因みに作者は酒吞×金時を応援しています(なんだいきなり
俺の
「おらあぁぁーーっ! 観念しやがれ大江山の鬼共ぉぉぉ!」
「ぎゃあぁ眩しい!」
「なんだこの金髪、化け物か!?」
「鬼に化け物なんざ言われても嬉しか―――ねぇっ!」
愛用している大斧【黄金喰い】から雷鳴を発して周囲の暗闇を瞬時に照らし、鬼共の姿が見えりゃ振り回して成敗する。
月も出ねぇ真夜中に、火の手どころか音も上げずにお偉いさんの屋敷を襲撃。妖術の札と呪具の類まで使ってやがるたぁ、大した手際だぜ。
だが晴明の旦那の術と、頼光サンの嗅覚(曰く「害虫の匂い」らしい)に引っ掛かったのが運の尽きよ、俺っちら四天王が成敗してやる!
しっかし、本当に悪知恵が働きやがるな大江山の連中。
都中の灯りを全て消して暗闇に紛れ。怪力と体力に自慢がある鬼共がデケぇ松明を振り回して注意を引き寄せ。雑魚は宝を奪う組と人を攫う組に分かれる。
それでいて鬼は無秩序に暴れているわけじゃねぇ。大鬼は逃げる者は追わず武器を持った者だけを殺し、自分らが襲った屋敷以外で略奪を働かねぇ。
おかげで、暗闇対策に雷サンを放てる俺っちが略奪する鬼を追いかける役を任されちまった。これなら野山の大鬼を相手にした方がマシだぜ……。
「いい加減に……観念して置いてけドロボー!」
怒りを込めた黄金の衝撃を食らえぇ!————お、これは思い付きにしちゃ悪くねぇんじゃね?
「ゲギャアァァ―――ッ!!」
「雷サン怖イ!」
よぉっし、半分は黒焦げにしてやったし、残った奴らをビビらせてやったぜ。雑魚で助かったな、お宝を壊さねぇ程度に出力を抑えられるからよ。
「仕方ネェ、大キイノワ捨テロ!
「命大事ニ!」「スタコラサッサダゼェ!」「黄金怖イ!」
しまった逃げられる! しかも葛籠やら兜やら捨てて身軽になった分、逃げ足が速くなりやがった!
「逃がすかよぉ!」
追い詰められた鬼ほど何を仕出かすか解らねぇ、追いかける! 鬼は
「……まぁ、皆殺しっつうのは鬼相手でも心苦しいけどよ」
ぼやいても仕方ねぇ、逃がした鬼が腹いせに小さな村を滅ぼしたって経験もあったしな……最近聞かなくなったが。
どの道、小鬼どもが応援を呼ぶかもしれねぇし、小さくても価値の高い宝ばかりだ。人様の宝や命を奪って良いもんじゃねぇ。
「お待ちください金時様ァ! 酒吞童子が其方に―――ゲギャッ!?」
「ほな、後は任せるで茨木———あの金髪の小僧……やっぱええなぁ……♡」
▼▲▼▲
随分と遠くまで走っちまった。大江山に近い森の中だが……獣ぐらいで大鬼の姿はねぇ。ならば。
「待ちやがれっつってんだろぉがぁぁぁ!」
「ヒィィィ金髪怖イ! 猪、イヤ熊カ!?」
熊と相撲取ったこたぁあるが人間だっつの!
殆どの宝は取り返して身に付けているが、後一つだけが取り戻せねぇ。よりによって一番高価だから何としても取り戻せって命じられた髪飾りをよぉ……!
その髪飾りを片手に逃げる小鬼を必死に追いかける。小枝を薙ぎ、茂みをかき分け、時には岩や古木ですら斧で粉砕し、走り続ける!
「そのぉぉぉ! 髪飾りぃぃぃ! 返せってんだぁぁぁ!」
「ハイ返シマスドウゾ!」
そう早口に言って髪飾りを投げつけやがった。思わずって感じで立ち止まって掴む。
呆気なく取り戻せちまった事に呆けていると、小鬼はあっと言う間に森の奥へ消えちまった……。
見敵必殺と言ったが、都から離れ、こんな森の奥まで来ちまったらそうは言ってられねぇ。奴らの本拠地が近い以上、さっさと戻るに限る……?
