野球神様に誘われて人生やり直しました ~パワフルプロ野球の世界に転生~   作:駿州山県

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2章 3話 覇堂高校3

 

「オラァ!」

 

ズバーンッ!

 

木場の投げる球が水鳥の構えるキャッチャーミットに気持ちいい音を立てて吸い込まれる。

あいつの爆速ストレートだ。

あいつがこれを覚えたのは……いつからなんだったっけ? だけど、星井のスタードライブみたいに、甲子園の予選直前に覚えた変化球とは違う。

正真正銘の決め球だった。

 

「なぁ、本当にやるのか?」

 

そしてそれを見ている俺は、授業の休憩時間にトランプで負けて罰ゲームをやらされているところだった。

 

「もちろんだ。トランプで負けたら罰ゲームって約束だっただろ?

 ほら、グダグダ言ってないで練習中の木場を早く怒らせてこいよ」

 

勝ったやつらは本当に適当だ。

まあ俺も勝ってたらそっちの立場だったんだから仕方ないけど。

それにしてもなんて言ったらいいものか……。

そうだな、ネーミングセンスにしよう。爆速ストレートってださいなって言ってみるか。

 

「なぁ、木場。ちょっといいか」

 

俺はたかが罰ゲームで木場の爆速ストレートの名を貶めるために声を掛けた。

練習を邪魔されて、ネーミングを馬鹿にされて木場は2重の意味で怒るのだろう。

今から考えても怖い。

 

「おう、どうしたパワプロ。

 今練習中なんだ」

 

「ば……爆速ストレートって名前!

 正直ダサいよな!」

 

「な、なんだと……」

 

言ってしまった! もう口から出た言葉はもう一度口に戻すことはできない。

言われた木場は目をつぶると、ボールを持った手をプルプルと震わせていた。

まさか……爆速ストレートを俺にぶつける気か?! いくらなんでも、死ぬ! 死んじゃう!

 

「てめえ……

 てめえもそう思うか!

 爆速ストレートって名前、オレもカッコ悪いと思ってたんだ!」

 

急に笑顔になって俺の肩に手を置いてきた木場は、さっきとは別人のようにしか思えなかった。

どうやら本心で言ってるらしい。

 

「え、そうだったの?」

 

気が抜けたのもあって、脱力した。

 

「勝手にそう呼ばれているだけで、ずっと気に入ってなかったんだ。

 そうだ、もっとカッコいい名前を考えようぜ、パワプロ!」

 

その日、練習そっちのけで二人で爆速ストレートの名前を考えた。

いいのか? お前はそれで。

 

 

 

星井の転校依頼、練習がさらに厳しくなった。

 

「今日は全員で河川敷を走るぞ!

 死ぬ気で付いて来い!」

 

先頭を走る木場についていけているものがほとんどいない。

俺もなんとか食らいついてはいるのだが、少しずつ引き離されている。

 

「てめえら、へばってんじゃねぇよ!

 まだゴールは先だぜ!」

 

「オ、オイラ……体力の限界でやんす」

 

走りに自信があるはずの矢部君が体力を尽して倒れた。

そういえば、昨日ガンダーのプラモデルを遅くまで組み立ててたって言ってたもんな……。

 

「矢部、僕の肩に捕まれ」

 

水鳥がすぐさま近寄って矢部君を立ち上がらせる。

 

「水鳥くん、ありがとうでやんす……」

 

矢部くんは肩で息をしながら水鳥をお礼を言っているが、水鳥……そいつのは自業自得だから助けなくていいぞ。

 

「星井と言う参謀を失ってから、木場は暴走を始めている……。

 僕は引き返すことにする。

 今のアイツに付き合っても体を壊すだけだからな」

 

「えっ?!」

 

意外だった。いつも冷静沈着だが木場の練習には文句も言わずについていったあの水鳥の発言とは思えなかった。

 

「キミも倒れたくなければ早々に見切りをつけるべきだ」

 

