最強のスラッガーを目指して!【本編完結】   作:銅英雄

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早川朱里の過去とこれから……

「……私のリトル、そしてシニアでの話を聞いてほしい」

 

私は意を決して過去を話す事にした。それに対して皆緊張していた……。

 

「川越リトルシニアの話!?聞きたーい!」

 

……んだけど、芳乃さんが髪をぴこぴこさせながら嬉しそうにしている。あれ?シリアスな話する予定だったのに可笑しいな。

 

「あっ、私も私も!」

 

武田さんまでシリアスモードから脱出。それなりに重い話をするつもりだったのに、興が削がれた……。

 

「ちょ、ちょっと!朱里は真剣な話をしようとしてるのに、そんなんで良いの!?」

 

「そうだよ。真面目な話なんだから、ちゃんと聞かないと……」

 

今程息吹さんと山崎さんがいて良かったと思った事はない。2人の好感度が私の中で急上昇だよ……。

 

「……じゃあその前に私の本当のポジションを話しておこうかな。もしかしたら芳乃さんは既に気付いていたかもしれない」

 

「……!」

 

芳乃さんのあの表情……やっぱり気付いていたね。多分私の脚にまとわりついていたあの時点で……。

 

「それでも今まで言わなかったのは私の口から言うのを待っていたからなのかもね。まぁ雷轟が言おうとしていたけど……」

 

「朱里ちゃん……」

 

はぁ……。気が重い、胃がキリキリする……。

 

「……私がリトル、シニアでやっていたポジションは投手。一応エースナンバーを付けていたよ」

 

「エース!?凄ーい!」

 

「あの川越リトルシニアでエースナンバー……!」

 

「朱里って物凄い大物だったのね……」

 

「でもそれなら何で紹介の時に外野って……」

 

3人が評価を高くしてる中で芳乃さんは私に自己紹介の時に私が言っていたポジションについての質問。

 

「その話をする前に私の過去について話そうか。ポジションについてはここに来る前に主将と藤井先生には既に話してある。これからの新越野球部の為にね。……私がこれから話す事を知っているのは私とバッテリーを組んでいた二宮と、それ以外だと雷轟だけ」

 

(あとはあの子も知ってるけど、まぁ余り関係ないかな)

 

その事実に皆は息を呑んだ。これから話すのは私のデリケートな部分だから……。

 

「私のリトル時代は……って自分の事を評価するのはなんか恥ずかしいから、二宮からの評価で話すね。二宮が言うには私のピッチングスタイルは速球と決め球であるシンカーを中心に打者から多数の三振を取っていたよ」

 

「ほぇぇ……!」

 

「そ、その映像とかってあるかなぁ?」

 

「それって朱里のリトル時代での話でしょ?今急に言われてもそんなのある訳……」

 

芳乃さんが興奮している……。息吹さんが呆れながら言うように、そんな急に言われても持ってきている訳がない。けど……。

 

「……そう言うと思って持ってきているよ」

 

「本当!?」

 

「あるの!?」

 

「……今日二宮が私に渡してきたのが丁度リトル時代の私のピッチング映像なんだよね」

 

「二宮さんって凄い先読みが上手そう。同じ捕手として負けた気分……」

 

「いや、それに関しては二宮が異常なだけだから」

 

実際に捕手としての技術は山崎さんや柳大の浅井さんが上回っている。二宮が優れているのは投手を乗せる性格をしている事と、情報力と情報量の数が半端じゃない事、それと二手三手先を常に見ている事。だから二宮は川越リトルシニアで最後までスタメンマスクを被っていたのだ。

 

……今思えば二宮は私がこの話するのを読んでいてこの映像を渡したな?怖い。二宮怖い。

 

「早速この映像を見ようよ!」

 

「見たい見たい!」

 

「わ、私も……」

 

「同じく……」

 

あの、君達練習は……?そんなに見たいの?

