野球神様に誘われて人生やり直しました ~パワフルプロ野球の世界に転生~   作:駿州山県

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パワフル高校の第二話になります。
あんまりおもしろくないかもしれませんが良かったら読んでください。
なお、ストーリーはメインストーリーに沿っています。
多少のオリジナルは加えています。


1章 2話 パワフル高校2

 

スバルと小筆ちゃんの計画した練習スケジュールをこなした結果、俺の能力はCになるものも出てきた。

足は相変わらずFで、未だに部室までの競争で矢部くんに勝てたことがない。

そんな話をスバルとしていたら、スバルが急に笑い出した。

 

「ふふふ……」

 

「どうしたんだスバル?!」

 

真面目な顔で俺の愚痴を聞いてくれているのだと思ったのに、いつもと違うスバルに驚いた。

 

「ごめんごめん。楽しくって、つい。

 覇堂高校の時は、みんな己を高めるの必死で、こんな風にチームメイトと話し合って笑い合うことなんてなかったからさ」

 

「……それだ」

 

「え?」

 

「それだよ、スバル!

 俺たちは覇堂高校と同じことをしても、きっとダメなんだ。

 俺たちなりの方法で勝つ努力をしないと!」

 

俺はすぐさまチームメイトを集めた。もちろん小筆ちゃんもだ。

 

「みんな、力を貸して欲しい。

 覇堂に勝つためには練習だけじゃダメな気がするんだ。

 だから、俺たちにしかできない力を高める方法をみんなで考えて欲しいんだ!」

 

俺は全員が集まった部室で、大きな声で呼びかけた。

 

「急にそんなこと言われてもな……」

 

シーンと静まった中、珍しく宇渡が最初に声をあげた。

 

「俺、パワーはあるんだけどミートが悪くてさ」

 

「それで?」

 

「あ、うん……」

 

言いかけた宇渡が急に黙ってしまった。一体どうしたんだろう。

 

「もしかして、弱点を克服したいのかい?」

 

「そっ……そうなんだ!」

 

宇渡の言葉に反応したのはスバルだった。おそらく、チームの中でもっとも弱点……トラウマを克服したい人物だ。

だから宇渡が言いたいことに気づけたに違いない。

弱点を克服すると言うことは、一度自分の弱点をさらけ出すと言うことだ。

 

「それなら、長所も伸ばせるといいっすね」

 

小田切の言うことももっともだ。

 

「弱点を減らして長所を伸ばすか。

 間違いなくいいことなんだけど、そう簡単なことじゃないな……」

 

みんなの長所、短所を見つけるために時間を費やすか。

その間の練習が止まってしまうが、これを最初にやらなければ意味がない。

みんなどうすればいいか考えてこんでしまった時、

 

「あっ……あの!」

 

小筆ちゃんだった。小筆ちゃんは先日のスバルの件依頼、徐々に声を大にして意見を言えるようになった。

 

「これ……役に立てないでしょうか」

 

「ん? どれどれ……」

 

小筆ちゃんが出したのは、小筆ちゃんのノートだった。

中には、小筆ちゃんの書いたであろうポエムがたくさん書いてあった。

 

「ポエム?

 これをどう役立てればいいの?」

 

みんなを代表して俺が言うと、小筆ちゃんは驚いたような顔をした後、顔を真っ赤にして

 

「すいません! 間違えました、こっちです!」

 

別のノートを出してきた。

どうやら先ほどのは……小筆ちゃんの黒歴史に違いない。

見なかったことにしておいてあげよう。

 

小筆ちゃんが出しなおしたノートに書いてあったのは、それぞれの長所と弱点だった。

 

「私、皆さんの役に何か立てないかって思って。

 ずっと書き溜めてたんです」

 

「すごいぞ……練習での癖だけじゃなく、試合での動きまで書いてある!」

 

小筆ちゃんのノートに、一人1ページ分びっしり情報が書かれていた。

自分の分のページを見ると、ミート〇、その他ダメと書いてあった。

その他ダメって……そりゃまだFのステータスも多いけど、ひどい。

 

この時を境に俺たちはどんどん変わっていった。

矢部君は得意な足だけでなく、打撃もよくなった。

宇渡はミート撃ちの練習をすることで、打率も大きく上がり、そしてロジカルなトレーニングをすることでパワーもより高くなった。

スバルも、球速が上がり、更に変化球も球種が増えてキレがよくなった。

全て順調だ。しかし、まだ足りない気がする。

みんな自分の成長に喜んでいるのだが、俺だけがまだ不安だった。

 

「みんな、集まって下さい」

 

珍しく監督からの招集があった。

 

「なんでしょう、監督」

 

「来週から、合宿をします」

 

合宿……?

