【秩序/悪】な茨木童子(猫又付き)   作:ヤトラ

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茨木童子オルタの本気はマジヤバいって所を書きたかった。

ここからは特に独自設定・独自解釈が目立つようになります。ご了承ください。

皆さんも熱中症にはお気をつけて。気温も高くなり、集中力が落ちるようなら無理せず体を程よく冷やしましょう。


大江山の鬼退治

 神便鬼毒———それは酒吞童子と茨木童子を屠る為に賜れた毒酒である。

 

 その酒は鬼をも黙らせる美酒であり、どんな酒豪も忽ち酔いどれ自由を奪われるとされるが、真価は何と言っても「鬼神の絶大な妖力ですら封じる」特別な呪術にある。

 一口飲めば酒の美味さに驚き、二口飲めば美酒に抗う事敵わず、三口目ともなれば自由を奪われ妖力を封じられ、それ以上飲めば死んだように眠るであろう……この毒酒を授けた者はそう言っていた。

 

『美味い、美味いぞぉ! なんじゃいこりゃぁ!?』

 

『酒ガ止マラネェ、モット寄越シテクレヤ!』

 

『オイオイ酒吞童子様ト茨木童子様ニ断ワリ無ク飲ムタァ図々シイ野郎ダ!』

 

『仕方ねぇよ、こりゃどんな財宝も敵わねぇ極上の美酒だぜ!』

 

 現に、頼光と四天王らが宝と共に大江山の鬼々に神便鬼毒酒(表向きは都が誇る宝の如き美酒)を振舞った結果、このような事態になった。

 腕っぷしも酒も強いはずの鬼達が、最初の一献を飲んだ途端に宴状態と化していた。先ほどまで厳格な姿勢で頼光らを睨んでいたというのに。

 

 豪華絢爛ながらも成金趣味を感じられぬ風情ある屋敷……大江山の酒吞童子らが住まう城の中にて、彼らは宴を開いていた。

 頼光を筆頭に四天王らが「都は降伏し、その証として宝と都が誇る美酒を授けます」と言ってきた時は驚き疑ったが、酒吞童子の「ええやん」という鶴の一声、そして先の美酒の美味さで黙らせた。

 鬼の中には早々に酔いつぶれ眠る者もいるが、それでも鬼達は眼前に並べられた宝の数々、そして盃に注がれた美酒に文字通り「酔いしれて」いる。

 

 なのに―――なのにだ。

 

「……はぁ」

 

「……(がぶり)」

 

 酒吞童子と茨木童子だけは違っていた―――最も毒酒を飲んで欲しい鬼が、飲む気が起きていないのだ。

 

 酒吞童子は最初の一献に大層驚き、思わずもう一献口に運び……それ以降はつまらなさそうにため息を漏らすばかり。

 茨木童子に至っては一献も飲まず、猪の生肉を骨ごと齧りながら、膝を折って平伏する頼光と四天王を睨み続けている。まるで呪いでも掛けるかのような眼力だ。

 

「……どうかなさいましたか? 大江山の首魁ともあろう者が宴に混ざらぬなど」

 

「……そう急かんでもええやん、ほら、月明りが綺麗やしなぁ」

 

 「毒虫」と呼び酒吞童子を嫌い憎んでいるはずの頼光が、彼女の機嫌を伺う―――それは彼女の武勇を知る鬼達にとって「都の降伏」の真実味を帯びさせた。

 それほど信じられない光景だが、一番信じられないのは酒吞童子らしく、不意にゲジゲジを見たかのように眉間に皺をよせ、吹き抜けの天井から月を見上げ続けている。 

 

「……では茨木童子殿は?」

 

「人間の、それも都の阿呆共が出す酒など飲めるか」

 

 ギギギ、と鉄と鉄が擦り合うような音を立てて頼光の顔が茨木に向けられるが、彼女は口元の血を舐めとりながら睨み続けている。髪から漏れる蒼い炎が大きく揺れた。

 頼光は冷や汗一つかかないが、後ろで控えている四天王は冷や汗どころか脂汗が浮かんでいる。特に金時は気が気でなく、普段から単純寄りの思考の為か、ソワソワと思いっきり体に出ている。

 

(おいおい予想外だぜ、こりゃ大将が持つかどうか……!)