「……んだこりゃ? 結界?」
京の都でも見ねぇ結界らしき模様が描かれた札が古木に貼ってある。よく見りゃ等間隔に貼られてやがるな……今まで気づかなかったぜ。
試しに札が張られている古木より先に手を伸ばすと、つぷん、と水面に突っ込んだかのように景色が歪む……清明の旦那が仮病で姿を眩ます時に使う結界に似てやがるな。
旦那のとは違って電撃とか高温とか発しないようなので、意を決して侵入してみる。もしかしたら鬼共の拠点が解るかもしれねぇ。
結界を潜り抜けた先は、地獄だった。
「ゲギャ? 人間ダ! 人間ガ入ッテキヤガッタ!」
「見ツカッチマッタカ! ヤベェゾ、茨木サマノ
俺を見て慌てふためく鬼共なんざどうでもいい―――それ以上に悍ましい光景が広がっていたから。
異臭を放つ肌が腐った男。ガリガリの子に粥をやる布で巻かれた女。骨と皮だけの白髪の老婆。虚ろな目で薬研を挽く女。
ボロボロの小屋が並び、屍みてぇな
「キキーッ! コイツヲ追イ払エ! 大江山マデ助ケヲ呼ベ! 時ヲ稼ゲ!」
「ココヲ荒ラサレタラ茨木サマニ呪ワレル!」
「やんのかオラァ!」
大鬼から小鬼まで大小様々な鬼が集まってきたが、都を襲った鬼に比べたら木っ端だ。
こんな奴らなら【黄金喰い】の一薙ぎで纏めて……そう雷鳴を放ちながら振りかぶった途端。
「およしになって、およしになってくだせぇ!」
「お武家様、どうかお待ちを! どうか、どうか……!」
「やめてくれぇ、これ以上おら達の
気づかなかったが、廃れた姿の男や女が俺の足元に居たらしく、そいつらが俺の腰回りにしがみついてきた。
「な、なんだよオマエら……!?」
振りほどいてやりてぇが……出来ねぇ! このままじゃ鬼共に……あいつらも唖然としてるぞ、どうなってやがる?
それに
「あーあ、見つかってもうたかぁ。 よりにもよって小僧に」
「———ッ!?」
振り向かなくても解る、このゾワゾワと来る圧と気配———都の屋敷に襲い掛かった連中に混ざってた、大江山の首魁と同じ……!?
「そう構えることあらへん。
気配の主はそう言っているが油断できねぇ……けど言葉や足取りに嘘は感じられねぇ。圧力や妖気は半端ねぇが、殺意や敵意ってのが全く感じられねぇ。
「酒吞様……酒吞様じゃ」「村の衆、酒吞童子様がいらしたぞ」「酒吞ノ頭ァ」
腰にしがみつく力が弱まる。酒吞……酒吞童子!?
思わず振り向いた俺が見たのは、既に眼前に立ち止まっていた、角を生やした別嬪さん……。
「まさか……お
「やっと気づいたんやねぇ。変化に弱いなぁ金時はんは」
呆然としている俺を、角を生やしたお咲……
▼▲▼▲
「お武家様、酒吞童子様、どうかこの場はお治めくだされ。ここは長である儂がお話いたします故……。
お武家様、儂らは見ての通り、呪われ化け物と成り果てた身にございます。
不作が続き呪子と蔑まれた子供、腕を切り落とされて役立たずと捨てられた男、男共の厠にされた女子、儂のように体が腐る病に侵された者……皆、人と世から捨てられもうた。
鬼よ化け物よと蔑まれた儂らを、茨木童子様が拾ってくださった。
『何が化け物だ。何が鬼子だ。汝れは人間だ、吾ら鬼に食われる人間なのだ』と言ってくれた。
儂の腐った体を洗い布を巻いてくださった。呪われた身だと蔑む者を、鬼に効くはずがなかろうと言って仕事を与えてくださった……鬼故に儂らを人間と見てくれたのですじゃ。
儂らは此処で働き、いずれは鬼らの腹に収まる定めにございます。ここにいる皆、それを認めておる。
……優しいお方ですな、鬼に飼われているぐらいなら、自分が面倒を見てくださるなどと。
じゃが身も心も化け物と成った儂らは、人を憎む心を抑えらぬ……じゃから茨木童子様が与えたもうた地で死ぬ。鬼の腹に収まって死にたいのです。
人と世を憎み、身も心も化け物と成って……それでも人として死にたい。
お武家様、儂らを案じてくださるのならどうか放っておいてください……人として死なせてくれ……お頼み申す、お頼み申す……」
▼▲▼▲
咽び泣く爺さんの訴えが頭から離れねぇ。振り向いても、見えるのは森の景色しか見えねぇ。
「ほんま、阿呆な話やろ?」
隣には酒吞童子。だが酒吞童子は、少し歩く間は襲わないと言った……なんでか知らねぇが「信じられる」と思ったんだ。
訳がわからねぇ事ばかりだ。なんでこうなった。どうしてこうなったと頭の中でグルグル回りやがる。
「ふぅ~」「どわあぁぁぁ!?」
また耳に息を吹きかけやがった! 森の生き物たちが一斉に逃げ出しちまったじゃねぇか!
