【秩序/悪】な茨木童子(猫又付き)   作:ヤトラ

10 / 13
茨木童子オルタの宝具の一つとして具現化する現象がここに。


羅生門の呪怪

 大江山に巨大な化け物が出た―――その噂は、茨木童子が炎を纏う巨大な骨の怪物になったのを境目に、近隣どころか京にまで瞬く間に広まった。

 

 人間達の反応は様々だ。

 

 都では頼光らが失敗したから報復しに来たのだと豪族が騒ぎ、それ以外は燃え盛る巨大骸骨に怯え小屋に引き籠る。兵や陰陽師の類は結界を敷いたり迎撃の準備を試みるが、その最たる陰陽師は「厄介な者が来た」とため息を零していた。

 都付近の村々は、大きく分けて二つ。茨木童子の恩恵を受けている村人は駆け付けた小鬼から事情を聴き慌てて避難し、それ以外は巨大な化け物を前に恐怖で腰を抜かしていた。

 何せ青い炎を纏いながら森は燃えず、しかし森から燃え盛る獣や夜盗が叫びながら出てくるのだ。怯えて動けぬ村の者にとっては追い打ちをかける結果となり。

 

「ぎゃあぁぁ熱い、熱いぃぃぃ!」

 

「水、水をくれぇぇ!」

 

「こっちに来るな、来るな―――ぎゃあぁぁぁ!」

 

「なんでだよぉ! 水ぶっかけたのに消えないよぉ、あんたぁぁ!」

 

 逃げ遅れた者が次々と焼かれていく。

 

 ある者は火達磨になって走り回る鹿にぶつかって引火し、ある者は呪いの濁流に飲まれて燃え盛り、ある者は夫の為に必井戸の水をぶっかけるも逆に引火してしまう。

 小屋や草木は燃えぬのに生き物だけが燃えていき、骨となって巨大な上半身の骸骨に吸い込まれる。阿鼻叫喚の地獄絵図とはこの事か。

 呪いでもある蒼い炎は人の顔を描いて世を呪い、燃やす度にその形相が増えていき、濁流に飲まれ溶けて混ざる。人の憎悪と呪いが増え、濁流と骨の量が増す一方。

 

 

―――ふははは、あははは!

 

 

 下半身を構築していきながら、骨で寄せ集めた茨木童子の顔が笑う。呪いを代表するように、そして都に届けと云わんばかりに高らかに。

 

 それを阻止する頼光……は未だ大江山の居城から姿を現さぬが故、四天王が代行する。

 疾風を纏う矢が骨の鎧を穿ち、対魔の力を持つ赤い太刀を巨大化させ斬りかかり、長巻の百を超える刺突が氷塊に変える。

 当然この漢……坂田金時が振るう【黄金喰い】より放たれる雷撃が巨大茨木に直撃するも、かの怪物は相変わらず笑い転げ、進行を止める事はない。

 

「どらぁぁぁ!」

 

「ふははは、綺麗よなぁ! 蒼の炎に金色の雷! 実に雅!」

 

「笑っている場合か生首茨木!」

 

 今度は金時の脇から笑い声が轟く。それは脇に抱きかかえた生首、茨木童子の笑い声であった。顔が真っ赤になるほど酒に酔って現実が目に見えていない様子。

 

「ちきしょう、酔っ払いの生首じゃ役に立たねぇ! どうすりゃ止められるんだコイツはよぉ!」

 

「無駄ですな。例え茨木殿が正気でも、あれは止められませぬ」

 

 笑い転げる生首を抱えながら巨大骨に並走する金時に、いつのまにか四つ足で並走していた猫の翁が言う。その言葉に金時は気づき、彼に振り向く。

 

「どういうこった? ありゃ茨木の体だろう?」

 

「確かに体と妖術は茨木殿の物です。しかし今や、茨木殿が人を喰らいながら蓄えた怨霊共の物。首一つで止まりはせぬまい。これまで小生の結界や茨木殿の呪術で抑えてきましたが、これ程までに膨れ上がるとは思わず。いやはや、どれ程の毒酒だったのやら」

 

 暗に「お前らのせいだぞ」と云わんばかりに金時を睨む猫の翁。是には金時も言葉が詰まってしまう。

 

「兎にも角にも、あれほどに膨れ上がってしまっては木っ端な一撃程度では崩れますまい。怨霊共は都の恨み辛みを抱えております故、都を滅茶苦茶にするか、朝日の清らかな光を浴びれば消えましょう」

 

 猫の翁の分析に金時は咄嗟に東を見る。夜の帳は深く、朝日の兆しですら見受けられない。

 

「夜明けまで時間がある、この速度じゃ朝日が出る頃にゃ都の人間が全員燃えちまう! 晴明の旦那なら……いや駄目だあの能天気陰陽師が即急に手を打つわけねぇ!」

 

 金時の中の安部晴明は。

 

