風の鳴る歌を翼にして光さすところまで   作:秋月玲

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CASE13

「ライブでの惨劇までの間、2人は本当に仲良くなって。内気な翼を奏が引っ張ってたりしていた。それこそ姉妹のように」

 

 

改めて思い返すと、本当にあの2人は自分の中では大きな存在だと感じる。

 

 

「だからあのライブで奏のことがあった時の翼は見ていられないほど荒んでいた。オレの言葉も届かないほどに。オレも同じく荒んでいたからそこまで優しく接することも出来ていなかったけどな」

 

 

そこで立花が買ってきてくれていたお茶を口に含み、立花の表情を伺う。立花にとってはあのライブでの惨劇は他人事ではないだろうから。

 

 

「1年くらい過ぎた頃から翼は再び歌い始めた。どんな心境の変化があったのか、それはわからないが」

 

 

そこで溜め息を1つ。きっと立花にはここからが辛い話だろう。

 

 

「最近では昔ほどではないが、笑ったりしていた。それが立花の登場で少しな。正直、オレも最初は受け入れられなかった。立花の纏うそれは奏と同じガングニールだったから」

 

 

それを聞いて俯く立花。大丈夫だと言う意味で立花の頭に手を置く。

 

 

「でも、それはあくまできっかけだ。直接の原因は正直わからない。でもトドメはオレの言葉だろう」

 

 

あの日告げてしまった。『翼らしくない』。この言葉が翼の心を壊した原因なのだろう。

 

 

「それがオレが話せる全てかな」

 

 

オレの話を聞いて全員が何かを考えるように真剣な表情をしている。立花はどこか暗いが。

 

 

「まぁ色々とわかったこともあるし、わかんないこともあるが。その、あいつが悪いやつじゃないってことはわかった」

 

 

雪音が後頭部に手を回して言う。

 

 

「そうね。私としては、ツヴァイウイングの素顔や昔のことが聞けたのが新鮮だったわ」

 

 

マリアは1度だけツヴァイウイングと会ったことがあるそうで、そのときは歌手としての2人だったから印象が違ったのだろう。

 

 

「アタシはあの2人を簡単に倒してることに驚きデス」

 

 

 

「わたしも。指導して強くしているところも」

 

 

暁や月読の言うことは少し違う。オレが簡単に勝てていたのも最初だけだし、それもあいつらが技とかを使わずにいたからだ。指導も助言したくらいで、自分たちで考えてちゃんと答えにたどり着いている。

 

 

「わたしは、光さんに認められてから、2人を名前で呼んだことが気になりました。わたしたちは認めてもらえてないんだなって」

 

 

確かにここにいる全員をオレは名前ではなく姓名で呼ぶ。マリアはファーストネームが呼びづらいから別だが。

 

 

「それは違う。オレはあの2人以外を余程じゃないと、名前で呼ばないって決めているからな。あの2人より先に名前で呼んでいた、了子さんと南さんくらいだよ。後、呼びづらいからマリアはマリアと呼ぶが」

 

 

カデンツァヴナさんとか呼びづらい。途中で噛みそうだしな。

 

 

「それはあの2人が特別だからかしら?」

 

 

「特別なのは特別だ。でもそれだけじゃない。身寄りのないオレに初めて出来た家族のような存在なんだ。そしてそれはこの先もあの2人だけだと言えるからかな」

 

 

司令や緒川さん、了子さんに藤尭さんや友里さんも大切な存在だ。それでもあの2人ほどではないし、家族とまでは言えない。それはきっと目の前の装者たちもだろう。

 

 

「とりあえずだ。今の話を聞いてあたしは決めた。あたしを強くしてくれ。今は体がそんなのだから難しいかもだけどよ」

 

 

雪音に続くように他の装者たちも頭を下げてくる。

 

 

「とりあえず、本部で了子さんか司令に聞けば翼や奏の戦っている映像があるかもしれない。それを見て勉強してほしい。後、今の翼はオレじゃあどうにもならないくらい強い。だからオレの助言なんて役に立つかわからない。それでもいいか?」

 

 

全員が頷くのを確認してオレはその提案を受け入れる。

 

 

 

話すことも終わって、全員がそれぞれの病室に戻り1人になって考える。翼の強さの秘訣。あれは怨みや憎しみに近いものを感じる。どうやってそこから翼を救い出すかを。奏がもういない今、出来るのはオレだけなんだろうと。

 

 

夜も更け月が照らす中、眠れないでいるオレの前に1人の来客がやってくる。

 

 

「こんな夜更に誰かと思えば」

 

 

「非常識なのは存じています。しかし、2度も私のせいで怪我をさせてしまい、どうしても会いに来てしまいました」

 

 

青い長い髪を揺らしながらベッドに腰掛ける翼は、月明かりのせいもあっていつもより美しく見えた。

 

 

「別に迷惑だなんて思っていないよ」

 

 

「ふふっ。相変わらずですね。そうやってこんな私にも優しくしてくれる」

 

 

ギアを纏っているときとは別人のような翼に、いつもと変わらないように見える翼に安心する。

 

 

沈黙が辺りを支配する。どんな言葉を投げかけていいのか。今度は間違わないようにと慎重になり、言葉が浮かんでこない。

 

 

「忘れていました。これお見舞いです。食べられますか?」

 

 

そう言いながら袋から取り出したのは洋梨。きっとオレの好物だと知っているからわざわざ買ってきてくれたのだろう。だから頷いて答える。

 

 

「よかった」

 

 

ベッドから降り椅子に座ると綺麗に皮を剥き、切ってくれる。

 

 

「はい。どうぞ?」

 

 

そのままフォークで口に運んでくれる。重症のオレを気遣ってくれてのことだろうが、食べさせてもらうのは少し恥ずかしい。

 

 

「どうしました?」

 

 

小首を傾げる翼に少し体が火照る。こんなことをされて照れているのだろうか。

 

 

「いや、もらうよ」

 

 

翼に食べさせてもらったソレの味は覚えていない。近くにある翼の顔が、してもらっていることが、オレを照れさせる。

 

 

同時に思う。風鳴翼という少女はこんなにも美しいのかと。




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