そんなこと今まで一度もしたことがなかったのに。

 

「えぇ、皆さんの頑張りを見ていたらですね。

 私も何かやらなくてはと、思いまして」

 

監督は急に後ろを向いた。照れ臭いのだろう。

しかし、誰も思わないのだろうか。合宿の費用はどこから捻出されたのかということを……。

 

 

 

合宿の場所は、県内の大学が持っている運動施設だった。

運動施設の横に合宿所も備えていて、良い環境で練習できること間違いない。

どうしてこんな場所がとれたのかと思ったのだけど、どうやらパワフル高校のOBにその大学の教授がいたらしい。

その教授を経由してなんとか借りることができたとのことだった。

ただし、ご飯の支度はチームメンバーだけで行うこと。これが条件だった。

 

全てのメンバーが一度は食事当番が当てはまることになり、俺はちょうど中日に当たった。

初日にスバルが食事登板になり、どうやって作ったのかわからないようなすごい食事を作ったことが話題になった。

あれはとても美味しかった……スバルにもう一度食事当番をと言う声も多数上がったが、スバルは一人しかいないピッチャーだ。

そんなことで練習量を減らすわけにはいかなかった。

そして俺の食事当番の日になり、毎回当番と一緒に食事を作っているマネージャーの小筆ちゃんと一緒に料理を作っていた時。

 

「パワプロくん……相談があるんだけど……」

 

野菜を切りながら小筆ちゃんが深刻そうに言ってきた。

周りを見たが、どうも俺にしか聞こえてないようだ。

 

「みんなに練習の説明をしたいんだけど、上手く行かなくて……」

 

小筆ちゃんは今までまともに人と会話さえおぼつかなかった。

それが、ようやくスバルの件を介して喋れるようになった。

だけど今まで会話をしてこなかったことによるコミュニケーション問題はそう簡単に片付くわけもなく……。

 

「なるほどね。

 じゃあ、小筆ちゃんも変わってみない?」

 

「え?

 私が、変わる……ですか?」

 

「そう、スバルも、俺も、みんな変わろうとしてるんだ。

 弱点を克服して、強敵に立ち向かうために。

 小筆ちゃんにだってきっとできるよ」

 

「難しそうですね。

 でも……がんばってみます」

 

そう口に出した小筆ちゃんは、はにかんだような嬉しそうな顔をしていた。

 

 

 

「あー、宇渡くんは、そのー……」

 

私はパワプロくんに言われた変わる努力をした。

いきなり顔を見せあっては難しいから、まずは鏡を見ながら特訓だ! と息巻いたものの……。

 

「難しいなあ……やっぱり」

 

鏡の中の私は今までと何も変わっていなかった。

自信なさげな顔をして、俯いて、髪型も……髪型?

 

「もし私が髪型を変えたら、みんな気づいてくれるかな」

 

ただそれだけのつもりだった。

でも、髪型を変えたことは自分の中の気持ちさえ変化させることができた。

髪留めを使って髪型を変えただけ、それだけなのになぜか私は自分が全くべつのものに生まれ変わったような気がしたのだ。

 

「小筆ちゃん、髪型変えたんだね。

 ちょっとの変化だけどとても良いと思うよ」

 

パワプロくんは私の微々たる変化に早速気づいてくれた。

それが功をせいしたのだと思ってる。パワプロくんには感謝しかない。

 

「京野さん、宇渡くんに説明してもらっていいですか」

 

監督と一緒に考えた宇渡くんの練習の説明は私が行う。

昨日練習したときは上手く行かなかったけど、今なら……。

私はそう思いながら宇渡くんの元へと向かった。

 

 

 

「パワプロ、小筆ちゃん変わったね?」

 

「そうだなスバル。

 髪留め一つに収まりきらない変化があると思うよ」

 

「ん? キミ、小筆ちゃんに何かしたのかい?」

 

「いや?

