野球神様に誘われて人生やり直しました ~パワフルプロ野球の世界に転生~   作:駿州山県

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1章 5話 パワフル高校5

 

キーンコーンカーンコーン

 

いつものごとく授業が終わった。すぐにバッグを持って教室から飛び出し、矢部くんと競争して部室に向かう。

相変わらず矢部くんは早くてやはり勝てなかった。しかしこれが俺の未熟さを思い出させてくれる。

部室には小筆ちゃんがいて、矢部くんの声に驚いて机の上の監督のメモを知らせると部室から逃げるように去って行った。

なんとなく……今回の小筆ちゃんは違う気がする。なんて言うんだろう。よそよそしいと言うのか、他人ぽいと言うのか。

なぜかはわからないが、親しくなれない感じがする。前回あれほど親しくなって付き合ったのが嘘のように思える。

その後、毎度のようにチームメイトと顔を合わせるグラウンド集合があり、練習を開始した。

やはり最初は監督へのアピールが大事だ。俺は一ヶ月間、みっちりと監督へのアピールを行った。

 

「パワプロくん、転入生が来たらしいでやんす」

 

今回の俺はピッチャー登録している。だから投球練習をしていたのだが、そこに矢部くんがやってきた。

スバルがきた。心臓がドクンと強くなった。実は前回からわかっていたのだが、矢部くんからこの話を聞くまでは誰に聞いても転入生の話が出てこない。

ゲーム要素だからなのかもしれないが、とても不思議なものでだからこそ矢部くんから直接この言葉を聴く必要があったのだ。

そして久しぶりに会って場所を変えて話をし、野球に誘うも当然のように断られた。

だが俺は諦めはしない。今回こそ、スバルと一緒に甲子園に行くんだ。そして今の段階ではスバルは決してYESと答えない。

だから俺は当たり前のように去った。

 

「パワプロくん、なんか諦めがいいでやんすね。

 パワプロくんらしくなくて気持ち悪いでやんす」

 

メガネのヤツが何か横で言っているが、言わせておくことにした。

それからスバルに会えない日が続いた。こちらからスバルを積極的に探してはいないわけだが、すれ違うどころか遠目に見えることもない。

スバルはこの期間、完全に俺を避けていたんだとようやくわかった。

そして運命の日。

 

「先輩、ちょっといいっすか?」

 

小田切が話しかけて来る。俺は横目でチラとスバルの存在を確認した。

 

「じつは……さっきからこっそりとこっちを見てる人がいるんですよ。

 うちの学校の生徒みたいですけど」

 

スバル……!

俺は声を出すでもなく、スバルへ向けて一直線に駆け寄った。

いつもなら、気づかれた時点で逃げ出すスバルだったが、最初から走って近寄ってきたことに驚きも覚えたのか、スバルは逃げることさえできなかったみたいだ。

 

「スバル。

 キャッチボール、しないか?」

 

もう俺は無駄な言葉を吐くことさえしなかった。

 

「キャッチボールくらいなら……」

 

スバルとのキャッチボールはいつもグラウンドの外で行っていた。だが、今回は俺がピッチャーなので投げ込みを行っている場所を利用させてもらった。

 

「ナイスボール!

 こうしていると思い出すな、少年野球のときのこと」

 

「……うん、あのころは楽しかった。

 暗くなるまでただ夢中でボールを追いかけたっけ」

 

今回のスバルは……前回のスバルとは少し違う気する。

 

「お前と一緒に過ごしたあの時間は宝物だよ。

 一緒に甲子園に行こうって約束も、今でもずっと

 忘れずにいたりしてさ」

 

スバルの投げ返すボールは毎回俺の胸元に吸い込まれる。

野球を辞めてもなおこのコントロールだ。

 

「……ボクだってそうさ!

 転校してからもずっと、あの約束はボクお心の支えだった」

 

突然スバルの投げ返す球が変わった。力強いストレートだ。

 

「いくぞ! ラスト一球!」

 

ピッチャーに転身した俺のボールはいつもよりも強かったと思う。

ズバン。ボールはスバルのグローブに収まって、そしてスバルは手を痺れさせていた。

 

「ありがとな!」

 

俺はそれだけ言い、スバルはグラウンドから去って行った。

そして翌朝。

 

「パワプロ! 助けてくれよ!」

 

キャッチャー役をやらされていた外野のやつが俺に向かってきた。

ああ、こいつ今回もスバルの球を受けさせられてたのか、可哀そうに。

 

「あんなに熱いボールを投げられたら、返さないわけにはいからないからね」

 

「スバル……」

 

「あの日の約束を叶えよう!

