52Hzの鯱   作:アビサルをすこれ

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プロットとか無いのでどこまで続くかわかりませんが…
どうぞ、良しなに。

8月10日
プロットを作成したため、細々とした所を修正しています。本筋はあまり変化していません。


本編
0-1 追い付いてきた過去


夜の大海原に、1人の男が浮かんでいる。

まるで宇宙と海とが繋がっているかのように錯覚してしまうほどに何もないその海で、男は不意に星空へ向けて手を伸ばす。

…しかし、何も掴むこと無く、バランスを崩した男は、そのまま海に沈んでいく。

静かに、無慈悲に。水面に波紋すら残すこと無く。

後には、ただ、静寂だけが残った。

傍らに孤独な鯱を残して。

 

・・・

 

ブッブッブーブッブッブー

…腕時計のアラーム機能で目を覚ます。

最近、念願だった賃貸契約を果たすことができた家賃の安い我が城は、カーテンで閉めきられているとはいえ、日光すら入りゃしない。

嫌な夢を見た。悪夢なぞ俺にとってはいつもの事だが、今日は殊更酷い夢だった。

自らの過去を暗示した最低な夢だ。過去に囚われた男には相応しい夢だ。

そのせいで、今日の目覚めは良いものでは無かった。

そんな日は出来るなら明るい場所に居たいのものだが、この部屋はあの海の様に、薄暗く冷たい。

「はぁ、何なんだまったく」

ため息を一つ、そしてそのままベッド代わりのソファーが降りて、机の上にあった昨日の飲み残しの酒を一口呷る。…良い酒だ。

嫌な事を忘れる為の道具として、酒は最も適している物の内の1つだと、俺は最近知った。

もっとも、この酒は友人を出迎え、楽しむ為の酒でこんな事の為に用意した物ではなかったのだがね。

苦笑いを溢し、昨日を振り替える。

朝、仕事に行こうと準備をしていると、いきなり古くからの友人が訪ねてきたのだ。

お互い仕事が不安定で会える機会もそんなに多くないのと、別に急ぎの仕事でなかったのも有って、ついもてなしてしまった。

しかし、あの友人が突然我が家へ来なければ本当は今日には既に、よその国へ言っているつもりだったのだがな。

いつもの事ながら、気まぐれな奴だ。

残りの酒を飲み干しコップを机に置く。

そして寝起きの緩慢な動きでのっそり動き、あの友人の置き土産であろう邪魔な箱を押し退け部屋のカーテンを開ける。

部屋に日光を入れる為だ。

そして、もう1つの道具を使うために。

俺は開いたカーテンの先のベランダに出て、ポケットの中にある煙草を1本出し、ライターで火を付ける。

こいつは炎国の好事家(あのアホ)が大枚をはたいて段ボール1箱分だけ作った、とても珍しい煙草なのだが…

いつもの様に煙草を吸うと、ガツンとした苦味が俺の味覚に襲いかかってくる。まるで苦味という概念自体を煙草の形にしたかと錯覚するような衝撃を受ける。それほど迄に苦く、不味い煙草なのだ。だから少量しか生産されなかったのに、非常に安価で購入できた。

まぁ、無理やり思考をリセットするのにはちょうど良い。

煙を吐きながら、まだ見慣れないこの街並みを眺める。

しかし眺めていて思ったのは、都会とも田舎とも言えないなんとも言いがたい微妙な風景だという事だ。例えば龍門のように特別発展している訳でもなく、だからといって時代に置いていかれている訳でもない、普通な街。

国の首都では無い所なんて大体こんな感じだろう。

だが、どんな所でも自分の故郷よりはマシだと思い直す。あそこに比べれば何処だって雲泥の差だ。

だが、

「…相変わらず景色は良いな、この国」

それにしても、それぐらいしかこの国にはパッと思い付く良いところが無いのだが。

呟いて、この国の事を考える。

この国の名はチェルノボーグ。

ウルサス帝国に属する移動都市で、住んでる人間は熊に似た特徴を持ち、国の名前にもなっているウルサス族が多い。

文化の発展率は比較的高く、この古ぼけたアパートの窓からでもちらほらと、学校に向かう学生の姿が見える。

あと特徴的なのはこの国は、この世界に蔓延る致死率100%の病気、鉱石病の患者への迫害意識が他の国と比べて非常に高い事だろうか。

まぁ、感染したら絶対に死ぬ病気を、自らから遠ざけたいと思う気持ちは分かる。

発症すれば皮膚表面に、見て分かるサインが出て来て見つけやすいのもあるのだろう。そして、政府が悪い方へと民衆の思考を煽っているのもその差別意識の根幹に当然あるのだろう。