水鳥はそれだけ言うと、矢部くんに肩を貸しながら元来た道を戻って行った。

その姿を見ていたら……しまった。木場たちを見失ってしまった。

その後木場たちを探しながら河川敷を走ったのだが、見つけられることなく……その後走り終えた後も部室にはもう誰もおらず……ほんと疲れた。

 

 

とうとう秋大会が始まった。

覇道高校は木場のピッチングで常に0点に抑え順調に勝ち進んだが、なんと準決勝の途中で金原がダイビングキャッチで怪我をしてしまった。

 

「あぁっ、金原が!?」

 

「おいっ、大丈夫か!?」

 

「ダ、ダメみたいだ。

 足が……」

 

金原は足をねんざしたようで、足がパンパンに腫れていた。

 

「わかった。

 あとはなんとかするからてめえは医務室へいけ」

 

「嵐士、ごめん」

 

金原の代わりの選手が交代したが、その後も他の選手の怪我は続いた。

 

「ヤバイでやんす。

 みんな、ケガやミスを連発でやんすよ!」

 

「もしかしたら……猛練習の疲労が取れていないのかも?」

 

「そうかもしれないでやんす。

 このままだと……」

 

俺たちの予感はまさに的中してしまう。

エラーのせいで木場は1点を取られ、集中ができていないせいかバッティングも思うように振るわずまさかの準決勝で敗退してしまった。

 

「みんなごめんな。

 大事なところでケガしちゃって……」

 

不調が続く最初となってしまった金原が、球場外でみんなに謝っていた。

 

「……謝ることはねぇよ」

 

木場は怒るかと思いきや、思った以上に冷静になっていたように見える。

 

「負けたのはオレたちが空いてよりも弱かったからだ。

 それより、ケガの具合はどうなんだ?」」

 

「大したことないよ。

 一週間もすれば復帰できるって」

 

金原以外の選手も、大体同じくらいの怪我だったらしくそこまで支障は出なかったようだった。

 

「よし、木場。そろそろ帰ろうぜ」

 

骨折などの最悪なケースは逃れることができて安心したこともあり、木場にみんなで帰る旨を伝えたのだが、

 

「いや、悪いけどよ……。

 ちょっと一人にしてくれ」

 

あの木場が弱気になっていた。冷静になってたんじゃない、弱気になっていたんだ。

うなだれて歩く木場の姿を見て、チームメイト全員が唖然としてしまい、誰も声をかけることができなかった。

 

 

 

「今日の練習は終わりだ」

 

木場はあれから覇気がなくなっていて、練習も全く厳しくなくなっていた。

木場を心配して、水鳥、矢部くん、金原と4人で集まった。

 

「最近なんだか木場から覇気が感じられないな。

 練習も前より厳しくないし、どやす姿も見ないし」

 

「星井の離脱で迷走したツケが秋大会で露出した。

 おそらく、自分のやり方に疑問を持って

 しまったんだろう」

 

水鳥が冷静に語ってくれた。

 

「ちゃははー。

 いつもの嵐士に戻ってくれないと調子が狂うよ」

 

「それについてだが、みんなも同じように思っているみたいだな。

 これを見てくれ」

 

水鳥が広げたのはチームメイトの記録だった。

 

「木場がふさぎこんでから全員の記録が低下してきているだろう?」

 

覇堂高校の高いモチベーションは間違いなく木場あってのものだ。

だからこそ……木場があんな状態では、チーム全体がまずいことになってしまう。

 

「……オレのせいだ」

 

金原がぼそりとつぶやいた。

 

「オレが……怪我をしたせいだ。

 オレが怪我をしたから試合に負けた!