 

 

~そして~

 

川口家に許可を貰ってリビングでリトル時代……小学4年の頃から二宮が撮り続けていた私のピッチング映像を5人で見ているんだけど……。

 

「うわっ!ストレート速いわね……」

 

「110は出てる……。朱里ちゃん、こんなに凄い投手だったんだね」

 

「まぁあれはあれで後に問題が発生するんだけどね……」

 

「問題?」

 

「まぁその話は後で……。確かこの次に投げるのが決め球のシンカーだった筈」

 

私の予想通り、次に投げたのはシンカーだった。

 

「す、凄い曲がり方したわね。これじゃあまるで……」

 

「ヨミちゃんのあの球みたい!」

 

「そ、そんなに似てる……?」

 

武田さんのはカーブ系だけど、私のはシンカーだから似ても似つかないと思うんだよね……。自分ではわからないから何とも言えないけど。

 

「う~む。似てるかも……!」

 

……どうやら武田さん本人も似てると思っていたらしい。

 

「しかしこんな球を難なく捕球する二宮さんも凄いわね……」

 

「リトルの監督曰く二宮のキャッチングは既に中学レベルだって話だよ」

 

「……これって小学4年生の時の映像じゃなかった?」

 

うん、まぁ……山崎さんの言いたい事はわかる。しかも本人は大して意識していなかったらしいし。

 

「まぁ二宮のキャッチングレベルは中学でもそんなに変わってなかったよ。尤もそれ以降の話は知らないけどね」

 

白糸台で二宮がどんな練習をしているのかにもよるから何とも言えない……。

 

 

~そして~

 

映像を一通り見終わったので、私は続きを話す。

 

「あの映像通りにどんどんと投げ込んでいた私に1つ大きな問題が発生した……」

 

「さっき言っていた問題ね」

 

「……私の右肩は炎症を起こしたんだよ」

 

「えっ!?」

 

「そ、それって大丈夫だったの?」

 

「……医者に診てもらったけど、もう投げられる状態じゃないって言われたよ」

 

「それでポジションは外野って……」

 

なんか右肩をやらかしちゃって外野をやる事になってるっぽいけど、まだ話の続きがあるよ?

 

「……あれ?でもシニアでも投手をやっていたって言ってたよね?それにポジションについても外野とかは厳しいんじゃ……」

 

「山崎さんの言う通り、それでも野球を諦めなかった私は新しい道を進んだ」

 

「まさか……!」

 

芳乃さんと武田さんも察したみたいだね。息吹さんだけが理解出来ていないけど、多分初心者だからわかってないのかも……。

 

「……まぁ大体察したと思うけど、私は右投げから左投げへと転向した」

 

「それって簡単に出来るものじゃないよ!」

 

山崎さんが否定気味に指摘する。まぁそうだよね。普通はそうなんだよね……。

 

「……幸か不幸か私は両利きだったから、昔から遊び感覚で左投げの練習をしてたんだ。その時はまさかそれが活きるとは思ってなかったけどね」

 

「……それでも相当時間を費やしたんじゃないの?」

 

「公式試合に出られるまで8ヶ月くらいかな?それくらいの時間を使ったね。二宮はそれでも十分速すぎるって言ってたよ」

 

私はそんな感覚よくわからなかったけど、捕手が言うならそうなんだろうね。そう考えると私って随分恵まれた環境で野球をしてたんだな。

 

「それで中学ではどんな球を投げたの?」

 

続いて武田さんが質問をする。その質問にはどう応えたら良いだろうか……。そうだ!