だが、実際は感染者からの感染はしないそうだ。感染源は燃料や、オリジニウムアーツの増幅器の原料等に使われている源石という鉱物だ。

無知とは、げに恐ろしきものかな。

などと、ここに住む前は友達の口真似して笑いあっていたものだ。

しかし実態はもっと酷かった。

現在の生活に源石は必要不可欠な物だからか、原因自体を遠ざけず感染者を追放や強制労働に処して対策をしたつもりになっている。

これには流石に納得がいかないのだが…

俺は一介のトランスポーターーー運送業者のことーーに過ぎない。しかも、個人経営の。

そんな根なし草になんとか出来る問題でもない。第1、俺はウルサス族では無いから参政権が無いし。

かぶりを振ってその事を頭から追い出し、煙草の火を消し、朝食の準備を始める為にキッチンへと移動する。

まぁ、準備と言っても冷蔵庫から保存食を適当に選ぶだけなのだが。

如何せん料理には明るくないのだ。まぁ、外食がメインでも生きていけるのだから、別に構わないだろう。

しかし、開けた冷蔵庫から見慣れないタッパーを見つける。あぁ、いや、そういえば…

『余ったから、これどうぞ』

ふと、キッチンに大家さんから昨日お裾分けされた料理が有ったことを思い出した。

まだ小さな子供連れで忙しいだろうに、見ず知らずの住人の事まで気に掛けてくれた優しい女性だ。

ここに来て数ヶ月たった今でも、時々様子を見に来てくれる。本当に頭が上がらない。

…お偉いさんの考え方には賛同出来なくとも、非感染者である人々にとっては住むのに何の障害が無く、良い人が居るのも事実で。

「本当に…愉快だね…」

本当にやるせなく感じる自分がいた。

自分はこんな事に一々頭を悩ませる様な人間だっただろうか。昔の俺はただただ我武者羅になって…いや考えるのはよそう。所詮俺は逃げた人間だ。使命からも、信念からも。

しかしやっぱり、この感傷はあの国で出会った彼らの影響だろうか。

鉱石病と感染者を取り巻く環境を何とかしようと足掻く彼らを知ってしまったからだろうか。

命に対して、そして人間に対して真摯に向き合う彼らを見ていたからだろうか。

…はぁ。やっぱり、この国に居ると気持ちが滅入ってしまう。よくもまぁ半年近くも住めたものだ。

この国、と言うよりも環境が悪いのだが。

なら手早く今回の仕事を終わらせて、とっとと違う国へ行こう。それが最善だ。そうに決まってる。

そう考え、仕事の準備を行う。

大家さんのおかげで珍しく調った朝食を食べ、しっかりと身だしなみを整える。

髪を整え、白いワイシャツと対の黒いズボンを穿く。そして何故か俺のトレードマークとなっていた水色のコートを身に纏って完成だ。

身だしなみが整ってないと、貰える仕事も貰えない。これは経験から学んだ現実。

そしてフリーランスのトランスポーターとして忘れては行けないのが、荒事に対する為の武装。積み荷を奪おうとする輩は結構居るし、何より面倒なのはワンチャンを狙って襲ってくるスラムの子供だ。数ばかり多いからいちいち殺すのも面倒なのだ。

しかも、お世辞にも真っ当な仕事をしているとは言えない身だ。憲兵団等に狙われた事もある。後ろ楯があるとはいえ、保険はあればある程いい。アレはあまり頼りたい存在では無いしな。

わざと見せて相手に圧をかける為の、身の丈ほどの片刃の大剣を背負う。

これがあるだけで大分違った。少なくともビビったチキン共は近寄らなくなったし、近寄ってきたらこいつで蹴散らせる。

そして、おまけに切り札をコートの内ポケットにしまう。

武装はこれで全部。

あとは、依頼された荷物をバイクにのせる。

これで仕事の準備は完了だ。

今回の仕事は国の上流階級の奴からの依頼だった為、結構国の中心部の方まで行かなければいけない。正直、国の外周に近いここからじゃバイクを使ったところで結構時間がかかり、面倒だ。

