください! そんなんじゃ」

 

涼宮が噛み付くが、宗像中尉は一向に気にしていないようだった。

 

「さて、キミたち。私がこのA-01連隊、第9中隊イスミ・ヴァルキリーズを預かる宗像美冴中尉だ」

 

宗像中尉の敬礼――。

 

皆が応えた。

 

「――時間だ。連隊、整列して待て。じきに指令と副指令が視える。――が、まだ間があるようだ。お互い面識のない者も多いため、各自紹介していこう」

 

「祷子」

 

「はい!」

 

「まず、コイツは風間祷子少尉だ。私の副官を勤めてもらう。隊や基地についての不明点は、まずは祷子に尋ねてくれ。ああ、私に断らずに口説くのは禁止だ」

 

「あら、まぁ」

 

「まあ、その点に留意しつつ、よろしくしてやってくれ」

 

「風間祷子少尉です。みなさん、よろしくお願いします」

 

宗像中尉とは違った意味で、まるで人形のような――和の感じのする清楚な雰囲気の人だった。

 

しかし、とんでもない紹介の仕方だな。

 

 

 

「黒須!」

 

「はい」

 

「黒須勇海少尉だ。つい最近まで特殊任務に従事してもらっていたため、物言いや行動に引っかかることがあると思う。申し訳ないが、各自配慮を頼む。隊への忠誠、衛士としての覚悟、そして戦術機の機動。このどれをとっても規格外の男だ。マイナス点を引いて余りあるものを持っている」

 

「褒めすぎです、中尉」

 

「ほら、な。まあ、各自配慮してやってくれ」

 

「黒須勇海少尉です。よろしくお願いします」

 

 

 

 

「次だ。茜!」

 

「は!」

 

「麻倉!」

 

「はい!」

 

「涼宮茜少尉と麻倉舞少尉だ。キミたちはもう、3ヶ月前の任官だが、最早新任とは扱わない。期待している」

 

「「は!」」

 

「涼宮茜少尉です! よろしくお願いします」

 

「同じく麻倉舞少尉です。よろしくお願いします」

 

どちらも気が強そうな、利発な印象を受けた。

 

 

 

「ここまでが元A-01連隊の死に損ないの紹介だ。次は日本帝国軍出身の二名を紹介する」

 

?! ななみ先輩に六分儀!?

 

「帝国本土防衛軍帝都防衛第一師団より松浦七海中尉」

 

「は!」

 

「―そして六分儀最上少尉」

 

「は!」

 

「……帝都守備連隊……反乱軍?!」

 

「麻倉!! 何か問題があるのか?!」」

 

「……は! ありません!」

 

うう、なんだこの空気は。急に場が凍ったぞ。

 

それに、反乱軍ってなんのことだ? 

 

「松浦七海中尉だ。帝国ではなく、人類のためにこの命、皆に預けたい。人同士で争うなど、愚かもいいところだ」

 

「六分儀最上少尉です。私も松浦中尉と同じ考えよ。――あの事件で帝国や隊の連中に愛想が尽きたわ。だから、国連軍の誘いを受けたの。渡りに船だったわ」

 

「そうだ。我等は小官などに声をかけ、誘っていただいた大恩に感謝している。力の限りを尽くしたい」

 

「――と、言うことだ。こちらからもよろしくお願いします。中尉、少尉。 ――いいな!? 麻倉!!」

 

「は!」

 

「隊長は宗像中尉です。松浦とお呼び捨てください、中尉」

 

「了解した。松浦中尉」

 

 

 

「以上二名が帝国軍から。次は帝国斯衛軍から来られた二名を紹介する」

 

斯衛ってなんだ? 

 

ああ、ハンガーでこのおっさんがそんなことを言っていたような。

 

帝国軍とは違うのか?