 

 あまり対面したことのない茨木童子は兎も角、酒吞童子に関しては度々こっそり会ってるので性格はよく解っている……まさか酒吞童子が美酒を一杯で止めるとは金時ですら思わなかった。

 

 まさか猫の翁がまた盗み聞きを……と金時は危惧したが。

 

「あ、それそれ猫が立って踊り給う♪ 腰振れ尾を振れお手を拝借♪」

 

 このように、猫達が二本足で踊り鬼達の笑いを誘っている。猫の翁は酒に酔うというより場に酔っているが、それにしても楽しそうに踊っていた。

 あれだけ楽しんでいれば毒酒の事は考えてもいないだろう。とりあえずは不安要素が減って息を零すが、目の前の事実(らいこうのしずかないかり)に冷や汗が止まらないのは事実だ。

 

 そんな金時を見た酒吞童子は、はぁ、と解り易い程に大きなため息を漏らす。

 

「解るわぁ金髪の小僧。殺し合いたくて仕方ないんやろぉ?」

 

 一瞬バレたのかとドキっとしたが、どうやら金時の体の震えや焦りを「戦いへの衝動を抑えている」と勘違いした様子。

 酒吞童子の目つきが蕩けているからして、確かに酒は効いている。金時は己らの作戦が見破れなかった事、酒吞童子に毒酒の効能が働いている事を知って小さく息を零した。

 

「うちなぁ、てっきりお宝受け取った途端に殺しに掛かる思っとったわ。ちょーっと宴して盛大に殺し合って、楽しくなるやろうなぁと期待して……ほんまに都が降参してもうたんやなって落胆したわ」

 

 そうため息を漏らして頼光を見下す―――その視線にはハッキリと侮蔑が込められ、金時がゾクっとするほどに冷たい目だった。

 

「なぁ牛乳女、うちを殺したいんやろ?」

 

「———何のことやら。吾らは都を代表し、降伏と服従の意志を伝えに参った次第」

 

「都はどうでもええ。さっきから殺気を押し隠しといて何言うてんや。それともうちが今から殺し合おう命じたらやるんか?」

 

「———私は源氏の棟梁として、都の決定に従うまで。酒吞童子殿に逆らうような真似は都の決定に背く事になります故」

 

 何卒、と頭を下げる頼光。その心には激しい憤怒と嫌悪が押し隠されているのが解るが、酒に酔った鬼達は誰も気づかない。

 それを察知したが故に、酒吞童子は心底詰まらないと言った具合に盃を揺らし、月を見上げる―――酔いが覚め切ったかのように。

 

 予想以上にギスギスと、それでいて二人の矜持や生き様を粉々にするような展開に、金時は腸が煮えくり返る程の怒りを湧かざるを得なかった。

 

「気に食わぬ……真に気に食わぬ」

 

 だがそれ以上に怒っているのは酒吞でも金時でもない―――生き様を何よりも大事にする悪鬼・茨木童子だった。

 

『茨木様ぁ、さっきから酒も飲まねぇで何苛々してやがんですかい』

 

『そうですぜ、やっとこさ俺達が生きやすい世の中になろうってのに!』

 

『ギギギ、俺達ノ生キ様、日ノ本中ニ知ラ示ソウ! ダカラ茨木サマ、甘イ物食ウカ?』

 

 茨木の呪うような怒りを日常茶飯事に感じている鬼達は思わず茨木の様子を伺うが、やはり浮かれた様子だ。しかし酒に浮かれているのではない。

 今日という日は鬼という種が人間に打ち勝ったのだという勝利に浮かれているのだ。猫達ですらニャアニャアと鳴いて喜んでいる。

 

『強ささえ身に付ければ生きれる世に!』

 