 何もしてないけど」

 

俺は何もしてないけど、小筆ちゃんと俺から何か感じ取ったのかスバルが変なことを言い出してきた。

 

「でも、本当に小筆ちゃん変わったでやんすよね。

 見つめると目を背ける小筆ちゃんも良かったでやんすが、見つめ返してくる小筆ちゃんもなかなか……」

 

「パワプロ、ちょっと変化球を見てくれないか。

 打席に入ってくれると嬉しい」

 

「ああ、いいぜ」

 

変なことを言い出した矢部くんを無視して、俺たち二人は練習に入った。

 

 

 

「パワプロくん、ごみ袋は全部持ちました?」

 

「これで最後だよ、小筆ちゃん」

 

合宿は最終日までしっかり続け、お昼前に終わった。

清掃も済ませてあるし、後は帰るだけだった。

 

「待ちたまえ、そこの君!」

 

急に声を掛けられた。

 

「なんですか?」

 

知らない声だったので、普通に返答する。

そこには、金髪でロンゲの人がいた。眉毛が細くてなんかキラキラしている。

 

「君じゃないよ!

 そうそう、そこの美しい君さ!」

 

金髪のロンゲは小筆ちゃんに詰め寄った。

 

「うちのマネージャーに近寄らないでもらおうか!

 と言うかお前は誰だ!」

 

無理やり体を金髪ロンゲと小筆ちゃんの間にねじこむと、嫌そうな顔をしながら金髪ロンゲが答える。

 

「虹谷 誠だ。覚えておいてくれよ、美しい君」

 

俺の問いに返答してるのだが、完全に小筆ちゃんに向かって言っている。なんてやつだ。

 

「私たちの後に合宿所を使う人たちですね。

 高校は……」

 

「天空中央高校さ!」

 

大げさな手振り身振りで虹谷が答えてくれる。

 

「天空中央高校! 確か去年の……」

 

「優勝校ですね」

 

覇堂の木場でさえ敵わなかった相手、それが目の前にいる。

それがこんな軟派なやつだと思うと正直気が抜ける。

 

「七色の変化球とは僕のことさ」

 

七色の変化球と言うことは、全部で7種類球種があると言うことだろうか。

全方向投げられる上に、さらにファストボールまで使いこなす。木場が敵わなかった相手と言うのも間違いないのかもしれない。

 

「騙されないでください。

 七色は苗字の虹谷からきているだけで、変化球は四種類しか本当は使えないようです」

 

小筆ちゃんの冷静な突っ込みに、虹谷の細いまゆげがピクピクと動いていた。

おい木場。お前本当にこいつに負けたのか? なんかこいつが本当に強いのかどうかさえ怪しくなってきた。

 

「う……美しいお嬢さん。

 なかなか言うじゃないか。

 だが、輝く優勝旗を見れば君の態度も変わるだろう!」

 

「そうはいかない!

 今年勝つのは俺たちパワフル高校だ!」

 

「パワフル高校? 聞いたことないな。

 どうせ君たちは甲子園まで上がって来られないだろうからね。

 甲子園まで上がってきたら相手をしてあげるよ。

 では、さらばだ美しいお嬢さん!」

 

虹谷は高らかに笑い声をあげながらいなくなった。

 

「くそっ……なんて嫌な奴だ」

 

「行きましょう、パワプロくん。

 もうすぐバスが出ちゃいます」

 

あくまでの冷静な小筆ちゃんに連れて行かれ、俺はしぶしぶバスに乗った。

虹谷、覚えておけよ!

 

 

 

合宿から帰ると、すぐにまた通常の練習が始まった。

小筆ちゃんの的確な指摘。効率のいい練習。みんなの頑張り。

それぞれが実になって俺たちを成長させる。

甲子園に行くことも夢ではないのではないか、なんとなくそうみんな思えるようになるほど成長した頃だった。

 

「おい、聞いたか。

 春の選抜、覇堂高校が準決勝敗退だってよ」

 

なんだって?! 木場が……準決勝敗退?

