梁幽館高校……。様々な部活動が盛んであり、特に野球部は部員が100人を越えるマンモス校。更に毎年県内外から有力選手を多数獲得している。
今年の春大会は美園学院に遅れを取ったものの、夏5回、春2回の全国出場を誇る野球をやっている女子なら誰でも知っている有名校である。
「毎日めっちゃ練習してるんだろうなぁ。しかも才能ある奴等が」
「それに勝つって言われても……」
まぁ練習量が違うから、普通なら厳しいだろうけど……。
「ちなみにコンピューターで勝率実験をしてみたのですが……」
(藤井先生そんな事をしてたんだ……)
「なんと13%もある事がわかりました」
「ゲームじゃねぇか!!」
「まぁゲームはどうでも良いとして、実際そのくらいはあると思うよ。こっちには梁幽館のデータは豊富にあるけど、向こうは殆んどない……。その分私達の方が有利に試合を進められるからね」
「うんうん。梁幽館との戦いは3日後……。出来る事は殆んどないけど、しっかりと調整して試合しよう!」
(さて……。梁幽館との戦いは既に始まっている。僅かでも計算が狂ったら負けてしまうから、慎重にいかないとね……!)
まずは梁幽館の過去のデータを洗いざらい引っ張り出してそれから……。
~そして~
翌日の練習。梁幽館戦では武田さんを先発に、ワンポイントリリーフで私が投げる事になっているから、まずは武田さんと山崎さんと投球練習なんだけど……。
「でば~ん♪せんぱ~つ♪やっ~と♪なげら~れる~♪」
「変な歌……。速くマウンドに行ったら?」
「最近タマちゃんと疎遠だったし、もう手放したくない……。18・44メートルも離れたくないよぉ~!」
「くっつかないで!暑い!」
私はこの2人のイチャイチャを見せられる為に呼ばれたのかな?
「ほら行くよ!朱里ちゃんも待ってるんだから……」
本当だよ……。
「待ってよ~!」
漸く始まった投球練習。まずは武田さんから。
「こい!ストレート!」
「うん……って、遠くない?もしかしてさっきので引いた?」
私は引いているけどね。でもこれはそうじゃなく……。
「武田さん、いつもと変わらないパワーで届くように投げてみたら良いよ」
「う、うん……」
武田さんは何の事かいまいちわかっていない様子で、3球程投げてみる。
「オッケー!」
「届いた……」
「次はいつもの18・44で!」
(成程、山崎さんの狙いがわかった……)
誰かが打席にという事で、主将が打席に入る。
「さっき投げたのと同じ感じで投げてみて!」
「わかった!」
(ちょっと遠めに投げる感じかな……)
先程と同じ感じで武田さんは思い切り投げた。
「速……くはないが、良い球に見えたぞ」
「今のストレートは勝負所で朱里ちゃんに教わった球と混ぜて使うからね。もう1球いこう」
「手応えはそんなに変わんないけど……」
「前に私が言ったように武田さんは無意識下でストレートが遅くなっていたんだ。球を受けている山崎さんはわかっていると思うけど、感情が昂った時に投げたストレートにはかなりの球威があると思うよ」
「うん。それが自由に引き出せたら、良い武器になるよ」
「本当!?」
「……まぁさっき投げた球は少し荒れ気味だったから、まずはコントロールを付けるところからだね」
2年後には武田さんは凄い投手になっている事だろう。そんな人とこれからも実力を高められたら良いと私は思っている。
武田さんの練習もそこそこに、次は私の番。打席には再び主将が立っている。
「じゃあいくよ」
私はシニア以来の全力の投球を山崎さんにぶつけた。
「は、速い……」
「それにノビも凄いな……」
「朱里ちゃん凄ーい!」
これがシニアでの私の全力のストレート。高校に入って更に改良したストレートにも実は秘密があるのだ。
「じゃあ続けて投げるよ」
「う、うん!」
あと2球投げた後に私は山崎さんの所に行って私のストレートについて教える事に……。
「今投げた3球のストレートについて違いがあるんだけど、何かわかる?」
「えっ?何か違うのか!?」
「全部同じ球に見えるよ!」
武田さんと主将はわからないみたいだ。まぁそんな簡単にはわからないか……。
「……もしかしてリリースポイントが違う?」
「おっ、ご名答!」
流石ガールズ全国レベルの捕手だね。洞察力は二宮と同格かそれ以上だ。
「1球目に投げたのは打者にとって違和感がない普通のリリースのストレートで、2球目に投げたストレートが少し待たないとボールが来ない早めのリリース、そして最後に投げたのが球持ちが良く打者に1番近い為に差し込まれる遅めのリリースのストレートだよ」
「ど、どういう事……?」
武田さんがよくわかってないみたいだけど、私は説明を続ける。
「本来リリースポイントはたったの1センチ手前に来るだけで大幅に高いボールになるくらいピッチングに影響が出るんだ。私はそれを同じフォームでリリースのタイミングだけ変えてストレートを投げているって訳」
「そ、それって簡単な事じゃないよ!」
「勿論私はかなりの時間をかけて今のストレートを会得したよ」
実はこれを得たのは高校に入ってからなので、二宮すら知らない。つまり新越谷に入学してから成長した私の球だ。
(もしも私が投げる事になったら上手く他の球と組み合わせてみようかな……)
山崎さんとサインの相談もしておこう……。
~そして~
私達の投球練習が終わると次は全体でノック。私と雷轟は外野でローテーション。
「では今から私がゲーム形式でノックを打ちます。いきますよ」
藤井先生がノックをしたその1球目は……。
「ホームラン……でしょうか?」
「カントク力みすぎ!」
(いや、これはまさか……!)