 

「こちらが斯衛第一師団より月環咲夜中尉。そして北條鋼少尉だ」

 

「月環咲夜中尉だ。私も先ほどの松浦中尉と六分儀少尉の志に大いに賛同する。ともに力を合わせられること、この上ない喜に思う。――まだまだ未熟なこの身ではあるが、死力を尽くし任に当たる所存だ。よろしく頼む」

 

……咲夜、難しい言葉使いすぎだろ。

 

何を言っているのかわかんないぞ。

 

「北條鋼と言う。よろしくお願いする」

 

おっさん……無愛想すぎるだろ。

 

 

「以上、二名が斯衛軍から。――では、最後に主賓の紹介だ――」

 

「――それは私からしてあげるわ。その方がみんな納得するでしょ」

 

「夕呼先生」

 

「――香月副指令に敬礼!」

 

全員が敬礼する。

 

「宗像ー。早速何してるの、ああ、お得意の嫌がらせ? ――みんな。敬礼はいいわ。私、格式ばった事は嫌いなの」

 

「は! 失礼しました、副指令」

 

顔は笑ってないが、目が笑っている。

 

「ま、いいわ」

 

「は!」

 

「でね、話を戻すとこの子が――」

 

「エレーナ・ストレリツォーヴァ少尉です! ソビエト社会主義共和国連邦、ロシア共和国から来ました! 出身はハバロフスクだけど、三歳の時に日本にやってきて、ここ、柊町に住んでました! で、しばらく日本で暮らしてたんだけど、数年前に突然、ソビエト科学アカデミーに呼ばれちゃって。ソビエト最高会議幹部会議直属の……」

 

「――そこまでよ、エレーナ。軍事機密って言葉や、国家機密って言葉、聴いた事はない?」

 

「あー、そうそう、そうだった、ありがとう香月博士。言っちゃいけないんだった……ごめんなさい」

 

……。

 

みんなの目が点になっていた。

 

鋼のおっさんなんか顔が引きつっている。

 

あの宗像中尉でさえ、信じられないものを見るような――そんな顔だった。

 

 

「まあ、こんな感じで、『かなりオバカ』な子だけど、みんな仲良くしてやってちょうだい。――戦術機を扱う腕前は私が保証する。ああ見えても、世界でも屈指の腕前だと思うわ」

 

「皆さんよろしくお願いします!」

 

「以上で各員の紹介は終わりだ」

 

 

 

……。

 

と、説明されたが「何がなんだかわからない」

 

日本……帝国って何ですか?

 

斯衛軍って、何のこと? 

 

今どきソビエト連邦って……ロシアはどうしたロシアは。

 

改めて別世界なのだと思い知らされた。

 

 

 

まぁ、いいか。

 

そのうちオレも慣れるだろ。

 

きっと慣れるはず。

 

今はそんなことよりエレーナが気になるな。

 

エレーナは整列する衛視の面々から、あからさまに避けられていた。

 

コイツが明らかに浮いているのは仕方がない。

 

仕方がないが、自ら墓穴を掘りまくっている。

 

だから、さらに性質が悪い。

 

軽いノリの自己紹介を自分から始めて見事に滑っていた。

 

お約束を忘れない奴、というのは見ていて安心する。

 

 

 

 

「続いて香月副指令より訓示がある。各員、傾注!」

 

 

「見ての通り、Aー01連隊に補充が来たわ。とはいっても、中隊規模止まりだけどね。

 

もうわかってると思うから、ぶっちゃけて言うけど、各方面から引き抜いたの。

 

どこの組織も、「ありがたく」人員と装備を提供してくれたわ。

 

まぁ当たり前よねー。なんたって、人類の脅威に対抗するためだもの。

 

お互い不安はあるでしょうけど、各々の技量に問題はないはずよ? 

 

国連太平洋方面第11軍、横浜基地へようこそ。特殊任務部隊A-01連隊はあなた達を歓迎するわ。

 

私の直属として、一日でも長く生き残ってちょうだい」

 

「細かい事は宗像、あなたにお願いするわ。一日も早く使い物になるようにして。今いえるのはそうね? それだけよ。じゃ、後は任せたわ」

 

先生は副官のピアティフとともにドアの向こうに消えた。

 

宗像中尉が進み出る。

 

「では、改めて名乗る。A-01部隊、イスミ・ヴァルキリーズを預かる宗像美冴中尉だ。我々の掲げる目標はただ一つ、人類の敵BETAの殲滅だ。そのためにはキミらに肝に銘じてほしいことがある。――全員、私の後に続き、復唱せよ!」

 

 

 

「死力を尽くして任務にあたれ」

 

「「「「死力を尽くして任務にあたれ」」」」

 

「生ある限り最善を尽くせ」

 

「「「「生ある限り最善を尽くせ」」」」

 

「決して犬死にするな」

 

「「「「決して犬死にするな」」」」

 

 

 

「以上だ! 午後はシミュレーターにて訓練を行う! 昼食後、各自強化装備に着替えてシミュレータールームへ集合せよ! では、解散!」

 

 

 

 

「黒須、ちょっと顔を貸せ」

 

「え?! ――宗像中尉?」

 

「この私が誘っているのだ。――それともキミは嬉しくないのか?」

 

「え? え?!」

 

「何を真に受けている。――冗談に決まっているだろう。おめでたいやつだ」

 

「――あはは」

 

なんだってんだ?