 一緒に甲子園に行こう!」

 

こうして、3度目となる俺たちの甲子園を目指す旅が始まった。

 

 

 

「パワプロ、ちょっといいか」

 

投球練習の合間にスバルが話しかけてきた。ピッチャーに転身したからわかるが、スバルの練習は常に鬼気迫っている。一緒に練習している俺もその気を受けてやる気に溢れさせられるほどだ。

 

「ボクがかつて一度だけキミに投げた、あの不思議な球を覚えているかい?」

 

「不思議な……球?」

 

「ボクたちがまだ小学生のころ、同じチームに所属していたよな。

 6年生の頃の紅白戦……最終回裏。

 ボクはピッチャーとして最後のバッターのキミと対決した。

 2ストライク3ボールで、ボクはキミに対してすっぽ抜けに近いボールを投げたんだ」

 

小学校6年の時の紅白戦、俺は思いを巡らせた。現実を生きてきた俺の記憶にはないが、この世界のパワプロの記憶にはしっかりと残っていた。

 

「その球はフォークともカーブともつかない不思議な変化をしたんだ……」

 

「あのときのボールか!」

 

俺はすっぽ抜けの棒球だと思って打ちにいったら、見たこともない変化をしたボールに反応できず三振してしまった。

 

「あの球をマスターすればどんな打者でも打ち取れるはずなんだ。

 あの覇堂高校にも通じるはずなんだ!」

 

これは今までにないイベントだった。俺は直観した。そうか、スバルに足りなかったのはスタミナもそうだがこれだったのか!

 

「スバル、協力させてくれ。

 あの球を復活させよう!」

 

それから俺たちは何日もかけて練習した。

 

「まだまだだな。キレの悪いカーブって感じだ。

 あの時の変化とはほど遠いよ」

 

俺の言葉にスバルの疲労が増した感じがした。だが、これに関して妥協は許されない。厳しい言葉をかけるしかない。

 

「にぎりやリリースタイミングを変えてみたらどうかな」

 

「考えられる握りは全て試したんだ。

 リリースタイミングもね……」

 

提案のつもりだったのだが、スバルは投げ込みの間にすべて試していたようだった。

 

「あの球はやっぱり幻だったんだろうか……」

 

少しもあの変化に近づけた感じがしないからだろうか。スバルはとても弱気になっていた。

 

「スバル。諦めるのはまだ早い」

 

「そうだな。

 パワプロ、もう少しだけ付き合ってもらってもいいか?

 試したいことがあるんだ」

 

「それでこそスバルだ!

 俺、あの時のように打者に立つよ。

 その方が何かイメージが湧くかもしれないだろ?」

 

「……助かる」

 

スバルの声は消え入りそうだったが、まだ目は死んでいなかった。

 

 

 

打者に立ったパワプロは……とてもピッチャーとは思えないほどの威圧感があった。

 

「(パワプロ……君は本当にピッチャーなのか!?)」

 

どこに投げても打たれる気しかしない。

思えばあの時もそうだった。あの試合でボクはパワプロに打ち込まれていて、球種が読まれているのではないかと思ったほどだった。

だから、リリース時……強引にボールの握りを変えて、球種を読ませないようにした。

今ならあの時の気持ちになって投げられる!

 

「行くぞ! パワプロ!」

 

ボクの投げた球はすっぽ抜けのように手から飛び出て、そして特に変化することもなくキャッチャーのミットに収まった。

 

「おいおい……変化球どころかただのすっぽ抜けじゃないか」

 

パワプロはそう言ったが、ボクは明確に感触を掴んでいた。

そうこれだ……この感じだ!

 

「うーん……これがあの時の球とは思えないけど……スバルを信じるよ!」

 

確かにあの時の球と比べるべくもない。それくらい今の球はひどかった。だが、この球を突き詰めていった先にあの球がある。

そう思った。

この日、パワプロは夜球が見えなくなるまでボクに付き合ってくれた。

 

 

 

「みんな、覇堂高校の練習試合を見に行かないか」

 

覇道高校の練習試合を見に行く日……もうそんな時期か。そう思った。

スバルの熱い思いを受けて、みんなで覇堂高校の試合を見に行くことになった。

覇堂高校はベスト8相手に5回コールド。それがこの話の結末だ。うちのチームでこの試合に間に合うことができるのは矢部くんのみ。

だからと言って、走ることを決してあきらめたりしない。

と思って走ったものの、やはり俺はチームの真ん中くらいに辿り着いた。スバルは矢部くんの次だったが、やはり試合には間に合わなかったようだった。

 

「そこにいるのは星井だろ?」

 

遠くから木場がスバルに話しかけていた。

 

「てめえ、試合を見に来てたんなら挨拶ぐらいしに来いよ」

 

木場は歩いてスバルに近寄ると、腕をスバルの首に掛けた。

前回まで同じことをスバルはされて何も言えなかった。

 

「……無言かよ。相変わらずスカしてやがるな。

 そのユニフォーム、パワフル高校の野球部に入ったのか。

 よかったな、そっちじゃ負け犬のてめえでもさぞかしちやほやされてんだろ」

 

「スバルは負け犬なんかじゃない!」

 

俺が割って入るも効果もなく、

 

「オレたち覇堂高校の野球部はどこよりもハードな練習をしている、だから強い!

