【秩序/悪】な茨木童子(猫又付き)   作:ヤトラ

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茨木童子に関わりにくくなるなぁ金時視線だと…。


坂田金時の鬼退治・春の巻

 よう、俺の名は坂田金時! 弱き者を助け悪しき者をぶっとばす金色(こんじき)の似合う(オトコ)だ!

 んー……駄目だ、キラキラ輝く様は好きだが「こんじき」って言い方がしっくり来ねぇ……。

 

 とにかくだ、幼少の頃より足柄山で熊と相撲して鍛えた筋肉に、俺を見込んだ源頼光サンの(ちと過保護な)教育で身に付いた正義の心を持つ漢、それがこの俺よ!

 そんな俺は山奥目指して登山中だ……なんでかって? 鬼がいるっていうから向かわせた兵が戻らないから、俺が代わりに行ってこいって命じられたからよ。

 全くもって金色じゃねぇ豪族にアレコレ指図されるのは癪だが……これも経験だって頼光サンが言うからなぁ。どの道、鬼が暴れてるってんなら放ってはおけねぇな!

 

 そんな訳で、鬼と生きてるか解らねぇ兵達を探して山を登っていたんだが……。

 

「これが全く見つからなかったんだぜ? 探せど迷えど鬼は居らず、居るとすりゃ寝起きで腹を空かした熊程度さ。まぁ捻り潰して追っ払ったがな!」

 

「へぇ、流石は金時はんやねぇ」

 

 三日三晩探して、結局は頼光サンが「いい加減に帰って来なさい」と雷サン撒き散らしながら俺っちを連れ戻しに来て終り。今は京の茶屋で茶を一服してるところさ。

 隣の別嬪サンは茶屋の娘サン、お(さく)。俺っちの愚痴や自慢話に付き合ってくれる良い女さ。

 

 お咲は首を傾げて俺に擦り寄ってくる……この色っぽい仕草が一々反応に困るっつーか……。

 

「せやけどなぁ金時はん、大江山に住むっちゅう噂の鬼はえらい変わった奴やと聞いとるよ?」

 

「あ、あぁ、お咲も知ってっか。そいつが色々ややこしくてよぉ……」

 

 京の都でも噂になっているようだな……大江山の首魁(しゅかい)と、その一番の子分である呪怪(しゅかい)は。

 

 悪辣な乱暴者である鬼を纏め上げ、大江山を中心に縄張りを広げているという鬼の集団。確か、晴明の旦那が見出したっつー真名は「酒吞童子」と「茨木童子」だったか。

 その酒吞童子と茨木童子が治める鬼の集団は、弱き者だろうとも強き者だろうとも略奪と殺戮を繰り返す悪党ではあるんだが……その実態は一筋縄じゃいかねぇ。

 

 京の都では好きに物を奪い人を攫う恐怖の鬼とされているが、それ以外の村々では以前よりも平穏が訪れたって喜んでんだよ。

 

 夜出歩いたり縄張りに入ったりしなければ襲われない、村を襲う賊や妖怪が減った、老婆だろうが病人だろうが生贄さえ差し出せば村は暫し安泰などなど。

 実際、俺が鬼退治の為に訪れた村々は鬼を多少なりとも慕っていやがった。其れは傲慢な押し付けだっつっても、それでも奴らは「平穏には変えられぬ」と納得している。

 

 聞いた話じゃ鬼に酒の仕込みを教わった奴も居るっつーし……そもそも帰らねぇっつう兵も帝の命を無視してお偉いさんが無理やり行かせたんだったな……。

 

「……つうか近すぎだろ! その、大胸筋が当たるっつーの!」

 

「当ててんのや」

 

 にやーって笑いながら寄りかかってくるーっ! 抱きしめたら折れちまいそうなほどに小さくて軽……いやいや金色じゃねぇぞ冷静になれ俺!

 

「あははは、少しは気も晴れたやろ?」

 

 今度は声に出して笑いながらサッと離れる。お咲のこういう、からかい上手な所が苦手なんだよなぁ……。

 

「……何がだよ」

 

「真面目なアンタはんの事や。京以外の村が少しでも平和になっとう聞いて、鬼もええ奴がおるんやないかって思ってんちゃう?」

 

 胸を掴まれた。そんな気がした程に俺は動揺しちまった。

 

「ばっ―――(ここ)でそんな事言うんじゃねぇ、誰かに聞かれたら」

 

「阿呆やなぁ、鬼なんて皆みぃーんな悪党に決まってるやないの」

 

 お咲は俺の動揺や悩みを一蹴するかのように笑っている―――いや、一蹴しようと(・・・・)してくれてんのかもな。

 

 京の都は一見平和だが、それはお偉いさん方が黙らせているからだ。鬼が齎す被害は殆どが豪族といった宝持ちだからな。

 かといって鬼だけを悪党にはしねぇのがお偉いさんの面倒な所だ。やれ誰の責任だ、やれ誰か鬼を討て、やれ落ちこぼれはさっさと潰れろだの……嫌になるぜ。

 

 その宝や財を捻出し、京を栄える努力をしているのは都の民だってことも忘れちゃいけねぇ。鬼の被害者は見えねぇ所で泣いてやがるんだ。

 都でこんな様だ。小さな村々は生きるだけでも辛い日々だってのに、その鬼のおかげで前よりマシってのが……。

 

「ふぅ~」「おわああぁぁぁぁっ!?

 

 金色に情けない声上げちまった……周りから変な目で見られちまったじゃないか!

 

「お咲、てめぇ何しやがんでぃ!」

 

「せやから悩むんやない。折角の美形が台無しやないの……これはこれで良ぇ面やけどなぁ」

 

 んな困った顔されてもよぉ、頼光サンじゃあるまいし。

 

「あんたさんがどう悩もうと勝手やけどな、これだけはウチでも言えるわ―――鬼と人間は同じやないよ」

 

 せやから悩んでもしゃーないわ、と気分転換に団子を勧め、お咲も団子を頬張る……ってそれ俺の団子だろ。

 知っている風だが、鬼は化け物だっつったら反論できねぇ。少なくとも、俺や大将らが対峙してきた鬼は大半が化け物で、人間を食らい怪力をもって暴れている。

 そんな鬼の印象が変わったのが、先にも上げた酒吞童子と茨木童子だ。あいつらが現れるまで、鬼が纏まって行動するなんざ思いもしなかった。

 

 酒吞童子と茨木童子……只者じゃねぇのは解るが、一体どんな鬼なんだ?

 

 

 

 俺の悩みなんか知らねぇとばかりに、京の都に桜の花びらが舞う。

 春の訪れを感じる都の風景を見ていると、鬼だ略奪だ人攫いだって噂が広がっているのを忘れちまいそうだった。

 

 

 




坂田金時の鬼退治・夏の巻に続く。
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