 

「悪かった。キミは純粋なのだな。――私はそんなお前が羨ましい」

 

――え?

 

「黒須」

 

いきなり耳元に息を吹きかけられ、ゾッとする。

 

「副指令より伝言だ。――ロシア人から目を離すな。『これはあなたの管轄よ』――だ、そうだ。――よかったな? 黒須」

 

「……」

 

「いい返事だ。黒須」

 

は? 

 

エレーナから目を離すな? 

 

アイツは幼稚園児か?

 

いや、きっとそんなことじゃないんだろう。

 

これは、オレが先生と約束した「協力」の一つに違いないんだ。

 

しかし、なんでまたエレーナなんだ?

 

まあ、いいか。

 

アイツの扱いなら心得ている、というか体に染み付いている。

 

特に問題があるとは思えなかった。

 

「では、たしかにキミに伝えたぞ」

 

「はい」

 

「エレーナ! PXに行こうか。場所、覚えたか?」

 

「うんうん! いこういこう!」

 

エレーナの返事に表裏などまったく感じられない。

 

皆が持っている悲壮感の欠片もなかった。

 

それが、逆に不安にさせなくもなかったが。

 

ま、いいか。

 

エレーナはやっぱりどこでもこうじゃないとな。

 

ん?

 

エレーナの背後で咲夜がこちらを見て――あの鋼とかいうおっさんもいるのか。

 

「咲夜、おまえもどうだ?」

 

「あ、ああ。行こうか――鋼、行くぞ」

 

「は」

 

 

 

 

 

メニューは純和風。

 

色は茶色。醤油味! と、いったところだろう。

 

鯖味噌定食、と書いてあったっけ。

 

「わたし、久しぶりの日本食だよう。何年ぶりかなぁ」

 

「ん? そうなのか?」

 

「うんうん! あっちの食べ物も美味しいけれど、日本の味がいっつも懐かしかったんだー」

 

エレーナはガツガツ食っていた。

 

箸を日本人以上に器用に使っている。

 

「うらやましいなぁ。イサミちゃんは、こんな美味しいもの毎日食べてたんだもの」

 

いや、超マズイんだが……合成食料とかいったか? コレ。

 

これならコンビニ弁当のほうが数倍美味いぞ。

 

まぁ、それはそうと。口の周りに米粒がついているぞ。エレーナ。

 

「エレーナ、ところで貴様が乗ってきた、あのソ連製の戦術機なのだが――」

 

咲夜はそっちに興味があるらしい。

 

戦術機とは、あのロボットのことだ。

 

この世界では飛行機である戦闘機が役に立たないそうだ。

 

その代わりと言っては何だけど、あのロボット――戦術歩行戦闘機、戦術機――が幅を利かせているらしい。

 

咲夜の知りたい事は、みんなも知りたいことであったらしい。

 

横に座る北條少尉どころか、PX中の人間が聞き耳を立てているようだった。

 

「あ、あれ? Su―37UBチェルミナートル、って言って、複座の戦術機なんだよー。香月はか……あ。ごめん、これ以上は言っちゃいけないんだった。あはは、ごめんねー」

 

「すまぬ、軍機であったか。妙なことを聞いてすまなかった」

 

「いいよいいよ咲夜ちゃん!」

 

「あ、ああ……」

 

「咲夜様、この妙なロシア人――ストレリツォーヴァ少尉とお知り合いなのですか?」

 

今、妙な、と言うところに変なアクセントを感じたぞ。

 

「ああ、言わなかったか? 幼少のころからしばらくの間、ずっと共に遊んでおったのだ。それは、イサミとも一緒だ」

 

北條少尉の刺すような視線が怖かった。

 

「へー。黒須、この二人、あんたの知り合いだったんだ」

 

「あ、涼宮」

 

「いや、君から人に話しかけてるのを見てさ。意外に思ったんだ」

 