『辛抱スリャア、俺達ミテェナ雑魚デモ生ラレル世ニ!』

 

『心も体も弱い奴は食われるか、強き者に従って生き延びるか!』

 

『コンナ糞ッタレデ理不尽ナ世ナンザブッ壊セ!』

 

『にゃあにゃあ、茨木様、酒天様、万歳!』

 

 気づけば鬼の誰も彼もが茨木童子を称えている―――俺達の【生き様】が勝ったのだと。俺達に従い生きる人間共も安泰だと。

 その称賛の雨嵐のド真ん中に居る頼光と四天王らは、その鬼達の熱気と歓喜を前に呆気に取られていた。

 

「その弱い人間共が顔も出さず、強き者たるこの者らに頭を下げさせるなど、筋違い甚だしいわ!」

 

 茨木童子の怒声が称賛の嵐を吹き飛ばす。都がしたことは、茨木の描く生き様を否定するも等しい、と。

 

 茨木の怒りに唖然とする鬼と四天王、そして逃げる猫達。変わらぬのは能面と化した頼光と酒吞、そして手前勝手な猫の翁だ。

 

「茨木殿、お気持ちは解ります。此度の降伏の仕方は、貴女様の怒りを買うやり方故に」

 

 猫の翁はまだ場に酔っているのか、それとも空気を読まないのか、ひょいひょいと宴の品や盃を飛び越えながら茨木童子の前に立つ。

 

「然らば、後に都の者共に知らしめればよかろう。降伏するなら偉く弱き者が頭を下げて当然と。貴女様のいう無知で無様な人間だけを懲らしめてしまいましょう。ほれ、お楽しみが増えましたぞ」

 

 猫又の表情や踊るような動きに一片の恐怖も不安もない。紺の甚平を揺らし、煙管を杖に見立て二本足で踊る様は、茨木を楽しませる為にやっているかのよう。

 そんな猫の翁の踊りを見ている内に怒りと呪いが収まっていき、やがて呆れたようにため息を漏らして肩の力を抜く。そして茨木童子は笑うのだ。

 

「全く……貴様はいつもそうだ。吾を子ども扱いしおって」

 

「ほっほっほ。小生は猫です故、気ままに茨木殿を慕うのです」

 

「子ども扱いする理由になるのかそれは? 酒吞よ、飲み終えたら此奴らを縛り上げ、都を襲った後に殺し合おうぞ。邪魔者を消してからの方が悠々とできよう」

 

「……ああ、確かにええかもねぇ。隠れてふんぞり返ってあーしろこーしろ言う五月蠅い蠅を殺して、そしたら牛乳女と金髪の小僧と存分に殺し合う……ええなぁ」

 

「では吾は残りの四天王を呪い殺してやろう。吾が殺されようが奴らが殺されようが構わぬ、弱き者は死ぬのだと人間共に思い知らせてやろう」

 

「では二人の伝奇を書物につづりましょうぞ。やれ嬉しや、楽しみにございます」

 

 いつの間にか二匹の鬼と一匹の猫又が和気藹々と語り合い、それに感化された鬼と猫が再びどんちゃん騒ぎを始める。これには流石の頼光もついて来れないか、誰にも聞こえぬため息を漏らした。

 

 そして、遂にその時が来た。

 

「もう気にするものか、吾も飲むぞ……なにこれ!? 美味いぞこれ!?」

 

 茨木がようやっと盃を口にし、その美味さに驚いてゴクゴクと神便鬼毒を飲み干していく―――そして早く結果が出た。

 

「うわっはっはっは! 天が回る地が回る、吾以外が回っておるわぁ! ほぅれほれ、酒吞ももっと飲めぇ」

 

「あはは、こないに酔っとる茨木初めてみるわぁ。うちが擦り寄っても靡きもせなかったんに、猫みたいに擦り寄ってもうて……可愛いやっちゃ」

 

「いやはや、都が誇る美酒とは言ったものですな」

 