 それで嵐士は失望したんだ!」

 

あの金原がキャラを忘れたようだった。

 

「中学の時のオレはガリ勉タイプの暗いヤツだった。

 友達もいなかったオレを嵐士は野球に誘ってくれたんだ。

 オレは野球の楽しさを知って、野球のおかげで友達ができて、変わることができたんだ。

 今のオレがあるのも全部嵐士のおかげ。

 強くなって嵐士に恩返しするつもりだったのに、これじゃ足を引っ張ってるだけだ」

 

金原は腕を震わせていて……目からは涙が零れていた。

 

「……木場はそんな風に思ってないと思うがな」

 

「俺もそう思う。

 金原、心配するなよ。

 俺がなんとかして木場をもう一度燃え上がらせてみせるさ!」

 

 

 

三人の前でそう誓った……ものの……どうすればいいんだろう。

とりあえず木場を見つけてまずは話をしないと……。

そう思って木場の練習パターンから居場所を推測すると、

 

ブンッブンッ。

 

河川敷を走っていたら素振りの音が聞こえた。

俺が見ていることにも気づいていなかったようで、木場はもくもくと素振りをしていた。

 

 

 

「と、言うことがあったんだ」

 

例の4人で集まって、俺が見たことを告げると

 

「なるほど。

 おそらく、みんなに無理をさせない分自分を鍛えることで戦力アップをしようと考えているんだろうな」

 

言うが早いか、水鳥はそのまま部室を出ようとした。

 

「水鳥くん、ミットをもってどこへいくでやんす?」

 

「決まっているだろ。

 木場のところへ行って張り倒してくるんだ」

 

「「「えぇーっ!?」」」

 

あの冷静な水鳥からそんな言葉が聴けてびっくりした。

 

「あいつ一人の力で行ける程甲子園は甘くないんだよ!」

 

水鳥はダッシュでそのまま部室から出て行ってしまった。

 

「オイラたちも行こうでやんす」

 

水鳥を追おうとした矢部くんに金原が待ったをかけた。

 

「待った。

 キャッチャーの水鳥はともかく、オレたちが行ってどうなるんだ」

 

「「そ、それは……」」

 

俺も矢部くんも金原の言葉の正しさに戸惑ってしまった。

 

「練習を中断させて、これからオレたちがどうしたらいいのか教えてもらうのか?

 オレたちいつまで嵐士におんぶにだっこなんだよ!

 あいつがいねえと何にもできないのかよ!」

 

金原はこの間から自分なりに考えていたんだろう。

木場に頼らないチームづくりと言うものが必要だったのかもしれない。

 

「話は聞きました。

 木場に負担をさせたくないなら、キミたちが木場と同じレベルまで強くなりなさい。

 そうすればあいつが背負っている物を肩代わりもできるだろう」

 

なんと監督が部室に入ってきた。

もしかすると、ずっと部室の外で聞いていたのかもしれない。

 

「しかし……木場くんと同じレベルになるにはどうすればいいでやんすか?」

 

「これを見なさい」

 

監督が紙を広げると、そこには各個人用の練習メニューが書いてあった。

 

「木場の練習メニューを元に、ワシと水鳥で選手毎にあったものに改良したものだ。

 今のチームの状態では誰もできんと思っていたが」

 

「す、すごいぞこれ。

 練習量は多いけど、体を壊さないよう考えられてる!

 みんな……やろう。これで木場を見返してやろう!」

 

「「おおっ!(でやんす!)」」

 

「パワプロ、どうやらお前にはリーダーシップがあるようだ。

 木場の代わりに指揮をとりなさい」

 

「えっ? 俺が?」

 

「ちゃははー。とぼけないでよー。

 頼むよ、キャプテン代理っ」

 

調子を取り戻した金原から真っ先に言われた。

 

「よっ。キャプテン代理っ。でやんす。

 ただし、やりすぎはよくないでやんすよ。

 反感を買うでやんすからね」

 

矢部くんからも勧められて……もう逃げ道はないと思った。

 

「わかった……木場のいない今、俺が指揮をとる!

 みんな、がんばろう!」

 

そうして、俺が覇堂高校の練習の指揮を執ることになった。

 

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