「そうか? そんなだったか? オレ」

 

「そうだよ。だって、あんた多恵や高原とはめったに口もきかなかったじゃない」

 

涼宮。築地。高原。麻倉。3-D……夕呼先生のクラスの面々だったと思う。

 

「そうだったっけ?」

 

「そうだよ。あはは! じゃ、私、先に行ってるから。お先にー」

 

「黒須、また後で軽く揉んであげるよ。模擬戦、期待しといて!」

 

麻倉までもがオレの背中を叩いて涼宮の後を追っていった。

 

 

 

 

 

宗像中尉がコンソールを叩く。

 

「貴様らが今から行うデータは、全人類が総力を挙げて行った桜花作戦のデータだ。貴様らも知っての通り、この作戦において人類はオリジナルハイヴを攻略した。その担い手たる名も無き英雄の名は、一般には知られていない! だが、イスミ・ヴァルキリーズの一員となった貴様達にはこれを知る権利と義務がある! 良いか、今から我々人類にこのデータをもたらし、人類の敵に正義の鉄槌を下した偉大なる英雄の名を告げる。心に刻め!」

 

「人類に希望をもたらした、我等がイスミ・ヴァルキリーズの英雄、白銀武、社霞の名を称えよ!」

 

「彼らを支えて散った榊千鶴、御剣冥夜、彩峰慧、珠瀬壬姫、鎧衣美琴、そして鑑純夏の名を刻め!」

 

「彼らの遺志を無駄にするな! 我ら新生イスミ・ヴァルキリーズは彼らの遺志を継がねばならんのだ!」

 

 

 

白銀? 委員長? 御剣……? どういうことだ? こちらにもあいつらがいて、あいつらはここでは既に死んでいる?

 

全て、白銀の取り巻きじゃないか。あまりにも話が出来すぎてやしないか……?

 

「黒須、どうした?」

 

「白銀……ですか?」

 

「そうだ。今も特別任務中のはずだ。もう、かなりの長期になるが、詳しくは知らん」

 

「白銀は生きて?」

 

「当然だ。――そういうことになっている」

 

――そういうことに、なって、いる?

 

「じゃあ、他の連中は……」

 

「立派に勤めを果たした。かの者達は、偉大なる魁であり、稀代の英雄だ」

 

「じゃぁ、じゃぁ、あいつら死んだって、死んだって、そんな、そんあ馬鹿なことが……」

 

あれ? オレは泣いているのか……?

 

「そんなことがあって……だってあいつら……」

 

教室でバカ騒ぎしてて……。

 

「あんなに白銀のことが好きで好きで……誰が白銀の一番かって……それなのに、あいつら……本当に……」

 

そんなのありかよ。毎日毎日、それこそ四六時中、白銀白銀ってうるさかった鑑まで……死んでいるんだろ? 

 

冗談きついって……。

 

「おい、黒須! 仕方ない、キミは訓練からはずす――」

 

「いや、オレはやるよ。そのBETAってのにやられたんだろ? 委員長や冥夜たちは。やってやるよ、あいつらの仇はオレが取る、いや、取らせてくれ――」

 

オレの世界のあいつらじゃないとわかっていても、できることなら仇ぐらいはとってやろうじゃないか。

 

「黒須?」

 

「お願いです、オレにやらせてください」

 

「いいだろう。ただし、容赦はせんぞ!?」

 

「望むところです」

 

「良い返事だ」

 

 

 

 

……。

 

 

 

 

「なんなんだよ、この敵の数は。ボムぐらい寄越せってんだ! ま、まだ弾を吐いてこないだけマシなのか? すげえ数だけどよ! だがな、動きが単純なんだよ! んって――あ、ミスった」

 

周囲が赤い警告とともに暗くなった。

 

『こちらCP、バルキリー・マム。バルキリー10、胸部被弾、戦闘続行不可。撃墜と認定。――お疲れ様、黒須少尉』

 

「あーあ、しくったぜ」

 

『まだ任務中です! 気を抜かないで! 黒須少尉!』

 

「はいはい」

 

 

 

 

 

 

「黒須少尉、キミは腕を上げたか? 凄まじい上達振りだ」

 

「そうですか? 宗像中尉」

 

「うん、キミが今立っている場所がわかった。もっと精進したまえ。

それがお前のため――皆のためになる」

 

「はい」

 

