あなたが結月ゆかりになって弦巻マキに食われる話   作:Sfon

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いまさら水着回(下)

 夜の砂浜でみんなにもみくちゃにされた後は、疲れを癒すお風呂の時間です。部屋に備え付けのお風呂しかないですから、みんな一緒に入ろうとはなりません。それに先ほどまで存分に遊んでいましたから、みんな満足しています。

 日焼けしないために髪の毛にも専用の日焼け止めを塗っていましたから、丁寧に髪を洗っていきました。ヘアケアまでしっかり行ったら次は体です。使い捨てのスポンジでボディーソープを泡立て、手ですくって肌を撫でていきます。全身が砂にまみれていますし、部分的にべたついてもいますからしっかりきれいにしなくてはいけません。

 鏡に写った自分の姿を眺めながら、肩から順に洗っていきます。日焼け止めのおかげで水着の跡は全く残っていません。少し恥ずかしかったものの、やはりしっかり塗って正解でした。もしも塗っていなかったら、胸元に肌色の恥ずかしい帯が浮かび上がってしまったでしょう。

 お腹を撫でて洗っているとき、明るい空の下でみんなに自分の水着姿を見られた時の恥ずかしさがちょっとフラッシュバックしました。おなかが出るような服は着たことがありませんでしたから、ベッドの上以外であそこまで肌を見せたのは今日が初めてだったでしょう。

 あの時は場にあてられ、暑さにもあてられて水着姿になれました。しかし改めて鏡越しに自分の体を見ると、ちょっとお腹周りが気になってきます。別に太っているわけでもないですが、自分の体を見慣れているだけに『もしかしたらちょっと肉が多いのではないか』と気になるのです。

 そういえば、と足に視線を向ければ、なんだがちょっと太くなっている気もします。ふくらはぎは変わらないものの、太ももの肉付きが良くなっている気がしますし、ちょっとお尻も大きくなったような気がします。

 目に見えて太ったわけではないですし、一般的に言えば非常に整ったスタイルではあります。しかしどことなく罪悪感が出てきて、今後の食事には気を付けよう心に決めたのでした。

 

 せっかく海へ遊びに来たのですから、ただご飯を食べるだけではもったいないでしょう。

 ということで、今日の晩御飯は施設の駐車場脇でバーベキューです。コンロや炭などは施設から借りることができるので、後は食材を買ってくるだけです。車で十数分のところにスーパーがあるので、みんなで買い出しに行くことになりました。

 空港から施設に来た時とは席順が変わり、あなたの右側には葵ちゃん、左側には茜ちゃんが座っています。二人ともショートパンツにTシャツを着て、ちょっとした変装用に帽子をかぶっていました。

「おなか減ったなぁ~。ゆかりさん、何食べたい? ウチはカルビでしょ、タンでしょ、豚トロとかもええなぁ…」

「ちゃんとお野菜も食べてよ? お昼だってそんなにお野菜摂ってないんだから」

「わかっとるって。むしろ葵はお肉をちゃんと食べなあかんよ~?」

「最低限はちゃんと食べてるから大丈夫」

「ふーん……その割には腰にお肉がついてたけどなぁ。おなかすいて夜にお菓子でも食べてるとちゃうん?」

「太ってないから」

「太ってないっていうのは、ゆかりさんくらいのことを言うねん。ほら、全然お肉ついてんとしょ」

 姉妹の軽口はただ微笑ましいものでしたが、急にわき腹をつままれては何も言わないわけにはいきません。ただ言い返しただけでは軽くあしらわれて終わりそうだと考えたあなたは、二人のわき腹もつまんで抵抗の意を示しました。

「わっ、もう、お姉ちゃんのせいでゆかりさんにつままれたじゃん!」

「ウチのせいちゃうもん。葵が嘘つくからやで」

「ついてませんー!」

 なんだ、とつまらなく思うほどに、二人とも全く太っていません。女の子らしい柔らかさの範囲に十分収まるものですし、むしろ少し痩せているようにも感じます。あなたが二人にむしろもう少し食べてもいいんじゃないかと聞くと、意外なことに茜ちゃんから猛反発を食らいました。

