風の鳴る歌を翼にして光さすところまで   作:秋月玲

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CASE14

翌朝目を覚ますともう翼の姿はなかった。夢だったのかと思うほどなんの痕跡も残っていなかった。持って来てくれた洋梨さえも。

 

 

「翼……」

 

 

思わず呟く。昨夜の翼は普段の翼に見えた。まだ戻ってこさせることが出来そうだと思う。

 

 

そんな中、二課ではある話題が盛んに行われた。新たな完全聖遺物が見つかったのだ。

 

 

冥王ハデスの槍『バイデント』が。

 

 

なんとか車椅子に乗せられオレもソレを見に行く。

 

 

「ハデスの槍なんて物騒な予感しかしないわ」

 

 

「冥王って呼ばれている神様のだよね?」

 

 

マリアや月読は不安そうな顔をしている。

 

 

「アタシの鎌も死神のデスよ?」

 

 

「それとは意味が違うだろ」

 

 

暁の言葉に雪音は呆れているようだ。

 

 

「でもまだ眠っているみたいだし、気にしなくても大丈夫なんじゃ?」

 

 

オレより一足先に退院している装者たちに後ろを押してもらいながらオレは久しぶりに二課へとやってくる。

 

 

「元気そうでよかったですよ」

 

 

「これを元気と言うならな」

 

 

ウェル博士の言葉に嫌味で返す。今はこの人の相手をしている場合ではないからだ。

 

 

 

「それで例のモノは?」

 

 

オレの言葉を聞いて司令がモニターにバイデントを映し出す。これがか。二又の槍。禍々しい雰囲気を醸し出すその槍に何故か見入ってしまう。

 

 

【我を求めるか?】

 

 

声が聞こえた気がして辺りを見渡す。

 

 

【力を望むなら、我を受け入れよ】

 

 

まただ。オレにしか聴こえていないようで、誰も反応しない。

 

 

(力か。翼を救う力は確かに欲しい。でも)

 

 

どうしてか、モニターに映るコレを受け入れていいとは思えない。

 

 

【声が聞こえるなら、求める証】

 

 

確かにオレは力が欲しい。翼を救う力が。翼やこの子たちが戦わなくて済む力が。

 

 

「それにしても冥王の槍なんて聖遺物。実在するなんてね」

 

 

了子さんの言葉で思考が戻る。

 

 

「やっぱり曰く付きだったりするんですか?」

 

 

「それは起動させたみないとわからないわ」

 

 

立花と了子さんのやりとりを聞いてある疑問が浮かぶ。

 

 

(起動していないのにオレは呼びかけられているのか)

 

 

それはこの槍を無意識に求めているようだった。

 

 

(考えても仕方ない。聞こえているか? バイデント。冥王の槍がただで使えるわけがない。誓約か条件があるのだろう?)

 

 

口に出すわけにはいかず、心で呼びかけてみる。

 

 

【誓約は3つ。呪いに打ち勝つことが出来て初めて使うことが許される。打ち負けた場合、お前の魂を頂くことになる。次に……。最後に……。これが誓約だ】

 

 

後半2つの誓約に迷ってしまう。

 

 

【ただし、この槍はどんな呪い、怨みをも貫くことが出来る】

 

 

この力があれば翼を救えるのか。なら!

 

 

(迷う必要はないな。どうすればお前を手に入れられる?)

 

 

【今夜呪いが降りかかるだろう。それに打ち勝てば我はお前の心に存在する】

 

 

なるほど。どんな呪いが降りかかろうが、必ず打ち勝つ。翼を、みんなを助けるためにも。

 

 

その後、せっかく二課に顔を出したのだからと、装者たちの戦闘を見て助言をすることとなった。

 

 

「立花は、踏み込みが弱い。それじゃ拳に威力が伝わらない。後、手数ももっと増やせ。ただ殴るだけじゃダメだ。雪音は……」

 

 

その後も全員の助言を続ける。

 

 

病院へ戻り、休むオレは悪夢にうなされていた。

 

 

『ノイズに襲われて生き残ったらしいぞ』

 

 

『両親や妹を犠牲にして助かったらしい』

 

 

聞こえてくるのは、昔よく言われた言葉。

 

 

『よく家族を犠牲にしておいて生きていられるよな』

 

 

『一緒に死ねばよかったのに』

 

 

小学生の頃、家族で出かけた先、父親の運転する車が高速道路を走っていたときにノイズと遭遇した。夏休み中なこともあり、あたり一帯は地獄絵図と化していた。我先にと誰もが逃げ出す中で、逆走車や車を捨てて逃げる人がいるため追突事故が多発していた。ガソリンに引火したのか、火の海となりノイズ以外での死者も多かった。

 

 

オレの家族もそうだった。追突を避けようと大きくハンドルを切ったため壁に激突。運がよかったのか悪かったのか、そこはノイズが壁半分ほどを壊したところであり、オレだけが車から投げ出された。

 

 

下がちょうど川であり、オレはなんとか一命を取り留めた。が、両親と妹は焼死体として発見される。

 

 

幼くして家族を失ったオレに待っていたのは、親戚同士によるオレの押し付けあい。保険金などもなく厄介なだけのオレは、結局誰も引き取ることを拒否し、施設へ預けられることが決まる。その施設も数年後にはノイズの襲撃があり崩壊。そこから1人で生きていくこととなる。

 

 

学校に行けば、罵倒の嵐。机に落書き、物がなくなる。こんなのは日常茶飯事で、暴力を振るわれることも珍しくなかった。教師も見て見ぬふりならまだよくて。ひどいときは教師も一緒になってしてくることもあった。

 

 

だからオレは中学からは行くことを止めた。両親の残してくれた僅かな貯金を持って故郷を捨てた。

 

 

全てを恨んだ。憎んだ。壊してしまいたかった。

 

 

「光さん! 光さん!」

 

 

優しく強く呼ぶ声にオレは目を覚ます。

 

 

「うなされていたようだったので、不承不承ながら起こさせていただきました」

 

 

目の前には心配そうに見つめる翼の顔があった。

 

 

「すごい汗」

 

 

タオルで額の汗を拭いてくれる翼。

 

 

「身体も拭いたほうがいいですよ?」

 

 

そう言って少し席を外してくれる翼。全身の汗を拭いていると左腕に黒い痣がある。触れるとそれがバイデントだとわかった。

 

 

「この夢が呪いってことなのか?」

 

 

考えていると翼が顔を覗かせる。オレが着替え終わったことを確認すると、再びベッドへ腰かける。

 

 

「眠れませんか?」

 

 

「お前はどうなんだ? 食事や睡眠はきちんと取っているのか?」

 

 

オレの言葉に頷く翼。

 

 

「ええそこは心配いりません。私なりにそれなりにやっていますよ」

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