野球神様に誘われて人生やり直しました ~パワフルプロ野球の世界に転生~ 作:駿州山県
「ノック行くぞオラァ!」
「「「おうっっ」」」
今日も木場のノックが始まった。
一人当たりのノック数は100を優に超えるもので、しかも打球はその選手がギリギリとれるかとれないかを狙ったもののため、一打一打の疲労感はとても大きく時には倒れる者まで出るようになった。
「どうしたどうした!
この程度でへばってて甲子園に行けると思ってんのか!」
木場の言うことはとても厳しい。
だが全員にノックをする木場が一番きついのだ、と言うかよく続けられるなこいつ。
「ちゃはは……
嵐士の言う通りだよ。
そもそも一人で全員のノックをしている
嵐士が一番キツイはずなんだ。
その嵐士がこれだけ踏ん張ってる。
それなら、オレっちたちが
寝てるわけにはいかないよね!」
俺も矢部くんも疲労が限界に達しようとしていたが、金原だけ元気だった。
こいつは守備も上手くて木場のノックを難なく受けているように見えたが、別に辛いわけではないのだと思う。
「ああ、その通りだ!
オレも負けないぞ!」
その夜、金原の声掛けでみんなはノックを最後まで受け続けることができた。
翌日、完全に疲労が取れてないこともあって昼の練習はそこそこに夜間練習がなかった。
シュッ! シュッ!
しかし、グラウンドの隅で星井だけが残って練習をしていた。
「星井、あんなキツイ練習の後に自主練をやってるのか!」
「パワプロか。
ああ。ただ木場の練習に付いて行くだけじゃ木場を超えることはできないからね。
今年こそあいつからエースの座を奪い、甲子園のマウンドに立ってみせるんだ!」
「すごいガッツだな、流石星井だ!
よし、俺も練習につきあわせてくれ!」
それから、星井との毎日の練習が始まった。
星井との練習をこなし続けたある日。
「パワプロ、明日から朝練習を1時間早く始めないか?」
「えーっ!? 1時間!」
今も結構へとへとになるまでやっている朝練なのだが、それを1時間も早くやろうと言う。
木場もそうだが星井もなかなかの熱血漢と言うのか……。
この世界にはなかなか理論的な練習とかそういうのが周知されていないこともあってこういうことが多かった。
「きついのはわかってる。
ダメなら、ボク一人でやるよ」
「いや……やろう。
それぐらの根性を見せないと甲子園には行けないもんな!」
「ありがとう。パワプロなら
そう言ってくれると思っていたよ。
木場は本物の怪物だからね。
あいつに勝つには、練習量だけでも勝たないと」
そう、木場は……部活での練習以外に家でも自主練をしているとのことだった。
それに勝つには練習量をもっと増やさなければならない。星井はそう感じていた。
しかし……朝二人で朝練に向かっていると、誰もいないはずのグラウンドから音が聞こえて来た。
ブンッ。ブンッ。
何の音だろうと思ってそっちに行くと、
「「き、木場ぁ?!」」
星井と俺の声がハモった。
まさか1時間早く来た俺たちよりも木場の方が早く来ていたのだ。
「おう、お前ら。
今日は早いじゃねえか」
「木場、どうしてこんな時間から?」
「実は通常の朝練だけじゃ物足りなくてよ。
それでいつも早く来て自主練してんだ」
「いったい、いつからこの練習を?」
「えーっと、たしか……
1年の秋ごろからじゃねえか?
それより、三人で練習するならボールの数が足りねえな。
ちょっと取ってくるぜ」
そう言って木場は部室にボールを取りに行った。
「ああ……かなわないな。
ボクの本気の決意をあいつは1年も前に上回っていたんだ」
この時からだろうか。
星井の顔色が少しずつ変わっていった気がした。
それから、特に何も変わることなく朝練は続けられ現状の実力把握のための紅白戦が開催された。
紅白戦は木場と星井の二人がチーム頭となりメンバーを一人ずつ選んでいった。……ちなみに俺と矢部くんはレギュラーとしては選ばれなかった。
試合は両チームとも0点のまま5回まで進んで行ったが、星井のチームのメンバーのエラーを機に相手チームが勢いづき、一気に5点奪取となった。
個人的な見解だと、ランナーを背負ったときの星井は気負いすぎる感がある。力んで投げたボールを打たれた感じに思えた。
そしてこの試合抜群に安定していた木場からその点数差は返しようもなく、そのまま9回を終えてしまった。
マウンドで勝ったことに喜んでいた木場だったが、星井はベンチで深く俯いていたのを俺は覚えていた。
そして翌日、
「星井のやつ遅ぇな……
練習がもう始まるってのによ、何やってんだよ!」
イライラしながらも、それでも星井を待つ木場。
木場は、本当に星井のことを認めているんだな。そう思えた。
「あれっ……星井くんのロッカーから名札が外されてるでやんす」
え? 名札が?
三人で星井のロッカーを調べていると監督が部室にやってきた。
「ああ、ここにいたのか。
突然だが星井は両親の仕事の都合で転校することになった」
「「「えぇーっ?!」」」
「本人たっての希望で、送別の場は持たないことにした。
星井も悩んだ末に出した答えだろう。
尊重してやれ」
それだけ言うと監督は部室を出てグランドに向かって行った。
「クソッ、なんでだよ!
覇堂高校には寮があるじゃねえか!
残ろうと思えば残れたはずだ。
俺は認めねえぞ!」
木場の星井に対する熱い思いに俺たちが何も言えないでいると、
「そうか、練習だな」
「え?」
「あいつは練習がきつくて、イヤになって逃げだしたんだ!」
「オイラ、星井くんがそんなことで野球部を辞めるなんて信じられないでやんす」
「ああ、きっと何か事情があったんだ。
でも……何か一言ぐらいは言って欲しかったよ」
俺は、パワフル高校の時に星井が野球部を辞めることを知っていた。
なのに止められなかった。そのことに罪悪感を感じられずにはいられなかった。
「ハン。辞めたヤツのことなんか考えるだけ無駄だぜ。
おめえら! いつも通り練習を始めるぞ!」
木場はそう言っていつもより厳しい練習を行った。
だが俺はそんな木場とは正反対に、あまり練習に身が入らず監督に怒られてしまっていた。