野球神様に誘われて人生やり直しました ~パワフルプロ野球の世界に転生~   作:駿州山県

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1章 3話 パワフル高校3

 

「スバルは……? 甲子園は……?」

 

「甲子園行けませんでしたから終わりですよ。

 最初からやり直しです」

 

「勝手に終わらせるな! って、え?!

 やり直し?」

 

「そうです。聞こえませんでした?

 最初からやり直しですよ」

 

やり直しってなんだ? 今までがんばってきたみんなは?

みんなで行った練習は! 俺たちのきずなは!

 

「野球神様の代理で言いますけど、あなたはこの世界の甲子園で優勝しないと元の世界には戻れないんです。

 そういう決まりですから!

 さ、早く戻った戻った」

 

「え、ちょ……待って……」

 

「言い忘れたので最後に言いますけど、ステータスは初期からやり直しですからねー」

 

ステータスはやり直し、その言葉だけが俺の頭の中で響いていた。

 

 

 

俺の名はパワプロ。

子供の頃からの親友のスバルと一緒にプロ野球選手を目指していた。

だけどスバルは親の都合で転校してしまった。

いつか二人でもう一度……って! 

ちくしょう! 本当に最初に戻っちまった。

 

キーンコーンカーンコーン。

 

授業がちょうど終わりを迎えた。

俺はパワフル高校野球部の練習着のまま授業を受けていて、授業が終わるとすぐ部活に行ける恰好になっている。

しかし、前回のようにすぐさま部活に行こうとは思えなかった。

理由は2つある。

1つ目は、今のタイミングで俺がどんなに練習をがんばっても能力が上がらないからだ。

2つ目は、前回と同じ行動をしても甲子園に行けないと思ったからだ。

おそらく能力は中途半端にしか上がらず、また一点差で負けてしまうに違いない。

どうしたらいいものかと思っていると、

 

「パワプロくん、練習行かないでやんすか?」

矢部君が訪ねて来た。

そりゃそうか、毎日部室まで競争してるんだ。今日になって急に来なくなったらおかしいと思うだろう。

 

「矢部くん。

 今日はちょっとね。考え事をしたくて」

 

「考え事でやんすか?

 わかるでやんす。

 おいらもあの子のことで頭がいっぱいで!」

 

ちがわい。お前と一緒にするな。

って言うか、女の子のことを考えてるなんて一言も言ってない!

 

「野球のことに決まってるだろ!」

 

「そうだったでやんす。

 パワプロくんはほんと野球のことしか頭にないでやんすからねー」

 

この世界のパワプロも、現実世界の俺もそういう点では似たり寄ったりなんだよな。

なんとなく嬉しくなった。

嬉しくなったついでに、ものは試しだ。矢部くんにきいてみよう。

 

「ねえ、矢部くん」

 

「なんでやんす?」

 

矢部くんは器用にも眼鏡をはずさないまま拭いていた。

そういえば矢部くんのメガネを外した時の顔って見たことないな。ちょっと気になる。

 

「俺たちは、どうしたら甲子園で優勝できると思う?」

 

「何を言ってるでやんす。

 簡単なことでやんす!」

 

まさか。矢部くんに甲子園で優勝するためのアイデアがあるとは!

聞いてみるもんだ。こんな近くに答えがあるとは思わなかった。

 

「まず予選で勝ち進むでやんす。

 すると地区予選の決勝に辿り着くでやんす。

 決勝戦ではおいらのサヨナラ逆転満塁ホームランが炸裂するでやんす!

 甲子園に行ってからは美少女がおいらのサインを求めて……」

 

「はぁ、聞いた俺がバカだったよ」

 

矢部くんには二度と意見を求めることはないと思った。

 

浮かれた矢部くんは誰もいない方向にひたすら話していたので、放っておいてそのまま部室に向かった。

 

「今日は俺の勝ちっと」

 

部室のドアを開けると、そこには小筆ちゃんがいた。

 

「やあ小筆ちゃん。

 今日も早いね」

 

「あ、パワプロくん……。

 うん。今日も練習頑張ってね」

 

小筆ちゃんはそれだけ言うと、そそくさと出て行ってしまった。

あれ? 小筆ちゃんってあんな反応だったっけ。

それとも、今日は矢部くんがいないから? はたまた、俺が着替えるから出て行ってくれた?