 先程までの巌のような態度が嘘のように茨木は笑い、飲み、上機嫌に酒吞童子に身を寄せる。気の性かゴロゴロと喉を鳴らしているようにも見える。

 そんな茨木を膝枕して可愛がる酒吞と、流石の猫の翁も中々見ない光景に目を丸くして驚き、書物に筆を走らせている。普段から茨木と言う鬼は堅苦しい鬼らしく、物珍しそうに部下の鬼達が囲んでいる。

 

 その酔いっぷりを見て―――金時はある危機感を抱いていた。

 

(確かあの酒ぁ、3口も飲めば自由と妖力を奪うっつったよな……なんでまだ飲める?)

 

 そう―――茨木童子は既に5杯以上も盃を飲み干し、それでも笑っている。

 

 酒吞童子はまだ解る。なにせまだ2杯しか飲んでおらず、今は甘える茨木童子を可愛がって遊んでいる。鬼達も何匹かは既に寝込んでいる。

 それでも茨木童子はガブガブと酒を飲み、声を出して笑い酒に酔って楽しんでいた。金時の目には毒となるレベルで酒吞の身体に絡む余裕もある。流石の頼光もこの光景を目の当たりにして冷や汗を掻く。

 神便鬼毒を見破り解毒した様子もない……茨木童子の妖力は目に見えて衰えているが、むしろその身に宿す呪いの量(・・・・)が―――。

 

「くははは、ほぉら飲め、貴様らも飲め! 一献でもいいから飲まぬかぁ!」

 

 思考に耽っていた所へ、茨木が眼前に現れる。金時は思わず声に出して驚くが、それですら茨木は笑った。

 

「ほれ飲めやれ飲め! 吾が注いだ酒ぞ、飲まぬとは言うまいなぁ!?」

 

 人間相手と見てか御猪口に酒を注ぎ、それを頼光と四天王に差し出そうとする茨木。まだ毒が回っていない鬼達は、そうだ飲め飲めと催促する。

 茨木童子の足取りは危うい。意識も朦朧とし、顔が真っ赤になり目も虚ろ。警戒心どころか妖力も無いに等しい―――。

 

 

「なぁに、どうせ都の貴族は吾らに食われる! 源氏の父も殺してくれよう! そうなれば貴様は自由ぞ、子を産み育むも良し、吾らを殲滅するも良し、いや鬼と酒で語らう日も来るか? とにかく全てが貴様らの意志のみぞ決められる! 自由だ、吾らも汝れらも自由に生きれるのだ! 美酒を飲んで喜び合おうぞ!」

 

 

 酒に酔い、責務も憎悪も種族の差も今は忘れ、他者であろうとも自由に生きれる未来を喜ぶ鬼の少女———それが源頼光にはどう映ったのかは解らないが。

 

 

 

(ザン)ッ!!

 

 

 

「ふはは! 天が回る地が回る、先程よりも豪快に回りよるわ、ふはははは!」

 

 首を斬られた事にも気づかず笑い続け、茨木童子の首が天を舞い、地へ転げ落ちた。

 流石は上位の鬼というか、茨木童子は生首のままでも意識を保ち続け、沈黙の中で只笑い続けていた。

 

「———茨木」

 

「武器を取りなさい四天王! 今こそ鬼退治ぞ!!」

 

 酒吞童子の掠れた呼び声を頼光の怒号が掻き消す。それを合図に我に返った四天王が宝に混ざった己の武器を取り、混乱する鬼達に刃を向ける。

 頼光は強靭な脚力で一気に跳躍し酒吞童子に詰め寄る。彼女は傍らに置いてあったものを咄嗟に抜く。それは鍔が無い長刀で、頼光の刀を真っ向から受け止め、甲高い音が絶叫と混ざり響く。

 

「うちは鬼やけど、ここまでの外道は見た事あらへんなぁ―――恥を知れや

 

「黙れ毒虫」

 

 鍔競り合いを制したのは頼光。動けるとはいえ(・・・・・・・)毒が回ったらしく、酒吞は今までのような怪力を発揮できない。だが己の背丈ほどもある刀身を振り回し、躱し、弾き、往なし頼光と張り合う。

