【秩序/悪】な茨木童子(猫又付き)   作:ヤトラ

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茨木童子オルタの言う秩序と悪とは。

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坂田金時の鬼退治・冬の巻

 頼光サンの屋敷に茨木童子が現れ、都中の猫と猫又が繋がっていると知った都の連中は、疑心暗鬼になって様々な悪行を始めた。

 

 都中の猫を皆殺しにしようとするが、あの猫爺が手を引いてたのか大半の猫は都の外へ逃げだしたそうだ。それでも残った奴らは殺され、夜中に化け猫となって復讐しにきて大騒ぎだ。俺達四天王も出ずっぱりよ。

 隠れ鬼を炙り出そうと、子を人質にして親に尋問、老人は容赦なく折檻、前科者は即打ち首と、流石の頼光サンもお怒りになって止めに入った。特に子を人質に母を苦しめた奴は、例えお偉いさんでも容赦なく叱りつけた。

 それでも鬼共は時折都を襲い、金品を奪う。酒吞童子が気ままに暴れ奪い攫い、頃合いを見て巨大な骨の塊と化した茨木童子が連れ戻す。俺達の努力もあって回を重ねる毎に被害は減ったが、もう少しって所で逃しちまう。

 

 度重なる逃走と被害にお偉いさんは唾を吐いて怒鳴り、身分の低い連中は(ここ)よりマシと外へ出ちまう。確かに村によっては都よりマシだが、かといって都から逃げたとしても鬼の脅威は消えねぇ。

 ある村なんか茨木童子の怒りを買って一夜で燃やされたと聞く……その村は不作を招く呪われた子が居るって噂が絶えない嫌な所だったがな……。

 

 だが俺っちにとっちゃ、頼光サンの容態の方が心配だぜ……日に日に活力を失ってやがる。

 

 妖怪退治で気を晴らしちゃいるが、明らかに以前より疲労を溜め込んでやがる。俺を子ども扱いし可愛がる頻度も増えたしよぉ……綱の奴にしろよ俺より若くて小せぇんだから。

 茨木童子に言われた事が響いてやがるのか……表向きは源氏の長として立派に振舞っちゃいるが、都の被害が減らないっつって怒鳴る連中の無配慮もあってか、面目が保てず焦りを抱いているようだった。

 

 

 だからこそか……こんな話が出やがった。

 

 

「鬼相手に騙し討ち、だぁ!?」

 

 思わず軽く放電しちまう程に怒鳴る。頼光サンは怯みもせず、正座のまま厳かな雰囲気を保っている。

 

「大声で怒鳴るんじゃありません、口が悪いですよ金時――帝が決定された事です」

 

 都の宝を搔き集め、それを降伏の証だっつって捧げてお膳立てして、酒吞童子と茨木童子を暗殺するってのが帝の決定だってか? いや策を起てたのは晴明の旦那か?

 

「だからっつって何で騙し討ちなんだよ金色(こんじき)じゃねぇ! 大将に俺ら四天王、ついでに都の兵力を募って大江山に向かえばいいだろうよ!?」

 

「酒吞童子は変幻自在であり茨木童子は神出鬼没……万が一でも、片方だけでも逃げられたら元も子もない、だからこそ確実に全滅させる為に……騙し欺き、二人の童子の首を獲る」

 

 静かに開いた大将の目は……光を失ってやがる。思わず息を飲んじまうほどに、暗い闇色だった。

 

 酒吞の事を憎き毒虫、酒吞は頼光サンを牛乳女と呼び合い殺し合う。酒吞は頻繁に俺に絡むもんだから、頼光サンの日頃の怒りや鬱憤は彼女に向けられている。

 そんな酒吞童子を毎回逃しているのは、頼光サンに呪いの言葉を贈った茨木童子だ。大将は酒吞以上に茨木を憎んでいるらしく、堅牢な骨の鎧ごと討ち砕こうと毎回躍起になってらぁ。

 頼光サンも本当なら武士として堂々と戦いたかったんだろう。それだけ因縁深い奴らだからな……。

 

―――努々忘れるな丑御前、或いは源頼光! 所詮は戯言、然して悔いを残すな! 人が倣える生き様を示せぬようでは、吾らは悉く人間を食い殺すぞ!