「ウチも阿呆やけど、小僧も阿呆やなぁ。 あんな奴らとウチの約束を無視して、ウチらを殺しに掛かればよかったのに。」
「……手前ぇこそ、なんで俺を殺さなかった。なんで黙って爺の話を聞いていた。手前ぇのいう阿呆な話を、なんで俺に聞かせた」
「ウチじゃ茨木の気持ちが解らへんもん」
ぷぅ、と酒吞童子は頬を膨らませる。一々可愛い仕草しやがって……鬼だと忘れるほど、可憐で……。
「茨木は、あいつらを子分共の餌やと言うとった。せやけど翁は、同情とも秩序とも言うとったんよ。
茨木は真面目で可愛い子や。食べてもうたぐらいに良ぇ娘で、鬼で……訳が解らへん程に傲慢や。
人間が恨んでいいのは吾ら化け物なのだ。人間が人間を恨むなど馬鹿げている。ならいっそ人間だと思い出した頃に食ってやろうって、傲慢で馬鹿な事を言うんよ」
笑っている癖に、酒吞童子は、どこか儚げで……悲しそうに見えた。
「なぁ小僧、お前さんはあんな醜い奴らを人間として連れ戻そうとしたやろ? なんでや? 同じ人間やからか? 何か利益でもあるんか? 同情する理由があるか?
大体、なんであんな人間が生まれるんや。如何にも不味そうな人間なんざ、いっそ楽に殺してまえばええのに。あいつらも自分を醜い言うてながら自分で死にもせず、人を呪い殺すこともせぇへん。
なぁ小僧、茨木はどないしてあんな奴らから感謝されてんのや? なんで小僧はあんな奴らを助けようしてんのや? 解らへん……どないして
酒吞童子という鬼は、自由気ままに殺し奪う生粋の悦楽家なのだろう。会って間もないが、俺がそう思える程に、先の振る舞いに迷いや嫌味は全くなかった。
けど今の酒吞童子は……今の俺と同じく、困惑してやがるんだ。今まで知らなかったことを知っちまった事で、今までの自分が揺らいちまっている。
お咲しか知らなかった俺が、酒吞童子という綺麗な鬼を知っちまったように。
自分と言う鬼しか知らなかった酒吞童子が、その茨木童子って言う、人間と化け物を区別できる鬼を知っちまったんだ。
だから俺は……。
「……阿呆だな、俺もお前さんも」
こつん、と酒吞の頭を小突く。力加減に自信がなかったが、目を丸くしている所を見ると問題ねぇようだ。良かった。
「茨木童子って奴に会ったこたぁねぇが、とんだ大悪党だぜ。表向きは人間と化け物を区別してるが、言い方を変えれば化け物扱いされた弱味を突いて自分側に引き寄せてやがる。
俺とお前らはやっぱ別の種族だ。お宝欲しさに人間を奪ったり攫ったり、呪いと肉しかねぇもんだから飼い殺している鬼を、俺は許せねぇ。
だから、次お前らが悪さした時ぁ俺が成敗してやるぜ。まぁ、お咲として大人しくしてる間は手は出さねぇが」
嘘だ。金色らしくねぇ―――酒吞童子が俺と争う為の、嘘だ。
俺も都で薄汚ぇ物を見てきたつもりだが、あんな酷ェもんは見た事なかった。だから助けてやらねぇと、と思っただけだ。
そんな奴らに居場所と死に場所を与えたっつう茨木童子は、もしかしたら良い奴かもしれねぇ。
けどよぉお咲、いや酒吞……俺とお前らは違うんだって、お前さんが言っていたんだ。それを思い出せたから、嘘をつく。
酒吞の奴も思い出したのだろう、目を丸くしていたが、やがてニヤーっと笑いだして……んん……?
「……あぁ、ほんまに……」
―――えぇなぁ……
なんか酒吞の目つきがヤベェ、ヤベェぞ……殺意とも享楽とも違ぇ熱の籠った眼差しっつーか……。
夏らしい蒸し暑い夜更けの森に、俺っちの悲鳴が再び轟く。
次からは殺し合いになるだろうが、この時ばかりは死ぬ気で逃げたさ―――素っ裸になって俺の着物脱がしにかかった時は、恥ずかしさで死にそうだったからよ……。
なお、帰りに頼光サンから「虫の匂いがする」と言われ、根掘り葉掘り問い詰められた。怖かった……。
坂田金時の鬼退治・秋の巻に続く。
なお、シたかシなかったかはご想像にお任せします。