最強のスラッガーを目指して!【本編完結】   作:銅英雄

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開会式

セミの鳴き声。これを聞くと夏を感じる。つまり何が言いたいかと言うと……。

 

(暑い……)

 

夏とか滅べば良いと思うよ。大会があるからなんとか頑張っていけるけど、この暑さはマジでヤバい。日に日に暑くなってるんじゃないの?でもまぁ……。

 

「見渡す限りの野球選手!!」

 

「テレビや漫画で見るのと遜色ない風景です!!」

 

(この熱気が大会って感じだよね。夏は好きじゃないけど、野球の大会となったら話は別……。1つでも多く勝って新越谷を知らしめるんだ!)

 

「あの方は私と同じ9番です!」

 

「あいつは6番だ。でけー!」

 

「はしゃぎ過ぎよ」

 

「まぁ緊張するよりは良いんじゃないか」

 

そうそう。この状況で物怖じしない方が選手としては好ましいよ。

 

「……それにしてもヨミ達、トイレ遅いな」

 

「どうせ油売ってますよ」

 

武田さん、中村さん、息吹さん、雷轟の4人はトイレに行ったっきり戻ってこない。迷っているのか、それとも……。

 

「他校の選手に絡んでなきゃ良いけど……」

 

「まぁ大丈夫だよ」

 

中村さん辺りは強い高校見付け次第練習試合を申し込んでそうだけど……。

 

「珠姫?」

 

後ろから山崎さんを呼ぶ声がした。振り返ってみると……。

 

「やっぱり珠姫だ」

 

「和美先輩……」

 

吉川和美さん。山崎さんのガールズの先輩にして、梁幽館の2番手投手。

 

「珠姫~、久し振りじゃないの~。会いたかったよ~!」

 

「お久し振りです……」

 

(ん?梁幽館?という事は……)

 

「せ~ん~ぱ~い~!!」

 

「ふんっ!」

 

「ふごっ!?」

 

なんか私に突っ込んできたから、条件反射でアイアンクローをかました。

 

「いたたたた……!ギブギブ!」

 

「もう飛び付かない?」

 

「しません!」

 

多分という小さい声は聞かなかった事にして、私は手を離す。そこにはやはりというかシニア時代に私にベタベタしてた橘はづきが吉川さんといた。

 

「もう!何をするんですかせんぱい!?」

 

「それはこっちのセリフだよね?……久し振り橘。元気にしてた?」

 

「それはもう!いつでもせんぱいの事を考えてましたよ!」

 

「そう……。私はそんなにだけどね」

 

「またまた~。そんな事言って嬉しいくせに~!」

 

「はづき、知り合い?」

 

「和美先輩、紹介します!こちらにおわすは私と同じシニアで大活躍していたエースで、私と一生を添い遂げる相手の……!」

 

「後半の情報はいらないよ。というかそんな事になる訳ないし」

 

暴走している橘を制止して、私は吉川さんに自己紹介する。

 

「……橘と同じシニアで野球をやっていました早川です」

 

「あぁ~。君がはづきがいつも言ってた……」

 

「出来ればその内容は忘れてください」

 

私が呆れているなか橘が皆の方を向いて……。

 

「朱里せんぱいと同じシニアで野球をしてました、1年生の橘はづきで~す!この梁幽館ではクローザーを努めてま~す!」

 

「はづきは本当に凄い奴で、下手したら背番号私よりも上になるところだったんだよ?」

 

吉川さんの発言で皆が騒然としている。2人の背番号を見ると吉川さんが私と同じ18番で、橘が20番。

 

「……まぁあの梁幽館で1年生が背番号を取れたのは凄いと思いますよ」

 

そういえば橘はシニアでも20番を付けていたね。川越シニアは投手の層が厚いから、ギリギリだった。梁幽館も選手層は暑い筈だけど……。

 

「そうそう!はづきは1年生でユニフォーム貰えたの」

 

「えっへん!何れは和美先輩から2番手の座もいただいちゃいますよ~?」

 

「言うね~?」

 

な、なんか私達をそっちのけでイチャイチャしだしたんだけど。もう私達行っても良い?