しかし一度受けた依頼を破棄するのは、俺みたいな人間にとって致命的な失敗に当たる。

信用第一なのは、キレイだろうが汚れていようが一緒なのだ。

俺は気を入れ直してバイクにまたがった。

多少酒気を帯びてはいるが、それを咎める物好き等いやしない。大剣はこうゆう時も仕事をしてくれる。

 

まぁ、あんな量じゃもう酔う事も出来ないが。

 

 

・・・

 

エンジンを軽く吹かして、朝の街を走る。

この風を切る感覚の為にわざわざバイクに乗っていると言っても良い。

平日ではあるが今日は妙に人が少なく、結構なスピードでバイクを走らせることができた。

…結局、運送先に荷物を届け終えた頃には昼過ぎになっていたのだか。

こっからまた帰るのか…ダルっ。

その分報酬は結構な額入ったし、何か昼御飯でも食べて帰ろう。

そう考え飲食店のある所に今俺は居る。

俺が店を覗き回っていると、店内から急に閃光が迸り、爆発音と共に全身を何かが包み込む様な感覚に襲わた。

そして俺は、そのままの勢いで反対側の店の中まで吹き飛ばされた。

「は?」

頭を上げるとそこには、見るも無惨な姿に成り果てた俺のバイクの姿があった。

 

「俺のバイクが!」

 

結構高かったんだぞあのバイク!

あの近さじゃあ折角施した防弾加工も意味をなさないのか、爆発に巻き込まれた俺のバイクはボロボロでもう乗ることすら出来ない。

愉快すぎんだろ、おい。

犯人ぜってぇ許さねぇからな。

しかしそれとは違い、爆発を直接受けたはずの俺自身は無傷だった。せいぜい上着が煤けた位だ。

しかし不気味な肉体に成ったものだ。

爆発に巻き込まれておきながら、

あーあ、これは昼飯どころの騒ぎじゃねぇな。

腹へってんだよ、どーすんだよマジで。

なんて呑気に考えられる程、爆発によるダメージは無い。何なら気を抜いていなかったら吹き飛ばされる事も無かっただろう。それほど強靭な体だ。胸に剣を突き立てられても死なない自身がある。やられたくはないが。

閑話休題。今考えるべきなのは犯人の事だ。

しかし、ほんっとうに、愉快だ。

犯人の目星が付かない。きっと昨日不意に我が家にやって来たあの旧友の武器は確かに爆発物だが、見ず知らずの一般家庭を爆破させる事はしないだろう。

それともこの店の住人が何か恨みを買っていたかだが…

そんな考えは野蛮な大声によって掻き消される。

「居たぞ!非感染者だ!殺せ!」

「我々の祖先が受けた痛みを思い知れ!」

先ほどの爆発を皮切りに、俺の方へ仮面で隠した奇妙な集団が襲いかかってくる。あいつらが犯人だろう。

彼らには一様に鉱石病患者のサイン、それぞれ体のどこかに皮膚表面に浮き出た源石が見えたため、なんとなく全貌は見えた。

やっぱりこの国は終わっている。

「愉快だな」

虐げられた側が文句を言わないなんてあり得ない。十中八九、感染者達の反逆が始まったのだろう。

向かってきた敵の剣ごと大剣で切断し、敵の正体を推察する。

ウルサス帝国に反旗を翻せる感染者の組織。それが出来そうな組織といえば、1つしか私は知らない。

ーーーレユニオン・ムーブメント

感染者だったら種族を問わず受け入れる反面、非感染者に対しては極端に排他的な姿勢を見せる感染者組織。

たしか、「感染者は自らの立場に誇りを持ち、積極的に力をつけ、そしてそれを行使すべきだ」と宣言して、暴力を用いて感染者の権利を勝ち取ろうとしていた組織だったはずだ。

