風の鳴る歌を翼にして光さすところまで   作:秋月玲

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CASE 2

最後にツヴァイウイングの2人と話してから1週間が過ぎた。オレは今ロシアにいる。PV撮影のためだった。撮影も佳境に入ったところで思いもよらない知らせが届く。

 

 

「光さん。大変です」

 

 

マネージャーの南さんが蒼白の表情で伝えに来たので、嫌な予感はしていた。それでもその予想を遥かに超えるものが告げられる。

 

 

「ツヴァイウイングのライブですが、実験は失敗。ノイズも現れたようで、その戦闘で………」

 

 

そこで言葉に詰まる。オレの心はざわめきが止まらない。

 

 

「奏さんが亡くなりになられたとのことです」

 

 

頭を鈍器で殴られたような衝撃が襲う。

奏が?

死んだ?

 

 

嘘だろ?

 

 

事実を受け止められずにいる。その後も南さんがなにか言っているが、入ってこない。先日楽屋を訪れた時の奏の笑顔が目に浮かぶ。

 

 

次にオレが気付いたのは奏の写真を抱いて、慟哭する翼を見つけたときだった。

 

 

「翼」

 

 

なんて声をかけていいかわからない。2人がこれまで姉妹のように仲良く過ごしてきたことを知っている。見てきた。

 

 

こちらを見た翼はオレの胸に飛びつき、しがみつき泣いている。ただただそうさせてやるくらいしか出来なかった。

 

 

「光、その、少しいいか?」

 

 

特殊災害二課の司令であり、翼の叔父である風鳴弦十郎が話かけてくる。オレも一応この二課に所属していることになるので、上司だ。ただ、泣き続ける翼をそのままには出来ないので、泣き疲れて眠るまで待ってもらった。

 

 

翼をベッドに運び、ようやくオレは二課の大人たちから話を聞けた。奏の最後のことを。

 

 

「そうか。奏は覚悟を決めていたんだな」

 

 

絶唱。それがどんなものかオレにもわかっている。シンフォギアは纏えないけど剣術では翼より強いため2人とは時間が合えばよく手合わせをしていた。ツヴァイウイングの2人がシンフォギアを纏い、人類共通の脅威とされる認定特異災害であり、13年前の国連総会で、特異災害として認定された未知の存在であるノイズと戦い続けていたことも。

 

 

「それでも早いって思うぞ、奏」

 

 

絶唱を使った奏は、その姿を塵となり風に乗って飛んで行ったそうだ。だから遺体はない。

 

 

(オレは無力だな。女の子に戦わせてなんにも出来なかった)

 

 

後悔だけが残る。

 

 

「心配なのは翼ちゃんよ。思いつめなければいいんだけど」

 

 

研究者として二課に所属している桜井了子の言葉に確かにと思う。翼は自分を責めそうだ。

 

 

「君には申し訳ないが、翼のことを頼みたい」

 

 

「オレに奏の代わりは無理ですよ。出来るだけやってみますけどね」

 

 

聞きたいことも聞いたので部屋を後にし、翼のいる部屋へ向かう。

 

 

大人しく眠る翼を眺め、どうしたもんかと頭を悩ませる。

かける言葉が見当たらない。

してやれることがわからない。

なにより未だ涙を流さない自分が1番不思議だ。奏も翼も妹のように可愛がってきた。身寄りのないオレには大切な家族のような存在。それがなくなったのに、何故か泣けずにいた。

 

 

 

そのまま一睡もせず、ただ翼の側にいた。翼が目覚めたときにオレの顔を見てまた泣き出す。

 

 

「光さん、奏が、奏が」

 

 

「あぁ、今は泣いていい」

 

 

それくらいしか言えずにいる。

 

 

 

「大変見苦しいところをお見せしました」

 

 

少しは落ち着いたのか、泣き止んだ翼がそう言ってくる。

 

 

「無理する必要はない。泣きたいときは泣いていいんだ」

 

 

「しかし、私は防人ゆえ泣いているばかりでは」

 

 

指を口に当てて、言葉の途中で遮る。

 

 

「防人の前に、歌手の前に、お前は女の子なんだ。人前で泣けないならオレの前で泣けばいい。弱音も涙も全部、受け止めてやるよ」

 

 

その日はずっと翼の側にいようと思った。しかし、それは許されない。

 

 

「光さん、申し訳ないのですが………」

 

 

PV撮影がまだ少し残っている。すぐにロシアに戻らなければならないようだ。

 

 

「私は大丈夫です。こんなときに仕事は辛いとは思いますが」

 

 

「この世界で生きて行くってのは、こういうことだとわかっているさ。寂しくなったらいつでも連絡してこい」

 

 

 

寂しそうな笑顔の翼に見送られ、仕事へと向かう。

 

 

「すみません。せめて奏さんの葬儀が終わってと思ったのですが」

 

 

「こうして最後のお別れに来れただけでもマシなんだろう」

 

 

そうしてロシアへ戻り、どこかうわの空で仕事をこなす。自分の心に無理矢理納得させながら。

 

 

(あたしなら大丈夫さ。だから翼のことを頼むよ。会いに来てくれてありがとな)

 

 

ふと奏の声が聞こえた気がした。

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