「速攻か持久かと言われれば間違いなく後者を選ぶ呑気な面倒くさがり屋」

 

 である。朝日が出れば消滅するという楽に倒せる手段があると知れば無理に一発で成仏させようと考えないだろう。

 

「……いやさ、どうやら貴方様が悩む必要はない様子」

 

 頭を抱えようにも両腕が塞がっている為にどうしようも出来ぬ中、猫の翁はあざ笑うように金時に声をかけた。

 

「都が見えて参りました。それ故か、怨念の進み具合が早まりました。こりゃ待ったなしにございますな」

 

 やれ怖れよ、怯えよ。最後にそう言って猫の翁は森の奥へと姿を消す。

 

 消えゆく猫又を見送った金時が振り向けば、巨大な骨の化け物……【大江山の怨念】の浮遊速度が増しているのが嫌でも解ってしまった。

 

「くそ……止まれ、止まれぇぇぇ!!」

 

 疾風が穿つ。巨大な太刀が振るわれる。氷の刃が幾重にも重なる。願いを込めた万雷が降り注ぐ―――それでも怨霊は嬉々として笑い、暴君と海鰐の顎を持った両腕を振り上げる。

 攻撃を受け万歳しながら怨霊は都へと侵入。触れた者を燃やす水が門から押し寄せ、多くの人間達を燃やしながら、何故か羅生門にしがみついた。

 

 

―――ふははは、あはは、ぎゃははははは!

 

 

 

 怨霊、羅生門に顕出。

 

 

 

▼▲▼▲

 

 大江山の鬼達が住まう城は、怨霊が天井をぶち抜き燃やす水が都へと流れて行ってからは廃墟にも等しい。ぶち抜かれた天井から月光が降り注ぎ、散らばった財宝や木片を薄っすらと照らす。

 

「いやぁ、負けてもうたなぁ」

 

 そんな呑気な声を上げるのは、奇しくも茨木童子同様に生首のみとなった酒吞童子だった。視界の端には、怨敵に切り刻まれたであろう己の肉体が散乱しているのが解る。

 ケラケラ呑気に笑う酒天童子の生首を見下すのは頼光。呪いの炎の焦げや鍔無し長刀の斬撃による切り傷が生々しく映える。この二人が如何に激戦であったかが見て伺えよう。

 

 頼光は冷ややかに見下しながら刀を振るい、酒吞童子の眼前に切っ先を突きつける。

 

「答えなさい毒虫。あの呪いの権化の止め方を」

 

「せやから、うちは知らん言うとるのに。さっきからそればっかやな」

 

 刃と殺気を向けられても、うんざりと言った表情を浮かべる酒吞童子。斬り合い始めてから今までこの調子だ、うんざりもするだろう。

 

「あーあ、つまらへん。せめて殺気全開で挑んでくれりゃ楽しめたっちゅうのに」

 

「答えなさいと、言いました」

 

 本当につまらない。巨大な呪いに動揺したかと思えば、それを押し殺すかのように止め方のみを聞いてくる。怒りも憎悪もない、現実逃避したいかのように淡々と押し問答を繰り返す頼光に、酒吞童子は飽き飽きしていた。

 

「せやねぇ、もしかしたら止められるかもしれへんな」

 

「———ッ!? あるのですか!?」

 

「ええか、しっかり聞きぃ。この山を降るとな―――」

 

 かもしれない、と言ったのに頼光の食いつきようときたら。僅かな可能性ですらしがみつきたい頼光の反応を笑いながら、酒吞童子は三日月のような笑みを浮かべながら教える。

 茨木童子の中に溜め込んだ怨霊の止め方を。茨木童子の呪術が抑え込んだ怨霊を祓う可能性を。そして源頼光が何をすれば良いのかを。

 

「……それは、本当なのですか?」

 

 それを教えただけで、頼光は苦虫を噛み潰したかのように眉間に皺を寄せる―――それは源頼光が最も苦しむやり方だから。

 

「まぁ可能性の話やから保証はできへんぇ? 今更追いかけても遅いやろし、やってみる価値はあるんちゃいますか?」

 

 酒呑童子は、これ以上は知らん、とそっぽを向いて意地悪をする。可能性とはいえ、方法を教えてやったのだからこれまでだ、と。

 俯いたまま歯を食いしばる頼光。切っ先は微かに震え、しかしこうしている間にも、あの呪いの権化は京を襲うだろう。そうなれば最悪の未来……源氏の名が廃れるかもしれない。

 

 

「はよぉ行けや源氏の棟梁! これだけの外道を犯したんや、せめて京ぐらいは救ってみせんかい!」

 

 

 酒吞童子が叫んだ直後、頼光は太刀を振り下ろす―――それだけで酒吞童子は細切れの肉片となって飛び散った。

 名残惜しそうにその肉片を見下した後、意を決したように走り出す。例え其れが茨の道であっても、僅かな可能性に賭けて。

 