 

「……金時、他に何か言いたいことがあるなら、今の内に言いなさい。少しは気が晴れるでしょう」

 

 丑御前と見破られ、母親になるっつう夢を未だ抱いていて、それでも源氏の棟梁として生きるだけでは罪だ悪だと……茨木童子に叱咤された大将。

 そんな俺の考えを見据えているかのように、大将は目を細め、何も言わずジッと俺を見続ける。俺の言葉を待っているようにも、黙っていろと言っているようにも見えちまう。

 

「――大将は女として生きたっていいと思うぜ、俺はよ」

 

 大将は源氏の棟梁だ。母を知らずに育って、父にそう生きろと命じられ、俺を拾い育て上げた方。どうしようもなく憧れるであろう「母親」という生き様(・・・)

 あの秋の日の夜に茨木童子が言ってなきゃ忘れちまってた。大将は紛う事なき女で、女として「女の幸せ」ってのを日々願っている。そんな当たり前な願いを切り捨てて良いはず―――。

 

 

「――『ただ源氏の棟梁として太刀を振るえば良い』……それが父上のお言葉です」

 

 能面のような顔をして、大将は―――源頼光は淡々と言い放った。

 

「故に、都を荒らす鬼共は殲滅しなければなりません。連中を討つ為なら、例え毒虫相手とて機嫌を取り、首を狩る」

 

 さっきの言葉に未だ放心しちまって動けねぇ俺を無視して、大将は言い続け、やがて立ち上がる。

 

「それでいいのです―――それで」

 

 情景・仇敵・問答……そういった言葉を義務の一言で片づけようとしている。源氏の棟梁として不必要な自我を一掃しようとしちまっている。

 駄目だ、それだけは駄目だ。俺の心が叫んでいる。んな生き様(・・・)、酒吞にも茨木にも劣っちまうじゃねぇか!

 

「金時」

 

 立ち上がって追いかけようとする俺の名を呼ぶ。

 

 その呼び声には圧が感じられ、壁であるかのように立ち止まっちまう―――頼光サンは、震えていた。

 

「何も言わないでください……言わないで……このような愚かな母を、どうか許して……」

 

 

 

 振り向かずに歩きながら、それでも泣いている頼光サンの後姿を、俺は黙って見送るしかなかった―――金時史上、最も金色じゃねぇぜ……。

 

 

 

▼▲▼▲

 

 その日は珍しく快晴で、冬らしい空っ風が吹き荒れ、夜になると月が綺麗に映えらぁ。

 

 俺は大江山付近の森深く……茨木童子が匿っている病人だらけの村に足を運んでいた―――大将ですら秘密にしているが、俺は時折、此処で酒吞と出会っている。

 病人共が心配で様子見……ってのは建前で、酒吞に会うのが目的だ。この村の中でならお互いに争えねえからか、お互い妙に絡んじまう。病人共も、笑って俺らの愚痴や口喧嘩に付き合っていた。

 

 その廃村に人間が一人もいねぇ。居るのは焚火を焚く猫又……紺の甚平を羽織り岩に座る虎猫だけだ。

 

「今夜あたり来ると思って待っておりましたぞ」

 

 煙管の煙を吐き出しながら猫又……猫の翁は朗らかに笑って俺を見やる。

 

「随分と知った風じゃねぇか。また猫を使って盗み聞きか?」

 

「なぁに、翁と呼ばれるまで長生きすれば勘も冴えましょう。それに都の猫は其方らが追い出したでしょうに」

 

 皮肉も通じねぇか、食えねぇ爺だぜ……まぁいい。それより聞かなければならないことがある。

 

「ここの人間はどうした」

 

「皆、食われてもうた」

 

 解り切っていた結末でも、その一言で俺の頭に血が上り、自分でも真っ赤になっているって実感する。だが猫の翁は焚火を見たまま言葉を紡ぐ。

 

「茨木殿が都に動き有と勘づいたようでな、腹拵えにと仲間と共に食らったのじゃ。痛みで叫べど、誰一人とて恨み節の一つも上げなんだ」

 

 焚火を見つめる猫の翁の目は、何故か弔っているよう見える。コイツも奴らとそれなりに関わりを持っていたんだろう。頭に上ってた血の気が引き、落ち着きを取り戻す。

 

「あんなに生き生きとしていたのに、結局は食われる定めかよ……茨木の奴は何がしてぇんだ」

 

「強いて言えば……秩序と申しておりましたな」

 

「秩序、だぁ?」

 

「長話で良ければお話し致そう……今宵は寒うございます、焚火で良ければ暖を取りなされ」

 

 言われるがまま、俺は猫の翁と対面するように座る。それを見計らって、爺は語りかけた。

 

「ここはな、彼らを受け入れる前はそれなりの人が暮らす村であった。大江山に近くありながら、人は皆逞しく生きておられた。茨木殿らが攻め入った際も、男は鍬を持って立ち塞がり、女は子を抱え一丸となって避難した。彼らの生き様を茨木殿は美しいと言い、生かし給うた。

 

 彼らは逞しくもあり賢くもあった。酒を造れと言えば従い、子を差し出せと言われれば断固阻止し老人が贄になると言い出し、鬼の理に従う故に子を生かしてくれと平伏する……小生ですら(まこと)に美しいと想う生き様にございました。

 

 そんな村を滅ぼしたのは鬼でも妖怪でもない―――同じ人間じゃ。村を無くし賊となった人間が飢えと欲を満たすべく騙し、奪い、犯し、そして殺し尽くした……鬼も怯む惨い有様にございました。

