野球神様に誘われて人生やり直しました ~パワフルプロ野球の世界に転生~   作:駿州山県

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物語は基本的にパワプロアプリに沿って進めます。
パワプロアプリと内容に差があるのは、オリジナル性を入れてあるためです(って言っていいものか)


1章 1話 パワフル高校1

俺の名はパワプロ。

子供の頃からの親友のスバルと一緒にプロ野球選手を目指していた。

だけどスバルは親の都合で転校してしまった。

いつか二人でもう一度会って甲子園を目指そう。そう誓って別れた。

あれから十年近く経ち、高校2年。

俺はパワフル高校の一塁手として甲子園を夢見て日々練習に勤しんでいた。

 

……と言うのが今の俺の現状だ。

スバルはピッチャー、俺は野手で甲子園を目指す! あの時の思いを胸に、俺は今も野手として頑張っている。

前世の記憶も残っているけど、現世の記憶もばっちりある。

高校二年生の俺は甲子園の夏、俺はレギュラーに選ばれることもなかった。

ベンチで一生懸命応援したけど結果は一回戦負け。その前の年も一回戦負けだった。涙を流す上級生を前に、俺たちが最上級生になる今年こそ……そう、誓った。

 

 

 

キーンコーンカーンコーン。

 

おっと、ようやく退屈な授業が終わった。さ、練習だ練習。

俺は授業終わる前から準備していたバッグを背負い、すぐに教室から飛び出した。

 

「あ、パワプロくん」

 

「矢部君。今日も部室まで競争するかい?」

 

「もちろんでやんす。

 って言っても、一度としてパワプロくんがおいらに勝てたことはないでやんすけどね」

 

「ぐぬぬ……言わせておけば……」

 

そう、矢部昭雄(俺は矢部君と呼んでいる)は野球はそんなに上手くないくせにやたらと足が速い。

陸上をやっていたとかそういう話は一切聞かないのに不思議だ。練習もそんなに一生懸命してるわけじゃないのに。

その反対に俺は毎日サボらず、それどころか追加で練習をしているのに一向にうまくならない。

 

近くにいたやつのよーいドンの掛け声で、俺と矢部君は同時に駆け出した。

 

「誰だ! 廊下を走ってる奴は!」

 

そんな声も聞こえたけど知らんぷりだ。

2年生の教室は2階。階段を降りて下駄箱で履き替え、そこから運動場を遠回りして部室に向かう。

これがルートだ。

なんとか先行できた俺は、階段を降りるまで優位に立っていた。

 

(いける!)

 

いつもは矢部君に常に先行を許していたから、今日は勝てると思えた。

だが、矢部君の足の速さは運動場に出てからが本番だった。

 

「ふふ、パワプロくん甘いでやんす。

 おいらはいつも手を抜いてあげていたでやんす」

 

「なにぉー」

 

頑張ったがダメだった。

やはり矢部君は足が速い。そこだけは認めなければならない。

 

「じゃ、いつものパワリンよろしくでやんす」

 

「悔しい……!!」

 

しかも矢部君は息切れさえしてないのが余計に悔しい。

二人して部室のドアを開けると、俺たちより先に誰かがいた。

授業が終わり次第、最速で来たはずなのに一体誰が……。

 

「あ、小筆ちゃんでやんす!」

 

「小筆ちゃん?!

 どうやってそんなに早く……」

 

「きゃっ」

 

俺たちの大きな声に驚いてしまったらしい。

小筆ちゃんは野球部のマネージャーだ。

メガネをかけていて目がクリクリしている。中学生みたいな幼い顔をしていて、それでいて人見知りだ。

人見知りを克服するために野球部のマネージャーになったらしいのだが、未だに上手く溶け込めておらず悩んでいるらしい。

 

「小筆ちゃん、急に大きな声を出してごめんよ」

 

「ほんとでやんす。

 パワプロくんがごめんでやんす」

 

待てよ矢部くん。先に大きな声を出したのはお前だろう。

 

「い、いえ……。

 私こそ必要以上に驚いてしまってすいません。

 あの、そ……それ……」

 

小筆ちゃんは日誌で顔を隠しながらデスクの上を指さした。

 

「監督からの伝言?」

 

「遅刻します。って書いてあるでやんす。

 あの監督またでやんすか……」

 