「次!」
「二遊間来るよ!」
「「えっ?」」
私の声に反応が遅れた藤田さんと川崎さんは藤井先生の打球に届かなかった。
(さっきの打球はライトにホームランで、今のはセンター前のヒット。成程ね……)
(まさか……!)
「どうやらピンときたのは2人だけですか……。今日は帰れませんね」
芳乃さんも気付いたのか山崎さんにバントプレスのサインを要求した。その結果はゲッツー。そして次の打球は左中間に抜けるかと思いきや主将のファインプレーでアウト。
「春大会初戦の梁幽館の攻撃ですね」
「ええ」
「確かその時の戦績はバント成功で、さっきの打球でヒットになって追加点だけど、新越谷は上手く抑えた……」
「ぶっつけ本番で当たるよりも、相手打線を追体験した上でさらに1つ上のプレーをしておく事で、多少の自信にはなるでしょう」
その後も数々の梁幽館ノックを受けて水分補給。
「梁幽館ノックだか知らねぇが、楽勝だぜ……」
「足がプルプルなってるわよ」
「生まれたての小鹿みたい……」
「まぁ6試合分で結構ピンチも防いだな」
「これなら梁幽館相手でも勝てるかもですね!」
なんか雷轟が天狗になってる……。自分がこの6試合でどれだけエラーしたか知らないのかな?
「雷轟、さっきまでのノックでしたエラーの数は?」
「じ、12個です……」
高校野球にDH制が出来ないかなぁ……。
「さぁ、水分補給したら散りなさい。関東大会の分もありますからねぇ……」
「ま、まじ……?」
張り切っている藤井先生だけど、1番疲れているのも藤井先生である。
「こ、これ以上やったら先生が死んじゃう!」
「む、無念……!」
「ほっ……」
藤井先生も続けたいだろうに。それなら……。
「じゃあ私が藤井先生の代わりにノックをしようかな?」
「ゑ?」
「早川さん……」
「私も梁幽館の打球データは頭に入っているからね。梁幽館の関東大会の攻撃は勿論、今年度の練習試合の分まで打っていくから、覚悟してて♪」
私が笑って言うと川崎さんと息吹さんが軽く悲鳴をあげていて、残りの人達も顔を青くしていた。そんなに怖いかな?そんな中で……。
「ノック上等!どんどんこい!!」
ただ1人、雷轟だけはやる気を見せていた。それにつられて負けてられないと1人、また1人と奮起している。
(雷轟のムードメーカーはこういうところで役に立つな……)
この守備練習が終わって余裕があったら雷轟にも中村さんと同じようにある対策を教えておこうかな……。
梁幽館高校にて……。
バシッ!
「よし!今日はこのくらいにしておくか!」
「調子は良さそうね」
「私はいつも絶好調さ。それに相手は……!」
練習も一区切りでミーティングが始まる。
「次の相手は新越谷高校です」
「朱里せんぱいがいる所ですね!」
「はい。かつては強豪校でしたが、例の不祥事により今春まで活動自粛……。今は1年生を中心とした新チームですし、先日の試合以外はノーデータですが、停部明けは主に県外の有力校と活発に練習試合をしていたようです。油断は出来ないかと」
(朱里さんのいるチームですからね……。一瞬の油断が敗北に繋がる可能性が高い……!)