「ところで、訓練中意味不明な言葉を口走っていたな。あれはどこの国の言葉なんだ?」

 

「へ?」

 

「ボムだとか弾だとか、他にもいろいろと。何かの符牒なのか?」

 

「いえ、そんなんじゃないんですけど」

 

「そうか。なら良い。気にするな。――黒須、調子が悪かったら、早めに申告しろよ? 処置は早いに越した事はないからな」

 

――オレはどう思われてるんだろう。

 

 

 

 

 

 

「イサミちゃん、凄かったね、さっき」

 

「ああ、私も驚いた。私は自惚れていたようだ。この程度の腕で斯衛を名乗っていたなどと。もはや恥ずかしいを通り過ぎて、穴があったら隠れてしまいたいほどにだ。だが、そんな事は許されぬ。精進せねば。――そして、イサミの腕に一日も早く追いつき、追い越してみせる!」

 

「うんうん、一緒にがんばろう! 咲夜ちゃん!」

 

「なになに、私たちも混ぜてよー。さっきの黒須のことだよね?」

 

「う、うん。ええと――」

 

「よろしく。涼宮茜よ。こっちは麻倉舞」

 

「よろしくね、月環中尉にストレリツォーヴァ少尉」

 

にこりと笑う二人。

 

「オレをダシにしてるのかよ。まいったな」

 

「いいじゃない。別に減るものでもなし。それに、君を目指してがんばろう、って言ってるんだからさ」

 

「涼宮、それはそうだけどよ」

 

「あはは、それだけイサミちゃんが凄い、ってことだよ」

 

「そうそう。お世辞抜きにあれには本当に驚いた。――戦術機があのような動きをするなんて、見たことも聞いたことも無かったからな」

 

「あはは。私はあるかな」

 

「涼宮少尉?」

 

「うん、黒須の動きは、白銀の動きに似てる。あの滅茶苦茶な動きはそっくりだよ。佐渡島で白銀が要塞級20体以上を翻弄したときは本当に凄かった」

 

――白銀だと? 

 

オレは、思わず口に出していた。

 

「オレは白銀や鎧衣に勝ったことがないな。あいつらが乱入してくると――」

 

そう、恥ずかしい話、オレはバルジャーノンで白銀や鎧衣に一度も勝った事はない。

 

毎回いいところまでいくんだけどな。

 

「?!」

 

涼宮が驚いたようにオレを見た。

 

「黒須、君は白銀に会ったことがあるの?」

 

あ――。そうだ、こいつらはあくまで別人で、バルジャーノンなんか知らないんだった――迂闊!

 

「あ、それ……データを見たんだ、データを」

 

「そういうことね。大方、香月副指令にでも見せてもらったんでしょう?」

 

「……」

 

「ま、いいわ。それはそうと、黒須はともかく、さすが斯衛とソ連のエースね。あなた達も相当な腕だったけど?」

 

「そんなことはない。連携に戸惑って今日は迷惑をかけた。すまなかった」

 

「あはは、そ、そうかな。私もちょっと勝手がわからなくて」

 

「それはお互い様。早くなれて、いつ出撃命令が出ても対応できるようにしておかないとね」

 

麻倉が締めてくれた。

 

「うん」

 

「ああ」

 

「そうね」

 

「そうだな」

 

急に人数が増えてどうしたものかと思ったが、うまくやっていけそうだ。

 

「でね、堅い話はここまでにして、寝るまでの自由時間、なにか遊ばない? 親交を深めるためにも!」

 

麻倉には助かる。こうして気遣ってくれているのが良くわかるよ。

 

だけど、オレは先生のところへ行かないとな……。

 

「黒須?」

 

「あ、オレ、香月先生に呼ばれてるんだ。行かないと。付き合えなくてごめん。みんな」

 

「副指令に?! すまない、気がつかなかった。待たせると悪い、早く行くといい」

 

「ああ、じゃ、またな」

 

オレはPXを後にする。

 

背後で、涼宮の呟きが聞こえた。

 

「黒須も先生って呼んでるんだ、副指令のこと――」

 

 

 

 

 

オレが中に入ると、先生はなにやら書類に目を通していた。

 

「黒須、来たわね」

 

機嫌がいいのか――?