うちの監督ははっきりいってやる気がない。練習さぼってパチンコに行ってるってもっぱらの噂だ。

けどその代わり小筆ちゃんが練習メニューも考えてくれていて、なんとか野球部が成り立っている。

 

「ほんと小筆ちゃんさまさまだよな」

 

「い、いえ……私、しつれいします!」

 

小筆ちゃんは恥ずかしくなったようで部室から逃げるようにいなくなってしまった。

これさえなければ本当によくできたマネージャーなんだけど。

出て行った小筆ちゃんの代わりに小田切が入ってきた。

小田切は1年生選手だ。1つ年下とは思えないほど守備が上手い。俺も毎日見習っているが、追いつくどこから突き放されている。

 

「プロ選手の本を読んでいたら遅くなっちゃって」

 

ケラケラと笑いながらそういう小田切には、仕方ないなと返すしかない。

小田切は場の雰囲気を和ます力がある。なんか怒れないんだよな。

その後、練習着に着替えた俺たちはグラウンドに集合した。

 

「あれ? 宇渡くんがまだでやんす」

 

宇渡と言うのは1年生ながらもレギュラーを勝ち取った我が校きってのパワーヒッターだ。

ただとても弱気なのが玉に瑕でちょっとのことでも逃げるような行動をする。

 

「いやぁ、スマンスマン。

 みんな集まっとるな」

 

遅れてようやく監督がきた。

ほんとこの高校は真剣味が足りないよな……。

 

 

 

監督の今月の方針は攻撃力のアップらしく打撃練習をよく見に来ている。

だから今週は打撃練習を集中して行うことにした。

俺は去年監督のダメさに呆れて、アピールするのを完全に怠っていた。

その結果練習試合にも出させてもらえず、補欠でくすぶっていたのだ。

だが今年はそういうわけにはいかない。

俺は鬼気迫る思いでバットを振った。しかし、俺の思いとは裏腹に打球はポテンヒットくらいしか飛ばなかった。

 

練習していると、ふと視線を感じた。

 

「パワプロくんも感じたでやんすか、

 影山さんの視線を」

 

いきなり後ろに矢部君が現れた。

 

「矢部君いつのまに。

 ところで影山さんって?」

 

「影山さんはプロ野球のスカウトでやんす。

 影山さんに注目されるとプロへの道が開けるでやんすからね。

 みんな普段から頑張ってるでやんす」

 

みんなが頑張ってると言う言葉はよくわからないけど、そういうことなら俺も頑張ろう。

アピールする相手が二人に増えた。だが、影山さんは姿が見えないのでどうやってアピールすればいいのかわからない。

とりあえずは監督へのアピールを目指そう。

 

 

 

「今日も疲れたでやんすね~」

 

「そうだね。

 もうちょっとで、なんて言うか……打撃のコツが掴めそうだったんだけどな」

 

「パワプロくん、それ先週も言ってたでやんすよ」

 

矢部君と他愛もない話をしながら練習を切り上げようとすると、練習場にまだ残ってる宇渡が目についた。

 

「今日はガンダーロボの再放送があるので

 早く帰るでやんす~」

 

矢部君はアニメの再放送求めてさっさと帰ってしまった。

俺は残って打撃練習している宇渡が気になった。

あいつパワーはあるんだけど、いまいちミートが上手くないんだよな。

 

「宇渡、残って練習か?」

 

俺が声を掛けると、宇渡は疲れた顔をしていた。

 

「あ、先輩……。

 毎日ヒット以上の当たりを10本出してから帰るんだけど今日は調子が出なくて……」

 

ただでさえ弱気な宇渡だ。

上手く行ってないときの気持ちの落ち込みは相当だろう。

 

「宇渡、お前が納得するまで手伝うよ」

 

「ありがとう先輩!」

 

上手く行ってない時の辛さはよくわかってる。だから、応援してあげたくなったんだ。

俺の手伝いが上手く行ったのか、その後宇渡はホームランをたたき出し、無事10本のノルマを達成した。

 

 

 

「パワプロくん、聞いたでやんすか?

 今日転校生が来るらしいでやんす」

 

「なんたってこんな時期に」

 

「しかも、あの覇堂高校からの転入と言う噂でやんす」

 

「なんで覇堂高校から転入してきたのかわからないけど、これは戦力アップになるね!

