風の鳴る歌を翼にして光さすところまで   作:秋月玲

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CASE17

【我を求める意味はわかっているのだろう?】

 

 

「ああ」

 

 

心に直接バイデントの声が響く。

 

 

【それで良いのだな?】

 

 

「問題ない」

 

 

オレの答えに満足したのか、ようやく姿を見せるバイデント。二又の槍がオレの手に握られる。

 

 

「その聖遺物はいったい?」

 

 

翼がそれを見て驚く。いや、翼だけじゃない。通信機から司令や了子さんを始め、本部にいるメンバーから声が飛んでいる。

 

 

「それはバイデント?」

 

 

「まさか、曰く付きの聖遺物を起動させたのかよ」

 

 

立ち上がろうとしながらオレが目に入ったのだろう。マリアや雪音が声を上げる。

 

 

「どんな力があるかわからないのに」

 

 

「無茶デスよ。扱うことさえ出来るか怪しいデスよ」

 

 

必死に立ち上がろうとする装者たちを見つめる。

 

 

「これなら翼を救えるんだ。だから、頼む。ここはオレに任せてほしい」

 

 

ジッとお互い見つめていると小日向が口を開く。

 

 

「光さんはそれを使うとどうなるのか、知っているんですね」

 

 

もう隠しても仕方ないと頷いて返す。

 

 

「どう……なっちゃうん……ですか?」

 

 

恐る恐ると言った感じで立花が聞いてくる。翼も気になるのか、大人しくしている。

 

 

「バイデントの効果は、全ての呪いや怨みを相殺する力だ。そして、その代償は3つ。1つは悪夢を、1番思い出したくない過去を毎日、散々見せられる」

 

 

オレが悪夢でうなされていたことを知る翼は、口を両手で覆い驚く。

 

 

「2つ目は、1度装着すると離せなくなることだ。それこそオレの命が止まるまで。使う間もこいつはオレを乗っ取ろうと色々仕掛けてくる。負ければただの殺戮兵器となり、世界を滅ぼしにかかるだろう」

 

 

言葉が出ないのだろう。本部も含め誰も口を開けないでいた。

 

 

「最後は、これを手放した瞬間には使用者の存在は食われてしまうことだ」

 

 

「存在を?」

 

 

誰が呟いた言葉か。存在が消える意味は誰もわかっていないようなので、全員かもしれない。

 

 

「存在。オレが生きてきた記憶、残してきたもの、オレが存在したと証明される全てが消える」

 

 

「そんな! それじゃ!」

 

 

「ああ、オレのことは誰の記憶にも残らない。オレが存在した歴史が消えるんだ」

 

 

全員が動揺しているのがよくわかる。口は動くが言葉が出てこないようだ。

 

 

「だから、お前たちに頼みたい。オレがいなくなった後、翼を支えてやってほしい」

 

 

「どうして!? どうしてそんな力を!?」

 

 

真っ先に叫ぶのは翼だ。

 

 

「翼、お前を救うためだよ。泣き虫で、意地っ張りで、照れ屋で。でも真っ直ぐで、優しくて、強くて。誰かのために歌えて、泣けて、笑える。そんな翼に戻ってほしいからだ」

 

 

「私は奏があんなことになったとき、悲しさもあった。でも光さんが優しく抱きしめてくれることを、隣を独り占め出来ることを嬉しくも思ってしまうような女なのです! だからそこまでしてもらう資格などないのです!!」

 

 

大粒の涙を流しながら訴える翼。

 

 

「そう。だから私たちを目の敵にしていたのね」

 

 

「わたしが光さんの近くに行きすぎたから、翼さんはそんな風に」

 

 

マリアや立花が呟く。いや、装者たちはなぜ翼が暴走していたのか理解したようだ。

 

 

「そうだ! 奏と私の場所だったのだ! 光さんの隣は! 戦い終わって迎え入れてもらえるのは!! その場所は誰にも取られたくなかったのだ……」

 

 

泣き叫ぶ翼は、幼い少女のように見えた。

 

 

「その場所を奪わせないために私は、全て排除すると決めたのだ。でも……」

 

 

「知っていたさ。そんなこと全部」

 

 

翼が触れるところまでゆっくり歩き、泣く子供をあやすように翼の頭を撫でる。

 

 

「オレが軽率な行動をしたから苦しめてしまったんだな。悪かった」

 

 

槍を持つ左手に力を込める。

 

 

「だからもう、悩むことも、苦しむこともない」

 

 

オレの行動に気付いたのか、翼が大きく目を見開く。

 

 

「嫌……。私はそんなこと望んで……」

 

 

翼の言葉を最後まで待たず、槍で貫く。腹部に刺さった槍からは翼の血が伝う。

 

 

「致命傷にはならないはずだ。だから」

 

 

静かに槍の先端を引き抜く。

 

 

「起動させたときから、こうするしか道は残っていない。だから、この命くれてやるよ。バイデント」

 

 

今度は先端を自分の心臓めがけ突き刺す。人の体はこんなにも簡単に刺さるものなんだと場違いのかもしれないことを思う。

 

 

「ああ、オレは翼のことが……」

 

 

そこでオレは意識を手放した。

 

 

真っ暗な闇へ引きずり込まれるような感覚に襲われる。

 

 

【わからんな。人間の考えることは】

 

 

(そうかもな。でも、後悔はない。満たされているんだ)

 

 

【これが愛というやつなのか? 理解しがたい感情だ】

 

 

(でも、だから人間は強く飛べるものなのさ)

 

 

【まぁよい。今はゆっくり眠るがよい】

 

 

暗い闇の中そんな会話が繰り広げられていた。

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