ワンアウトになったところで、マウンドには武田さんが上がりました。
「出て来たのは武田だな」
「あの洛山と投げ合って勝利した投手として結構有名だね……」
「球種は朱里さん程多くはないですが、決め球のレベルは間違いなく朱里さん以上です。中でも……」
私は武田さんの球種の中でも注意するべき球をベンチ全員に伝えました。
「……以上です」
「わかった。二宮が頑張ってくれたところで早川が降板したのは痛いけど、もう四の五の言ってられないな……。1番打者として、突破口を作ってくるよ」
「お願いします」
亦野さんはここまで追い込まれるような事は初めてなんでしょう。だからか打席に立つ時に少し力が入り過ぎています。
ズバンッ!
『ストライク!』
(このストレート……早川のストレートと引けを取らないぞ!)
球速は朱里さんと武田さん……差違を感じられませんね。ただ武田さんの方が手元で伸びて来るのに対して、朱里さんは様々なストレートに見せた変化球があるので速く感じてしまいます。
カキーン!!
「!?」
『ファール!』
2球目はレフト線切れてファールですね。
「惜っしい~!」
「ここで仕留められなかったのは痛いな……。武田は確実に決めに来るぞ」
「そうですね。ここで武田さんが投げるのは……」
ズバンッ!
『ストライク!バッターアウト!!』
決め球のナックルスライダー。ここ数試合で1番大きく曲がっていますね……。
「武田の球……データ以上のノビとキレだったよ」
「そうですか……。武田さんの投げる球は数値では計れませんので、仕方ありません」
「おまえがそんな事を言うのは珍しいな」
「裕菜ちゃん以来かな……?」
「神童さんも武田さんとは別の意味で数値では計れません。捕手として色々と楽しみです」
武田さんの場合は打者によってムラがあります。格下相手よりも格上相手の方が実力を発揮する対強打者に特化したタイプの投手のようです。
「裕菜の成長を楽しみたいのなら、この試合でも勝たないとな」
「三振した誠子が何か言ってる~!」
「大星も生意気に拍車がかかってるな……」
(勝ちたいですね。このチームで……)
ズバンッ!
『ストライク!バッターアウト!!』
渋谷さんも三振……。あとは最終回の攻防を残すのみですね。
そして7回裏。この回は3番からなのですが、新井さん、大星さんと連続で凡退してしまい、あっという間にツーアウトです。
『…………』
「雰囲気が重いな……」
「追い詰められていますね」
「なんで2人はそんなに冷静なんだ……?」
亦野さんがそう訊いていますが、私も神童さんも事実を受け止めているだけです。
「……だが私はまだ諦めていない。最後まで足掻くさ」
そう言って神童さんは打席に向かいました。
『な、なんと王者白糸台が追い込まれています!ツーアウトです!』
『ここ2年で白糸台が追い込まれている……というケースは初めてですね。一矢報いる事が出来るのでしょうか?』
(まさか私達がここまで追い込まれるとはな……。武田との対決はこれが初めてだが、武田の方はどんな状況下でも嬉しそうに、楽しそうに投げている……。私とは真逆のタイプだ)
神童さんは武田さんと対決するのは初めてですが、なんとか対応してほしいものですね……。
ズバンッ!
『ストライク!』
(今投げたのはナックルスライダーか……。早川が二宮に投げたナックルカーブとはまた別のベクトルで凄いな。私の投げる変化球のどれにも当てはまらない良い球だ)
カンッ!
『ファール!』
(そして強ストレートと呼ばれる球で緩急を付ける……か。山崎の配球も相まって良いピッチングだ)
あっという間に追い込まれますが、神童さんを見ると追い込まれた……という印象が見受けられませんね。こういう部分はとても頼もしいです。
カキーン!!
4球目。レフト方向へ伸びていきます。このままスタンドに入れば、流れが掴めますね。
バシッ!
「ああっ!?捕られた!」
「い、いや……まだだ!」
捕球されたと思われる球の勢いがまだ死んでいません。
(うっ……!なんて打球。ミットに収まったのに、勢いが死んでないよ!このままじゃ弾かれてスタンドに入っちゃう……)
「いけーっ!」
「入れーっ!」
ギュルギュルと音がしそうなボールの勢いに、雷轟さんが踏ん張っています。
(でも私は落とさない……。今日の試合でも足を引っ張っちゃってるからね。それを取り返す為にも絶対に落とさないよ!)
雷轟さんは身体を前に倒し、ボールがスタンドに入るのを阻止しました。そして……。
『アウト!ゲームセット!!』
「ああ……」
「負け……た」
試合終了。1対3で私達白糸台は新越谷に敗北……。こうして私の白糸台での野球の最初の夏が幕を閉じました。
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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