「その通りだ。最初の難関を突破出来た事で暫く楽な相手が続くと気が緩んでいるだろう」
梁幽館のキャプテンである中田奈緒の発言に心当たりがあるのか目を背ける人がちらほら……。
「だがそれは必ずしも悪い事ではない。格下と思えるのは激しい練習に耐えて、強者の自覚を持っているからだ。良いか?野球をナメるな!最後まで何があるかわからない……。自信を持っていつも通り勝つぞ!」
『おおっ!』
「勿論ですよ!どこが相手でも負けるつもりはありません!」
梁幽館の部員達……特に橘はづきはやる気を見せている。
「映像を見ますか?初戦にありがちな試合ですけど……」
「私が撮りました!ただ朱里せんぱいが投げていない事が残念ですけど……」
そして映像を見る梁幽館の部員達……。
「岡田と大村……。打線ではこの2人は要注意だな。加藤!」
「はい!」
「荻島で岡田と一緒だったんだろう?」
「怜……。懐かしいです。体も大きくなって、上手くなっています。停部を受けた後も頑張ったんでしょうね」
「あれ?エースが投げてない……?初戦は絶対に勝ちたいだろうに、温存しやがったな」
「隠したというのが正しいかもね。どんな投手か全くわからないし……」
「流石珠姫のチームプレーだな。楽しみだ!まぁ私を温存してたし、五分だろ」
「アンタはただの2番手よ」
「和美先輩はどこからそんな自信が出て来るんですか?」
「2人共辛辣だな!」
梁幽館の2番手投手である吉川を弄る橘に中田が声を掛ける。
「橘!」
「なんでしょう?」
「確か友理と橘は新越谷の早川朱里と同じシニアで野球をしていたな?その時の映像とかもあるか?」
「まっかせてください!私の自慢の映像が火を吹きますよ!」
「何を見せる気なんだ……?」
次は橘がシニアで撮った試合等を見る。
『ストライク!バッターアウト!!』
「凄っ!滅茶苦茶三振を取ってるし!」
「妙だな……。そこまでてこずる球には見えないが……」
「それがよくわからないんですよね~。あんなに近くで見てるのに、朱里せんぱいが投げている球の全容が見えないんですもん。友理先輩はわかりますか?」
「いえ……。朱里さんの球の本質がわかるのはかつてバッテリーを組んでいた二宮瑞希さんくらいかと……」
(朱里さんの球を研究し続けてきましたが、私にはわからなかった……。二宮さんも特に正体を教えるような真似はしませんでしたし、もしもうちに投げてくるようなら……)
「もしも早川がうちに投げてくるとしても、やる事は変わらない。全力で打ちにいくぞ!」
『おおっ!』
梁幽館は早川朱里に最大の警戒をし始めた……。
練習が終わり、梁幽館戦のスタメンが発表された……。
「梁幽館戦のスタメンはこんな感じだよ!」
芳乃さんが発表したスタメンは……。
1番 キャッチャー 山崎さん
2番 セカンド 藤田さん
3番 ショート 川崎さん
4番 ファースト 中村さん
5番 センター 主将
6番 ライト 私
7番 サード 藤原先輩
8番 レフト 大村さん
9番 ピッチャー 武田さん
となっていた。ベンチには雷轟と息吹さん。息吹さんは死球を受けた為、念入りにと芳乃さんがベンチに据えた。
私は梁幽館戦でワンポイントリリーフをしやすいようにスタメンで起用。打順は6番か……。
「やった!3番!」
「上位打線を結構いじったわね……」
(4番……。芳乃ちゃんの期待に応えんと……!)
「また打順が末置き……。前の試合でタイムリー打ってるのにさぁ……。芳乃ちゃんは何もわかってないなぁ……」
なんか武田さんがやさぐれていた。それを息吹さんと大村さんが必死で慰めている。
「訊いて良い?なんで私が1番……?」
「吉川さんの球を知っているっていうのもあるけど、ヨミちゃんとくっつけた方が良いかなって思って。そうすれば攻撃中にお話する時間が増えるでしょ?」
確かにその方が作戦とかも考えやすいね。梁幽館もバッテリーの打順はくっついているし。
「流石芳乃ちゃん、わかってるぅ~!」
なんという厚い掌返し……。
「今日は自主トレはそこそこに。しっかり身体を休めてね!キャプテン、声を出して終わりましょう」
「ああ。……新越谷、絶対に勝つぞ!」
『おーっ!!』
(やれる準備は全部出来た……。勝負だ梁幽館。勝負だ高橋さん、橘!)
そして梁幽館との戦いの日が訪れた……。
遥「セリフが増えた!」
朱里「嬉しそうだね……」
遥「次はいよいよ梁幽館戦!私の活躍もあるんだよね?」
朱里「うん。ある場面で必ず雷轟を入れるつもりだよ」
遥「よーし。頑張るぞー!」
朱里(暑苦しい……)
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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