 早速声を掛けに行こう!」

 

転入生は隣のクラスとのことで、休み時間に早速矢部君と見に行った。

 

「あのイケメンの彼でやんすね。

 早速女の子に囲まれてるでやんす」

 

みんなが群がっていてよく見えないな、もうちょっと近づいてみよう。

群がる人を押しのけて、見に行くと……あれ? どっかで見た顔だ。

 

「あれ? もしかしてパワプロか?」

 

「えっ……スバル?!

 覇堂高校からの転入生ってスバルだったのか!」

 

まさか幼いころに分かれたスバルとこんなところで会うなんて。

 

「パワプロくん、知り合いだったでやんす?」

 

「そうなんだ。

 スバルとは子供の頃一緒に野球をしてたんだ」

 

スバルが俺との会話を優先してくれたことで、スバルに群がっていたやつらは若干距離をおいてくれた。

 

「本当に久しぶり。

 まさか君がここの生徒だとは知らなかったよ」

 

「じゃあ、子供の時の一緒に甲子園に行く約束が叶えられるな!」

 

スバルが投手で俺が野手。それで甲子園を目指す。子供の時に誓ったあの思いがよみがえった。

 

「……すまない。

 実はボクはもう野球はやめたんだ」

 

なんだ……って……。

 

「そういうことだから。じゃ」

 

「星井くーん」

 

「えー、ちょっと待ってよー」

 

それだけ言うと、スバルは逃げるように去って行ってしまった。

スバルに群がっていたやつらはそのままスバルを追いかけてついていった。

 

そんな……あんなに野球が好きだったスバルが……。

落ち込んでる俺に矢部君が今日メガネを変えたとか言ってきたけど正直どうでもよかった。

スバルとはもう一度話す必要がある。あいつが野球をやめた理由があるはずだ。それを突き止める!

そう誓った。

 

 

 

それから一ヵ月経った。

いつもの通り、授業が終わって部室まで矢部君と競争しようとしていると、帰ろうとするスバルを見つけた。

 

「矢部くん、すまない!

 先に言っててくれ!」

 

「パワプロくん、勝負を投げたでやんすか?

 パワリンおごりでやんすからね」

 

矢部君あまい。これは不戦勝ではなくノーゲームだ。負けていないのにパワリンを驕るはずないだろう。

俺はスバルを追いかけた。

 

「スバル」

 

俺はスバルの肩を掴んだ。

スバルの右肩は膨張しているように筋肉がついていた。

スバルは野球を辞めてない……そう確信した。

 

「どうして野球を辞めたんだ!

 あの覇堂高校で野球やってたんだろ!

 野球部で何かあったのか?」

 

「……キミには関係ないことだよ」

 

「待て! 逃げるな!」

 

ビクッ。

スバルの体が一瞬痙攣した。

 

「もう……ボクに構わないでくれ!」

 

スバルは走って行ってしまった。

速い……あの肩と言い足の速さと言い、絶対に野球を辞めてない。

逃げるなと言った時のあの反応……何か関係あるのか?

そう思ったが結局のところわからなかった。

 

 

 

最近練習が楽しい。

急に成長できるようになった。今までどんなに練習しても全く成長しなかった。

だが夏の甲子園が終わってから、急に成長するようになったのだ。

能力も、オールFに届いていなかったのがようやくオールFになった。

Fと言う能力は、おそらく今の野球部の中で最低クラスだと思う。

だけど成長できるようになったと言うことは未来がある。

俺はパワフル高校を野手として甲子園に導く! 改めて俺は気合を入れなおした。

 

 

 

あれからまた一ヵ月経った。

隣のクラスに行っても休み時間は女子に囲まれていてスバルに近づけない。放課後向かってもスバルはすでにおらず、話しかけるチャンスさえなかった。

俺は練習に打ち込むことしかできず、悶々とした思いで過ごしていた。

 

(くそ……スバルと話したいのに……)

 

考え事をしていたせいか、打撃練習の結果も思わしくない。

 

「先輩、気が散りすぎじゃないっすか?

 練習に実が入ってないみたいですよ」

 

そんな俺に小田切が話しかけてきた。

 

「あ……ああ……お前の言う通りだ。

 気を付ける」

 

気づけば周りのみんなが俺を見ていた、どうやら小田切はみんなに代わって声をかけてくれたらしかった。

 

「ところで、あの人なんなんすかね。

 さっきからずっと練習を見てるんですけど」

 

小田切の見ている方を向くと、そこにいたのはスバルだった。

スバル……俺の練習を見ていた?

