風の鳴る歌を翼にして光さすところまで   作:秋月玲

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CASE 1

夢を見ていた。あの日の夢を。

 

 

あの可憐な歌姫から笑顔を奪ったのは誰だろう。自分か?

 

 

守れなかったのは間違いなく自分だろう。漆黒の翼を広げて飛ぶ彼女を止める術を知らない。

 

 

あの日、オレが選択を間違えなければ違った現実(今)があったかな?

 

 

なぁ?  奏

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

変な夢を見た。

 

 

 

まだ薄暗い時間に目を覚ます。時間を確認するために携帯に手をやると「4:28」と出ている。中途半端な時間だなと思い。携帯をベッドへ投げる。

 

 

二度寝してしまうと仕事に支障がというか起きられないのは間違いないため、嫌な汗を流すためにシャワーを浴びることにする。

 

 

シャワーを終え、軽く朝食を済ませたオレはソファーで煙草を咥えながら夢のことを考える。あれはなにか意味があるように感じたからだ。

 

 

全てに絶望したかのような目をした後輩。そんな彼女を悲しそうな表情で見つめるもう一人の後輩。そういえば、しばらくあの二人にあっていないなと思い出す。お互い忙しい身だ。仕方ないだろうと思うがなぜか胸に引っかかる。

 

 

口から吐く煙を見つめながら、ぼんやりと考える。どうしてそんなことを考えていたのか。この時オレはなにも知らなかった。

 

 

物思いに浸っていると携帯が着信を知らせる。

 

 

「はい」

 

 

『おはようございます。今下に着きました。もう準備出来ていますか?』

 

 

電話の相手から聞かれ、

 

 

「とっくに済んでいる」

 

 

そう伝える。

 

 

『流石ですね。駐車場で待っていますので降りてきてくださいね』

 

 

通話を終えると、準備しておいた荷物を持ち玄関を開ける。施錠をした後、お目当ての車を見つけ乗り込む。

 

 

「南さん、今日の予定は?」

 

 

「今日は新曲のPVの撮影の打ち合わせ。その後は新曲の宣伝に何個か番組に出演となってます」

 

 

運転する女性が言いながら渡してきた台本を受け取る。お昼の情報番組とバラエティが一本。これが今日のオレ、倉田光(ヒカル)仕事のようだ。

 

 

ソロの歌手としてそれなりにCDも売れるようになってきた。テレビの出演も増えてきた。もちろん、後輩たちの人気に便乗したところが大きい。そのため素直に喜べてはいない。

 

 

(あいつら、次はあそこでライブするって言うのに)

 

 

窓から見えた地上から高い位置に作られたライブ会場を見ながら落ち込む。大きさも収容人数も桁違いだ。街中にも彼女たちを起用したポスターあちこちに貼られている。

 

 

これ以上考えるとより落ち込みそうだったので、台本に目を通す。少しでも思考を違うものへ持っていきたかったのだ。

 

 

テレビ局について楽屋に向かう途中、珍しい人物に声をかけられる。

 

 

「お久しぶりですね。今日はテレビ収録ですか?」

 

 

緒川慎次さんだ。後輩たちのマネージャーをしている人だ。

 

 

「えぇ。そちらも?」

 

 

「いえ、今日は後日ある番組の打ち合わせでして。すいません。行かないといけないのでこれで失礼しますね」

 

 

緒川さんと話が終わり、自分のマネージャーである南さんを見る。

 

 

「少しなら大丈夫ですよ」

 

 

さすが付き合いが長いだけある。なんにも言わずにオレが思ったことを悟ってくれたようだ。

 

 

「なら久しぶりに後輩の顔を見てくるか」

 

 

そして今その後輩たちの楽屋前に来ている。色々考えてしまいそうだったので、考える前にノックする。

 

 

「はい」

 

 

すぐに後輩の1人、風鳴翼がドアを開けてくれた。

 

 

「よう」

 

 

「光さん。どうしてこちらへ?」

 

 

体を退けて中へ入れてくれる。もう1人の後輩、天羽奏の姿もある。

 

 

「どうしたんだい?」

 

「たまとま同じところで仕事だったみたいだからな。なかなか挨拶に来ない後輩の様子を見に来ただけさ」

 

 

翼が渡してくれたお茶を飲みながらそんな軽口を言う。

 

 

「それは悪かったね。あたしらは光がここで仕事だなんて知らなかったのさ」

 

 

「すいません。本来なら後輩である私たちが挨拶に行かなくてならないのに」

 

 

2人の返答を聞いて笑いそうになる。気持ちいいくらいに正反対だなと。

 

 

「まぁ今度のライブ期待してる。オレはちょうど海外で仕事だから行けないけど、成功するよう祈っておくよ」

 

 

そう言って立ち上がる。そろそろ行かないと南さんに怒られそうだ。

 

 

「ありがとな」

 

 

それがオレが見た最後の奏の笑顔だった。

 

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