「いや、お肉を食べるのと甘いものを食べるのは全くの別物やからな。一日の摂取カロリーを消費カロリー以内にきちんと収めんと、後で自分が泣くことになるで……」

 葵ちゃんもうなずいてはっきり同意しているあたり、過去に苦い経験をしたのでしょう。

 しかしよくよく考えてみれば、『ボイスロイド』の姿になったのならその辺りを気にしなくていいのではと疑問が浮かびました。実際、あなたはその姿になってから、食べ物に気を付けていなくても太っていません。お風呂に入ったとき多少の肉付きの変化は気になったものの、甘いものを何も気にせず食べていてはもっと大胆に太っていてもおかしくはないはずです。

 もしかしたら、彼女たちは前の体の頃の知識と経験にとらわれているのかもしれない。そう思ったあなたはアドバイスになると思って、太らない自分の体質を教えました。もちろんそれは彼女たちにとっての朗報だと思ってのことでしたが、予想とは真逆の反応が返ってきます。

「そんな都合のいい話がありますか!」

「せやせや、ここは漫画の世界ちゃうんやで!」

「食べれば太る、運動しないと痩せない、この体だって同じです!」

「もしかしてあれか? ゆかりさんは本当にその体で太ったことないんか?」

「ゆかりさん、そうなんですか?」

 なぜか詰問されて戸惑い、どうやったらこの場を収められるかいろいろ考えていると、イアちゃんが前の席から振り向いてあなたの方を見ました。もしかしたら助けてくれるのかもしれません。

「ゆかりさんは毎晩運動してるから太らないんじゃないですか?」

 デリカシーのかけらもない発言に何も反応できないあなたと対照的に、茜ちゃんと葵ちゃんは合点がいったようです。

「確かに、毎晩あれだけ運動していればカロリー消費しそうですよね」

「全身運動やもんなぁ。声も出すし。ウチたちも毎晩してみるか?」

「え、なんでお姉ちゃんとしないといけないのさ」

「それもそうやなぁ」

 男子高校生のようにオープンな会話ですが、もしかしたら女子校でもこんな感じなのかもしれません。なんだかどんどん肩身が狭くなってきたあなたはどうにかして話題を変えようとしますが、なかなかいい話題が思いつかないのでただ黙ってこの場をしのぐしかありませんでした。

 

 スーパーで食材を買い込んで施設に戻ると、駐車場には既にバーベキューセットが設営されていました。四角い四つ足のコンロの横に大きめのテーブルと人数分の椅子が置かれており、配慮が感じられます。

「おー、もう準備できてる。じゃあ早速はじめようか!」

 マキさんとイアちゃんはかなりノリノリで、テーブルの上に買ってきた食材を広げています。葵ちゃんと茜ちゃんもみんなの分の食器を用意していますし、あなたも何かしら手伝いをしたくなりました。ほかにやることといえば、コンロの火の準備でしょうか。

 コンロ上に着火剤を並べ、炭をコンロ上へ井形に並べていくはずです。確か、空気の通り道を意識しながら積むと良いとどこかに書いてあったでしょう。着火剤は保冷材のようなビニールに入ったゲル状のものがあったのでそれを置きましたが、炭についてはわからないところがありました。

 コンロ脇には二種類の炭が置かれていて、それぞれ薪のような形のものと、細長くて丸いものでした。両方置いてあるということはそれぞれ使い分けるのでしょうが、違いがよくわかりません。悩んでもしょうがないのでスマホで調べてみると、薪のような『木炭』を先に入れて火をつけてから細長い『備長炭』を入れるようです。

 言われたとおりに木炭を並べ、着火剤に火をつけて様子を見守っているとイアちゃんが興味深そうに寄ってきました。

「ゆかりさん、意外とそういうのできるんですね」

 意外というのは心外ですが、ちょっと見直してくれたならやった甲斐があったというものです。

 だんだんと炭に火がつき、パチパチと弾け出します。街の明かりはもちろん、街灯も遠いので、テーブルに置いてあるランタンとコンロの火が主な光源です。真っ暗闇な中ではじける炭火はずっと眺めてられそうなほど心地よく、コンロの横にしゃがんで火を眺めているとなんだか心が落ち着いてくるでしょう。

 イアちゃんもあなたの隣にしゃがみ、一緒に炭の火を眺めています。ちょっと気になって横目で彼女の様子をうかがうと、随分リラックスした表情でした。変なことを口走らなければイアちゃんは三人の中で一番イケメンなので、このような、ふとした瞬間に見せる表情にはドキッとさせられるでしょう。