 弱っている酒吞童子を四天王と合わせて戦えば確実に討てるだろうが、それを阻むのは動ける鬼達である。だが酒の効力は絶大で、せめて肉壁として立ち塞がるも悉くが血肉となって倒れていく。

 

「おめぇら、雑魚なんざかまうな! 酒吞童子を討てば―――っ!?」

 

 ヤケクソのように金時が叫ぶが、腕に走る激痛に目を顰め、それが甚平を羽織った虎猫―――猫の翁の噛み付きであることを知った。金時は剛腕を持って振りほどくが、猫の翁はヤマネコのようにギラギラと眼を光らせ、全身の毛を逆立てて悍ましい声で威嚇している。

 猫の翁と酒吞童子の激しい怒りと憎悪を嫌という程に感じ取れる。金時は猫の翁を攻撃する気が起きず、武器を構えて立ち止まるが―――。

 

「ふあっはっはっは! 猫の翁ぁ、見ろぉ!」

 

 茨木童子の声が再び轟く。生首となっても平然としている生命力は恐ろしいが、それよりは茨木が見ろと言っているものが気になり、振り向けば―――。

 

 

「なんか変なのが吾の身体から漏れてる!」

 

 

―――背筋が凍る程の呪詛と怨念が込められた炎と水が、茨木の首から溢れ出ているではないか。

 

 

「いかんっ!!」

 

 身体が独りでに痙攣し、首から水と気泡が溢れ、人の顔をした蒼い炎が幾つも吹き出る。それを見た猫の翁は立ち上がり、逃げようとしていた猫達を呼び止めて搔き集める。

 喧騒を他所に猫達が茨木の身体を囲み、何匹かが瓢箪から清らかな水を注いで結界を敷く。慌ただししく、しかし手慣れた様子で茨木から漏れる呪詛を封じようとし、猫の翁が両手を合わせてお辞儀する。

 

「鎮まり給え、鎮まり給え。御身の恨み辛みを抑え給え。かしこみ申す、かしこみ申す……!」

 

 猫の翁の懇願も届かず、呪詛と怨念は炎と水となって天と地を支配せんと広がっていく。囲んでいた猫達も後退っていく。

 金時もヤバいと感じる中、茨木の着物からポロポロと骨のようなものが零れ落ち、それが床を濡らす水に触れた途端。

 

―――ボワンッ!

 

 骨に注がれた呪術が解ける―――暴君(ティラノサウルス)地鳴(フクイティタン)海鰐(モササウルス)の三匹の骨龍。それを凝縮していた呪術が。

 バラバラになって飛び散った太古の龍骨(きょうりゅうのかせき)を合図に炎と水は濁流となって周囲にあふれ出し、猫達は一目散に逃げだした。

 金時は咄嗟に茨木の首を抱えて飛び上がり、四天王と頼光、酒吞童子は炎と水と骨を避けるが、毒酒に当てられた鬼達が避けるのは鬼門だった。

 

『ぎゃあぁぁぁ!?』

 

『あづい、あづいよぉ!』

 

『ギャァァァナンダコノ水、燃エル、燃エチマウゥ!』

 

 炎に触れた鬼が蒼く燃える。水に触れた鬼も蒼く燃える。しかし柱や宝には燃えず、生きた者は瞬く間に骨だけが残って燃え尽き、その骨が炎を纏って茨木の身体に集いだす。

 やがて骨は茨木の身体を覆い、重なり合い、まるで積木のように連なり大きな形と化していく。炎は骨の塔に纏い、川のように溢れた水は入口へ向けて流れていく。 

 川に囲まれ逃げ場を失った酒吞童子と頼光が、次々と積み重なっていく炎の骨の塔を見上げる。

 

「これは……一体……!?」

 

「あーあ、あの酒、やっぱ呪いが込められとったかぁ。酒の匂いにヤられて解らんだわ」

 