 

「早速ロシア人とうまくやってるみたいじゃない。言いつけを守ってくれて、私嬉しいわー」

 

「まあ、エレーナですからね。驚きましたけど」

 

「アンタ、あっちの世界では幼馴染だったんでしょ?」

 

「ええ。なにをするにも、どこに行くにも一緒です」

 

「そう。でも、どうしてロシア人なの?」

 

「エレーナの両親が日本の大学に呼ばれたらしいです。アイツの親、何かの研究をしてると聞いています」

 

「そ」

 

「それがどうかしましたか?」

 

「全然。純粋な興味よ。――前置きが長くなったわね。あなたに見せたいものがあるの。来なさい、黒須」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「社。ついて来て」

 

「――はい、香月博士」

 

青いシリンダーの部屋で、社を拾う。

 

「社、元気してたか?」

 

「――はい、黒須さん」

 

いくつもの隔壁を抜けて、先生は奥へ奥へと進んでゆく――。

 

 

 

青いシリンダーが幾つも並んでいた。

 

――中に何か浮かんでいるんだが……見てはいけないと、頭の中で最大級の警告が――。

 

 

 

先生が立ち止まった先に、それがあった。

 

「黒須。00ユニットの説明はしたわよね?」

 

――まさか。

 

――じゃあ、目の前のシリンダーに浮かぶ物体――は――。

 

――それは、紛れも無い人体の姿で――。

 

先生が向き直る。

 

「今日、鑑の話、宗像から聞いたんでしょ?」

 

――!?

 

「……鑑……純夏……?」

 

――ドクン――。

 

オレの心臓が――跳ねる。

 

 

おそるおそるシリンダーの中を覗き見る。

 

!!

 

馬鹿な。

 

鑑が、鑑が。

 

シリンダーの中で眠っていた。

 

 

「そう。鑑純夏少尉。――彼女こそ、人類の救世主、00ユニットよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに、黒須。鑑に惚れたの?」

 

「バカいわないでください!」

 

「じゃ、構わないわね」

 

「!?」」

 

なんだってんだ?

 

「社、やってちょうだい」

 

「はい――。でも、博士、純夏さんはもう――」

 

「ええ。活動限界だった――わね。いいからいいから。かまわないからやっちゃって。私の計算だと――」

 

社がシリンダーの前に立つ。

 

 

 

 

 

 

「純夏さん」

 

……。

 

「純夏さん――」

 

……。

 

「純夏さん――――?」

 

……。

 

どのくらい待っただろう。

 

10分はたったかもしれない。

 

いい加減、飽きてきたときだった。

 

 

 

「――!? 純夏さん――?」

 

 

気泡。

 

鑑の口から零れる泡。

 

!?

 

シリンダーの中の鑑が、息を、吐いた――のか?

 

「純夏さん――まさか――帰って――」

 

先生の口元が笑みを形作る。

 

「――あはは、あははははは!――面白いじゃない。面白いわ!! ――じゃ、社。次、お願いね」

 

社が頷き、振り向いてオレを見た。

 

社は泣いていた。

 

涙を流れるままに任せて、泣き腫らしていた。

 

そして、再び社は鑑に目をやる。

 

「うぐっ――純っ夏っ――さん、お願いっ――しっます――うぇっ」

 

 

 

すると――。

 

?! 鑑は瞼を薄っすらと開いた――かに――見えた――。

 

オレの頭の中がかき回される。

 

 

 

――タ――ケ――ル――ちゃん――。

 

タケルちゃんが――笑ってくれている――本当に――本当に――嬉しいよ――。

 

――私も――こんな平和な世界に――生まれたかったな――。

 

 

 

――この声は――鑑の――。

 

鑑の姿が黄金色に輝き――少なくともオレにはそう見え――始めた。

 

か、と思えば、

 

オレのなかにたくさんのイメージが、膨大な音声とともに流れ込んでくる。

 

 

 

コイツは、白銀?! どこもかしこも白銀ばかり――。

 

?! 

 

御剣冥夜――? 委員長――? そうか、これは――こいつらは――。

 

――こいつらは、この世界でのあいつら――?!

 

――そうか、そんな事が――。

 

 

白銀、お前ってやつは――。

 

お前、凄ぇよ――何者だよ――。

 

 

 

眩いばかりの黄金色の輝きは、オレを、社を、夕呼先生を包んで――。

 

 

 

あまりのことにオレは悲鳴を上げていたらしい。

 

それからの事は良く覚えていない。

 

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