 穏やかに吹いた夜風が、彼女の香りを運んできました。シトラスのさわやかな香りが夏の暑さをやわらげます。心地よくて鼻から深く息を吸うと、彼女の匂いが胸いっぱいに広がりました。

 いつの間にか、あなたは彼女の表情をまじまじと眺めています。クールな目元、すっと通った鼻、淡いピンクに潤んだ少し薄めの唇、きらきら光って綺麗なプラチナブロンドの髪、そして透き通るような白い肌。

 いつもあなたを振り回す元凶である彼女がとっても可愛らしいと認めるのがちょっと悔しくなったあなたは、「黙っていれば可愛いんですけどね」とからかってみました。すると、彼女は柔らかく微笑んで、あなたの目を見つめます。

「ゆかりさんはいつでも可愛いですよ。真面目な時も、自信満々にしているときも、恥ずかしがってる時も、ぜーんぶ可愛いです」

 碧い瞳で覗かれながらそんなセリフを言われては、さすがに恥ずかしくなって顔を背けました。

「ほら、ちょっと褒めただけで恥ずかしがっちゃうところとか、とっても可愛いです。大好きですよ、ゆかりさん」

 あなたの心をくすぐる甘い声で囁かれると、体の力が抜けてくるでしょう。立ち上がって距離をとろうにも、転ばないようにするのが精いっぱいで腰が上がりません。ちょっとマウントをとろうとしてすぐに崩されるのは、あなたにとっていつものことでした。

「火の準備できた? ……イアちゃん、またゆかりちゃんをイジメたの?」

「イジメてなんかいないですよ。ゆかりさんは可愛いって言っただけです」

「ゆかりちゃん、まだ可愛いって言われただけで恥ずかしがってるの? さすがにそろそろ慣れてもいいと思うんだけどなぁ……。配信なら平気そうだけど」

 そんなことを言われても、ただのリスナーに言われるのと大好きなみんなから言われるのでは全く違いますから、どうしようもありません。あなたの様子にため息を漏らしたマキさんは「しょうがないな」とつぶやき、あなたに肩を貸して椅子まで連れていってくれました。

 

 バーベキューはつつがなく進んでいきました。お肉や野菜をおいしくいただき、定番の焼きマシュマロもやって大満足のあなた達が休んでいると、イアちゃんが何かを持ってきました。

「花火、しましょ!」

 どうやらスーパーで食材を買ったとき、一緒に買っていたようです。よくある、厚紙に並べられたやつで、様々な種類の花火が詰め合わせになっています。

「おー、良いじゃん、それっぽいじゃん」

「夏って感じがしますね、お姉ちゃんもやろ?」

「あいよー」

 みんなイアちゃんのところに集まり、バーベキューの時に使っていたガスライターを片手に各々好みの花火へ火をつけていきます。真っ暗な中の花火はとても明るくて、あたりを煌々と照らします。赤や青、緑と次第に色が変わっていくのを、あなたは席から眺めました。

 花火で楽しそうに遊んでいる4人の姿はまさしく等身大の女の子そのものです。動画配信をしたり、ラジオに出演したりとちょっとした芸能人のような生活をしている彼女たちですが、結局はまだ若い女の子なのです。その屈託のない笑顔に、心が洗われるような気分でした。

 しばらく経って、あなたが席から眺めるばかりだと気づいたマキさんが声を掛けました。

「ゆかりちゃんも一緒にやろうよ。楽しいよ?」

 あなたとしては席で眺めている方がみんなの姿が見れて楽しい気もしますが、彼女に誘われては流石に断れません。重い腰を上げてみんなのところに合流すると、イアちゃんから線香花火を渡されました。

「誰が最後まで持ちこたえるか競争しましょ」

「お、定番のやつだね」

「どうせなら何か罰ゲームとか、商品とか決めへん?」

「お姉ちゃん……ま、私は構わないけどゆかりさんがどうかな?」

 せっかく雰囲気が盛り上がってきたのに、ここで断って場をしらけさせたくはありません。それに、内容によってはマキさんたちに一泡吹かせられるかもしれません。あなたは自信満々に、勝負を受けて立ちました。