 

 茨木殿は嘆いておられた、美しく逞しい彼らがより弱い人間に騙され殺され絶えるなど馬鹿げていると。鬼も人も猫ですら、この理不尽な世を満足に生きられぬのかと深く想い悩んでおりました」

 

「その弱い人間を何で受け入れた。なんで強い人間である大将を惑わせた」

 

「彼らは病を受け呪いを受け、それでも非行を犯さず、人として死にたいと願いながら生き延びた。故に茨木殿は、彼らに死に場所を与えたもうた。その行く末があの笑顔にございます。

 

 源頼光は鬼子でありながら人として生き、しかし願い続けた母としての生き様を選べなかった。故に茨木殿は、彼女に問いを投げかけた。まぁ……彼女は選択ですらできなかったご様子ですが」

 

「おめぇらのせいで連中は死に場所しか選べず、大将は余計に重い物を背負う羽目になっちまったんだぞ!」

 

「ふはははは! 阿呆じゃ、小生をも上回る手前勝手な阿呆がおられる」

 

「んだとォ!?」

 

「貴殿も小生らも、所詮は他人にございます。できて助言ぐらい。生き様は己のみぞ決められる」

 

「ならせめて、大将の事ぁ放っておいてやれ! あの人は人間だ、おめぇら化け物たぁ生き方が違う!」

 

「己惚れるな小僧、貴様とて雷神と山姥の子であろうが!」

 

 俺の生まれを知っている事より、猫の翁が怒った事に驚いちまった。

 

「……強かろうが弱かろうが、化け物だろうが人間だろうが、望んでも足掻いても叶わぬのがこの世なのだと茨木殿は知ってしもうた。

 

 せめて力の限り望み足掻き、己の生き様を貫ける強き者が生き残って欲しい。そんな想いを抱いて茨木殿は、己が定めた秩序を強いる鬼と化した。

 

 力も心も弱き者を許さぬ、人も化け物も虐げ殺す悪鬼にな……」

 

 かつての茨木童子は今と違った生き様だったのだろうか……そう思える程に猫の翁は神妙な顔を浮かべていやがった。

 

 力も心も弱き者を許さぬ、か―――その生き様に善悪はなく、しかし測り方は化け物基準。理不尽のようで、筋が通っているようにも思える。

 

「……()せねぇぜ。鬼が人間を虐げるから、俺らは殺さなきゃならねぇ。虐げる前に、歩み寄ることぁできなかったのかよ」

 

「……くはははは、本当に手前勝手な阿呆にございまするな! 人と化け物より生まれし鬼子ですら人を殺し鬼を殺すというのに、どうして和解などできましょうや!?」

 

「少なくとも俺と酒吞は……この村の連中とは解り合えた! 遠い未来にだって、共に生きるって選択はあるはずだぜ!」 

 

 こうして言葉をぶつけ合うことだってできるんだと、俺は叫びたかった。その叫びは焚火と同時に消されちまった。

 

「金時殿、夜明けも近い故に立ち去りなされ。そして此処を忘れよ……酒吞殿もそう願っておられる」

 

「酒吞が?」

 

「実は金時殿が今夜来ると勘づいたのは酒吞殿でしてな。もし金髪の小僧が来たら伝言をと命じられ、此処で待った次第」

 

 そういや酒吞の奴が居ると思って此処を訪れたんだった……俺が来ると勘づいておきながら猫の翁を待たせるたぁ一体?

 

「恋は終い、次会ったら殺し合おうや、と申しておりました。酒吞殿も此処を言い訳に貴方様と会う事を楽しみにしておられた様子」

 

「……そうかよ」

 

 俺と同じ事考えてやがったのかよ……次は殺し合いになるから此度で最後にしようと思ってやって来たってのに……。

 猫の翁は思い悩む俺を他所に、燃え滓を川の水で濡らし、寒い寒いと言いながら四つ足で軽やかに歩き出した。

 

「貴方様と会えてよかった。貴方は身も心も強く、そして優しいお方だ。どうか生き延びてくだされ―――ではコレにて失敬」

 

 二本足で立ってお辞儀をした後、猫の翁は四つ足で森の奥へ走り抜ける。あっと言う間に後姿が見えなくなっちまった。

 

 思い悩むが、夜が明ける前に戻るとすっか。見つかったら頼光サンに、決戦前に何してんだって怒られちまう。

 

「……寒ぃな」

 

 

 

 身も心も、この寒空に当てられちまったようだ―――俺らは本当に大江山の鬼を退治できるんだろうか?

 

 

 




大江山の鬼退治に続く。

作者はここんとこ、もののけ姫を見て影響されてます(土下座

余談ですが、FGO5周年記念凄い内容ですね。
特にキャスター・アルトリアとか(震え声
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