あ、俺すでに練習着だから着替える必要ないんだ。

小筆ちゃんがなんとなく違う、そのことについて考えをめぐらせていると、

 

「パワプロくん、ひどいでやんす!」

 

矢部くんがドアを開けて入ってきた。

 

「あ、矢部くん。

 今日は俺の勝ちだからパワリンよろしくね」

 

「ノーカウントでやんす!」

 

「それより、練習をしよう。

 みんなもうグランドに集合してるよ」

 

矢部くんを放ってグラウンドに向かうと、みんなすでに練習を始めていた。

ちなみに、やろうと思っていた打撃練習には空きがなかった。

仕方なく走塁練習の列に入り込むと、いつもは部室で調べものをしている小筆ちゃんがいた。

小筆ちゃん、練習を堂々と見に来るなんて珍しいな。いつもは隠れてこっそり見たりしてるくらいなのに。

 

小筆ちゃんは極度の恥ずかしがり屋だから決して近寄って見たりはしない。

だけど、そのかわりメモはばっちしとってあるからすごいんだけど……なんだろう。違和感がある。

自分の番になると走り、そして少しの休憩を入れてまた走る。

これって……陸上部がよくやっている練習だよな。野球部でも取り入れたのか。

そうして走り込むこと30分。

 

「これ……思ったより……辛い……」

 

走力の低い俺は、他の人より頑張らないとついていけなかった。そのせいか余計に疲れる。

 

「はい、皆さん休憩ですよー。

 10分休んだら次の練習を始めてくださいねー」

 

いつの間にやら監督が来ていて休憩の合図を出した。

普段いないくせに! って思うけど、今だけは感謝だ。

 

「あの……パワプロくん……ちょっといいかな?」

 

休憩しているときに小筆ちゃんが話しかけてきた。

 

「うん? どうしたの小筆ちゃん」

 

「あのね……良かったら今日一緒に帰らない?

 話したいこともあるし」

 

「うん、いいよ。

 でもなんで急に」

 

「じゃあ、また後で」

 

なんで急に一緒に帰ろうなんて? って聞こうとしたけど、すごい速さでいなくなってしまった。

あの速さは矢部くんの走力も上回る気がする。

 

走力練習の後の遠投、そして守備練習も終わって今日の練習が全て終了した。

部活で汚れた汚い練習着からキレイな練習着に着替えて……あれ? 俺なんで練習着から練習着に着替えてるんだ?

よくわからない疑問を抱えていると、部室にはすでに誰もおらず俺一人になっていた。

 

「パワプロくん、一緒にかえろ」

 

そして、小筆ちゃんが俺を待っていた。

 

「あのね。

 今日は陸上部の練習を取り入れてみたんだけど……どうだった?」

 

「うーん……とにかくすごいきつかった!

 みんなもいつも以上に疲れてたみたいだけど、いつもと異なる練習方法だったからかみんな生き生きとしてたよ!」

 

「そう……良かった。

 自信なかったんだ。パワプロくんにそう言われて良かった」

 

少しだけ頬を赤らめる小筆ちゃんは可愛かった。

 

 

 

その日から小筆ちゃんは毎日練習に来ていた。

昨日はなんか良い感じだったから、てっきり俺の練習を見に来てくれてるのかと思った自分が恥ずかしい。

 

そうこうしてるうちに、スバルが転校してくる日になった。

 

「パワプロくん、聞いたでやんすか?

 転入生が来るらしいでやんす」

 

「覇堂高校からのだろ?

 知ってるよ矢部くん」

 

「どうして知ってるでやんす!