 

「スバル!」

 

俺が声を掛けると、スバルは逃げ出した。

 

「待ってくれスバル!」

 

相変わらずスバルは足が速かった。だが、俺だって怠けていたわけじゃない。

……スバル! スバル! 練習によって俺の足はちょっとだけ速くなっていた。

それでもスバルがずっと練習していたなら追いつけなかったかもしれない。

だが、スバルはこの二カ月何もしていなかった。だから俺なんかに追いつかれたんだろう。

 

「ハァ……ハァ……スバル……」

 

「ハァ……まさか君に追いつかれるなんて……」

 

スバルに追いついたけど、なんて声を掛けたらいいかわからなかった。

何を言ってもまたスバルには逃げられてしまう気がした。だから……

 

「なあスバル。キャッチボールしないか。

 昔は毎日一緒にやっただろう」

 

スバルはしばらく黙っていたが、小さな声でつぶやいた。

 

「まあ……それくらいなら」

 

俺たちは練習場に戻ると、みんなの練習の邪魔にならないようにグラウンドの外でキャッチボールをした。

ゆっくりと投げるボール。そしてゆっくりと投げ返されるボール。

 

「こうしてキャッチボールしてると昔のこと思い出すよな」

 

最初は黙ってキャッチボールしてるだけだったけど、なんとなく昔のことを思い出してそう言ってしまった。

しまった! と思ったけど、意外にもスバルは返事をしてくれた。

 

「うん、あの頃はただ野球が楽しかった」

 

スバルの言ってることは間違いないと思えた。上手いとか下手とか関係なく、ただただ野球ができることが楽しかったんだ。でも、今は違うのかもしれない。

きっとまた野球がやりたくなったらスバルは戻ってくる。高校が無理だって大学がある。

だから、スバルの今の気持ちを優先することにした。

 

「俺さ、お前とのあの時の時間が今でも宝物なんだ。

 あの時の約束も……だから、俺絶対に甲子園行くよ!」

 

今までの緩い球から、目いっぱい力強く投げた。

俺の投げた球はスバルのグローブに吸い込まれ、気持ちいい音を立てた。

 

「キャッチボールしてくれてありがとな」

 

それだけ伝えた。

今の俺は甲子園に行く実力が足りない。だからただ練習あるのみだ、そう思って練習に身を入れた。

 

 

 

翌日朝練に向かうと、誰かが投球練習をしていた。

あれ、誰だ? あんな速い球を放るやついたっけ。

そう思って近寄ると、俺を見つけたキャッチャーが近寄ってきた。

 

「パワプロ!

 投球練習したいって言うからキャッチャーを

 買って出たけど……俺には無理だよ!」

 

そいつはそう言って、キャッチャーの防具を脱いで逃げていった。

あいつは確か外野だったよな。あの速さの球を受け止めるのは大変だろう。

 

「全く困るなあ。

 まだ数球しか投げてないのに」

 

この声……。

俺が固まっていると、

 

「流石元覇堂高校の選手でやんす」

 

それってやっぱり……。

 

「朝一番で入部届を受け取りましたよ」

 

いつの間にか近寄ってきていた小筆ちゃんが俺に入部届を見せてくれた。

星井スバル そう書いてある。

 

「パワプロ、ゴメン。遅くなったよ。

 ボク、あの時一緒に誓った夢、やっぱり叶えたいみたいだ」

 

帽子を深くかぶって、照れ臭そうにしたスバルがいた。

 

「君とキャッチボールして思い出したんだ。

 楽しく野球をしていたあの頃を。

 だから……ダメかな?」

 

「良いに決まってるだろ!

 ちょうどうちにはピッチャーがいなかったんだ」

 

そう、なぜか偶然だがうちの野球部にはピッチャーがいなかった。

今いるピッチャーは他の守備位置でレギュラーから外れたやつがやっていた。

 

「そうか、じゃあ頑張らせてもらうよ。

 ところで……1つ相談があるんだ」

 

途端にスバルが真面目になった。

 

「なんだ……どうしたんだ?」

 

「実は、二ヵ月のブランクが気になって。

 だからボクと勝負してくれないか?」

 

なんてことはない、スバルはブランクを気にしていただけだった。

 

「じゃあ、とりあえず勝負するか!」

 

俺はスバルと勝負をすることになった。

勝負は10球、4割打てたら俺の勝ち。それ未満ならスバルの勝ちだ。

 

