「なんなのよ。あのギアは」
了子さんが声を荒げる。オレから話を聞いていたが、見るのでは違うのだろう。滑走路で立花と雪音の間に舞い降りた翼。それを見てオレも驚く。
「前より黒くなってやがる。あのバカ」
ギアの黒くなっている部分が以前より広がっているように思えた。それを見たオレは、思わず飛び出していた。
「ちょっと、待ちなさい」
マリアが後ろで叫んでいるがオレは振り返らず、走る。
車に乗ってさっきまでいた場所へ急いで戻る。
オレが到着した時にはまだ睨み合ったままだった。
「立花に、雪音と言ったか? 私の邪魔をするなら斬り捨てる」
「待ってください。翼さん。わたしたち一緒に戦えないんですか?」
「お前の邪魔ってなんだよ。あたしらはなんもしてねぇ」
言い争う声を聞きながら近づく。
「今後一切、ノイズに関わってくれるな。アレは私が全て斬る」
ノイズを奏の仇と思っているのか、そんなことを言う翼。
「もう1つ、二課からも手を引いてもらおうか」
「あたしは元々連れてこられただけだ。あんたがいないから手伝ってやってるだけだろうが」
その言葉が翼の怒りに火をつける。
《蒼ノ一閃》。アームドギアにエネルギーを集約させ、斬撃に乗せて飛ばす翼の得意技。それが雪音に襲いかかる。
「毎回毎回、いきなりすぎだろ」
なんとか手をクロスさせ、防御した雪音。
「大丈夫か?」
オレが雪音に手を差し伸べると背中から寒気を感じる。振り向くと翼が見たことないほど、冷たい目をし殺気を飛ばしていた。
「翼?」
その時、すぐ近くに車が止まり、中からマリアと暁、月読が降りてくる。
「お前らなにしに来た?」
「生身でシンフォギアを相手にしようなんてどこまで無茶するのよ」
マリアに怒られる。まだ相手にしてはいないのだが。
『Seilien coffin airget-lamh tron』
『Zeios igalima raizen tron』
『Various shul shagana tron』
3人が聖詠し、シンフォギアを纏う。マリアがアガートラームを、暁がイガリマを、月読がシュルシャガナをそれぞれ。
「お前たちもシンフォギアか。私の邪魔をしてくれるな!」
翼の刀をマリアがなんとか受け止めている。
「これが本当にあの風鳴翼なの?」
一瞬の隙をつかれ、腹部に蹴りが入る。
「マリア」
マリアが吹き飛ばされたのを見て、月読が丸鋸を飛ばして攻撃する。これを翼は屈んでかわし、剣を振り上げ月読を殴り上げる。
「すいません。翼さん」
その背中に完全に死角から立花が殴りかかる。体を捻ってそのまま遠心力を利用し、立花を殴りつける。
「やったるデス」
暁も鎌を振り下ろすが翼が簡単に受け流し、柄で殴られる。
「だったら全部乗せだ!」
雪音がミサイルを飛ばす。これも切り捨てられ、爆炎の中きら現れた翼に反応の遅れた雪音は吹き飛ばされた。
「装者が5人がかりでこのザマかよ」
「顔合わせもまだで連携が取れないとは言え」
「これはさすがにショック」
「強すぎデスよ」
「同じシンフォギアとは思えない」
雪音、マリア、月読、暁、立花がそれぞれ立ち上がりながら言う。気持ちはわかる。見ているオレも驚きが隠せない。シンフォギアの性能にそこまでの差はないはずだ。それが全員でかかってこの有様なのだから。
「こんなものなのか。この程度の力でなにを守る? その程度の覚悟でなにを掴み取る? 戦場を、風鳴翼を馬鹿にするな!!!」
翼は吠えるとこちらへ向く。
「光さんも光さんです。このような連中になにを期待しているのです? なにも守れやしない。救えはしないのに!」
淀んだ瞳になにを映している?
禍々しい雰囲気はなにを思っている?
霞んだ表情はどこへ向かって飛んでいる?
オレは翼が翼に見えなかった。まるで別人を見ている気分だ。
「なにがここまでお前を変えた?」
オレの言葉に不思議そうに首を傾げる。
「私はなにも変わってなどいません。ただ、覚悟を強く持っただけです。あの日弱かった自分と決別するために」
「やはり奏の幻影に囚われているのか」
奏を守れなかった。あんなことになってしまった責任を全部背負っている。
「さっきから好き勝手言ってくれる」
5人は顔を見合わせると頷き、それぞれの方向から翼に襲いかかる。
「生ぬるいな」
上空へと飛び避ける翼。そこを遠距離攻撃の雪音が狙う。
「これしきのことで」
ミサイルを足場にし、更に上空へと飛ぶ。
「まずい!」
オレが気付いたときには遅かった。
《千ノ落涙》空から小太刀が雨のように降り注ぎ、雪音以外の4人を巻き込む。《天ノ逆鱗》アームドギアを大きく変化させ、その柄を蹴り押すように雪音へと落とす。
「おい! 無事か?」
オレが叫ぶが、煙幕が晴れて見えた光景は悲惨だった。全員シンフォギアがボロボロになっており、原型を留めていないほど破損している。辛うじてギアを纏えているといった感じだ。
「そろそろ幕を下ろしましょう」
翼が後ろに飛んで、全員が一直線上に入るように位置取る。
《蒼ノ一閃》再びあの斬撃が飛び全員を襲う。頭で考えるより先に体が動いていた。
持っていた刀でなんとか軌道を逸らす。代償にオレは全身から血が噴き出るのを見つめる。
「どうして? どうしてそやつらをあなたが守るのですか? どうして、私の邪魔をするのですか?」
そこでオレは意識を手放した。