 

「タマちゃん、その人は……?」

 

「朱里ちゃん、その人は……?」

 

トイレに行っていた雷轟達が戻ってきて、雷轟と武田さんが目の光を消して私と山崎さんに質問する。

 

もしかして君達打ち合わせでもしてたの?私と山崎の名前以外同じ事を言ってるし、タイミング同時だし……。

 

「お、お帰りヨミちゃん。こ、この人はね……」

 

山崎さんも山崎さんでなんでそんなに慌てているの?まるで浮気現場が見付かった時みたいな反応してるし……。

 

「そっかそっか。貴女が新越谷の1番さんね?梁幽館の吉川和美です。美南ガールズでは珠姫とバッテリーを組んでました~」

 

「武田詠深です。『今は私が』タマちゃんとバッテリーを組んでます。よろしくお願いします」

 

「こちらこそ」

 

武田さんと吉川さんは山崎さんとバッテリーを組んでいた事を強く言い、互いに利き手で握手する。手は大事にしようね?

 

「へー、貴女が朱里せんぱいの秘蔵っ子ですか~?私は朱里せんぱいの『パートナー』の橘はづきで~す!」

 

「橘さんってのいうんだね。私は朱里ちゃんの『支えになっている』雷轟遥でーす!」

 

「そうなんですね~」

 

「そうなんだよ~!」

 

雷轟と橘の方も笑顔で握手してるけど、目が笑ってないんだよなぁ……。胃薬が欲しい。

 

「珠姫って試合後はいつも『和美さんと反省会したい』とか言って引っ付いてくるのが可愛かったなぁ」

 

「いやいや、試合後に限らずいつも『ヨミちゃんと一緒にいたい』言ってますけど~?」

 

「捏造で張り合わないで!ベタベタしてくるのはアンタ達でしょうが……」

 

武田さんと吉川さんの言い合いはヒートアップしていて、ある事ない事を言って自慢していた。山崎さんも大変だな……。

 

「私なんて朱里せんぱいに『橘、頑張ったね。御褒美に私が大人にしてあげる』って言ってくれて大人の階段上らせてくれたんですよ~」

 

「そ、それが何?朱里ちゃんは私に『雷轟、君がいなかったら私は生きていけない……』なんて生涯を添い遂げる発言をしてくれたもん!」

 

「ちょっと?君達に至っては捏造ですらないよ?私そんな事を言った覚えはないからね?」

 

雷轟と橘もヒートアップをしており、こちらはない事しか言わない。胃が痛い。山崎さんの同情の目が辛い……。

 

「……まぁ珠姫がいなかったら今の私はいなかったから、感謝してるよ」

 

「私もです。タマちゃんいなかったら、私ここにいなかったし」

 

この2人は良くも悪くも山崎さんに支えられている投手って事か。まぁ私も二宮がいなかったら、どんなに投手になっていたかわからないけどね。

 

「……私は朱里せんぱいに憧れて野球を始めました。朱里せんぱいがいたからこそ今の私がいるんです」

 

「……私も朱里ちゃんがいなかったらずっと筋トレしかしてなかったかもしれないよ」

 

二宮に聞いた話だけど、橘は私が右投げ時代に投げたシンカーに憧れて野球を始めたらしい。尤も橘は左投げだから、決め球がシンカーじゃなくてスクリューになっているけど……。

 

雷轟は私と出会う事がなかったらそのバッティングセンスが誰にも見られる事もなく、ずっと筋トレの毎日だったかもしれないと言う。そう考えると雷轟と出合って良かったのかな……?

 

「いたいた。和美、はづき、早く戻るわよ。目を離すとすぐいなくなるんだから!」

 

(梁幽館の正捕手の小林依織さんか……。小柄ながらもリードの良さと強肩を買われて2年生ながらも背番号2番を勝ち取った実力者だ)

 

「ごめんごめん」

 

「すみませ~ん依織先輩……」

 

小林さんはこの2人の扱いに慣れてそう。つまり苦労人ポジションだね。なんか同情する……。

 

「珠姫、武田さん!」

 

「朱里せんぱい、雷轟さん!」

 

2人が小林さんに引っ張られながら行こうとすると吉川さんと橘が足を止める。

 