 その練習から逃げ出した星井は負け犬だ!

 根性なしの負け犬なんだよ!」

 

もう同じセリフを三回も聞いたはずなのに、俺の頭は冷静になることはできなかった。

 

「おまっ」

 

「ボクは!」

 

しかし、いつもながら逃げ出していたスバルは木場の腕を振り払った。

 

「ボクは! ……ボクたちは、覇堂高校に負けたりはしない!」

 

大きな声で木場に反論したスバルに、誰もが驚いていた。

 

「甲子園に行くのはボクたちだ!

 せいぜい首を磨いて待っていろ!

 みんな、行こう」

 

スバルの目が燃えていた。行ける……今回こそ覇堂高校を破って甲子園だ。

そう思えた。

 

 

 

「まだまだ……もう一球!」

 

俺たちの練習は、覇堂のコールド試合を見た後さらに熱が入った。

スバルの新変化球練習も、俺以外にもチームの者が交互に手伝うことになり、ただのすっぽ抜けだった棒球も少しずつ変化するようになってきていた。

 

「なあ、パワプロ。

 次で思った通りの変化をしなかったら、ボクはあの球を諦めるよ」

 

なのに、スバルが弱気になっていた。

 

「なんでだ! ここまで頑張ったじゃないか。

 もうあの球はただのすっぽ抜けの棒球じゃないんだ。

 後少し……後少しのはずだろ!」

 

「この球の完成のために、ボクとキミは他の練習があまりできていないだろう。

 それに、チームメイトにも迷惑をかけている。

 これ以上待たせるわけにはいかないんだ」

 

確かにスバルの言う通りだ。

パワフル高校の能力は覇堂高校に対し大分劣っている。これ以上差をつけられるわけにはいかず、むしろ近づかなければならなかった。

 

「だけど、ここでオレたちの努力をムダにしてしまうわけには……」

 

二人で落ち込んでいると、察したチームメイトが近寄ってきた。

 

「まったく、見てられないでやんすね。

 オイラたちももっと手伝えるでやんす」

 

「俺たちにもっと手伝えることがあれば言ってくれよ!

 迷惑なんてかかるわけないだろ!」

 

みんなが、そう言ってくれた。

 

「みんな……ありがとう!

 じゃあ、お願いがあるんだ。

 あの時の試合を再現したいんだ!」

 

あの小学生の時の9回裏。打者が俺でピッチャーがスバル。

あの時の勝負は、再現性を増すためにノーカウントから始められた。

 

「ストライク!」

 

一球目は、ボールから入ってくるスライダーだった。

スバルは新変化球を練習しながらも、持ち球だったスライダーの切れ味もアップさせていた。

二球目、球1個分外れてボール。相変わらずのコントロールだ。

三球目、今度はストライクゾーンからボール球に外れていくシンカーだった。

正直シンカーには手が出せなかった。それくらいするどかった。

四球目、落差の激しいフォーク。目は球をしっかり追いかけられていたのだけど、バットが落差においつけず空振ってしまった。

五球目、インに外れたボール球だ。ボールは俺の顔近くを通った。そう……あの時もこれを投げられた気がする。

スバルはあの時俺の顔近くにボールを投げ、腰をひけさせたかったに違いない。だが、俺はあの時も逃げなかった。顔近くを通ったボールをそのまま見送り、次のボールをホームランにするために気を昂らせたのだ。

とうとうフルカウントになった。場は完全にあの時の再現となった。

 

「スバル……来い!」

 

スバルは気がみなぎっているように見える。心なしか……腕もすこし光っているように見えた。

スバルが振りかぶり、指から離れたボールはすっぽ抜け……ではなく、ストレートの速さだった。

ストレート?! 俺は少し反応が遅れてしまい、カットしようとバットを合わせたが、

 

シュルルルルッ。

バシーン!

 

そこから、ボールはフォークのようなカーブのような変化をした。

キャッチャーはミットにボールを収められずに後ろに逸らしてしまっていた。

 

「今の球は……間違いない! オレが三振したあの球だ!」

 

「で……できた……」

 

「なんでやんすか……今の球は」

 

誰もが驚いていた。おそらく今の球界に同じ球を投げられる人物はいないはずだ。

スバルは新しい武器を身に着けて成長した。俺は……どうなんだろうか。

高校の時の決勝戦で負けた時より、成長できているのだろうか。そう思うと、何とも言えない気持ちになった。

スバルの新変化球完成でみんなが浮かれている中、俺だけがただ取り残されたような気持になった。

 


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