 おいらさっき聞いたばかりだったのにでやんす」

 

悔しがってる矢部君を放って、スバルがいるクラスに向かった。

 

「あそこにいるイケメンが転入生でやんすね。

 まあ、おいらには負けるでやんすが」

 

何をバカなことを。と思ったが無視してスバルに近づく。

 

「お前……もしかしてパワプロか?」

 

スバルは俺のことを覚えていた。しかし、それは前回の俺のことじゃない。子供の時の俺のことだった。

今回のスバルには早く野球部に参加して欲しい。だが、前回の二の足は踏みたくない。

だから、まずはスバルへの近づき方を変えた。

 

「ああ、スバル。久しぶりだな。

 まさかこんなところで会うとは思わなかったよ。

 別れた後のことも聞いてみたいし、ちょっと話さないか?」

 

「……すまない、この後学校を案内してもらう約束があるんだ」

 

最初俺の顔を見たときの明るい顔はどこへいったのかと言うほど、スバルの顔は暗かった。

 

「俺が案内するよ!」

 

だが俺はどうしてもスバルと話す時間が欲しい。なので案内役を買うつもりだったのだが。

 

「ダメよ! 星井くんを案内するのは私たちなんだから!」

 

「そうよ! どこの芋かわからないけど星井くんを取らないでちょうだい!」

 

急に俺とスバルの間に女の子が数人入り込んできて、鬼の形相で俺をにらんだ。

な、なんだこの子たち。

 

「そういうことなんだ、パワプロ。

 すまないな」

 

女の子たちと言う蛇に睨まれたカエルの俺は、身動きもできずにスバルを見送ることになった。

 

「くそ! スバルと話すチャンスだと思ったのに!」

 

うまくいけば、明日からでもスバルが野球部に入ってくれるかもしれなかったのだ。

前回スバルを上手く説得できなかったせいで無駄にした二カ月間を今回こそは有効に活用しようと思ったのに。

 

上手く行かなくてむしゃくしゃした気持ちをバットへの素振りに変換する。

だが、

 

「パワプロくん、素振りが乱れてるよ?」

 

感情で振っていたのを小筆ちゃんに咎められてしまった。

 

「あっ……ごめん。小筆ちゃん。

 集中するよ」

 

「うん……頑張ってね」

 

小筆ちゃんは俺のバットの振りが元に戻ったのを見ると、小声で声を掛けてそのまま他のチームメイトの練習を見に行ってしまった。

くっ……小筆ちゃんに少し恥ずかしいところを見られてしまった。

なぜか、俺はその後恥ずかしくなってあんまり練習に身が入らなかった気がした。

 

せっかく経験点が入るようになったというのに、まじめに練習をしなければ意味がない。反省だ反省。

練習着から着替え終わり、部室を出るとそこには小筆ちゃんがいた。

 

「パワプロくん、一緒に帰らない?」

 

「うん、一緒に帰ろう」

 

俺は即返答していた。

部室棟から校門への道を二人で歩いていた。

 

「パワプロくん。

 今日練習に身が入ってなかったみたいだけど、何かあったの?」

 

開口一番、小筆ちゃんに痛いところをえぐられた。

 

「うっ……実は、星井スバルを野球部に勧誘したくてさ。

 俺、子供の頃は親友だったからまずは会話しようと思って、話しかけるチャンスをうかがってるんだけど、上手く行ってなくて」

 

一人で悶々とするよりは! そう思って俺は思い切って小筆ちゃんに打ち明けた。

 

「……らしくないよ」

 

「え?」

 

「らしくない。

 パワプロくんは、悩まずに思った通りに動いてみるべきだよ」

 

小筆ちゃんにそんなことを言われるとは思ってもみなかった。

けど、そうなのかもしれない。

 

「そんなに……変だったかな」

 

「うん、だって……私もそんなパワプロくんが……」

 

えっ……そんな俺が……? ドキドキ……。

もしかして小筆ちゃん、俺のことが……。

そう思ってなんとなく下を向いてしまった顔を上げると。

 

「パワプロくん、パワリンおごってくれでやんす。

 昨日、超合金ガンダーロボ買ったら、お金がなくなってしまったでやんす」

 

お前かーい!