「説明しなさい毒虫、これはなんなのです!?」

 

「茨木はなぁ、呪いとか怨念とかに詳しいねん。ウチもそないな茨木と散々喧嘩してたんや、呪いにも強ぉなるわ(・・・・・・・・・)

 人間の恨み辛みを人間ごと食いながらため込んで、怒り辛みを呪いに変える事ができる茨木に、あないな呪いの酒をガブガブ飲ませてみぃや」

 

 

「そら祟り神擬きにもなるやろ」

 

 

 ニタァ、と酒吞童子は嗤う―――お前のせいだ、と暗に頼光に言っているかのように。

 

 

「あんたはんのせいや。呪いは止まらへん。無実の罪で追い出された人間共の恨み辛みが濁流となって都へ向かうやろうなぁ。みんな、みぃんな燃えてまうわ」

 

「そんな……」

 

 屋敷も骨の巨体が押し上げて崩れていく。逃げなければならぬというのに、頼光は巨大な呪いを前に愕然と佇んでいた。

 酒吞童子はうっすらと笑い、持っていた鍔無しの長刀……かつて無実の罪を被され追放された鍛冶師が、拾ってくれた鬼の為にと怨念を込めて打った刀を向ける。

 

「もうどうでもええ。大好きな金髪の小僧も茨木も、もうウチの物にはなれへん。牛乳女と存分に殺し合えへん。いずれ酒に溺れて力尽きるやろうけどな、力の限り抗わせてもらうわ」

 

 酒吞童子は、まるで己の運命を斬り捨てるというかのに鋭い目で頼光を睨む。研ぎ澄まされた殺気が斬りかかるが、頼光は狼狽したままだ。

 

 

 

「大江山の首魁・酒吞童子の生き様―――その身に刻めや、外道」

 

 

 

 そこに佇むのは、覚悟と生き様を決めた一匹の剣鬼と、己の失態に狼狽える源氏の長だけだった。

 

 

 

▼▲▼▲

 

 

―――あははは、ふはははは!

 

 

 少女の笑い声が響く。天高くから、炎と骨を帯びて、触れた物を燃やす濁流を流しながら。

 

 大小様々な大量の骨が集い、巨大な茨木童子の顔と両腕を形成して空を飛ぶ。ゆっくりと、青い炎を纏い輝きながら。

 アバラから下が無く、しかしその浮遊する上半身を追うようにして濁流が山を下り、水に触れた山の動物達が火達磨になって燃え盛る。

 炎は人の顔を無数に表し、誰も彼もが呪詛を吐いている。恨んでやる、呪ってやる、嫉んでやる、殺してやる……全てが裕福に暮らす者達への恨み辛みだ。

 

 巨大な呪いの化身と奔流は、真っすぐ京の都に向かっていく。

 

『小僧ォォォ! ヨクモ茨木ノ姐御ヲォォォ!』

 

『ソノ首置イテケェェェ!』

 

『テイウカ置イテッテクレネェト俺ラマデ呪ワレル!』

 

「おい茨木、茨木! 起きろ、どうすりゃいいんだあの呪い!」

 

「う~ん……もう飲めん……」

 

「寝るな! 都の命運はお前ぇに掛かってんだぞ茨木童子ぃぃぃ!!」

 

 

 追いかけてくる鬼達を振り払いながら、酔いつぶれた生首を抱えながら走る坂田金時の叫びが闇夜に轟いた。

 

 

 




羅生門の呪怪に続く。

酒呑童子はただ、己の生き様を貫きたかった。
茨木童子はただ、生き様を貫ける世を目指したかった。
猫の翁はただ、茨木と酒吞の為に何かをしてやりたかった。
それを踏み潰した頼光は、己の命運を受け止めただけだった。
思い悩むは鬼も人間も同じ。貫き通したきは己の生き様。

語彙力の少ない私が精一杯表現したかったものが、茨木童子オルタへの道です。

次回で生前編を終わらせたいところ……終われる、かなぁ(汗
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