チェルノボーグを滅ぼそうとする事が出来る程の規模の感染者の組織は、レユニオン位のものだろう。動機も十分だ。この事件には名探偵すら必要ない。

各国間の運送を仕事としていると、必然的に様々な情報が手に入るが…レユニオンがここまでの存在だとは思っていなかった。

レユニオンの操る感染生物の群れを薙ぎ払いながら、レユニオンの規模が相当大きいことを確信する。

アーツによって感染生物を操るのは相当難しいらしい。それが出来る人間か所属しているのだから。

しかし、いずれは感染者達の報復が来るだろうとは考えていたが、やっぱりこの国に攻め込んできたか。

やはり、もっと早く仕事を終わらせて別の国へ行くべきだったな。

だが、

「さて、私はどっちの味方をすれば良いのかな…」

結局のところ貴様らの考えなぞ私には関係ない。

私は感染者では無いし、ウルサス帝国の関係者でも無い。

反逆出来るほど膨大な数の感染者達であろうと、ウルサスの正規軍に勝てるとは思わないが、非感染者に厳しいレユニオンの連中がみすみす私を見逃してくれるとも思えない。

巻き込まれた時点で、とことん詰んでいる気がするが…

しかし、ここに居ても何も変わらないから早く移動する事にしよう。

「戯れ言だよ、本当に…」

俺は、ここに至ってまだ逃げようとしているのだから。

俺は爆発に巻き込まれたバイクを捨てて、追加でやって来たレユニオンを大剣で切り捨てながら廃屋となった店の屋上へと駆け上がる。

「どこかに第3勢力でも居ないものかね」

居るのなら合流して、ここから脱出出来るのに。俺はそんな期待をするが、しかし、残念ながらそう都合の良い存在が居るとも思えなかった。

 

・・・

 

あの店を破壊したあの爆発はレユニオンによるチェルノボーグ侵略の第一歩だったらしく、次々と悲鳴と爆発音、軍による戦闘音が国中に拡がっていった。

街に設置されていた大型テレビから、レユニオンの鎮圧は完了したと告げられているが、それを信じている人間などここには居ないだろう。

そんな中俺は自慢の身体能力を生かして、建物の屋上を次々と飛び回っていた。

レユニオンやら軍の奴やらと関わる気は一切無い。そのためのルートだ。

誰かの悲鳴を耳から追い出し、誰かが殺される様を見て見ぬふりして。

全てを捨てて逃げて来た俺にとって、無様に逃げている今の姿はまさに相応しい物だった。

 

走る。走る、走る、走る、ただ走る。

 

争いから、喧騒から、何より、誰かの死から。

 

俺は逃げ続けていた。少なくともつもりだった。

 

「……キャァ……ッッ!」

 

不意に知り合いの女性の声がした気がした。

弾かれるようにそちらを見ると、俺のアパートの大家さんがいた。

 

大家さんがレユニオンに追い詰められていた。

 

「ここだ!見つけたぞ!」

 

レユニオンの男性の声。

彼女が奴らに捕まったら確実に殺されるだろう。

 

懐かしい感覚だ。

 

目の前で誰かが死ぬ。

 

それが嫌だからこうやって逃げる道を選んだのに、何処でだってこうやって誰かが殺される。

 

「……いやァァァ!!!」

 

彼女に前日までの余裕ある姿は無く。

 

「もういやぁ、やめて……どこかに隠れないと……ハァ…ハァ…ハァ……」

 

連れている子供の顔も青ざめている。

 

「クソッ、逃げ足の速いヤツめ。どこに隠れた?」

 

レユニオンが近づいていく。このまま彼女が見つからなければ…

 

「いやそこか!見つけたぞ!出てこい」

 

いや、見つかってしまった。ここで俺が助けなければ彼女は殺されてしまう。

 

「ヒッ………アア…!」

 

彼女に剣が突き付けられる。

 

「そんなところに隠れても無駄だ」

 

レユニオンの非情な声が聞こえる。

 

「お願いです。ど、どうか助けてください。私はともかくこの子だけでも……お願いです…どうか…」

 

俺は、

 

「……」

 

俺は、俺は、俺は、

 

レユニオンが剣を振り上げる。

 

「…もし避けられる争いならば、沈黙を守り、それが必要な戦いならば、最後まで戦いぬくべし!」

 

自らの都合で、捨て去った信念をもう一度拾うのは、悪い事なのか?