 

「なあ! 相手は……どこなんだ?」

 

「パワプロか。相手は、天空中央高校だってさ」

 

「天空……中央……」

 

虹谷がいる、あの天空中央か。

疑わしかったけど、どうやら実力は本物のようだ。

待っていろ、虹谷……覇堂を破って甲子園に行くのは俺たちだ。

気持ちが強くなった俺は、その日の練習に一層身が入った。

 

 

 

今日は日曜日。疲れをとるため、練習は休みになっていたのだが、俺は体を動かしたくてジョギングをしていた。

無理して体を壊したくはないから、ダッシュやランニングではなくジョギングだ。

川沿いをジョギングしていると、向こうから見たことある顔のやつが同じくジョギングをしていた。

 

「お前は……木場!」

 

「ん? もしかして星井のチームのキャプテンのやつか。

 どうだ? 星井は元気にしているか?」

 

この間はやたらとスバルを煽ってきたくせに、今回は余裕しゃくしゃくな態度だ。

そこが余計に気に入らなかった。

 

「……教えてやらねえ」

 

「なんだと?」

 

「お前には教えてやらねえって言ったんだよ!

 スバルに負け犬って言ったやつになんかな!」

 

俺はあの時のことが思い出されて、カッときて言ってしまった。

言ってしまったらもう後は買い言葉に売り言葉だ。

 

「なんだと、この野郎。

 ならもっと言ってやろうか。

 星井は負け犬だ! 俺から逃げ出した負け犬だ!」

 

「お前だけは許さねえ! 勝負だ!」

 

「ほー。俺に勝負を挑んで来るやつがいたとはな。

 ちょうどいい、そこにグラウンドがある。

 もちろん野球で勝負だ!」

 

「望むところだ!

 俺が勝ったら、スバルを負け犬って言ったことを

 謝罪してもらうからな!」

 

「ああ、いいぜ。

 お前が勝てるわけないけどな」

 

木場からしたら俺はただの無名の選手だ。

甲子園出場校からしたら、万年一回戦負けの高校の選手なんて相手にならないと思っているのだろう。

木場、虹谷以外でお前に負けをくれてやる!

五球勝負で俺は四安打だった。ただ、四安打にできたのは木場が爆速ストレートを使わなかったからだ。

木場もまさか爆速ストレートを使わないでも四球も打たれるとは思わなかったのだろう。五球目に爆速ストレートを使ってきたのだが今度は俺が逆にやられた。

爆速ストレート、ものすごい重い球だ。ただのストレートと同じだと思って打ったら、ピッチャーフライになった。

 

「ふん、やるじゃねえか」

 

負けセリフっぽい言葉を吐くと、木場はそそくさといなくなった。

どうだ、見たか! って……あれ? 俺謝ってもらってないぞ。

まさかの木場に逃げられた。

 

 

 

「皆さん、今日は何の日か覚えてますね」

 

「はい! 練習試合の日です!」

 

俺は誰よりも早く答えた。打倒木場,虹谷の思いは誰よりも強いつもりだ。

 

「はいそうです。

 なんと、今日は瞬鋭高校との練習試合ですよ」

 

瞬鋭高校は、毎年覇堂高校と優勝争いをしている高校だ。

今年は特にメンバーが優秀だと言われていて、打倒覇堂を早くから掲げている。

 

「ピッチャーの烏丸は球速こそ木場に劣るものの、変化球の質は負けてはいない。

 油断すると痛い目に合うよ」

 

スバルが情報を教えてくれる。

打倒覇堂の前哨戦にはばっちりの相手だ!

俺は瞬鋭の烏丸相手に、3打席2ホーマーの大活躍を見せた。

 

 

 

そして、甲子園予選の開始前日。

野球部は疲れをとるために一日休みになった。

俺は野球の道具を買うために、駅前に出かけると……またしても奴と出会ってしまった。

 

「……木場っ!」

 

「パワプロか。

 本試合ではこの前みたいにはいかないぞ。

 星井ともどもぶっ潰してやる!」

 

「それはこっちのセリフだ!