「本気で行くからね。君も本気できてくれよ」

 

スバルはそう言ってマウンドに行った。

本気ってどういう意味だろう。当然本気を出すつもりだった。

 

 

 

結果、10球中7球がヒット性の当たりだった。

 

「うーん……ブランク二カ月あるし、こんなもんか?」

 

ストレートはそこそこ早かったけど、現役時代に投げていた俺のストレートのほうが早かったと思う。

 

「そうだね……これから鍛えなおす必要があるよ」

 

スバルはハハハと笑うと、練習をするためにブルペンへ向かった。

いつものスバルと違う気がした。

 

 

 

スバルが入部してから一ヵ月が過ぎた。

俺の能力は更に上がって、1つだけDになった。

だがチームの雰囲気がよくない気がする。

頑張ってるのは俺とスバルの二人だけ、そんな状態だ。

 

「なあ、みんな。今日の練習はこれで終わりにしないか?」

 

練習前のミーティングで、スバルがいきなりそんなことを言い出した。

 

「スバル、なんでだ!

 練習量だって全然足りてじゃないか!」

 

「パワプロ落ち着いてくれ。

 覇堂高校の頃の友達から、今日覇堂高校が練習試合をすることを聞いたんだ。

 だから、見に行かないか?」

 

なんだ、そういうことか。まさかスバルまで……と思ってしまった。

 

「良い提案だ。是非行こう!」

 

俺は即肯定した。

運よく、覇堂高校は隣の学区だ。

走って行けば30分もかからない。

 

「みんな、行くぞ!」

 

そう声をかけて走ったものの、俺はチームの中で中盤くらいの位置にいた。

一番先頭を走っているのは矢部くんだ。

どんどん差をつけられ、10分もすることには矢部君の姿が見えなくなっていた。

 

「ハァ……ハァ……やっと着いた。

 で、練習試合は……あれ? やってない?」

 

やっと着いた覇堂高校のグラウンドでは試合は行われていなかった。

練習試合は急遽中止になったのかな?

 

「パワプロくん……」

 

やっと覇堂高校に着いた俺に矢部君が話しかけてきた。

 

「覇堂高校は……去年のベスト8校にコールド勝ちでやんす……」

 

「なんだって!」

 

「おいらが着いた時にはすでに五回裏だったでやんす。

 最後は木場が三者三振で抑えたでやんす……」

 

木場……地区ナンバーワンピッチャーと噂高いあいつか。

俺は木場の顔は見たことない。だけど名前は有名だ。

野球雑誌に取り上げられたこともあるらしい。

 

「そこにいるのは星井じゃねえか?

 久しぶりだな」

 

急に柄の悪いやつが話しかけてきた。スバル……悪そうなやつは大体友達……?

変な想像を巡らせていると、ガラの悪そうなやつはスバルに近寄って絡み始めた。

 

「試合見に来たんなら声くらいかけろよ。

 そうそう、俺今日の練習試合の奪三振10だぜ。

 どうだ、すごいだろ」

 

去年のベストエイト相手に五回で奪三振10……まさかこいつが……木場。

俺は初めて見る木場にプレッシャーを受けている気がした。

俺の現役時代でも五回で奪三振10なんて数字はほとんどたたき出したことがない。

俺は木場を威嚇するように睨みつけたが、木場は俺なんてどこ吹く風でスバルの首に腕を掛けて更に絡み始めた。

 

「急にいなくなったと思ったらパワフル高校に入ってたのか。

 そっちじゃお前程度でもエースになれるのか。

 まあ試合で当たったらよろしくな」

 

「お前元チームメイトだろう!

 スバルになんて口をきくんだ!」

 

俺は木場のスバルへの態度に頭にきて、誰より先に叫んだ。

 

「ああ? なんだお前。

 んー……ああ、そうか。知らないのか。

 スバルはな、逃げ出したんだよ。

 この俺とのピッチャー争いにな」

 

スバルが……逃げた?!