しかも、いつの間にか小筆ちゃんはいなくなっていた。

くそ! いい雰囲気だったのに。

 

そして一ヵ月後、前回と全く同じイベントをこなしてスバルが野球部に入部した。

スバルが野球部に入部してからは、スバルの練習を見に女子生徒がたくさんやってきた。

 

「スバルくんさまさまでやんすね。

 いつかこの中に矢部ファンが……」

 

なんか黒い野望を抱いているやつもいた。

 

「いけね、部室にタオルを忘れてる」

 

俺は後ろポケットにタオルが入ってないことに気づき、部室に戻るとそこには何やら手紙を書いている小筆ちゃんがいた。

 

「どうしたの、小筆ちゃん。手紙なんて書いて」

 

俺に声を掛けられて小筆ちゃんはビクッとした後、すぐに書いていた手紙を隠した。

そして声の主が俺だとわかると、ほっとしたみたいで……隠した手紙を俺の前に出した。

 

「私……恥ずかしくて、人によっては手紙で言いたいことを伝えてるんだけど……」

 

手紙で?! いくら恥ずかしがり屋だからって、どういうコミュニケーションの取り方してるんだこの子は……。

 

「本当は手紙なんかじゃなくて、ちゃんと言えたら良いんだけど……」

 

手紙でのやりとりは時間のロスも大きいし、コミュニケーションの伝達が悪すぎる。

なんとかしてやりたい気持ちはあるんだけど、

 

「相手の顔を見ると緊張するなら、相手の顔を野菜だと思えばいいとか、相手の目を見なければいいとは言うけどね」

 

「野菜……難しいかも。

 相手の目を見なくても、やっぱり緊張しちゃう……かな」

 

「そうだよな。俺がもしそんなこと言われても、無理だし。

 自分で言っておいてなんだけど、野菜ってなんだよって」

 

「プッ……」

 

珍しく小筆ちゃんが笑った。

 

「小筆ちゃんも笑うんだね。

 いつも何かに怯えてるような顔をしてるから、意外だったよ」

 

「これは……パワプロくんと話してる時は、そういうことがないからで……」

 

「え? 聞こえない。

 なんて?」

 

小筆ちゃんの小声を聞き取るために顔を近づけると、

 

「……っっ!!」

 

小筆ちゃんは急に俺から離れると、逃げるように部室からいなくなってしまった。

 

「なんだったんだ、小筆ちゃん」

 

小筆ちゃんの奇妙な行動に俺は疑問しかなかった。

 

 

 

「やっべ! 爆睡してしまった」

 

俺は昨日深夜にやっていたドキュメント番組、『元プロ野球選手のあの人は今』で夜更かしをしてしまったせいで、寝不足で学校に来るはめになり授業中に爆睡してしまっていた。

眠い目をゴシゴシとこすり、少しだけ体を動かして凝りをほぐし、席を立とうとすると何か小さな紙のようなものが落ちた。

 

「なんだこれ?

 なになに……授業が終わったら校舎裏で待っています?

 京野小筆!?」

 

小筆ちゃんのメモ書きだった。しかし、いつのまにメモを置いておいたんだろう。って、思い返すと最後の授業どころかその前の授業から記憶がない。

どうやら俺は二限分寝てたようだった。

 

急いで校舎裏に向かうと、そこには下を向いて俯いている小筆ちゃんがいた。

 

「小筆ちゃん?」

 

声を掛けると、小筆ちゃんは顔を上げてこちらを見たものの何か言葉を発する感じがない。

 

「小筆ちゃん、何かあったの?

 もしかして相談事?」

 

最近小筆ちゃんからの相談が多かったから、もしかしてと思った。

だけど、

 

「あ……そ、その……」

 

小筆ちゃんはさっきより共同不審が増して、俺が呼び出されたと言うのにすでに逃げ腰な姿勢だ。

 

「す……すみません。

 次こそちゃんと告白しますーっ!!」

 

それだけ言うと、矢部くんを超える速さでいなくなってしまった。

 

「え……あれ?

 告白?!」

 

ひどく間抜けな告白だったが、その後部室でもう一度顔を合わせた俺たちは話し合い、付き合うことになった。

 

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