風の鳴る歌を翼にして光さすところまで   作:秋月玲

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CASE15

「戻ってこれないのか?」

 

 

オレが聞いた言葉に翼は悲しそうな表情を見せる。

 

 

「光さんにお会いするのもこれを最後にしようと思っております。今の私は剣でも防人の誇りさえも失いました。両翼の折れた翼は地に、どこまでも深く堕ちるだけですから」

 

 

「本当にさようなら。ありがとうございます」

 

 

返事も待たずに翼は窓から飛び去った。

 

 

その日から退院するまで、翼が現れることはなかった。あの悪夢も毎日見続けた。あの悪夢に心が折れたときが、呪いに負けたときだと思い、なんとか耐えている。翼を必ず助けるという思いだけで。

 

 

退院したオレはすぐに二課へ顔を出す。あれから右手も少しずつ動くようになり、普段の生活では支障のない程度には回復していた。楽器を演奏するほど回復はしていないため、音楽活動は休止のままだが。

 

 

「新しいギアが出来た?」

 

 

二課に顔を出したオレを待っていたのは了子さんから告げられたその言葉だった。バイデントの発見からひと月ほどしか経っていないのに、この人には驚かされる。

 

 

「まぁ僕の力もあってでしょうけどね」

 

 

「それで、新しいシンフォギアはなんの聖遺物の欠片を?」

 

 

ウェル博士がなにか言っているが、とりあえず了子さんに話を聞くことにする。

 

 

「神獣鏡よ。正直、他のシンフォギアより出力は落ちるわ。でも浮遊力と魔除の力で最凶のギアとも言えるわね」

 

 

「なるほど。それで適合者は見つかっているんです?」

 

 

オレが聞いた言葉に装者の何人かは暗い表情になる。

 

 

「わたしの親友に小日向未来って子がいるんですけど」

 

 

「あたしも何度か助けられたり、会って話したりした子なんだが、どうやらな」

 

 

立花と雪音の話でわかった。その小日向って子が適合者なのだろう。

 

 

「アタシや調も同じ学院なのでよくしてもらってるデスよ」

 

 

「うん。料理教えてもらったりしてる」

 

 

学生装者とは繋がりの深い人物のようだ。

 

 

「私は何度か会ったくらいね。翼とも顔見知りらしいわ」

 

 

マリアや翼とも顔見知りとなるとそうなのだろう。

 

 

「それが原因なのか?」

 

 

「ご名答。近くで彼女たちのフォニックゲインに触れ続けたことが、適合者にさせた。そう僕は思っています。これぞまさに愛のなせる技」

 

 

何故そこで愛なのかは置いといて、オレがバイデントに魅入られたのもそれが影響しているのかもしれないな。友を戦地に引き込んだようで、装者たちが落ち込むのもわからなくもない。

 

 

「それで、その小日向って子は? 話はしてあるんだろ?」

 

 

「今弦十郎くんが説明しているところよ」

 

 

ならばとオレは足を司令のいる部屋へと向ける。

 

 

「少し話してくる」

 

 

すぐに司令の返事へ到着し、中に入れてもらう。黒髪でセミロング。後髪に大きなリボンが特徴的な少女がいた。リディアンの制服を着ていることからも、この子が小日向未来だとわかった。

 

 

「倉田光さん?」

 

 

「はじめまして。小日向未来さんでよかったかな? オレはここ二課で交渉を主に請け負っている倉田光です」

 

 

オレを見て驚く小日向にとりあえず自己紹介をする。

 

 

「はい。リディアン二回生です」

 

 

「どうして歌手の光さんが? 光さんも翼さんやマリアさんみたいに?」

 

 

大人しい子かと思ったが、よほど気になったのか勢いよく聞いてくる。

 

 

「さすがにオレにはノイズと戦う力はないよ。それでも支えになりたいとこうして二課に所属させてもらっている」

 

 

「力もなくて怖くないですか? 逃げたいって思いませんか?」

 

 

悩んでいるのだろう。だからオレに聞いてくるのだとわかる。

 

 

「オレの家族はノイズ関連の事故で亡くなった。もちろん怖いさ。でも、怨みや仇ってこともあるけど、翼をはじめ装者の皆が戦っている。オレはオレの出来ることをして、一緒に戦っていけたらって思う。もちろん前線に出る彼女たちと肩を並べられてるなんて思わないけど」

 

 

ひと息ついて続ける。

 

 

「それでも少しでも力になれたらと。支えになれたらと思っている。ノイズの脅威から世界を守るだなんて大きなことは言わない。大切な人を場所を守りたいんだ」

 

 

オレの言葉で吹っ切れたのか、小日向は装者になることを決めた。

 

 

「すまん、俺にはあの子を巻き込んでいいのか、どうにも迷ってしまってな」

 

 

小日向が検査のため了子さんに連れて行かれたあと司令が口を開く。

 

 

「オレはなにも。決めたのは彼女、小日向ですよ」

 

 

小日向が装者になることを決めたことを聞くと装者たちは複雑そうな顔をしている。

 

 

「大切なら尊重してやれ。小日向は守られるより隣に立つことを選んだんだ」

 

 

そう。守られるよりも。

 

 

それはオレも一緒だ。戦える力を選んだ。代償がどれほどのものであっても。小日向がどれほどの覚悟かはわからない。それでも、生半可な気持ちじゃないことは間違いないだろう。

 

 

「そう、お前たちがシンフォギアを纏うと決めたときと同じように。確かな気持ちと覚悟は持っているはずだ」

 

 

誰でもそうだ。最初の一歩を踏み出す勇気。それはなかなかに大変なものだ。

 

 

前を向くことも、堕ちることも。なぁそうだろ?

 

 

翼。

 

 

その黒いギアが生半可な気持ちでないとわかる。だとしても、オレはオレの我が儘を貫く。

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