 決勝戦では、お前が俺たちに潰される番だ!」

 

そう言ってにらみ合っていると、

 

「この人がお兄ちゃんが言ってたパワプロさん?」

 

木場の横から女の子の声が聞こえた。

お兄ちゃん?

 

「ああ、静か。出て来るな。これは男の話し合いだ」

 

木場の隣にいるのは、木場によく似た顔立ちでそれでいて整っていて……あれ? 妹? こんなにかわいいのに?

俺がポカーンとしていると、

 

「初めまして。

 お兄ちゃんがいつもお世話になってます。

 お兄ちゃん、パワプロさんに負けてから練習が激しさを増したんですよ」

 

「バカ! 黙ってろ!」

 

まさか木場にこんな妹がいるとは思わなかった。

木場と違って性格もよさそうだし……本当に兄妹か?

 

「行くぞ! 静!」

 

バツが悪かったんだろう。木場はすぐさまその場を去って行った。

 

「パワプロさん、それでは」

 

静ちゃんは深く頭を下げると、木場に着いていった。

兄妹って言っても全然違うんだな、と思った。

 

 

 

そして甲子園予選の一回戦。

俺たちの相手はバス停前高校と言う変な名前の高校だった。

バス停前にあるからバス停前高校? 本当にそんなふざけた名前の高校があってもいいのだろうか。

相手の選手は全員同じ顔をしている。だが明確に名前は違くて、背番号も違う。

とても奇妙な思いをしながら俺たちは戦った。

結果、圧勝だった。

打倒覇堂を目指す俺たちにとってはただの通り道でしかなかった。

その後順調に勝ち続け、とうとう予選の決勝戦になった。

もちろん相手は覇堂高校だ。

 

「よう。ここまできたか」

 

「ああ、勝負だ」

 

挨拶が終わり、お互いにそれだけ言うと、俺たちはグラウンドへ。木場はベンチで向かった。

 

「なあ、パワプロ。

 君たち、知り合いじゃなかったよね?」

 

スバルが間抜けな質問をしてくる。

 

「違うよ、ライバルさ」

 

木場をライバルと呼ぶ俺に何か疑問を感じていそうなスバルだった。

試合は1~3回まではお互いにノーヒットで進んだ。

木場は爆速ストレートを活かした配球で、ほとんどが三振。当たっても凡打を築いた。

一方スバルは巧みに変化球を使い、ランナーを出すも0点に抑えていた。

風向きが変わったのは6回。木場の三回目の打席で、スバルがホームランを打たれてしまった。

投手としてだけではなく、打者としても一流。それが木場だった。

 

「スバル、今の一点は忘れていこう。

 まだ後3回ある。俺たちにも逆転の目はある」

 

スバルにそう伝えたが、スバルの心は折れてなかったようだった。

かく言う俺は、木場を打ち崩せていなかった。

木場は俺に対して徹底的に爆速ストレートを投げてきた。

爆速ストレートは通常のストレートより体力を使うらしいので、同じ打席で投げても一回くらいなのだが、なぜか俺に対しては全球爆速素トレードだ。

ままならない打率に俺は悶々としていた。

一対一で勝負した時、木場は決して油断していたわけではなかったはずだ。だが逆に悟らせてしまったのだ。

俺に対して甘い配球はしない、と。

それが結果的に全球爆速ストレートを投げさせることになってしまった。失態だ。

 

俺達は木場を打ち崩すことなく、9回を迎えた。

スバルの疲労は頂点に達し、肩で息をすることも多くなった。真夏の暑さがスバルから余計にスタミナを奪うのがうらめしい。

なんとか一人目を打ち取り二人目は木場だ。

木場には一度ホームランを打たれているし、スバルにとっては投げにくい打者に違いない。

だが……勝利の女神も、木場も容赦がなかった。

スバルは木場に二度目のホームランを打たれてしまった。

 

「マウンドに立ち尽くすスバルに声をかけるために近寄るが……かける言葉がない」

 

俺はただ一人マウンドにたって頑張っていた時期もあったと言うのに、かける言葉が見当たらなかった。

 