あの時、俺の逃げたと言う言葉にびくっとしたスバルがようやくわかった。

スバルはこいつから逃げたんだ。きっとピッチャーとしての格を見せつけられて、どうしようもなくなくなってそれで逃げてしまったんだ。

 

「こいつは負け犬だ。

 もっとやるやつだと思ってたんだけどな、残念だよ」

 

木場は心底スバルを見下したような顔で、暴言を吐く。

スバルを貶めるのは許さない! そう思って反論しようとしたところ、

 

「……違う……ボクは……」

 

スバルがか細い声を出した。消え入りそうな声だ。

こんな弱いスバルは初めてみた。

 

「スバル……」

 

「……っ!」

 

スバルは走り去ってしまった。

なぜか足が動かず、走り去るスバルを見送ることになってしまった。

 

「さ、帰れ帰れ。

 今日はもうおしまいだ」

 

木場の言葉で我に帰った俺は、木場に言いたかったことも言えずにそのまま帰路についた。

 

 

 

「スバルくん……大丈夫でやんすかね」

 

帰り道、矢部くんがぼそっと呟いた。

 

「……俺、スバルに会ってくる!」

 

いてもたってもいられなかった。

あの頃の俺は、甲子園に行けなかったのは自分のせいだと思っていた。

なぜかチームメイトは誰も俺には声をかけてくれなかった。

きっと、俺は一人で野球をしていたんだ。だが、現世では違う。

一緒に野球をやる仲間がいる。

一緒に甲子園を誓い直したスバルがいる。だから、スバルに声をかけないと。そう思えた。

 

スバルの家に行くと、スバルは帰ってなかった。

 

「多分、近くの運動公園じゃないかしら。

 あの子たまに練習が終わった後も一人で何かしてるみたいなのよ」

 

練習が終わった後も?

スバルがそこまで頑張ってるなんて知らなかった。

もしかして、木場への思いを払拭するためだったのかもしれない。

俺は今スバルがどんな気持ちでいるか考えながら運動公園に向かった。

運動公園に着くと、一人壁当てをしてるやつがいた。

歩いて近寄って行くと、スバルは俺が来たことが分かったのか壁当てをやめた。

 

「パワプロ、ボクの話を聞いてくれるか?」

 

「ああ……」

 

悲壮な顔をしたスバルは、ぽつりぽつりと昔のことを話し始めた。

子供の頃、俺と別れたスバルは引っ越し先でリトルリーグに入った。

人一倍練習して、なんとチームのエースで四番になったらしい。

才能もあったのだろう、スバルの成長は目覚ましく中学では大活躍をしたらしい。

だが高校を目前に親の転勤があり、こちらに引っ越してきた。

野球の強い高校である覇堂高校を受け、無事入学したものの……そこであの木場にあったらしい。

最初は木場との力関係もそれほどなく、良いライバル関係として競い合っていたようだ。

しかし木場との実力は少しずつ離れて行き、ある日その差は圧倒的なものとなってしまった。

紅白戦での投げ合いの結果、スバルは味方のエラーも相まってピンチに陥り、結果5対0.

その後、逃げ出すようにしてパワフル高校へ転入してきたと言うことだった。

 

「すまない。

 君にこんな自分を知られたくなくて……」

 

スバルの声は俺にかろうじて聞こえるほどに小さくなっていた。

俺はかつての自分とスバルを重ねていた。

ピッチャーを逃げ出した自分、野球を逃げ出したスバル。似ているものがある。

だけど、あの頃の自分とは違う。スバルにはまだ取り戻せるものがある。

 

「スバル、一度負けたからってなんだ!

 次に勝てばいいじゃないか!」

 

「あの木場に勝つことなんてできやしない。

 ベスト8相手に完勝してたんだ。

 今のボクには彼を越えられる力は、ないよ……無理だ」

 

「お前は、まだ本当にダメになっていない!

 野球人生が断たれたわけじゃないだろ!」

 

「え……?」

 

あまりの俺の気持ちの入りようにか、スバルは驚いていた。

 

「球を放れなくなったわけじゃないだろ!

 腕が痛むわけでもない!

 なんで投げれるのに、もっと投げないんだ!

 練習をしないんだ!」

 

「パワプロ……?」

 

スバルは俺の目ではなく、頬を見ていた。

俺の頬には温かいものが伝っていて……そうか、俺は涙を流していたんだ。

 

「無理なんて言わなくでくれ!

 お前はもう一度立ち上がってくれたじゃないか。

 それに……」

 

「野球は一人でやるものではないでやんす」

 

え……矢部くん……?