 

「……それは実際に見てもらった方が早いかもね」

 

「それって……!」

 

「今から投げてみるよ」

 

「川越シニアのエースだった朱里ちゃんのピッチングが見れるの!?」

 

よ、芳乃さんが滅茶苦茶嬉しそう……。髪をぴこぴこさせてるし。まぁ私も二宮以外に受けてもらうの初めてだから、ちょっと嬉しいのと緊張が混じってる感じがする。

 

流石に家の外でやるのもあれなので、私達は場所を近くの公園に移した。

 

「じゃあバッターボックスには息吹さんに立ってもらおうかな?」

 

「わ、私!?」

 

「山崎さんは捕手だし、武田さんには後で立ってもらうつもりだよ」

 

そう言うと納得した表情で息吹さんが右打席に立つ。私が右投げのままだったら左に立っていたのかな?山崎さんには私の球の捕球を、芳乃さんは審判を、武田さんは観客を。いや武田さんの立ち位置ェ……。まぁ良いや。

 

「じゃあ投げるね」

 

「来なさいっ……!」

 

山崎さんのミットはインコースの低めを構えていた。そこに私が左投げで得たピッチングを叩き込む。

 

(映像の右投げに比べると随分と遅い球……。これなら私でも打てる!)

 

最初に投げた球は後ろに飛ばされてファールになった。これで第1段階は終わり。次は……。

 

「じゃあ次投げるね」

 

(さっきと同じ球?それなら今度こそ前に飛ばす……!)

 

(……って息吹さんは思ってそうだけど、この球はそう簡単には打たれないよ)

 

なんたって私が試行錯誤して出来た球だからね!結果は目論見通りの空振りだった。

 

「す、ストライク!」

 

「嘘!?打てると思ったのに……」

 

「私も打たれたと思ってた……」

 

「まぁ私が苦労して投げられるようになったたのが今の球だからね。そう簡単に打たれたら私の立場がなくなるよ」

 

なんたってこの球でシニアの敵達から三振を沢山取ってきたからね!まぁ少なからず二宮のリードのお陰でもあるから、山崎さんのリード力があれば更に私は強くなれる。

 

(まぁ目的はそれだけじゃないけどね)

 

「山崎さんは私が投げた球について何かわかった?」

 

「……ストレートにしてはなんか違和感があるんだよね。でもなんだろう?」

 

……やっぱり捕手なだけあって私が作り上げた球の正体が少しわかっているね。二宮でも完全に気付くのに1ヶ月はかかったのに対して山崎さんは投げた直後で気付くとは……。

 

「……今私が投げたのはスライダーだよ」

 

「スライダーって……変化球なの!?」

 

「完全にストレートだと思ってた……」

 

「……そうか。違和感の正体はそれだったんだ」

 

息吹さん、武田さん、山崎さんは三者三様に反応を見せていた。

 

「凄~い!」

 

芳乃さんは例によって髪をぴこぴこさせていた。もう私はあれ

に突っ込まない。

 

「じゃあ今から私が投げた球について説明するね」

 

一旦投球を止めて私は皆に説明を始める。

 

「私はシニアに入ってから二宮と一緒に色々考えたんだ。考え抜いた末に思い付いたのが今息吹さんに投げたスライダーみたいに変化球をストレートに見せる方法だよ」

 

「……私はそれに引っ掛かったのね」

 

まぁある人の尽力のお陰で今の私があるんだけどね。これを教えてくれたあの人には感謝しかないよ。

 

「コツは2つ。1つ目は変化球と同じ速度でストレートを投げる事」

 

「変化球と同じ速度で……?」

 

「ストレートじゃないけど、武田さんが似たような事をやっていたよ」

 

「えっ?私が!?」

 

「そう。武田さんが投げたストレートがあの魔球と同じ速度になっている……。逆に言えば武田さんが今まで投げていたストレートが少し遅すぎたんだよ」

 

「私のストレートが遅すぎた。がーん……」

 

「いや、ショック受けないで。武田さんは本来もっと速いストレートが投げられる筈なんだけど、無意識下でストレートがあの魔球寄りの速度になっていたんだよ。さっき芳乃さんが言ってたでしょ?武田さんの球速が上がると思うって。その兆しが武田さんのピッチングスタイルから出てたんだよ」

 

「そ、そう?えへへ~!」

 

これは私が武田さんのピッチングを見て思った事。そもそもあんな魔球を投げられる人のストレートがあんなに遅い訳がないし。

 

将来的に武田さんは私よりも速い球を投げられる気がするんだよね。

 