「パワプロ、大丈夫だ。後二人投げぬく」

 

明らかに疲れている体を酷使して、スバルは残り二人をなんとかアウトにとった。

後は……俺たちの番だ。

運よく打順は1番からだった。俺たちは木場からまともなヒットを打つことができなかったが、フォアボールやポテンヒットが合計3回ほどあり、最終回に1番から始めることができた。

1番は矢部くんだ。しかし、矢部くんは木場のボールにまだ一度も当てることさえできないでいた。

 

「矢部くん! 頼む!」

 

俺は目を瞑って祈りを捧げたが、それもむなしく矢部くんは三振になってしまった。

 

「申し訳ないでやんす……」

 

声のトーンを落として矢部くんが帰ってきたが、矢部君を誰も責めることなんてできない。

次は小田切だ。

 

「できるだけ頑張ってみます」

 

小田切は前回運よくポテンヒットを打っている。

なのでもしかしたら……そういう思いでいたのだが……。

 

「すいません、ダメでした」

 

あっけなく三振。ツーアウトになってしまった。

次は……俺の番だ。

すでに俺は2回アウトに取られている。木場の爆速ストレートに詰まらされて、両方とも外野フライだった。

だが、次こそは。そういう思いで打席に向かう。

打席から見る木場の後ろに、炎が見えた。

第一球目、当然のように爆速ストレート。

低めいっぱいに決まった。まさか最後まで……と思ったが、木場の思いは揺るがないようだった。

木場はスライダーやカーブも使えるが、爆速ストレート一本に完全に絞ることにした。

二球目。少しボールに流れたが、つい振ってしまった。なんとかファールに持ち込んで、アウトになるのを防いだ。

危なかった。まさかあんないいコースをまだ投げられるなんて……。

とうとう俺は追い込まれた。木場の顔は勝利の笑みを浮かべている。

しかし俺はまだ負けたと思っていなかった。

三球目。木場の投げた爆速ストレートは……先ほどの二球目より少し甘かった。

木場の疲れから、握力が落ちていたのかもしれない。

回転数の落ちた爆速ストレートはただのストレートを少し重くした程度だった。

俺は爆速ストレートを思い切り引っ張った。

打球はファールラインぎりぎりを飛んで……外野席に入った。

 

ホームランだ。

 

「やった!」

 

俺はバットを放り投げると、ダイアモンドを一周した。

マウンドの木場は先ほどまでの笑みが嘘のように悔しがっていた。

あいつも爆速ストレートが甘かったことをわかったに違いない。

俺は悔しがる木場を見ながら三塁を回りホームについた。

三打数一安打。結果からすれば悪くはないのかもしれないが、俺は決して嬉しくはなかった。

 

そして次は宇渡だ。

宇渡は未だに木場の球についていけてなかった。

一球目。木場はフォークボールを投げた。宇渡はストレートを待っていたようで、大振りに空振りしてしまった。

 

「宇渡、しっかりと振れてるぞ!

 後はタイミングだけだ!」

 

俺たちは宇渡を応援するが、宇渡は俺たちの応援を受けて逆に縮こまってしまっていた。

二球目、宇渡のねらい目のストレートだ!

打った! そう思った。だが、空振りだった。

あの時の、宇渡の小さくスイングしてしまう癖が出てしまっていた。

 

すかさず監督がタイムを取り、宇渡に声を掛けていた。

宇渡は監督の言葉に何度か頷くと、打席に戻ってタイムを解除した。

さっきよりはいい、だが宇渡の本来の構えとは程遠い。

それでも、頼む。頼む。と強く念じていたが……。

 

「ストラック! バッターアウト!

 ゲームセッツ!」

 

アンパイアのストライクの掛け声がむなしく響き渡った。

 

「スバ……ル……」

 

俺はそれ以上何も言うことができず、ただ立ち尽くした。

チームメンバーも、ベンチから出ることなくそのまま立ち尽くしていた。

次第に視界が白んでいき……安内なみきが目の前にいた。

 

「どうでした? 満足いく結果になりました?」

 

笑顔で言う安内の顔はとても憎らしく見えた。

 




思ったより長くなりました。
筆がノリましたね。
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