「酒吞童子ここに敗れたり、やな」

 

 誰もいない廃墟に残った口だけが、そう囁いた。

 

 

 

▼▲▼▲

 

「ご無事で……あったようですな茨木殿」

 

「げぼ、げほっ」

 

 ざばり、と川から何かが浮かんできた。それは猫の翁の念力によって浮かび上がった、茨木童子の生首であった。

 一度は森の奥へと姿を消した猫の翁だったが、金時が怨霊へ向かって駆け出す際、茨木童子の生首が転げ転がり川へ落ちたのを見てしまい、慌てて引き上げたのだ。

 際にも意識はあるが、思いっきり鼻にまで水を飲んでしまったらしく、首から下はないが喉はあるからと咳き込んで水を吐き出す。つくづく不思議な生首だ。

 

「けほ……あ゛ー……吾、酔いに酔ってとんでもない事を仕出かしたのぉ」

 

「おお、酔いが覚められましたか。いやいや、元はと言えば、あの頼光が毒酒で騙し討ちなどするのが予想外というもの。自業自得にございましょうや」

 

 水を被った事で頭が冷えて正気に戻ったらしい。しかも己の先までの所業をしっかり覚えていたらしく、酔ってもいないのに茨木は赤面してしまう。

 だが猫の翁は恥ずかしがることはないと思う。茨木童子とあの毒酒の相性の最悪さは予想外だったが、これはこれで人間側の責任だと感じているからだ。

 

「あれだけ膨れ上がった怨霊です、都の人間の大半は呪い死ぬでしょう。後は小生らに関りのある村々が生きれば宜しかろう」

 

 そう、都の人間は死ぬが、大江山の周りには幾つか村がある。彼ら人間が生き延びれば良いと、猫の翁は言うが。

 

「駄目だ」

 

「何故?」

 

 

「あの都にも、懸命に生き、化け物を理解し、吾らに良くしてくれた人間がいるのだ」

 

 

 茨木童子が都を見る目は、とても悲しそうだった。失っていくものを惜しむ、慈しみの眼差しだった。

 酒天童子が面白いと言う詩人が居た。猫の翁が好む女性作家の書物がある。隠れ鬼を対価で匿う人間もいる。明日を必死に生きようとする、良き生き様を持った人間がいる。

 それだけで茨城童子は待ったをかける。例え己に宿る呪いが都を酷く恨んでも、己は都の人間全てを憎めないのだから。

 

「猫よ、あそこ(・・・)へ迎え。都が滅ぶ前には間に合うかもしれん」

 

 生首だけと滑稽な姿だが、茨木童子の眼差しは真剣だ。本気で都を……良き生き様を貫く人間を救おうとしている。

 

―――ああ、それでこそ茨木童子。母以上に傲慢で、母以上に美しい生き様を貫く悪鬼。

 

 猫の翁が惚れ続け、第二の親のように接してきた甲斐があったというもの。

 

「……あい解った。この猫の翁、茨木殿の手足となりて野を駆け山を駆けましょう」

 

 そう頷いて、猫の翁は己の背に茨木童子の首を乗せ、都とは反対の方向へと駆けていく。

 茨木童子は翁の背を甘噛みでしがみつき、微かな痛みと引き換えに猛スピードで森を走って行った。

 

 

 

 頼光と茨木童子の首を乗せた猫の翁が向かうは、羅生門に陣取る呪いの骨鬼を鎮める唯一の方法がある場所。

 

 

 

 月は高く、都は絶叫と火の手の数が増えていく。それでも頼光四天王が必死に食い止める。

 

 

 

 そして。

 

 

 

「ンンンンン素晴らしいィ! 散らばった雑兵の骨一本如きに、これ程までに濃密な呪詛・呪怨・呪言が込められていようとは!

 

 これは良い、実に良いですねェ! 拙僧にとっては心地よい熱気に子守歌のような恨み節、されど雑多な人間にとっては地獄絵図に誘う劇薬毒薬待ったなし!

 

 まさに呪いの怪物、いや呪怪(しゅかい)とはこの事! 世を憎み人を憎み、全てを燃やしてしまえ! フ、フフフ、フフフフフ―――!

 

 フゥ……さて忙しくなりますね。どうせ人の世がなんとかするでしょうし(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)、迅速にかつ密やかに呪骨を集めねば。

 

 使える物は骨まで使ってしまいましょう。それが人をも殺す呪物であれば尚更……フフ、フフフフフ―――」

 

 

 鬼にも勝る悪鬼が人知れず暗躍していることを、誰も知らない。

 

 

 




「そして縁は繋がる・阿」及び「そして縁は繋がる・吽」へ続く。

 完全に終わり切れませんでした(汗)

 生前編は一応は終わり。次回でFGO編となり、結末はその時に物語として記します。
 次回は頑張って二本同時投稿を予定してます。阿吽の意味はその時に解るかと。

 更新は遅れてしまいますが、頑張ります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。