「……話を戻すと普通に投げたらストレートよりも変化球が遅くなるけど、そこでストレートを遅く投げる事によって変化球と速度を揃えるんだ」

 

「ストレートをわざと遅く投げる……」

 

「そんなピッチング……考えた事もなかったよ」

 

「まぁ普通は考え付かないよね。あれだって私の右投げ時代と全く違うピッチングスタイルだし」

 

「じゃあ私が打ったのは遅く投げたストレートだったのね……」

 

「その通り。そして2つ目はボールが曲がる所を普通の変化球よりもずっと打者の近くにする事。打者が球種を見極めるポイントは大体投手寄り。変化球が曲がり始めるのも同じだね。だからボールの変化がわかる……。でもそれをもっと打者寄りに投げる事によって同じ速度と軌道でストレートとスライダーが進んで、もしもそれが見極めポイントを過ぎるまで続いていたら例えそれがスライダーの曲がり方をしてても完全に気付かないって訳」

 

私が説明を終えると4人共ポカンとしてる。あれ?私何かやっちゃいましたか?

 

「……つまりそれって曲がり始め遅らせる分変化量は出ないけど、その方が傍目からは変化球とは気付きにくいから相手を騙し通せるって事?」

 

いち早く復活した山崎さんが私にそう訪ねてきた。

 

「その通り。一応シニアではこれを投げ続けてきたよ」

 

「す、凄い凄い!これなら優勝も夢じゃないよ!」

 

「そうだよ!これからエースは朱里ちゃんだね!」

 

いやいや、武田さんがそれを言っちゃダメでしょ……。

 

「どうだろうね。1打席限りなら通用すると思うけど、タネがわかってしまうとそれは打たれやすくなるからね。そう考えると武田さんが投げた魔球の方が私はエースに相応しいと思う」

 

「私がエース……?」

 

「勿論だよ。武田さんには他にも変化球を覚える必要があるけど、球種を増やせばそれをあの魔球と併用して投げるだけで打者は簡単に打てなくなる……」

 

「そ、その為に私は何を覚えたら良いですか!?」

 

武田さんが凄い勢いで私に問い詰める。何故に敬語……?

 

「そうだね……。あの魔球がカーブ系統だからその逆を突くシンカーなんかが良いけど、あの魔球と併用させる程の変化量を習得するのには時間がかかりそうだね。まぁその辺りは捕手の山崎さんと相談した方が良いかもね」

 

「私も捕手としてヨミちゃんの力になるからね」

 

「タマちゃ~ん!」

 

「ちょっ、くっつかないで!暑い……」

 

あの……。イチャイチャするの止めてもらえます?

 

……まぁ言える事は言えたから、あとは私が外野をやっている理由を話すだけかな?

 

「私が紹介の時にポジションを外野だと言ったのは足腰と肩を鍛える為と足腰を鍛える際に体力の底上げも兼ねてだったからね。この投球も体力調整を兼ねてだし、私がこれからも投手をやるとしても人数がギリギリな事も相まって外野と併用になるかもね」

 

そういった意味でも武田さんは私よりもエースに相応しい。私よりも体力あると思うし……。

 

「じゃあ続けて武田さんにも打席に立ってもらおうかな」

 

「うん!朱里ちゃんの球を打席でも見たいからね!」

 

「息吹さんは私の球を打席の外からもよく見ておいてね」

 

「えっ……?わ、わかったわ!」

 

それからも私達は練習を続けた。息吹さんと武田さんの気持ち良いくらい空振りを目にしてちょっとほっこりしたのは内緒の話。

 

(しかし今日は4人に私の過去を話せて良かったよ。あとは雷轟だね……)

 

今日の途中から元気がなかった雷轟に今日4人に話した事を話しておこう。

 

メールでそう送ると翌日の練習で雷轟は何故かいつもの元気な雷轟に戻っていた。本当に何で元気がなかったんだろうか……。




この小説の主人公は雷轟なんだよなぁ……。でも早川sideって凄く書きやすいの!

金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?

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