 

俺は、彼女を守るため建物から飛び降り、そのままの勢いでレユニオンの頭に自らの剣を突き刺した。

 

・・・

 

居たよ、第3勢力。愉快だな。

彼女を助け、周りのレユニオンを蹴散らし。さぁ他の奴らもと思っていると、近くのレユニオンは私の知っている感染者の集団に鎮圧されていた。

これ幸いと感染者に怯える大家さん達を逃がした。だが、お礼も言わず、怯えた目を俺達にも向けていた。化け物を見る目だった。

悲しく感じたが、今はすべき事がある。

俺は第3勢力に向き合った。

彼らは

ーーーロドス・アイランド製薬

通称ロドス。

俺が朝考えていた、鉱石病と感染者を取り巻く環境を何とかしようと足掻く人達とは、ロドスのことだ。

国家や組織、あるいは個人が遭遇した感染者問題に応用できる医療プランを研究しており、キャリアや感染の有無を問わず各国の有能な人材を集めている。

同時に、ロドスの社員には良好な医療環境や生活環境が与えられ、施設には最先端の研究設備が整えられており、行き場をなくした感染者や、感染者を取り巻く状況を変えたいという意志を持つ有能な人材を多く受け入れているらしい。あくまでアイツの話が正しいのなら、だが。

しかし、見事な連携だった。

ロドスのリーダーは年若い少女と聞いて、少しロドスの事を侮っていた。

その考えは改めなければいけないようだ。彼らは、とても優秀だ。

…製薬会社に必要なレベルの軍事力では無いと思うがね。

だが、彼らに付いていけば安全にこの国から脱出する事が出来るだろう。

 

少し悩んで、俺はリーダーであるとされるコータスの少女に近づいていく。

もちろん、近づく際には武器をしまって、敵ではないアピールも欠かさない。

…一回、武器をしまい忘れて襲われたことがある…。嫌な記憶だ。

「私の恩人を助けてくださったこと、心より感謝致します」

…内心と違い過ぎて、驚かれたかも知れないが、誰かと会話するとき、俺は敬語を好んで使う。

目上の人間でなくとも敬語を使うべし。

経験から学んだ悲しい現実。これは例え相手が自分より幼く見えたとしても、だ。

これはドゥリン族の相手が本当に面倒だったから身に付けたものだ。

「いえ、問題ありません。これがロドスの目的でもありますから」

…感染者を取り巻く環境を変えたい、か。

はたしてそれは俺の贖罪になり得るのだろうか。

「で、お前は何者だ」

気の強そうなペッローの女性が割り込んで、話しかけてくる。

何者か、ね。名乗るのは久しぶりだ。あまり名乗りたい名前でも無いからな。

「私は、フォーマルハウトと名乗っています。ここチェルノボーグを拠点としていたトランスポーターです」

別に拠点はチェルノボーグだけじゃないが、言う必要は無いだろう。説明めんどくさいし。

「何が目的だ」

「ドーベルマンさん?!」

彼女の殺気を感じたのだろう。

コータスの少女が女性ーードーベルマンと言うらしいーーに詰め寄る。心優しい少女だ、ロドスのリーダーであることが信じられない位には。私みたいなよそ者は疑ってしかるべきだろうに。

「この都市からの脱出をしたいのでしょう?私もそうなのです。実は、家もバイクも失ってしまいまして。戦闘能力には自信があるので、協力出来ないかと思いまして」

まぁここで断られたらしんどいのは私の方だが…

祈るように、そしてそれが悟られないように頼む。

「ほぉ、どうするアーミヤ」

それを知ってか知らずかドーベルマンは、その高圧的な態度を崩さない。

「私は、構わないと思います。彼はレユニオンでは無いみたいですし。あの女性との会話で悪い人ではないとわかりましたから。ドクターはどう思いますか?」

そういって彼女は、後ろのフードを被り、マスクまで身につけた怪しい人間に声をかける。

ドクター?ロドスは製薬会社だから、医者かそれとも研究者か。どちらにせよここに居るのは何故だ?

「問題ない…はずだ。先程の行動を見る限り、最低限人柄と実力は保証された。…悪い言い方をすれば。彼ほどの戦闘能力がある人材は、居れば居るほど良いから是非とも味方に欲しい」

嫌な言い方、という程の物でも無いだろうに。

「では、交渉成立ということで」

まぁ、いいか。

長いことここに居て、レユニオンに襲われないとは限らない。

レユニオンのリーダー、この侵略にもあの龍女は参加している筈だ。ロドスとなら逃げ延びることが出来るだろうか。

ロドスの人間からの警戒の視線を受けながら、俺はアーミヤと呼ばれた少女と握手をする。

後ろから、誰かの殺気を浴びながら。

四面楚歌だな全く。

愉快な事この上無い。




よくよく考えれば、ヒロイン現状ストーリーに登場しないのに、どうやって登場させれば…うごごごご。
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