「続きは試合で語ろっか!」

 

「初戦、絶対に勝ってくださいね!」

 

成程、まだ言い足りないから続きは2回戦での野球のプレイでって事か……。

 

「言われなくたって!」

 

「そっちこそ、宗陣に負けないでくださいよ?」

 

「言うね~?」

 

「宗陣は私のスクリューでバシッと抑えますよ!」

 

2人は自信満々に私の皮肉に答えた。あとは……。

 

「高橋さんにもよろしく言っておいてください」

 

「そっか……。友理とも同じチームだったね。うん、私とはづきから言っておく」

 

今度こそ2人は小林さんに引っ張られて去って行った。

 

2人がお風呂云々言ってたけど、私は耳を塞いで聞こえないふりをしたので何も知らない、聞いてない。

 

「そういえば橘さんは朱里の事をせんぱいって言ってたけど、2人は同い年なんだよな?」

 

「そうですね。シニアで知り合ったんですけど、橘は私に滅茶苦茶懐いていて、何故か敬意も払っていたから、あのように私の事をせんぱいって呼んでるんです」

 

本当、なんであそこまで懐いているのかは未だに謎だけど……。

 

「聞いて良いかわからないけど、珠姫と朱里ってなんで新越谷に来たの?」

 

「別に普通だよ。学力とか家の近さとか……」

 

「まぁ私も似たような感じだよ」

 

電車通学で一駅は中学に比べて格段に近いけど、川口家は歩いて数分で新越谷だから羨ましい……。

 

「でもさ、強いチームにいた人って強い学校に行きたがるもんじゃないのか?」

 

「それは人それぞれだと思うよ。元チームメイトの1人は私と同じように強豪校のスカウトを蹴って野球部のない高校に行ったくらいだしね」

 

「そんな奴もいるのか……」

 

「その人は野球部のないところに行って野球というスポーツの素晴らしさを教えたいって言ってました」

 

ちなみにその人は野球部を設立して大会にも出るそうだ。本人は素人の寄せ集め集団って言ってたけど、あの人のいるチームは底が知れないから危険なんだよね……。

 

「まぁ私の場合は進路決める頃は高校生活を捧げて良いと思える程には野球に熱がなかったのかも……」

 

「私はどこに行こうとも私の野球をやるつもりだったよ」

 

山崎さんの場合はもしかしたら高校で野球をやらないつもりだったのかもね。

 

「でも今は好きだよ。野球も、このチームも……!」

 

「それは私も同じだね」

 

『まもなく選手入場を開始します』

 

アナウンスが流れた。いよいよ入場か……。

 

「い、いよいよ入場ね……」

 

「出陣ですか……!」

 

大村さんは何故そんな古風な発言なのか……。

 

「これからテレビに映るよ!強いチームは行進も良い!左右は私に、テンポは演奏に合わせて、腕と脚を上げて格好良くね!」

 

「よし、行くぞ!」

 

『おーっ!!』

 

演奏が始まり、私達は曲に合わせて行進する。流れているのは某野球アニメのOPだね。

 

(これから夏の大会が始まる……。1つでも多く勝ちたいところだね)

 

ちなみに私達の横には梁幽館高校がいた。武田さんの隣は吉川さんで、雷轟の隣は橘だった。いらないよそんな偶然……。

 

観客席からの拍手が鳴り、各高校が整列をして、開会式が終わった。

 

 

~そして~

 

「おおっ!映ってる映ってる!」

 

「皆の晴れ舞台!格好良い~!」

 

確かに芳乃さんの言う事も一理あるんだけど……。

 

「……それにしても12人しかいないと目立つなぁ」

 

「手足が同時に出てる奴!」

 

「「はぅぅぅっ……!」」

 

私がボソッと呟き、それに続いた川崎さんの発言に息吹さんは涙を流し、大村さんは顔を赤くして手で覆った。

 

「気にしない気にしない!これも良い思い出だよ!」

 

いや、雷轟の言う通りだよ?でもね……。

 

「……言っておくけど、雷轟も手足が同時に出てたからね?」

 

「嘘っ!?」

 

「本当だよ」

 

まぁとにかく私達の夏の大会が幕を開けたのであった。

金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?

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