いつの間にか俺たちの周りには矢部くんたちチームメイトがいた。

俺の最後の言葉は矢部くんに持っていかれた。

 

「へへ……全部聴いていたわけではないでやんすが、

 なんとなくわかったでやんす。

 あんまり真面目に練習してたわけではないおいらたちが言うのもアレでやんすが、これからは気持ちを入れ替えて頑張るでやんす。

 だから、スバルくんも……」

 

矢部くん……なんで君は一番いいところを全部持ってっちゃうんだい。

 

「矢部くん、君は木場のすごさを見ていたんだろう?

 なんで諦めないでがんばろうなんて言えるんだ」

 

「おいら、毎日パワプロくんと部室まで競争してるでやんす。

 パワプロくんはおいらよりはるかに足が遅くて、はっきり言って手加減をしてるでやんす」

 

おい、待て……今それを言う必要があるのか。

 

「……だけど、毎日少しずつタイムが縮まってきてるでやんす。

 だからおいらも、練習終わった後走り込んで足に磨きを

 かけてるでやんすよ。

 きっと木場も同じ気持ちに違いないでやんす。

 スバルくんに追いつかれまいと必死でやんす。

 後は根性と、本人たち以外のところで追い越せばいいでやんす」

 

「そうか……そうだね。

 僕は木場の追いつかれまいと言う気持ちに負けてしまったんだ。

 だけど……もう一度頑張るよ。

 甲子園までの間に、木場に追いつくことはできないかもしれない。

 だけど、精いっぱいがんばる。

 だから頼むよ。パワプロ、ボクをサポートしてくれ」

 

「ああ、もちろんだ。

 絶対に勝とう」

 

良いところを全て矢部くんに横取りされてしまったせいで俺の中では微妙な気持ちになってしまったけど、スバルが立ち直ってくれてよかった。

 

 

 

「みんな、聞いてくれ!」

 

翌日の練習前、ミーティングの時にスバルがみんなに声をかけた。

 

「覇堂高校にいたボクだからわかることがある。

 それは、練習量が圧倒的に不足してると言うことだ。

 だから……新しい練習メニューを立ててみた。

 小筆ちゃん、頼むよ」

 

スバルがそう言うと、小筆ちゃんがみんなに紙を配った。

 

「ボクの覇堂高校での経験と、小筆ちゃんの計画で各自それぞれに合った練習メニューを作った。

 打倒覇堂高校のため、この練習をこなして欲しいんだ」

 

すごいぞスバル……一日にしてここまで立ち直れるなんて。

スバルの成長に俺が感動していると、どこからともなく声が上がった。

 

「えー。今でも辛いのに、まだ増やすのー」

 

その言葉で場がシーンとしてしまう。すぐに言い返さないといけないのに、なぜか俺の口からは言葉が出なかった。

 

「なんてことを言うんですか!」

 

一番最初に反論したのは……まさかの小筆ちゃんだった。

 

「覇堂の木場さんは、他の人の二倍練習してるんです!

 星井さんは、その木場さんより更に多くの練習をしようとしてるんです!」

 

木場が他の奴の二倍?

通りですごいはずだ。しかも、スバルはその木場を更に超える練習をしようとしていたなんて。

木場に追いつくには、木場を超えるには、木場より多くの練習が必要なんだろう。

だから自身には一番厳しいノルマを課していたんだ。

そして、それを小筆ちゃんだけが知っていた。

 

「小筆ちゃん……」

 

「はっ……わたし……っ!」

 

小筆ちゃんの大きな声なんて初めて聴いた気がする。

ただ、大きな声を出したと言うことに恥ずかしくなってしまったのか、小筆ちゃんは逃げるように部室からいなくなってしまった。

 

「みんな……やってみないか?」

 

俺はなんとか声を振り絞った。本当なら、もっとスバルに共鳴するようにみんなに声を大にして言いたかったのに。

沈黙が場を制す中、最初に声を出したのは矢部くんだった。

 

「これだけの練習をしたら、おいらもっと足が速くなりそうでやんすね」

 

なんとも矢部くんらしい、冗談ぽい言い方だ。

 

「この練習、プロ野球選手と同じ練習方法が取り入られていていいですね」

 

次に声を発したのは小田切だ。いつも通りの軽いチャラさがある。

 

「毎日打撃練習だけは取り入れて欲しい」

 

そして宇渡。お前はそればっかりだな。

その後は俺も俺もと、最終的にチームメイトみんながスバルの意見に合意した。

新生パワフル高校野球部が誕生した瞬間だった。

 

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