「それじゃあ……最後まで残った人にはゆかりちゃんのキスをプレゼントってことで。ゆかりちゃんが勝ったら……みんなからキスをプレゼントかな」

 

 

 花火の片付けを終えて自室に帰宅しました。とはいってもいきなり「おやすみなさい」とはならないので、比較的広い部屋である茜ちゃんと葵ちゃんの部屋に集合です。あなたとマキさん、イアちゃんは自室から二人の部屋に椅子を持ち込み、みんなでテーブルを囲みました。

 みんなすぐ寝られるようにラフな服装をしています。あなたは肌触りのいいショートパンツとTシャツ、ほかの面々もTシャツの類にスウェット生地のショートパンツなど涼しく快適な服装です。

 みんな家では下着で歩き回ることもあることを考えると、少しはまともな格好をしているということになります。さすがに家ほどラフな格好はしないようで、肌色面積も机の下を覗かない限りは多くないですから安心でしょう。

 

 トランプや人生ゲーム等、旅行の定番を次々に遊ぶと時間はあっという間に過ぎていきます。一日中遊んでいたこともあって、だんだん眠くなってきました。すでに頭はふわふわしていて、自然と瞼が落ちてきます。椅子がふかふかしていて座り心地が良いこともあり、眠気を助長しているでしょう。

「ゆかりちゃん、大丈夫? 無理しないで寝てもいいよ?」

 まだみんなは元気なようですから、あなたとしてはもう少し頑張りたいところでした。眠くて一人先に寝てしまうとか、なんだかちょっと子供っぽい気がするのです。

「そう? ならいいけど、寝落ちしたら起こさないでおくからね」

 そう簡単に寝落ちするはずがない。そう強い心をもってゲームに挑んだあなたの意識は、それからほどなくして暗転したのでした。

 

 翌朝。あなたが目を覚ましたのはベッドの上でした。珍しいことに、誰もあなたに添い寝しておらず、もう一つのベッドにはマキさんが寝ていました。もともとは葵ちゃんと茜ちゃんに割り当てられた部屋のはずですが、みんなが気を利かせてくれたのでしょう。

 ベッドから起き上がると、少し肌が汗ばんでいます。夏の夜ですから、いくらクーラーが効いているとはいえ汗ばんでしまうのはしょうがないでしょう。あなたはマキさんを起こさないようにこっそり部屋から抜け出し、着替えを取りに向かいました。

 あなたの荷物がある部屋の鍵はもともと持っていましたから、入り口のドアは特に問題なく空けられました。まだ寝ているかもしれませんから、音を立てないようにして部屋の中へ進みます。

 片方のベッドには茜ちゃんと葵ちゃんが並んで寝ています。この姿になる前からの姉妹であるのが感じられるほど、仲良さそうな光景でした。もう一方のベッドにはイアちゃんが寝ています。おへそが出ていたり、枕が床に落ちていたりと寝相の悪さに思わず微笑んでしまうでしょう。

 三人を起こさないようにしながら着替えの下着とブラウス、ミニスカートを回収したあなたは、部屋に戻ってシャワーを浴び、すっきりさっぱりしました。

 

 ぐっすり寝ているみんなを起こすのも忍びなかったあなたは、朝の海岸を散歩することにしました。まだ辺りは涼しく、海風が気持ちよく拭いています。座れる場所を見つけて腰かけて、あたりに耳を澄ませば波の音があなたを包み込み、リラックスできるでしょう。

 しばらくそうして休んでいると、遠くから足音が近づいてきました。

「おはよう。みんな朝ご飯にいってるよ」

 腕時計を見ると、いつの間にか30分ほど経っていました。思ったよりもゆっくりしていたようです。あなたはマキさんと共に、朝食会場へ向かいました。

 

 朝食を食べ終え、荷物をまとめ終えたあなた方一行は帰路につきました。帰りの飛行機の中では、みんな疲れていたのか、あなたとマネージャー以外はぐっすり眠っていました。

 

 家につき、みんなで旅行の写真を披露しあったり、水着の講評をしたりしているとマネージャーさんから電話がかかってきます。ついさっきまで一緒に居たのに何だろうとみんなで顔を合わせながら、電話を取り、スピーカーホンにしました。

「伝え忘れてたけど、来月から新しい子が仲間入りするからよろしくね。あと、その子含めた6人でアイドルデビューするから、よろしく。じゃ」

 




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